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200:会談の受け入れ

「おい、余計なことを言うな鳥本」

「土下座男は黙っててほしいな」

「どげっ……!?」

「あなたの誇りも大切だろうが、その誇りを守るために傷つく者がいることを理解するべきだ」


 チラリとチャケや他の男たちを見ると、崩原も彼らを見て顔をしかめる。

 大人しくなってくれるようなので、俺は話を続ける。


「少し前、ある二つの組織が衝突しました」


 俺は崩原と流堂の話を彼女たちに聞かせた。無論彼らの間にあった細かい話は抜きでだ。

 あくまでも流堂が『イノチシラズ』を騙って悪さをしていたことを告げたのである。


「そして流堂という男は、ここにいるビックリするほど土下座しか似合わない男によってこの世から消え去りました」

「てめえ、普通に俺のことを呼べねえのかよ!」

「……じゃあ初恋を拗らせたままの童貞さんでいいですか?」

「おお、良い度胸だなコラァ! ケンカならいつでも買って……っつうかチャケもてめえらも笑ってんじゃねえ!」

「ぷぷっ、す、すみません才斗さん! けど……初恋を拗らせ……だーっはっはっは! それ絶妙な言い回しじゃないですか! だはははははは!」

「「「「だはははははは!」」」」


 我慢できずに大笑いし始めたチャケたち。

 そして静かに俯く崩原は、全身を小刻みに震わせ始め……。


「…………てめえらぁ」


 凄まじい殺気が彼から迸る。


「ヤ、ヤバイッ!? ちょ、才斗さん? じょ、冗談ですってば! な、なあ野郎ども!」


 チャケの言葉に、メンバーたちが高速で何度も頷きを見せている。


「問答無用だゴルァァァァァァッ!」


 完全にキレた崩原が、チャケやその仲間たちに向かって飛び込んでいった。

 そんな様子を、ただただ呆気に取られて信者たちが見つめている。


 俺はその最中、小百合さんに話しかけた。


「どうです小百合さん。彼らにあなたたちを害する気持ちなんて今のところありませんよ。もしここで戦おうとすれば、きっとまた大勢の血が流れます。彼らは強いですしね」

「…………」

「それにここにいる崩原という人物は――スキル持ちですよ?」

「!? ……本当ですか?」


 小百合さんだけじゃなく、信者たちもギョッとして、いまだチャケたちの制裁に夢中の崩原へと視線を向ける。


「さっき信者たちが持っていた武器が一瞬にして破壊されました。それは間違いなく彼のスキルによる力ですよ」


 小百合さんが、最初から門を守っていた者たちから話を聞いて、俺が口にしたことが事実だということを確かめ顔をしかめる。


「彼が全力で戦えば、下手をすれば全滅ですよ? 何の情報も無しに敵対するのは幼い子供。あなたたちはそんな子供じみたことに命を懸けるんですか?」


 さあ、これでもなお男狩りの名の下に力を振るおうとするなら、悪いが俺は崩原につかせてもらう。小百合さんよりも、崩原の方が何かと扱いやすいし。

 すると小百合さんがその重い口を開く。


「……分かりました」

「!? 教祖様!」


 青頭巾がさすがに黙っていられないという感じで声を上げたが、すぐに小百合さんが、手にしている錫杖で地面を叩き視線を向け押し黙らせた。


「話し合いには応じましょう。しかしここは我々にとって聖地。男を招き入れるにはそれ相応の理由が必要になります」


 俺の場合は、大切な仲間の命を救うことだった。確かに大きな理由だ。


「ですからここから少し移動したところにある建物の中で会談を請け負いましょう」


 どうやら小百合さんから譲歩を引き出すことに成功したようだ。


 恐らく彼女はスキル持ちという言葉に引かれたはずだ。自分たちにとって利益になる可能性のある男性かどうか見極めるつもりだろう。


「ということらしいよ、崩原さん」

「あぁ? ……何の話だ?」


 すでにボコボコにされたチャケたちが地面に倒れている。


「だから話し合い、するんだろ? その許可を取ってあげたよ」

「マジか! やるじゃねえか鳥本!」

「その代わり、これは貸しにしておくから。いつか返してくれ……現金で」

「くっ……この現金主義者め。虎門とそっくりだ」


 当然。同一人物だしな。


 崩原は舌打ちをしたあと、俺の傍へと寄って来て小百合さんと対面する。


「話し合いに応じてくれたこと感謝する。それで? どこでするんだ?」

「どうもこの近くにある建物の中で、とのことだよ。この中は男禁制だから」

「だったら何でお前がいるんだよ。ああ……また商売か?」

「そういうこと。崩原さんと同じお得意様ってことで」


 彼らもダンジョン攻略などで傷を負った時、俺と連絡を取って薬を購入しているのだ。今では虎門との接触より鳥本としての方が多くなった。


「どこにでも手を広げる奴だな。まあいいけどよ。えっと、車で行けばいいのか?」


 崩原が聞くと、小百合さんが「はい」と頷く。そして彼女は続いて俺にも話しかけてきた。


「鳥本さん、よろしければあなたも同行して頂けませんか?」

「……いいですよ」


 ここまで口を出したんだ。どんな結末になるのか見届ける必要がある。

 そうして小百合さんは、信者たちに指示を出し車を手配した。


 俺も小百合さんとは別の、例のあの護送車に乗ることになったのだが……。


「ちょっと聞いたわよ、また何か問題起こしたわけ、アンタ?」


 またも俺のすぐ後ろに座った釈迦原が、相変わらずのツンッぷりである。


「またとは人聞きの悪い。俺はただ知り合いが誤解されそうだったから説明しただけだよ」

「相手は男なんでしょ? だったらすぐに殺せばいいじゃない」

「それを男の前で言える君の精神が恐ろしいよ」

「フン! 許可さえ出れば今すぐにでもアンタも殺してやるわよ!」

「も、もうケイちゃん! 鳥本様に失礼なことばかりダメだよ!」


 前と違うのは、さらにその後ろに沙庭が座っていることだろう。






読んで頂きありがとうございます。


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