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【解放のゴーレム使い】~ロボはゴーレムに入りますか?~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
第5章 ルータス王国奪回編

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第88話 空の涙~「泣くな」と言ったのか?~

 エランの上空は、どんよりとした雲に覆われていた。


 いまにも雨が降り出しそうな、気配を(ただよ)わせている。 




 そんな空の下、アディ・アーレイトは〈サジタリィ〉の手の平から降りてきた。


 彼女は(やす)(かわ)(けん)()とエリーゼ・エクシーズに向けて、淡々と戦闘結果を報告し始める。


 いると騒がしいので、賢紀は精霊達を無理矢理【ファクトリー】に押し込んでから報告を聞いていた。




 〈サジタリィ〉を狙ってきたGR-3〈サミュレー〉の部隊を、全滅させたこと。


 アシュトン・マーティーンの〈ファイアドレイク〉とアディの〈フレアハウンド〉が、相討ちになったこと。


 そしてアシュトンが、自刃して果てたこと。




「アディ……。最期に、聞けたの?」


 遠慮がちに、エリーゼは(たず)ねた。


 「アシュトンが、父親だったのか?」という意味なのは、明白だった。




「本人は、最期まで認めませんでした。でも……間違いありませんわ」


「そう……。つらかったわね」


「姫様、ご心配をおかけしました。……もうわたくしは、大丈夫ですわ」




 アディは、にこやかに(ほほ)()んでみせる。




 赤の他人になら、全く分からなかっただろう。


 だが今まで(いっ)(しょ)に戦ってきた仲間だから、分かってしまう。


 笑顔の裏側で、彼女の心は悲痛な叫びを上げていることが。


 それを表に出さないように、必死で(こら)えていることが。




 そんなアディの姿を、痛ましいと思った賢紀。


 彼の口から、無意識にその言葉が出た。




「……泣かないんだな」




 アディの肩が、小さく震えた。




 賢紀は知らない。


 それが初めてアディとアシュトンが出会った時、最初に掛けられた言葉だということを。




 言葉を切っ掛けに、アディの脳裏を今までの思い出が駆け巡る。




 雨の日の共同墓地と、差し出された傘。


 王宮での、エリーゼや王妃達との出会い。


 きつかったが、充実していたメイドと戦士の修行。


 ルータスが滅びた日。


 エリーゼとの再会と、妙な神の使徒との出会い。


 ちょっと変だが、気の合うハーフエルフとの日々。


 マシンゴーレムに乗った父との、望まぬ形での再会。




 そして自分の腕の中で、動かなくなった父。




 もういちど場面は(さかのぼ)り、幼かったアディを抱きしめて微笑んでくれた母の顔。




「アディ、強くなりなさい」




 さらに時間が飛んで、エランが落ちたあの日。


 父の背中を見送った日に。




「アディ……。強く生きろよ」




 (そう)()(とう)のように思い出が駆け巡っているうちに、いつの間にか雨が降り出していた。


 父と共同墓地で出会った日のように、冷たい雨が。




 アディは賢紀とエリーゼ、そして機体から降りてきていたイースズ・フォウワードに背を向けた。


 涙を(こら)えている瞳を、見られぬように。


 彼女は振り返った先に、母の墓石を幻視した。


 そして、あの日と全く同じ(せり)()を口にする。




「お母さんと、約束したんです。『強くなる』って……。死んだお父さんと同じように、強く……」




 しかし、あの日と同じ言葉は返ってこなかった。


 いまアディの背後にいるのは、父ではない。


 異世界から来た青年だ。


 必死で涙を押し(とど)めていた心の堤防は、彼のひと言によって決壊した。




「お前のお母さんは、『泣くな』と言ったのか?」




 言われて初めて、アディは気付いた。

 

 今まで父や母から、「強くなれ」とは度々言われてきた。


 だが「泣くな」と言われたことは、いちどもなかったことに。




 気付いてしまってからは、もう止まらなかった。




 涙が。


 (どう)(こく)が。




 アディは賢紀の胸にしがみついて、泣いた。




 今までずっと溜め込んでいた、何年分もの涙を流し尽くすように。




 エリーゼも泣いていた。


 声は上げず、表情も変えず。


 ただひたすらに(ほお)を伝っていく涙を、そのままにしていた。




 イースズは口元を押さえ、()えつしていた。


 3つの瞳の全てから、ポロポロと(しずく)がこぼれ落ちていく。




 安川賢紀は――泣いていなかった。




 雨を(そそ)いでくる空を、ただただ見上げていた。




 これが俺の涙だと、言わんばかりに。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






「ふう。スッキリしましたわ」




 雨は通り雨だったようで、いつの間にか()んでいた。


 それに合わせてアディもピタリと泣き止み、賢紀の胸から顔を離す。


 すでにいつもと同じ、すまし顔に戻っていた。




 ただしその整った鼻からは、キラキラと輝く粘着質な糸が伸びている。


 賢紀の胸元に向かって。





「あら、わたくしとしたことが。涙と鼻水で、グチャグチャですわね。ごめんあそばせ」


 糸をキープしたまま(ほお)に両手を当て、ちょっと恥ずかしがるアディ。




「気にするな、浄化魔法で1発だ。吐いたり、()らしたりする奴だっているんだ。涙や鼻水なんて、大したことはない」

 

「なっ! ちょっとケンキ!」


 エリーゼの反応を見て、賢紀はそれが失言だったと気付く。


 今の言い方では、吐いたのも漏らしたのも両方エリーゼがやらかしたみたいに聞こえてしまう。


 彼女はマシンゴーレムの操縦席(コックピット)で、ゲロをぶちまけただけだ。


 


「いや。漏らしたのは、エリーゼじゃない」


「ということは……」




 エリーゼとアディの視線が、イースズへと向いた。


 慌てて両手をブンブンと振り、イースズは大げさに否定する。




「ち、違うけんね! あたしはそういうジャンル、専門じゃなかけんね!」




 「ならばどういうジャンルの専門家なのだろうか?」と、他の3人は疑問に思った。


 しかし深く追求しないのが仲間としての思いやりだという結論に(いた)り、それ以上は突っ込まない。




 代わりに賢紀が、エリーゼから突っ込まれる。


「誰よ? 漏らしたのって?」


 エリーゼは半眼で腕を組み、追求の手を緩めない。




「本人の名誉に関わるからな。公表できない」




 本当は、本人の名誉のためではない。


 自分の身の安全のためだ。


 賢紀より長身のアレクを廊下の壁までぶっ飛ばした、スーテラ・トーターの強烈な右ストレート。


 あれが脳裏に、フラッシュバックする。


 彼女の名前が明るみに出ると、死の危険がある。


 賢紀の本能が、そう警告していた。




「誰よ~? 言いなさいよ~?」


 (きびす)を返して立ち去ろうとした賢紀だったが、エリーゼが進行方向に回り込んでしまった。


 下から見上げるような目線で、食い下がるエリーゼ。




「しつこいぞ。マーライオン女王」


「マーライオンって、何よ?」




 口から水をダバダバと吐くことで有名なシンガポールの像に例えても、異世界人のエリーゼには通じない。


 もっとも通じたら通じたで、エリーゼは怒っただろうが。


 ついでにシンガポールの人達にも、怒られるかもしれない。




 もう上空に、雲は無い。


 賢紀とエリーゼの進路上に散らばる水溜りは、青空を映し輝いていた。




「アディちゃん。あたし達も行こ!」




 アディに優しく微笑みかけたイースズ。


 彼女はエメラルド色の()()みをたなびかせて、賢紀とエリーゼの背中を追う。




(イレッサ様。(いっ)(しょ)に姫様を守ってくれる、仲間が増えました。お母さん。向こうでは、お父さんの()(づな)をしっかり握っておかないとダメですわよ? でないと男は、自分勝手な方向にズンズン進んで行ってしまうのですから)


 いまアディに背中を見せている青年も、ズンズンと勝手に進んで行ってしまっている。


(これだから、男という生き物は……)




 呆れながらも、アディは駆け出した。




 青年の背中を追うために。


 大切な仲間達の(そば)へ行くために。


 そして未来を(つか)み取るために。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 次の日。


 戦闘で道路や建物が破壊されたエラン市街地の復旧作業に、賢紀は取り組んでいた。


 ちょっと反則臭い手法だが、()(れき)を次々と【ファクトリー】に収納して片付けていく。


 その(いっ)(ぽう)で、片付いたところに建造物のパーツを出していった。


 【ファクトリー】内で、修復したものだ。


 時には家1軒丸ごと取り出し、配置していく。




 賢紀の他に活躍したのが、共和国軍のドワーフ達だ。


 彼らはマシンゴーレムの操縦センスはイマイチだが、土木建築のノウハウが豊富である。


 現場監督として指揮を取ってもらうと、工事が恐ろしくスムーズに進む。




 そんな彼らの手足となったのが、ルータス解放軍の操縦者(パイロット)達。


 元ルータス国民が多いので、故郷の景観を取り戻すべく積極的に働く。


 しかも土木建築用のマシンゴーレムを、巧みに操ってだ。


 これはGR-1をベースに、賢紀が開発した機体。


 土魔法専用に作り直した()(ほう)(じょう)とハサミ型に換装されたマニピュレーターにより、凄まじい作業効率を実現する。



 賢紀はこっそりこの機体を、ヴォクサー社かローザリィ社に売り込もうと企んでいた。




 土木建築マシンゴーレムらと共に、市街地修復に汗を流す【ゴーレム使い】。


 彼は地球にいた頃やっていた重機オペレーターの仕事を思い出し、(なつ)かしい気分に(ひた)る。


 異世界への召喚直前は、出勤するのが(おっ)(くう)になっていた。


 だが現場仕事自体は決して嫌いではなかった自分に、今さらながら気付く。




 そんなノスタルジーに浸っている【ゴーレム使い】の元へ、(けっ)(そう)を変えたエリーゼが駆け寄ってきた。




「ケンキ! 大変! すんごいものが発見されたわ!」


 頬を(こう)(ちょう)させたエリーゼの表情から、「すんごいもの」が自分達にとって良い(しろ)(もの)だというのは伝わってくる。




「何だ? 帝国軍マシンゴーレムの大量在庫でも見つかったか?」


「ほんっとにマシンゴーレムバカなのね……。ふっふっふっ。そんなケンキの期待を、裏切らない代物よ」




 エリーゼはニヤリと微笑み、たっぷりと(もっ)(たい)つけてから言葉を発する。







「ルータス王国が秘密裏に開発していた、独自のマシンゴーレムが発見されたわ」






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本作に頂いた、イラストやファンアートの置き場
解ゴー FAギャラリー

他の作者さんが書いた異世界ロボットものとのコラボ作品
スーパーなろうロボット小説大戦~天涯のアルヴァリス×解放のゴーレム使い~

本作のラスボスが、生まれ変わって主人公になる異世界転生自動車レースもの
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

世界樹や戦女神リースディースなど、本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[良い点] 私が知らないだけかも知れませんが、糸をキープしながら恥じらうって、なかなかいないと思います。 吐く、漏らす、伸ばす、と、こちらの作品のヒロイン達ばバリエーションに富んでいますね(笑) シ…
[一言] うわ〜〜ん。 泣いてまうやろ。 で、このしんみりとした後にお漏らしとマーライオンの件を持ってくるあたりが。なんというか秀逸ですね。
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