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【解放のゴーレム使い】~ロボはゴーレムに入りますか?~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
第5章 ルータス王国奪回編

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第85話 ルータスの剣、エリーゼの剣~誰と戦っていたの?~

『エリーゼ陛下。今の貴女(あなた)()()(すじ)には迷いが、ためらいが感じられます。テスラの大森林で〈ミドガルズオルム〉と戦っていた時の剣は、もっと鋭く、美しかった。お父上に、迫るものがありましたよ』


『レクサ……。それは買いかぶりすぎよ』




 魔道無線機越しに返ってきたエリーゼ・エクシーズの返答に、レクサ・アルシエフは「何も分かっていないな」と思った。


 彼女自身は、気付いていない。


 剣才だけなら、父セブルス・エクシーズを超えていることを。


 そして剣の技量だけなら、父とあまり変わらない領域にきていることを。


 しかしそれは、剣才と技量だけに限った話。


 今のエリーゼには父と比べ、決定的に足りないものがあった。


 それは――




『ふむ。テスラの大森林で、共闘してしまったのが良くなかったのか……。貴女は感情の切り替えが、上手くいっていないようですね。まだ私に、仲間意識を(いだ)いたままになっている 』


『……!』


 無線の向こうで、エリーゼが息を呑むのが感じられた。


 ()(ぼし)といったところだろう。




『ご自分の立場から、それをむりやり心の隅に押し込めてしまっている。だが完全には、割り切れていない。それでは、太刀筋が鈍るのも当然です。あわよくば私を殺さずに、マシンゴーレムのみを破壊して投降させようと考えているのでしょう?』


 帝国最強の剣士は、ガラリと口調を変えた。


『……あまり俺を、舐めるなよ? エリーゼ・エクシーズ!』


『レクサ?』


『俺はマシンゴーレムを破壊されたぐらいで、投降などしない! 生身でもこの身が果てるまで、剣を振るい続ける。相手がマシンゴーレムだとしてもだ! ……かつてお前の父や、その(きさき)達、ルータス王国の騎士達が、そうしたようにな!』


 無線から返ってくるのは、エリーゼの沈黙。


 亡き父や、母達、騎士団の仲間たちのことを思い出しているのだろう。


 ルータス王家は、帝国皇帝とその妃達などとは関係が違う。


 妃達はみんな仲が良く、誰が産んだ子でも自分の子のように接する。


 大家族のような、特殊な王家だとレクサも聞き及んでいた。

 

 エリーゼは自分の産みの親以外に、3人の義母も帝国によって奪われているのだ。




『忘れてはいないか? お前の父を斬ったのは、俺だ。そして第1妃、アゲイラ・エクシーズも俺が手にかけた。それでもまだ、俺を斬るのにためらいがあるか?』


 レクサはビリビリと感じていた。


 マシンゴーレムの装甲越しに、エリーゼが発する殺気を。


 あの日GR-1〈リースリッター〉の頭部を叩き割った、セブルス・エクシーズに近い殺気。


 ――もうひと押しだ。




「レクサ! 悪趣味だよ、もう()しな。……あの娘をあまり、甘く見ない(ほう)がいい」


 これからレクサが、エリーゼに何を告げようとしているのか。


 思考をリンクさせ読み取ったレヴィが、警告を発する。




「甘く見るだなんて、とんでもない。俺は期待しているんだ。剣士エリーゼ・エクシーズにな」


 レクサは再び、無線のマイクをオンにした。


『エリーゼ・エクシーズ。面白いことを、教えてやろう。この〈ルドラ〉には、2つの魔石が使われている。リアクターコアだけではなく、機体の制御を行う〈魔道演算機(エーテルプロセッサ)〉にも魔石を使用しているんだ』




 操縦者(パイロット)の動揺を反映して、〈サルタートリクス〉の肩がピクリと震えた。




『リアクターには魔族、〈魔道演算機(エーテルプロセッサ)〉にはエルフの魔石が使われている。……誰のものだか、分かるか?』


『ティーゼお()()様と、エセルスお義母様ね?』


『その通りだ。さあ、いまいちど聞こう! 俺を斬るのに、ためらいがあるか?』




 嵐のように吹き付けていた、エリーゼからの殺気。


 それが(とつ)(じょ)、消えた。


 世界が無音になったかのような、錯覚に囚われるレクサ。


 時間が静止したかの(ごと)く、(せい)(ひつ)な空間が2人の周囲に広がる。




 そんな中、〈サルタートリクス〉の構えが変わった。


 脇構えに構えていた剣を、ゆっくりと中段に。


 〈ルドラ〉の(のど)(もと)(きっ)(さき)を突きつける、正眼の構えを取る。




 〈サルタートリクス〉の主力武器である〈魔剣エヴォーラ〉は、ガラスのように透き通った刀身を持つプラズマソード。


 いつもは透明な魔剣が、緑色に輝いた。


 魔力伝導だ。




 そして背中の推進器(スラスター)からは、光の粒子が舞い散り始める。


 まるで夜に(はかな)く光る、蛍火だ。




 ――来る。


 最も洗練された、最速の(いち)(げき)が。


 (かげ)(ろう)の中で〈サルタートリクス〉が放つ静かな威圧感は、レクサにそう確信させた。




 レクサには、ずっと後悔していることがあった。


 それはエランの攻防戦において、手負いのセブルス国王を斬ってしまったことだ。


 リースディア帝国に、それを()(きょう)(ののし)(やから)はいない。


 むしろマシンゴーレムから降りて戦ったレクサの勇気を、(しょう)(さん)する者が多い。


 しかしレクサの心には、それがしこりとなってこびり付いている。


 あれは公平な勝負ではなかったと、思っている自分がいる。


 それが恥だとか、汚点だとかまでは思っていない。


 軍を預かる将として、落とせない戦いだった。


 自分の判断には兵士達の、その帰りを待つ家族達の、そして帝国民達の生活がかかっていたのだ。


 むしろマシンゴーレムから降りて戦ったのは、甘いと言われても仕方ない。


 兵士達からの求心力を高めようという、打算もあったのだが――




 勝ち(かた)に、こだわる場面ではなかった。


 自分は将として、正しい判断をした。


 今でもその考えは、揺るがない。


 「将としては」だが――




 では、剣士レクサ・アルシエフとしてはどうだろうか?


 これも剣士としての(きょう)()が、損なわれたとまではいえない。


 手負いだからといって情けをかけるなど、それこそルータス最強の剣士に向かって失礼きわまりない話だ。


 だが、「とても(もっ)(たい)ないことをしてしまった」という思いはあった。


 ルータス王国最強の剣士と、対等な条件での(いっ)()()ち。


 その機会が、永遠に失われてしまった。


 もし実現されていれば、命を落としていたのは自分の(ほう)だった可能性が高いだろう。


 それでもその戦いは、レクサの人生の中で最も貴重で濃密な――剣士としては、最高の時間になったはずだ。


 今でもレクサは修練で剣を振るう時、万全な状態であるセブルスとの戦いをイメージしている。


 マシンゴーレムの操縦訓練では、「もしあのセブルス国王が、マシンゴーレムに乗っていたら」という仮想の元で腕を磨く。




「今、俺の願いが叶いそうだ」




 〈ルドラ〉に突きつけられる〈魔剣エヴォーラ〉の(きっ)(さき)に、先程までの迷いは感じられない。


 恐れも怒りも感じない。


 ただ明確に、「斬る」という意志だけを伝えてくる。




「これだ。あの日のセブルス国王と、同じだ。無駄のない、極限まで洗練された剣」




 (つね)(づね)、レクサは感じていた。


 ルータス流剣術は、美しいと。


 合理化され無駄のない剣閃が、最短の時間と道筋で命を奪いにくる。


 それは危険で妖しい美しさを持った、武の到達点のひとつ。




 いまレクサの心は、エラン攻防戦の時にまで(さかのぼ)っていた。


 あの時実現できなかった対等な勝負が、娘によって再現される。


 16歳の小娘などと、(あなど)ってはいけない。


 万全な状態のセブルス・エクシーズを相手にしていると思わなければ、()られる。


 レクサは構えを変えた。


 右手の剣を中段にして前に構え、左手の剣を左脇に構えて半身に。


 レクサが最も得意とする――そしてあの日、セブルス国王を討ち取った左脇の構え。


 さらにレクサは、双剣へと魔力を伝導させた。


 魔力の色は、紫だ。




 構えながらレクサは、思考を巡らせていた。


 〈サルタートリクス〉の機体特性とルータス流剣術の理念から推察するに、繰り出されるのは左の片手突き。


 これは、あの日とは違う。


 セブルス国王は、最短距離にあったレクサの右小手を斬り落としてきたのだ。


 だが今回は、マシンゴーレム戦。


 搭乗している機体の爆発的な加速力を考えれば、片手突きこそ最も合理的で速い(いち)(げき)だ。


 それ以外の斬撃なら、見てから対応する自信がレクサにはあった。




 長い――




 気が遠くなるような長い(せい)(じゃく)(あと)、〈サルタートリクス〉が加速した。




 衝撃波で道路の石畳は破壊され、メインストリートに立ち並ぶ店舗のショーウィンドウが砕け散る。


 背中の推進器(スラスター)から青白い光の粒子をたなびかせ、踊り子は紫色の弾丸と化す。




 「同じだ」と、レクサは感じた。


 彼が修練時にイメージする「万全の状態のセブルス国王」と、(すん)(ぶん)(たが)わぬ突きだ。


 イメージトレーニングの中で、何度もそれに貫かれ絶命したレクサ。


 しかし、今は違う。


 右手の剣は、セブルスの突きを蛇のように(から)めとることができる。


 反撃で左手の剣を顔面に、喉に、心臓に、自在に突き立てることができる。


 イメージにあるセブルス国王との戦いは、レクサを飛躍的に強くしていた。




 だが皮肉にも、それがレクサの敗因になった。




 〈サルタートリクス〉は突撃の途中で、推進器(スラスター)ノズルを偏向。


 同時に大地を強く蹴り、身を踊らせる。


 動きが制限されるはずの、空中へと。




 ルータス流剣術の(じょう)(せき)から外れた、不合理で無駄が多い変則的な機動(マニューバ)


 レクサもフェイントを想定していなかったわけではないが、あまりにもイメージとの(かい)()が大きかった。


 反応が、わずかに遅れてしまう。


 空中で天地を逆さにしながら、〈サルタートリクス〉は剣を振るう。


 緑色に輝く魔導の刃は、〈ルドラ〉のコックピットブロックを切り裂いた。


 そのまま空中で前転し、石畳を(えぐ)りながら地面に着地する〈サルタートリクス〉。




『レクサ。あなた、誰と戦っていたの?』




 遠のく意識の中で、エリーゼの声が聞こえる。


 レクサはまた、勿体ないことをしてしまったのだと(さと)った。


 いつの間にか、セブルス・エクシーズとの戦いを夢想してしまっていたのだ。


 目の前にいるエリーゼ・エクシーズは、父とは別人だということを失念していた。


 彼女は、父とは違う境地に辿(たど)り着いた剣士なのだ。


 そんなエリーゼとの戦いに集中していなかったなど、勿体ないにもほどがある。






「だから、あたしは言ったんだよ。()()()()、甘く見ない(ほう)がいいってね」




(ああ。全くレヴィの言う通りだ……。俺はその言葉の意味を、正確には理解していなかったな……)




 最後の思念が、レヴィに届いたかは分からない。


 レクサ・アルシエフの意識は、深い闇の中へと沈んでいった。






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【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[良い点] レクサ将軍は敵ながら割り切った軍人、と言った感じでかっこよかったです! 共闘のことで、エリーゼだけではなく読者的にも感情がブレてしまい「なんだかなー」といったところを、ビシッと指摘してく…
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