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【解放のゴーレム使い】~ロボはゴーレムに入りますか?~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
第5章 ルータス王国奪回編

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第78話 愚行の償い~責任を取ってもらいましょうかしら?~

「……とまあ、こんなところですわね。あとはエマルツ・トーターに捕まり牢に入れられていたのを、姫様とケンキ様に救出していただきました。それ以降の話は、前に話しましたね?」


 アディ・アーレイトの確認に、スザクが(うなず)く。




 アディは(ため)(いき)と共に、深く吐き出した。


 後悔の念を。


 自分の無力に対する、やるせなさを。




「わたくしは……何も守れませんでした……」


 


 スザクの瞳部分である緑の炎から、炎の(しずく)がこぼれ落ちる。


 まるで、涙のように。


 炎の涙はアディのスカート上に落ちて、霧散する。


 熱くはないので、(やけ)()の心配はない。


 むしろ(ここ)()よい暖かさを、アディは感じていた。




「わたくしの代わりに、泣いてくれているのですね。優しい子……」


 アディは赤く燃えるスザクの羽を、(いつく)しむように撫でた。


 精霊であるスザクに、実体は無い。


 なので、手応えは感じられない。


 だが体を構成する火のマナと魔力が熱を生み出し、生き物の体温ぐらいの暖かさをアディの手に伝えてくる。




「アディ様……。アシュトン様とは、戦えるのですか?」




 スザクの問いに、アディは(しゅん)(じゅん)した。


 それから重たげに口を開くと、ゆっくりと言葉を(つむ)ぐ。




「……わかりません。でも彼が、姫様に害をなすなら……。そしてもし、このままイースズを失うようなことになれば……。わたくしは、師を許しません。例え本当に、父親だったとしても」


 エリーゼへの忠誠心に関しては言わずもがなだが、イースズもアディにとっては大事な友人だ。


 死線を共にした仲間という関係だけではなく、プライベートでも仲が良い。


 夜遅くまで、魔法の術式について語り合ったり。


 機関銃や対物ライフルの試射で、(いっ)(しょ)にガルマ平原へとお出かけしたり。


 マシンゴーレムの個人的な模擬戦にも、付き合ってもらったり。


 (いっ)(ぱん)(てき)な女性が友達とやるようなイベントの数々ではなかったが、そこには確かな友情があった。


 決して、重症な変態同士の共感(シンパシー)とかでは無い! ……と、アディは思っている。




「さあ。そろそろ(しょう)(かい)任務、終了の時間ですわ。戻りましょう、スザク。……今日話した内容は、誰にも漏らさないことです。漏らしたら……わかっていますわね?」


 いつものように、ギラリと光るアディの(そう)(ぼう)


 それを見て、スザクもいつものように震え上がった。


 もはや、お約束のやり取りだ。




「ヒッ! わかりましたよ。でも、別にいいのではないのですか? 決して、恥ずかしい内容では……」


「状況のみを簡潔に話すのは、別に構いませんわ。でも今回は、当時の心情まで(せき)()()に語ってしまいましたからね」


「わかりました。……不器用な(かた)ですね」




 アディの〈フレアハウンド〉は旋回し、城塞都市ダスカンの方角へと加速した。


 リニアホイールの出力を抑えた、静かで控えめな速度での滑走(グライディング)機動(マニューバ)




 しかし操縦者(パイロット)の「前に進む」という意志を、感じさせる機動だった。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 翌朝アディが目覚めると、宿営地の空気が変わっていた。


 マシンゴーレムの仮設ドックの前を通りかかると、(みな)(いち)(よう)に真剣な表情を浮かべている。


 出撃を控える、獣人傭兵のパイロット達も。


 整備をする、ドワーフのメカニック達も。


 彼らの瞳は、闘争心に燃えていた。




 昨晩までは、違ったはずだ。


 イーグニース共和国軍本隊の面々は、大勝に浮かれていたのに。


 勝利の美酒に酔い、自らの武勇伝を大声でわめき散らしていた。


 今の彼らには、その面影はない。


 (しゅく)(しゅく)と、仕事を進めている。





「何ですの? この異様な士気の高まり方は……。まるで誰かの(とむら)(がっ)(せん)にでも、出向くような……まさか!?」




 氷柱(つらら)のように、鋭く、冷たい不安がアディの胸を貫く。


 不安が現実のものになっていないことを祈りながら、彼女は病院までの道を駆け抜けた。


 病院の玄関を風のように通過し、階段は足をかけず(いっ)()に踊り場まで(ちょう)(やく)して昇る。


 アディは(ちょう)(つがい)が吹き飛びそうな勢いでドアを開け、イースズ・フォウワードの病室へと飛び込んだ。




 するとそこには――




「あ~。アディちゃん、おはよ。そぎゃん慌てて、どがんしたとね?」




 アディの予想を遥かに越えて回復し、元気に立ち上がっていたイースズの姿があった。




「イースズ……。良かった……」




 安堵のあまり、アディの全身から力が抜けた。


 頭上の犬耳は倒れ、尻尾も力なく垂れ下がる。


 これ以上無いぐらい、完璧な脱力体勢だ。




「まだ動かすと、少し痛かばってんね。その痛みに自分がどこまで耐えれるか、挑戦するのが楽しかとよね~。続けとると、痛みも何だか気持ち良くなってくるし」


「本当に良かった。精神面もいつも通り、安定の変態思考ですわね」


 エリーゼ相手にハアハアする自分のことは(たな)に上げて、アディは失礼な安心をした。




「そういえばアディちゃん。あたしと〈サジタリィ〉の脇腹を(えぐ)ってくれたのって、アディちゃんのお師匠さんってね? 悪かばってん、この借りは返させてもらうけんね」


 仕方の無いことだと、アディは思う。


 イースズにとってアシュトンは、自分を死の(ふち)まで追い込んだ敵でしかない。


 むしろ自らの手で(ほうむ)ることが、弟子である自分に課せられた使命なのかもしれない。




「具体的にどぎゃんして、借りを返すかっていうとね……。あたしの電磁加速砲(レールガン)でマシンゴーレムの両手両足を吹き飛ばして、動けなくなったらコックピットから引きずり出す」


 爽やかな笑顔を浮かべながら、乱暴な計画を語るイースズ。


「抵抗したらみんなでボコって大人しくさせて、【奴隷首輪(スレイヴチョーカー)】を()める。あっ。ひょっとしてお師匠さん、それで喜んじゃう性癖とか持っとる?」


 アディはぶんぶんと、首を横に振る。


 そんな特殊性癖の人は、目の前のハーフエルフ以外には心当たりが無い。




「そしたらあたしの気が済むまで、解放軍で操縦兵として働いてもらうとよ。もしイーグニース軍の連中が『奴隷は違法だ』とか騒ぎ出したら、ケンキさんの命令でやったことにしとこ」




 つまりイースズは、こう言ってくれているのだ。


 無理矢理にでも、仲間にしようと。


 自分を殺しかけた相手でも、解放軍のために働いてくれたら許すと。




「ふふっ。それはなかなか、いいアイディアですわね。そういえばわたくしも、恨みを晴らしていないのでした。いたいけな少女時代に、地獄のような訓練を課された恨みを。今回も弟子に、心配をかけて……。ダメな師匠ですわね」


「ほんなこつ。『俺は強い、心配するな』とかキメとって、心配かけまくりたい」


 時間が静止したように、アディの笑顔が固まった。




 おかしい。


 かつて師が発したその(せり)()は、誰も知らないはずだ。


 言った本人と、言われたアディ。


 そして、あの神経質な火の鳥以外は。




「アディ、ここに居たか。実はマリアが、やらかしてな」


 背後のドアから入って来たのは、【ゴーレム使い】(やす)(かわ)(けん)()


 相変わらず無表情で、何を考えているのか分からない男。


 だが今回はこめかみをポリポリと()()ぐさから、容易に推測できる。


 何かまずいことが、起こったのだ。




 賢紀の右側には、アディの相棒である火の高位精霊スザクが浮遊している。


 こちらはなんだか、申しわけなさそうな顔をしていた。


 そして賢紀の左側には、彼の相棒である闇の高位精霊マリア。


 こちらは体の前で腕を組み、両足のスタンスを広く取った姿勢。


 堂々とした態度で、空中に(ただよ)っている。


 表情も何だか、ドヤ顔だ。




「すみません、アディ様。僕よりも力が強い、マリア様には逆らえなかったのです」


「どういうことですの? もっと具体的に、説明しなさい」


 アディの表情はにこやかだが、瞳は全く笑ってはいない。




「まあ待て、アディ。(わらわ)が説明してやろう。妾はSAI精霊達のリーダーとして、他の機体も状態を()(あく)しておく必要があると思ってな。【ファクトリー】内で、各種データを見ておった。お(ぬし)の〈フレアハウンド〉もな」


 そこでマリアは、見つけてしまった。


 ボイスレコーダー内に、アディとルータス戦士達の壮絶な物語が録音されていることを。




「これはお主とルータス戦士達の勇猛さを、皆に知らしめる必要があると思ってな」


「それで?」


 (ほお)に手を当て、小首を(かし)げつつ微笑を浮かべるアディ。


 彼女のような美人がすると、非常に絵になる仕草。


 しかし内面は爆発寸前の炸裂弾であることを、周りの面々は理解していた。


 ――マリア以外は。




 すでにスザクは、身を丸めてブルブルと震えている。


 イースズも危険を感じ、病室の窓際まで避難していた。


 賢紀はマリアと同じく、(ゆう)(ぜん)とした態度で(たたず)んでいる。


 だが心の中では、「この場から逃げたーい!」と叫んでいた。




「妾は連合軍マシンゴーレム全機と司令部の無線に割り込んで、ダスカン中にお主の語りを放送してやったのじゃ! な~に、礼など要らぬぞ」


「そうですか……。マリア様のやったことなら、仕方ありませんわね」


 


 仕方ないと言いながら、なぜ銃を取り出す?


 そしてなぜスライドを引いて、安全装置を外す?


 賢紀は思ったが、口には出さない。


 そう問いかけるのは、無意味だからだ。


 アディがこれから起こす行動は、わかりきっている。


 実体の無いマリアに、銃弾は無意味だ。


 ならば銃口が、向く先は――




「それではケンキ様に、管理責任を取ってもらいましょうかしら?」


「アディ、よせ。弾代が、勿体な……」




 7発の発砲音が、病院内に響き渡った。


 敵襲と誤解されても、おかしくはない。


 イースズが気を利かせて(しゃ)(おん)の風魔法を使っていなければ、外まで聞こえて大騒ぎになっていただろう。




 しかしとっさに遮音ができたのは、開いていた窓側だけ。


 病院の内側には、大口径ハンドガンの大きな銃声が(とどろ)いてしまった。







「病院内で発砲したり、〈トニー〉を呼び出して暴れたり! あなた達は、いったい何を考えているのですか!?」




 激昂したのは、発砲音を聞いて駆けつけたシロン・ブガッディだ。


 賢紀とアディは廊下に正座させられ、お説教される羽目になった。


 大の大人2人が、7歳も年下の少女にガミガミと叱られている。


 なかなかに、情けない光景だ。




 賢紀やアディと並んで、人間よりひと回り大きな人影も正座している。


 小型無人マシンゴーレム〈トニー〉。


 大柄な彼が全身を縮こまらせている(さま)は、なんともシュールだった。






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