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【解放のゴーレム使い】~ロボはゴーレムに入りますか?~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
第5章 ルータス王国奪回編

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第69話 雨の共同墓地~強い男か?~

 (やす)(かわ)(けん)()がこの世界に降り立つ、10年ほど前の話だ。




 ルータス王国の首都エラン。


 その日は冷たい雨が、降りしきっていた。


 雨の中、急ぎ足で水を跳ね上げながら歩く男がいる。


 (せい)(かん)な顔立ちと、短く刈り込まれた金髪。


 (きた)え上げられた体を持つ、犬耳の獣人。

 

 セブルス・エクシーズ国王の第1妃、アゲイラの護衛を務める戦士。


 名前はアシュトン・マーティーン。




 彼は傘を差し、エラン市街地を歩き回っていた。


 目的は人探し。


 何軒かの家で聞き込みを行い、ついに目的である親子の所在を(つか)んだところだ。




 しかし同時に、聞きたくなかった情報も耳にしてしまう。




 探している親子のうち、母親はすでに亡くなったと。




 ――何かの間違いであってくれ。


 そう祈りながら、アシュトンは親子が住むという家のドアをノックした。




 返事は無い。




 (えい)びん(きゅう)(かく)(ちょう)(かく)を持つ彼は、家の中に誰も居ないことを(さっ)した。




 (なまり)のように重く感じる体を引きずりながら、アシュトンは次の目的地に向かう。


 早足で親子の行方を探し回っていた時とは、対照的な足取りだった。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 エラン市街地の外れにある、共同墓地。




 相変わらず、雨は降り続いている。


 そんな中、墓石の前で1人の幼い少女が立ち(すく)んでいた。


 傘も差さずに、ぽつんと。


 気温はかなり低く、少女の口元からは白い息があふれ出していた。


 だが彼女は震えもせず、ただ墓石を(ぎょう)()している。




 アシュトンは少女の背後から歩み寄り、墓石の名前を確認した。




 『アーリィ・アーレイト』。




 墓石には少女の母親であろう名前が、無機質に刻まれていた。




 アシュトンは絶望のあまり、その場で膝を突きそうになる。




(アーリィ……! 間に合わなかった……。俺はお前に、どうやって……)




 少女がゆっくりと、アシュトンの(ほう)を振り返る。


 涙は流れていなかった。


 やや吊り上った猫のような瞳が、アシュトンを見つめる。


 アーリィと、よく似た瞳だ。


 アーリィの父親は猫の獣人だったらしいので、猫目はそこからだろう。




 頭上には、自分とよく似た犬耳。


 ひと目見て、アシュトンは確信した。




 この子は、俺の娘だと。




「……泣かないんだな」




 すぐに父親だと名乗りたかったのに、アシュトンの口から出たのは違う言葉だった。




「お母さんと、約束したんです。『強くなる』って……。死んだお父さんと同じように、強く……」


 少女の瞳は、悲しみに満ちている。


 だが、強い意志を秘めていた。


 アシュトンを、たじろがせる程に。




 アシュトンは自問する。


(「お前の父親だ」と名乗り出れるほど、俺は強い男か?)




 自身の生き方を、振り返ってみる。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 アシュトンがまだ少年で、ビサースト獣人国連邦に住んでいた頃の話だ。


 幼馴染の狐獣人アゲイラが、奴隷として国外に売られていくことになった。


 アシュトンは、何もできなかった。


 まだ若く、戦士としても未熟。


 武力も財力もなかったからだ。


 売られて行ったアゲイラを、自力で探し出すこともできなかった。




 彼女を奴隷の身から救ったのは、当時王太子だったセブルス・エクシーズだ。


 その頃のアシュトンは腕を上げ、ビサーストの名門ケイニグセグ家に護衛として雇われていた。


 そんな中、セブルスはアゲイラを連れてケイニグセグ家を訪れた。


 「アゲイラを(めと)るのに家名が必要だから、彼女を養女にしろ」と。


 アシュトンは、言えなかった。


 「アゲイラは渡さない」とは。


 アゲイラがセブルスの側で、幸せそうにしていたからだ。




 ()()しいと思いつつも、アシュトンはアゲイラの護衛役を買って出た。


 恋心を護衛としての忠誠心に変え、()()()そうとしたのだ。


 そしてそのまま、ルータス王国までついてきてしまった。




 ルータス王国で、アシュトンはアーリィと出会う。


 彼女はセブルス国王の第4妃、イレッサの専属メイドだった。


 報われぬ恋心の()(ぐち)として、アシュトンはアーリィと関係を持ってしまった。


 ズルズルと関係を続けていたが、ある日彼女に(さと)られてしまう。


 いまだ心の奥底では、アゲイラに執着していることを。




 それでも2人の関係は、しばらく続いた。




 アシュトンは、迷っていた。


 アゲイラのことは諦めきれていないが、好意を寄せてくれているアーリィを大切にしたい。


 「(いっ)(しょ)になってくれ」と、言うべきではないかと。




 ある日アーリィが、イレッサ妃の専属メイドを辞めると言い出した。


 アシュトンには、理由を聞く勇気がなかった。


 煮え切らない自分との関係に、うんざりしたのだろうと思っていた。


 それを彼女の口から聞かされるのが、怖かった。




 メイドを辞め、姿を消したアーリィ。


 アシュトンは心配しつつも、すぐに彼女の(ゆく)()を探そうとはしなかった。


 他の男と(いっ)(しょ)になったという話を、聞きたくなかったからだ。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 そして今。




 アシュトンは目の前にいる娘に、父親だと名乗り出る勇気が湧かない。


「なぜ十年近くも、私達を放っておいたのか!? 母を死に追いやったのは、あなたではないのか!?」


 そう責められるのが、怖い。




(何て……何て弱い男だ。俺は……)




 とても目の前の娘に、父親だなどと名乗れない。


 こんなに弱い自分なのに、アーリィは娘に言い聞かせて育てたのだ。


 「あなたのお父さんは、強かった」と。


 その言葉を、嘘にしてはならない。


 自分は娘が思い(えが)く、「強い父」のイメージに相応しい男にならなければ。




 そしてこの娘と、母アーリィが交わした約束。




 強くなる――




「お前の名前は?」


「アディ……。アディ・アーレイトです」


 母親を失ったばかりだというのに、アディの()調ちょうはしっかりしたものだった。


 9歳の少女とは、思えないくらいに。




(この子はすでに、強い心を持ち始めているな。アーリィが(ほどこ)した、教育の(たま)(もの)か……。ならばそれを引き継ぐのは、俺の役目だろう)




 アシュトンはアディの頭に、優しく手を置いた。





「アディ、強くなりたいか?」


「はい」


 アディは静かに。

 しかし、強い決意を感じさせる返事をした。




「俺はアシュトン。お前の母、アーリィの……友人だ。俺はお前を、強くすることができる。ついてくるか?」


「はい、師匠。よろしくお願いします」


「師匠……。師匠か」




 ――いつかこの子に、「お父さん」と呼ばれる日が来るのだろうか?


 いや。

 早くそうなるよう、頑張らなくては。




 アシュトンはアディに、傘を渡した。


 自分は墓石の前に膝を突き、アーリィに祈る。




「アーリィ。俺達は、強くなる」






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 わたしはお母さんの友人だと名乗るアシュトンさんに連れられて、お城へとやってきました。


「知らない人に、ついて行ってはいけません」


 お母さんはいつもそう言っていたけど、アシュトンさんは大丈夫だと思いました。


 なぜそう思ったのかは、わかりません。

 なんとなくです。




 アシュトンさん――いえ。

 師匠は控え室のような小部屋に、わたしを連れてきました。


 メイドさんに頼んでタオルを持って来させ、雨に濡れていたわたしの体を()いてくれます。




「ちょっと待っていろ。今、着替えがないか探させている」


「このままで大丈夫ですよ、師匠。お城の中は、暖かいです」


「馬鹿。風邪をひいたらどうする? 師匠のいうことは、黙って聞いておけ」


 お母さんの優しい(しゃべ)(かた)とは、全然違いました。


 だけどなぜかお母さんを思い出して、暖かい気持ちになりました。




「アシュトン。戻ったのですか?」


「小さい女の子の服を探させるなんて、(ひと)(さら)いでもしてきたんじゃないでしょうね? ……あら?」




 ドアが開いて、女の人達が部屋に入ってきました。


 2人とも、()(れい)な服を着ています。


 1人は赤いドレスを着た、(きつね)獣人の女の人。


 長い金色の髪がさらさらして、尻尾がふさふさ。


 (もの)(すご)い美人で、思わず見()れてしまいました。




 もう1人は、ドワーフの女の人。


 銀色の髪がフワッとして、とても可愛い。


 そして背が小さいのに、おっぱいが大きい。


 なんだか抱きついて、甘えたくなる人。




(王妃様達だ!)




 本物を見るのは初めてだったけど、わたしはすぐにわかりました。


 お母さんから、どういう人達かは聞いていたからです。


 わたしはお母さんから教わったカーテシーで、ごあいさつしました。


 スカートの両端を軽く持ち上げておじぎをする、(しゅく)(じょ)の礼です。




「あら、礼儀正しいのね。可愛い……。アシュトン、この子が……?」


「はい、イレッサ様。アーリィ・アーレイトの娘です」


「それじゃ、アーリィはもう……」




 王妃様2人は、とても悲しそうな顔をしました。


 特にわたしを可愛いと言ってくれたドワーフの王妃様は、今にも泣きそうです。




 そうか。

 この人が、イレッサ様ですね。


 お母さんが、メイドとして仕えてたという。


 狐獣人の王妃様は、たぶんアゲイラ様。


 


「アーリィの娘なら、私の娘も同然。私のことは、お母さんと思ってくれていいのよ」


「イレッサ様。さすがにそれは、ちょっと……」


「いいじゃない、アシュトン。そういうところはゆるいのが、ルータス王家でしょう?」


 コロコロと笑う、イレッサ様。


 師匠は何だか、困り顔です。




「でもイレッサ。(じつ)の娘であるエリーゼが、後ろから(しっ)()(しん)のこもった目でジッと見ていますよ」


 アゲイラ様の言葉で、初めて気がつきました。


 部屋のドアが少し開いて、隙間から緑色の目が覗いています。




「あらあらエリーゼ、入ってきなさい。新しいお姉ちゃんよ」




 ドアが大きく開きます。


 銀色の髪をした小さなお姫様が、トコトコと入ってきました。




「あたらしい、おねえちゃん?」


「そう、あたらしいお姉ちゃん。名前は、……なんだっけ? アシュトン」


 師匠が答えるよりも早く、自己紹介をしてしまいます。


「アディ・アーレイトです」


「アディ、わたしエリーゼ。よろしくね」


「エリーゼ様。こちらこそ、よろしくお願いします」


 わたしはまた、カーテシーでおじぎをしました。


 ちゃんと礼儀作法ができているのか、ちょっと不安です。




「そういえばアシュトン。エリーゼのお姉ちゃんってことになっちゃったけど、あなたはこの子をどうするつもりだったの?」


 イレッサ様は、師匠に尋ねました。


 そういえば師匠は、私を「強くする」と言ってここに連れてきたのでした。




「俺が獣人の戦士として鍛え、いずれはエリーゼ様の護衛にでも……と」


「うーん。この子はアーリィの娘だし、メイドとしての資質も高そうだと思うのよね……。どっちがいいかしら?」




「両方やります」




 私の言葉に、師匠も王妃様達も驚きました。




「私はお父さんみたいに強くなりたいですし、お母さんのやっていた仕事もやりたいです。だから両方、やらせて下さい」




「ふっふ~、欲張りさんめ。でもそういうのは、嫌いじゃないわ」


 イレッサ様は嬉しそうな笑顔で、私のほっぺたを指でつついてきました。


「アシュトン。空いている時間に、あなたが戦士としての(けい)()をつけなさい。それ以外の時間は、メイドとしての修行をさせます」


「わかりました」


「アディ。両方やるのは大変でしょうけど、頑張るのよ。きっとあなたのお母さんも、喜んでくれるわ」




 イレッサ様はわたしの両肩に手を置き、はげましてくれます。


 やる気が湧いてきました。




「アディがわたしを、まもってくれるの?」


 エリーゼ様はとても可愛らしい笑顔で、わたしを見上げてきます。




 わたしは床に片膝を突き、エリーゼ様の手を取って(ちか)いました。






「はい。将来はわたしがエリーゼ様と、このルータス王国をお守りします。……必ず」






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