第67話 未知の攻撃~なんじゃこりゃ!?~
『さあ! どこだ!? 帝国のチキン野郎共! さっさと姿を現せ!』
ドックの外へ飛び出したスーテラ・トーターは、外部拡声魔道器で喚き散らす。
そんな彼女を、アレクは魔道無線機越しに宥めた。
『おいおいスーテラ。いくら格下のGR-1が相手だからって、無茶すんな。相手の方が数多いんだし、こっちは飛び道具がねーんだぞ?』
襲撃されるタイミングが悪かった。
いまこの試験場には、銃火器の類が置かれていない。
すべてヴォクサー社で、メンテナンスを受けている。
ヴォクサー社に銃のライセンスをほとんど抑えられてしまったローザリィ社は、早々と銃火器市場への参入を諦た。
マシンゴーレム本体と、格闘戦用武器の開発に専念する方針をとったのだ。
火器管制システムなどの試験は必要なため、いつもはヴォクサー社製の銃火器を置いている。
しかし今は試験の合間だったので、すべての銃火器をメンテナンスに送ってしまっていた。
手元には、対マシンゴーレム短剣〈パッセロ〉があるだけ。
投擲可能な武器だが、1回投げれば終わりだ。
飛び道具がないアレク達に、敵のGRー1〈リースリッター〉は容赦などしてくれない。
遥か遠方。
深い闇の中で、チカッと光が瞬く。
次の瞬間、光の矢が夜空を引き裂いて飛来した。
アレクとスーテラ、両機の間に着弾。
光の矢は弾け、派手な閃光と爆音を撒き散らす。
『チッ! ケンキ殿の情報にあった、〈スターダスト〉か?』
マルチランチャー〈スターダスト〉。
帝国軍の最新鋭機、GR-3〈サミュレー〉の主力武器だ。
光魔法で形成されたプラズマを、拡散しないように磁力魔法で維持。
ライフルのように射出する。
プラズマの刀身を生み出して格闘戦も行える、非常に汎用性が高い武器だ。
「あれ? 〈スターダスト〉だとすると、何かおかしくね?」
アレクの脳裏を、疑問が掠めた。
〈スターダスト〉は、第2世代型マシンゴーレムの魔法障壁と装甲を貫いてくる。
非常に火力が高い。
だが火力と引き換えに、多量の魔力を消費する武器らしい。
【ゴーレム使い】安川賢紀から、そう聞いている。
果たしてGR-1のリアクター出力で、撃てるものなのだろうか?
帝国はGRー1に、よほど大掛かりなアップデートでも施したか?
もうひとつ妙なのが、着弾跡。
確かに地面が抉れてはいるが、浅い。
この程度の火力でMG-2の魔法障壁を突破し、ダメージを与えることができるものだろうか?
『アレク! 来るぞ!』
今度は光の矢が、アレクとスーテラを分断するように連射されてきた。
スーテラは機体を横に跳躍させ、回避機動を取る。
だがアレクは、動かない。
ギリギリで命中しない弾道だと、確信していたからだ。
光の矢による弾幕を背負い、1機のGR-1が滑走機動で接近して来た。
静かに月明かりを反射するその機体は、冷たい銀色に輝いている。
「ますますおかしい。今や帝国軍でも、夜間迷彩塗装は採用されているはずだろ? こんな銀ピカのGR-1なんて、初期のほうのモデルだけのはずだぞ?」
銀色のGR-1は左右へとランダムに切り返すフェイントを入れながら、アレクとの距離をさらに詰めてきた。
ある程度接近したところで、〈ドライビングホイール〉を急停止。
その反動と脚部油圧系への魔力ブースト機動を使い、一足飛びにアレク機へと斬り掛かる。
右手には、〈スターダスト〉と思わしき光の剣。
「ん? コイツ、前にも戦ったことがあるような……?」
電光石火の素早い踏み込みと、一切の無駄を感じさせない鋭い剣閃。
その動きは、アレクに既視感を抱かせた。
「……ちょっと、試してみるか」
アレクは機体に、魔力を伝導させた。
機体の掌が、オレンジ色に輝く。
アレクはその掌を柔らかく使い、敵機が振るう光の刃を逸らした。
同時に機体を、旋風のように回転。
反対側の手で、裏拳を振るう。
こちらにも魔力が伝導され、オレンジ色に輝いていた。
遠心力と魔力で威力がはね上がった裏拳が、敵機の頭部に迫る。
顔面を掠めながらも、何とか裏拳をかわす銀色のGR-1。
今の回避は、ありえない。
GR-1と、MG-2の性能差は絶大だ。
どんな凄腕パイロットが乗っているとしても、避けられるものではない。
裏拳が来ると、知っていない限りは。
『ふーん。こんだけ機体の性能差があるのに避けるなんざ、ずいぶん腕を上げたんじゃねーの?』
アレクは外部拡声魔道器で、銀色GR-1のパイロットに呼びかけた。
しかし反応は無い。
敵機は、剣を右肩に引きつけた八相の構えを取っている。
アレクの呼び掛けに対する、動揺も戸惑いも感じられない。
その時、アレク機の操縦席に突然無線が入った。
『何だ!? ……コレ……機体……調子……』
酷いノイズだらけで、まともに聴き取れないスーテラの声。
何らかの攻撃かもしれないと、アレクは警戒心を強めた。
だがスーテラの機体に、目立った外傷は見受けられない。
攻撃を受けている素振りも、感じられない。
次の瞬間、アレクの機体にも異常が発生した。
映像投影魔道機にノイズが入り、明滅する。
機体制御系の異常を知らせる、赤い警告灯が次々と空中に浮かび上がった。
しかし、数秒で消える。
「何が起こっている!? フレイヤ、機体の自己診断術式を走らせろ!」
違和感を覚えたアレクは、機体の〈擬似魂魄AI〉に自己診断を命じる。
だが――
《チェック項目、オールクリア。異常は認められません》
「OK。お前までおかしくなっちまったっていうのが、よーく分かったぜ」
どこもおかしくないはずが無い。
現に今、アレクが機体を動かそうとしても動かない。
あらかじめ魔法術式によってプログラミングされたオート動作も、アレク自身の魔力を人工筋肉に送って操作するマニュアルコントロールも受け付けない。
機体のどこかで、魔力回路がカットされているのは間違いない。
「やっべー! こりゃー、やられるな。……ごめん、社長。機体捨てるぜ」
アレクが機体の破棄と、脱出を決意した瞬間だった。
かろうじて生きていたディスプレイの中で、敵機が――銀色のGR-1が、背を向けるのが見えた。
敵機はそのまま滑走機動で、戦場から急速に離脱して行く。
せめて離脱方向だけでも把握しようと、魔力レーダーに目を向けたアレクは唖然とした。
「ぶっ! 何じゃ、こりゃ!?」
魔力レーダーのディスプレイは、滅茶苦茶な表示をしていた。
敵機を示す光点が、消えたり、増えたり、ブレたり。
かと思えば敵機を示す黄色から、友軍機を示す緑色に変化したり。
ありえないくらい、高速で移動していたり。
しばらく滅茶苦茶表示を続けていた魔力レーダーだったが、唐突にブラックアウトした。
続けて、外部映像も途絶える。
アレクは完全に諦めた。
もう機体を、降りてみるしかないと。
アレクは操縦席のハッチを開け、大地へと飛び降りた。
夜のひんやりとした空気が、戦闘で火照った体を心地よく冷やす。
隣には、スーテラが立っていた。
アレクより先に、機体を捨て脱出していたのだ。
彼女は憮然とした表情で、アレクに歩み寄ってくる。
「アレク、無事で良かった……。あいつら、相当な腕前だったな。だがなぜ他の重要な軍事拠点を差し置いて、ローザリィ社の研究所を襲ったのだ? しかもあんなにあっさり撤退するなど、何を考えているのかさっぱりわからん!」
「うーん、俺にもよくわかんね。たぶん、政治的な理由だと思うけど……。そういうこと考えるのって、俺は苦手だしなあ……」
アレクは両手の平を空に向け、「さっぱりわからん」というポーズを取った。
「だから明日、本人達に直接聞いてみようぜ」
アレクの提案に、スーテラはポカーンとした表情を浮かべた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ローザリィ社襲撃事件の翌日。
「どういうことだーっ! ケンキ殿ー!」
怒声と共に、スーテラはスヴェール邸リビングルームの扉を蹴破った。
マシンゴーレムの装甲板でも、ひしゃげるかと思うほどの強烈な前蹴りだ。
蝶番を吹き飛ばされ、内側へと倒れ込んだドア。
それを踏みつけながら、スーテラはズカズカと部屋の中に踏み込んだ。
踏み込んだ瞬間だった。
スーテラは自分の両こめかみに、金属製の何かがゴリッと押し当てられたのを感じた。
「お嬢さん。世の中には、知らなければ幸せでいられたってことが結構あるもんだ」
左側から聞こえたのは、低くて渋い男性の声。
目線だけをそちらに向けると、背の高いサングラスの男性が立っていた。
やたら格好いい、豚の獣人。
ポルティエ・ナイレーヴンだ。
ポルティエは銃口を、スーテラの左こめかみに突きつけていた。
銃は右側からも、突きつけられている。
スーテラは反対側にも、目線を向けた。
「こんなことになってしまって、残念ですわ……」
「アディ……。どうしてこんな真似を……」




