閑話7 星天使の涙(2)~地球まで、届くかしら?~
「ア~レ~クぅ~! お前が変なこと言うから~!」
一行が洞窟の入り口まで戻ってくると、外には巨大な魔物達が群れをなしていた。
こんな場所に大量発生している原因は不明だが、1匹1匹が災害級と呼ばれる軍隊出動モノな魔物だ。
1体で都市を壊滅させてしまうほど凶悪な、エルダードラゴンという大型竜まで混ざっている。
クォヴレー・コーベットから、非難の眼差しを向けられていたアレク。
だがその表情は、歓喜に満ち溢れていた。
「フッフッフッ……やった! 出番だ! ケンキの旦那、【ファクトリー】にMG-2を格納しているんだろう? いや、この程度ならGR-1でも充分だな。貸してくれ!」
「いいだろう。どうせなら、コイツを使ってみろ」
安川賢紀が【ファクトリー】から取り出したのは、イーグニース軍の制式採用機MG-2〈ユノディエール〉。
アレクがテストパイロットとして、開発に参加した機体だ。
乗り慣れている。
ただし、本機は中身が違う。
外観は普通だが――
「実験としてリアクターコアに、ヴァンピール・ロードの魔石を使ってみた。人工筋肉も、より瞬発力を高めたものに換装してある。出力は上がったが、ピーキー過ぎる操縦性になってしまった。普通のパイロットでは、到底乗りこなせない代物だ」
「へっ! 上等!」
洞窟内でのモタモタした動作が、嘘のようだ。
アレクは素早く、MG-2の操縦席に滑り込んだ。
「ケンキさん。俺にも1機、マシンゴーレムを貸してくれませんか?」
クォヴレーは、アレク1人に戦わせることが不安な様子。
加勢を申し出るが、【ゴーレム使い】は却下した。
アレク1人でも、過剰戦力だと判断したからだ。
「いや、いい機会だ。しっかり見学しておけ。『天才』の操縦ってヤツをな」
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「いやー、見事なものですな。マシンゴーレムの戦闘を間近で見るのは初めてですが、信じられない動きです」
「アレクが特別なんですよ。普通のパイロットは、あそこまでできません。……なんだ? あの機動は? アイツ、本当に人間か?」
ベッツとクォヴレーは、洞窟の入口に座り込んでいた。
アレクの戦いぶりを、呑気に見物中だ。
アレクの駆るMG-2は縦横無尽に駆け回り、大型の魔物を次々と仕留めていく。
横っ飛びに跳躍しながら、アサルトライフルをセミオートで5連射。
高速で、移動しながらの射撃。
にもかかわらず、全ての銃弾が魔物を射抜く。
しかも急所を、正確に。
エルダードラゴンがアレク機に噛み付いてきたが、滑るような最小限の動きで回避。
巨竜の首筋に、対マシンゴーレム短剣がスッと通される。
ダンスのような躍動感。
見る者を魅了する、華麗な戦闘機動。
それでいて動作の無駄や、機体への余計な負荷は全く感じられない。
それが天才、アレックス・S・マッサの操縦。
機体はアレクの身体そのもの――いや、それ以上完璧にコントロールされている。
普通のMG-2より遥かにピーキーな、ジャジャ馬改造機のはずなのに。
「ん? そういえばケンキ殿は、どこに行かれたのですか?」
「なんか『もうちょっと洞窟を見たい』って言って、奥に入っていきましたよ」
2人が短い会話を交わしている間に、戦闘は終局を迎えていた。
最後に残っていた一ツ目の巨人、イビル・サイクロプス。
その背後に、アレク機が組み付く。
素手で頸骨をへし折られ、イビル・サイクロプスは力なく地面に倒れた。
恐ろしいことにアレクの機体には、魔物の返り血が全くついていなかった。
近接格闘戦も、かなりの頻度で行ったというのに。
しかも魔物達の死体は、最小限の攻撃で仕留められている。
高値で売れる部位を、傷つけないようにという配慮だ。
そのことに気付いたクォヴレーは、戦慄した。
自分もパイロットだからこそ、アレクの化け物じみた操縦技能がわかる。
「本当に、『天才』だったんだな……」
洞窟内で、へタレっぷりを発揮していたダメ男。
目の前で、戦神のごとき戦いぶりを披露したパイロット。
その2人が同一人物だという事実に、どうしても納得がいかないクォヴレーだった。
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1週間後。
ローザリィ社、マシンゴーレム試験場にある休憩室。
そこで何やら、細かい作業に熱中しているアレクの姿があった。
「よっし! 完成だ!」
彼が作っていたのは、「星天使の涙」を使ったアクセサリー。
アレクは手先の器用さに、少々自信があった。
そこでドワーフの職人に教わりながら、少しずつ自分でペンダントを作っていたのだ。
「アレク、それは私へのプレゼントか?」
いきなり背後から声を掛けられて、アレクはびっくりした。
作業に夢中で、スーテラ・トーターが近寄ってきていることに全く気付いていなかったのだ。
「スーテラ! あの……これはな……」
「今日が私の誕生日だなんて、よく憶えていたな? 確か、1回くらいしか言ってなかったと思うが……」
アレクは言えなかった。
「綺麗サッパリ、忘れていた」などと。
そんな発言、許されない雰囲気だ。
「そ……そうだ。誕生日までに間に合うかどうかギリギリだったから、こっそり作ってたんだよ。スーテラへのプレゼントだよ」
「私のために、手作りで? 嬉しい! 大切にするよ!」
そう言ってスーテラは、はち切れそうな笑顔を浮かべる。
いそいそとペンダントを身に着ける彼女を見て、アレクはなんだかこれで良かったような気がしてきた。
(ま……いっか。ちょっと順番が、変わっただけさ。スーテラにも、いずれ渡す予定だったんだからな)
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フォーウッド精霊国。
テスラの大森林に、新築されたばかりであるお城の中。
女王カレラ・ジーテの執務室に、小包が届いた。
鑑定魔法による検査を受け、危険物ではないと証明された印が押してある。
差出人の名前は、ベッツ・アーエムゲイル。
カレラがその小包を開封してみると、中から出てきたのはペンダントだった。
美しい鉱石が、あしらわれている。
同封されていた手紙には、この鉱石を入手するまでの冒険譚が事細かく記されていた。
「ふーん。私は忙しくて大変なのに、あなたは随分と楽しそうじゃない?」
カレラはペンダントに話しかけながら、指でツンツンとつついた。
「早く王様になる覚悟を決めて、帰って来なさい。いつまでも待ってなんか、やらないんだから」
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クォヴレーとムルシィ・エラーゴは、2人だけで天球の洞窟へと来ていた。
「いい魔物狩りのスポットがある」と言って、クォヴレーが誘ったのだ。
「お~。本当に、凄い場所~。壁や天井が、星空みたい~」
相変わらずの間延びした口調で、ムルシィは感嘆の声を上げた。
「でしょう? ムルシィさん。凄く綺麗ですよね?」
(ムルシィさんの方が、綺麗ですけどね)
思っていても、口には出せない。
まだまだクォヴレーは、若かった。
「綺麗だし~、狩り甲斐のありそうな魔物もいっぱいいる~」
幻想的な情景に見惚れるのもそこそこに、ムルシィは巨大な戦斧を振り上げる。
次の瞬間。
色々ダイナマイトな牛獣人傭兵は、魔物の群れに向かって突撃した。
彼女の首元では、「星天使の涙」のペンダントが踊っていた。
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ある日のルータス解放軍本部。
いや。
そう貼り紙がしてあるだけの、スヴェール邸リビング。
「イースズ。ちょっと来てくれ」
「ケンキさん、どぎゃんしたと? そのチョーカーは、なんね?」
テーブルの上には、チョーカーが置かれていた。
ペンダントトップは、「星天使の涙」製だ。
「おたくのお兄さんから、怒られてな。『イーグニースで【奴隷首輪】を着けているのを見られたら、ケンキ殿が逮捕されますぞ!』と。今の奴隷首輪も気に入ってるみたいだから、似たデザインの替えを用意した」
「は!? こればあたしにくれるとね!? う……嬉しかー!」
イースズがさっそく身に着けたがったので、賢紀は奴隷契約の術式を解除した。
そうしないと、いま装着している首輪が外せないからだ。
久しぶりに【奴隷首輪】を外したイースズだったが、何か物足りないような顔をしている。
「あれ? なんか、変な喪失感ば感じるばい」
「首元が、寂しくなったせいだろう? 新しいチョーカーを、着けてみろ」
賢紀からもらった新しいチョーカーを、着けたイースズ。
だがやっぱり、何か物足りない顔をしている。
「うーん。綺麗だし嬉しかばってん、何か奴隷という実感が湧かんばい。ケンキさん。新しいチョーカーにも、隷属の魔法とか支配の魔法とかって付与できんね?」
「アブナイこと言うな、変態エルフ。また俺が、ベッツさんに怒られる。それに新しいチョーカーのペンダントトップには、もう魔法が付与してあって……」
そこまで言いかけて、賢紀は突き刺さる視線に気付いた。
小さく開いたドアの隙間から、緑色の片目が覗いている。
凄く、物欲しそうな視線だ。
「エリーゼ陛下。あなたの分も、ちゃんと、ありますよ」
賢紀が言った瞬間、ドアが勢い良く開いた。
銀色の旋風が、リビングに飛び込んでくる。
「しょ、しょーがないわねー。女王即位記念の贈り物ってことで、ありがたーく受け取っておくわ……って! これ、ひょっとして『星天使の涙』!?」
賢紀がエリーゼに渡したのは、チョーカーではなくペンダント。
そのトップにあしらわれた石を見て、エリーゼは顔を真っ赤にした。
「え? 凄い石なんね?」
「あー。女性の心を虜にするとかいう都市伝説があるみたいだが、そんな効果は確認できなかった。【ファクトリー】に入れて、解析したんだがな。深い意味もないから、安心して受け取ってくれ」
「えー。虜にする効果は、都市伝説とね」
「深い意味も、ないのね……」
なぜか残念そうな2人。
「何か特別な効果が欲しかったのか?」と思った賢紀は、アクセサリーに付与した魔法の効果について説明し始めた。
「その石には、【念話の魔法】が付与されている。魔道無線機のような、相互通信はできない。一方通行だ。だが特定の思念に関しては、かなり距離があっても相手に届く」
「特定の思念って、どんなの?」
「助けを求める思念だ。お前達が俺の支援を必要とした時は、すぐに駆けつけられるようにと思ってな」
「『かなり距離があっても』……か。地球まで、届くかしら?」
エリーゼはペンダントを撫でながら、寂しげに呟いた。
「最近思っているんだが……。フリード神の使命が片付いても、俺は地球に帰りたくないな」
「……えっ!? ヤマハさんのことは、いいの?」
「何とか、こっちに連れて来られないかと思っている」
よく考えたら、賢紀が地球に帰りたい理由は山葉季子くらいのものだ。
親友の益城群にも会いたい。
だがこの世界を捨てて地球に帰ったら、「バカか? オメーは!」と怒られること間違いなしだ。
賢紀の夢である、人型機動兵器が実在する世界なのだから。
それに季子は地球より、こちらの世界が気に入りそうだと思っていた。
「地球に帰ったら、マシンゴーレムがないからな。それに……」
「それに? 続きは?」
「……こっちの世界での方が、俺は金持ちだからな」
「だからそれは、ルータス解放軍の資産だってば!」
ツッコミを入れながらも、エリーゼは嬉しそうだった。
彼女の笑顔を見ながら、賢紀は心の中で密かに呟く。
(それに……。エリーゼ達と別れるのは、寂しいからな)
やあみんな。俺は戦女神の使徒、荒木瀬名だ。
ランドール・クロウリィ? 黒髪の君? 誰だいそれ?
4章を読んでくれて、ありがとう。
みんなのおかげで、何とかニーサを守ることができたよ。
図々しい話だけど、ついでにお願いがあるんだ。
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