閑話6 星天使の涙(1)~本当に天才なのか?~
「『星天使の涙』? アレク、何だそれは?」
場所はイーグニース共和国。
スヴェール邸のリビングルーム。
ドアに貼られた「ルータス解放軍本部」の貼り紙も、すっかり馴染んできた。
アレクことアレックス・S・マッサが口にした聞き慣れない単語に、安川賢紀は疑問の声を上げた。
「何だ? 知らねーのかい? ケンキの旦那。男がその鉱石でアクセサリーを作って女に贈ると、もれなくその心を虜にできるっていう代物よ。俺のハーレム建設に欠かせない、重要アイテムだ」
「すげえアイテムだろ?」とドヤ顔な、絶対ハーレム作るマンのアレク。
ハーレムは面倒臭いので興味ないマンである賢紀は、冷めた気持ちで話を聞いていた。
「その『星天使の涙』を取りに行きたいんだけど、採掘できる天球の洞窟ってのがヤバい。危険な魔物が、ウヨウヨしているスポットなんだよ。ほら、俺ってマシンゴーレム降りると超弱いじゃん」
なぜか胸を張って、誇らしげに言うアレク。
見た目は長身。
筋肉が無駄なく付いた、しなやかでいかにも強そうな体。
しかし彼は、白兵戦で弱い。
元帝国兵とは、思えない程に。
「それで、俺に手伝えと?」
「頼むよ、旦那。魔物の掃討だけでも、魔物ハンターギルドに依頼しようとしたんだけどよ~。天球の洞窟は危険度高いらしくて、依頼料超高いんだよ」
「アレク。お前は結構な、高給取りだろう?」
「毎月スーテラとのギャンブルに負けて、巻き上げられているんだ」
経済観念の無さに、賢紀は頭を抱えた。
マシンゴーレムの操縦以外は、本当にダメな男だ。
これはスーテラ・トーターに、きっちり管理してもらわなくては。
「手伝ってもいいが、条件がある。最初に作ったアクセサリーは、スーテラに渡せ。彼女もハーレムに入れるとか、言ってただろう?」
「えーっ!? スーテラを最初のハーレム要員にすると、2人目は許可してくれそうにないじゃん!」
「嫌なら自分で採りに行け」
「ワカッタヨ。チャントスーテラニワタスヨ」
どうも嘘くさい返事だったが、賢紀は手伝うことにした。
初めは興味がなかったが、途中であるアイディアを思い付いたのだ。
せっかくだから、自分も「星天使の涙」でアクセサリーを作ってみたい。
それを山葉季子に、贈ってみたい。
地球に持って帰れるかは、まだわからないが。
「よし! ありがとう旦那! 出発は明日でいいかい? 仕事休みなんだ」
「ずいぶん急だな……。まあいいか。協力してくれそうなメンバーに、心当たりがある。適当に、声を掛けてみていいか?」
「もちろん! 仲間が増えるのは、大歓迎だぜ!」
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翌朝。
4人の男達が、ワゴン型ゴーレムに乗り合わせて移動していた。
「ビサースト組は、クォヴレーだけか? エネスクスや、ゴリも来るかと思ったが……」
「エネスクスは、シロンとデート。ゴリはジャニアの買い物に、荷物持ちとしてついていくからと……。あいつら、爆発すればいいのに……」
面白くなさそうにボヤく、ワイルドな狼獣人の若者。
民間軍事会社「ビサースト・エージェンシー」所属の剣士、クォヴレー・コーベットだ。
他には、眼鏡をかけたエルフの姿があった。
遺伝子魔法学と雷魔法の申し子。
青い長髪が美しい青年、ベッツ・アーエムゲイル。
3人目はアレックス・S・マッサ。
かつてリースディア帝国で、「天才」と呼ばれたマシンゴーレム乗り。
いまはローザリィ社に雇われている、若きテストパイロット。
そして、相変わらずの無表情男。
自由神の使徒にして、【ゴーレム使い】である安川賢紀。
今回はこの4人で、パーティを組む。
それぞれが、意中の女性を射止めたいという野望を胸に秘めていた。
彼らは「星天使の涙」を求め、危険な魔物蠢く天球の洞窟へと向かう途中なのだ。
「それで? クォヴレーさんがアクセサリーを贈る相手って、どんな人なんだい?」
アレクはゴーレム・ワゴンを、すいすいと走らせながら尋ねた。
軽やかなハンドル捌き。
車両型であっても、ゴーレムの操縦にかけては本当に天才だ。
「なっ! ……アレク、どうでもいいだろう? そんなことは」
ちょっと照れたように、そっぽを向くクォヴレー。
だが賢紀が、代わりに答えてしまう。
「ムルシィ・エラーゴという、牛獣人の女性傭兵だ。クォヴレーはいつも、彼女をチラチラと見ている。主に胸をな」
「えっ!? ケンキさん、なんでそれを!? 俺の視線って、そんなにバレバレですか!?」
キョドるクォヴレーを見て、賢紀は可哀想になった。
「本人も気付いているよ」とは、言わないでおいてやることにする。
「むっふっふっふ。クォヴレーさんも、なかなかスケベですなあ。……ベッツさんのお相手は、どんな人?」
「カレラか……ふむ。ひと言で表すなら、『女王様』ですな」
『女王様……』
テスラの大森林に行った時は普通だったのに、すっかり元の口調に戻ってしまったベッツ。
カレラ・ジーテが女王の地位にいることは事実なのだが、彼の言い方は誤解を招く。
案の定、アレクとクォヴレーはちょっと引いていた。
「ま……まあ趣味は、人それぞれだしな」
「そ……そうだよな。ディープな愛の形も、あるということにしとこうぜ。……ケンキの旦那は、大変だな。エリーゼちゃんと、イースズちゃんと……ひょっとして、アディちゃんにも?」
「いや。俺の故郷にいる、トキコ・ヤマハという女性だ」
「な! 何ぃー!? 4人だってー!? くっ! ケンキの旦那も、相当なハーレム野郎だな。エリーゼちゃんの親父さんと、互角とは……」
「ケンキ殿。聞いておりませんぞ? てっきり、イースズに贈るものだとばかり思っていたのですが……。少し、話し合いが必要ですな」
「いや、アレク。俺はハーレムなんて面倒なもの、作る予定は無いからな。ベッツさん、車内で雷魔法はやめて下さい」
ドタバタする野郎共を乗せて、ゴーレム・ワゴンは淡々と走り続けた。
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天球の洞窟に足を踏み入れた一行は、絶景に言葉を失う。
真っ暗な壁や天井には、星にそっくりな光が瞬いていた。
まるでプラネタリウムのように、幻想的な光景だ。
「これは……見事なものですな……。『星天使の涙』で作ったアクセサリーを贈るより、ここに意中の女性を連れてきた方が効果的なのでは?」
ベッツの意見には、賢紀も同感だった。
「こんな奴らが、いる場所にかい?」
アレクが指差した先には、凶悪な魔物達が蠢いていた。
よだれを垂らしながら牙をむく、双頭の狼。
口から紫色の毒霧を吐く、首が3つある巨大な毒蛇。
消化しきれなかった白骨を体内に残したまま、洞窟の床を這い回るスライム。
魔物ハンターギルドが危険視するのも頷ける、高脅威度な魔物の巣窟だった。
「よっしゃ! いっちょ頑張るぜ! 『星天使の涙』目指して、突撃ぃー! ……うわーっ!」
ナイフを構えて突っ込んだアレクだったが、いきなり数mもぶっ飛ばされた。
高脅威度の魔物相手だから、仕方がない……というわけでもない。
やったのは、貧弱そうな小鬼だ。
「くっそ~。銃なら、力の無さは関係ないぜ!」
アレクは腰からヴォクサー社製のリボルバー拳銃を取り出し、魔物に照準。
発砲した。
「ア~レ~ク~!」
前衛として戦っていたクォヴレーが、怖い目つきでアレクを振り返る。
賢紀が小型無人マシンゴーレム〈トニー〉で受け止めていなければ、クォヴレーの後頭部に銃弾が命中していたところだ。
「アレク。お前本当に、マシンゴーレムの天才なのか?」
自分もマシンゴーレム乗りであるクォヴレーは、アレクの操縦技術にも疑問を持った。
腕の立つマシンゴーレム乗りは、白兵戦でも優秀な戦士であることがほとんどだからだ。
「もうお前は、大人しくしていろ」
「イエッサー!」
賢紀の指示に、アレクは元帝国兵らしくビシッと敬礼を決めた。
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4人のパーティは、強かった。
最前列はクォヴレー。
目にもとまらぬ烈剣を振るい、次々と敵を斬り伏せる。
ベッツは後衛。
遠距離から素早く的確に雷魔法を撃ち込み、魔物達から攻撃の芽を摘み取る。
遊撃担当が賢紀。
〈トニー〉を操っての格闘戦と同時に、自らは魔法で支援を行いパーティの穴をなくす。
そして何もしないことが、最大の戦果につながるアレク。
高脅威度認定されている魔物達の群れをものともせず、一行は洞窟の最深部へと辿り着いた。
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洞窟の最深部。
賢紀の手には、ダイヤモンドのような鉱石があった。
透明だが、角度を変えると虹色に見える。
さらに一定のリズムで、白い輝きを放っていた。
「これが『星天使の涙』か……。数はちょうど、4つあるな」
「足りねえ! 俺は10個くらい欲しいぞ! 旦那の分、売ってくれない?」
「ダメだ、1人1個。大体お前、金がないだろう?」
「ちえ~、旦那のケチ~。しょうがねえな」
「アレク! お前今回、全然活躍してないだろうが! 1個持って帰れるだけでも、ラッキーだと思え」
「クォヴレーさん、その『活躍してない』ってのも不満だぜ。あー。帰り道で、でっかい魔物とか出て来ねえかなあ? マシンゴーレムが、必要なサイズのヤツ」
「アレク殿。そんなことを言って、本当に出くわしたらどうするのです?」
「ん? ベッツさん、そりゃもちろん蹴散らすよ」
自信満々に、言い放つアレク。
クォヴレーとベッツは苦笑いしながら、深~い溜息をついた。




