第49話 【ゴーレム使い】の機体解説~第2世代型って凄いでしょう?~
「ちょっと、ケンキ! いつまでもったいぶるのよ? あ! ほら、セナぶっ飛ばされたわよ!」
針金シルエットのマシンゴーレムが、攻撃してきた。
使ってきたのは弦と矢の無い、弓のような形状の武器。
その武器から、圧縮された空気の矢を放ってきた。
GR-1〈リースリッター〉の装甲ぐらいなら、充分にへこませられそうな威力だ。
光の障壁魔法ごと、荒木瀬名の全身が吹き飛ぶ。
常人であれば、肉片すら残らないような一撃。
だが瀬名は、岩に叩きつけられて血を流す程度で済んでいた。
強力な障壁魔法と、肉体の超人的防御力のおかげだ。
叩きつけられた岩の方が、粉々だったりする。
「【英雄】様の戦闘力を、じっくり見学させてもらおうと思ってな。……ほら、頑張れ荒木。単独・生身でマシンゴーレム2機撃破は、間違いなく大陸史上初だ。達成したら、伝説になれるぞ」
「安川……。後でコロス……!」
瀬名は口から血を吐きながら、恨みのこもった視線で安川賢紀を睨みつける。
(ちっ! やっぱりこれくらいじゃ、くたばらないか)
一時的には味方同士だが、いつかは瀬名との決着はつけなければならない。
消し炭になった状態からでも再生できる瀬名を、なんとかする手段。
それを賢紀は、用意しておく必要がある。
瀬名の身体は、早くも再生を始めていた。
神の加護【英雄】の能力である、【不屈】。
マシンゴーレムの〈トライエレメントリアクター〉のように大気中から魔素・マナ・瘴気を取り込み、急速に身体を癒す能力だ。
それに加えて、瀬名は回復魔法も併用していた。
「ねえ。セナに意地悪してないで、私達もMG-2で暴れましょうよ」
エリーゼ・エクシーズはイーグニースの最新型マシンゴーレム、MG-2〈ユノディエール〉に乗りたくて仕方ないといった様子だ。
イーグニース共和国での機体テスト時、彼女は「ヒャッハー!」と叫んで、ご満悦だった。
実戦でも使ってみたくて、ウズウズしている。
「エリーゼ、真面目な話をするとな……できれば帝国側に、イーグニース最新鋭機の情報を与えたくない」
先に手札を見せてくれたニーサに悪いとは、賢紀も思っていた。
だがイーグニース共和国とリースディア帝国では、物量に差がありすぎる。
余裕がある帝国とは、違うのだ。
賢紀は少しでも、自分達側の兵器情報を隠したかった。
それに生身の瀬名から撃破されてしまったのを見るに、針金マシンゴーレムの戦闘力はあまり高くない。
ニーサ ・ジテアールとレクサ・アルシエフの駆る2機のGR-3〈サミュレー〉に、任せてしまっても大丈夫だろうと結論付けた。
「でも、このままだと獲物が無くなっちゃうわよ? ケンキのことだから、エルフの機体も倒してかっぱらうつもりだと思ってたけど?」
エリーゼの意見に、賢紀はピタリと身体を硬直させた。
「それにこのままここにいたんじゃ、帝国最新鋭機の動きが見られないわよ? 凄いスピードで、森の中に消えちゃったから」
「エリーゼ、もたもたするな。クソ虫に戻りたいのか?」
突然、口調が変わった賢紀。
彼がイメージする、海兵隊っぽい口調だ。
すぐに4機のMG-2を【ファクトリー】から出現させ、自分はいそいそと乗り込んでいく。
「全く……。しょうがない男ね」
エリーゼは「やれやれ」といった表情でぼやきながら、ヒラリと操縦席に飛び乗った。
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帝国軍の最新鋭機GR-3と、エルフの針金ゴーレム。
両者の間には、埋めようのない圧倒的な性能差があった。
まず、運動性が違い過ぎる。
人工筋肉を使った第2世代型マシンゴーレムの自走速度は、軽く200km/hを超える。
そのためGR-1で採用されていた〈ドライビングホイール〉は無用の長物となり、非搭載となった。
一方で針金ゴーレムの運動性は、あまり高くない。
帝国軍のGR-1初期バージョンよりも、モッサリとした動きだ。
そして防御力。
針金ゴーレムは、弓状の武器から空気の矢を打ち出した。
しかしニーサのGR-3は避けようともせず、悠然と立ったまま空気の矢を弾き飛ばす。
GR-3より装甲の薄い、賢紀達のMG-2でも結果は同じだったろう。
針金ゴーレムの持つ弦なし弓は、かつてGR-1に搭載されていた魔法杖とは全然コンセプトが違う。
発動する魔法をひとつに限定し、耐久力を上げる。
そこに高出力リアクターからの膨大な魔力を注ぎ込んで、マシンゴーレムの魔法障壁をも貫通する魔法を放つ。
その発想も、悪くは無い。
だが第2世代型マシンゴーレムの強化された魔法障壁を貫通するには、火力が足りなかった。
魔法である以上は、魔法障壁である程度は軽減されてしまう。
さらに魔法障壁を突破しても、高張力魔鋼の装甲が立ちふさがる。
今までの対魔法装甲より、薄くなりつつも強度は向上していた。
さらに内部の人工筋肉にも高い防御力があるため、そう簡単にダメージは通らないのだ。
イーグニース軍のマシンゴーレムが使う銃などの実弾兵器に比べると、魔法兵器はどうしてもマシンゴーレム相手に効きにくい。
『さっきから魔道無線で、誰に解説しているのだ? ヤスカワ?』
ニーサの怪訝そうな声。
賢紀は無意識のうちに、独り言で第2世代型マシンゴーレムの解説をしていた。
針金ゴーレム狩りはエリーゼ達に任せ、自分はじっくりと帝国の新型を見学――もとい偵察するために来たのだ。
『解析能力も使わずに、この〈サミュレー〉の構造をそこまで理解しているとは……。やはりそなた達の乗っているその新型機も、似たような造りになっているようだな』
賢紀は返事をしなかったが、ニーサはそう確信しているようだった。
『「魔法兵器による攻撃は、実弾兵器に比べマシンゴーレムに効きにくい」とか言っていたな? ならば、これはどうだ?』
ニーサは機体の腰にあるハードポイントから、奇妙な武器を取り出した。
トリガーがついているので銃だと思われるが、やけにコンパクトで未来的なデザインだ。
ベルギー製のブルパップ式短機関銃に似ている。
高校時代の友人である益城群が、「これ、すげーかっこいいだろう?」と言って写真をみせてくれたものとそっくりだ。
違いはグリップの位置。
銃として扱った時の位置に加え、銃身と水平方向にも設けてある。
ニーサは機体マニピュレーターにあるコネクタと、その武器を接続する。
そしてやはり銃のように、敵機へと向けた。
『マルチランチャー〈スターダスト〉の威力、とくと見よ』
まばゆく輝く光の矢が、針金ゴーレムに向けて放たれた。
かつて瀬名が賢紀に向けて放った光魔法、【プラズマブラスト】に似ている。
あの時、瀬名機の魔法杖は1発で壊れてしまった。
しかし〈スターダスト〉は、壊れる素振りなど全くみせない。
光の矢は針金ゴーレムの頭をあっさりと貫き、溶解させた。
そのまま放っておいても、機体の制御系を失った針金ゴーレムは倒れただろう。
だがニーサは、さらなる追い撃ちをかける。
大気を震わせながら、ニーサのGR-3は突進。
50mはあった敵機との距離を、一瞬でゼロにしてみせた。
彼女は〈スターダスト〉を振りかぶっていたが、今度は握り方を変えている。
もう一方のグリップを握ると、〈スターダスト〉はナックルガードの付いた刀剣の柄に見えなくもない。
そう賢紀が思っていたら、光の刃が発生した。
プラズマソードだ。
地を這う低いフォームで、左下から右上に向かって光の剣を振るうニーサ。
電気回路がショートしたような音を立て、針金ゴーレムの機体はパックリと切り裂かれていた。
『どうだ!? 【ゴーレム使い】!』
自国の最新兵器を、誇らしげに見せびらかす皇帝陛下。
(この人も、ウチのエリーゼとあまり変わらないのかもしれない)
呆れる賢紀をそっちのけにして、女帝は饒舌に語り始める。
『〈スターダスト〉のセイバーモードは、とても格好が良い。だが私には、やはり実体を持った剣が合う。それもカタナが1番しっくりくるな。今度、マシンゴーレム用も作らせて……』
刹那、機体のコックピット内に警告音が鳴り響く。
それは、魔力レーダーの照射を受けたという警告。
『安川! 上だ! ミサイル!』
いつの間にか隣に来ていた瀬名が警告する。
彼は、白いGR-3に搭乗していた。
「ミサイル」という警告の意味を理解できたのは、地球人たる賢紀だけだった。
「マリア、〈ディスペルチャフ〉散布」
《了解、チャフ・散布機射出》
反射的に機体の〈疑似魂魄AI〉、「マリア」に命令を下す賢紀。
同時に機体を、後方へと飛びのかせる。
賢紀達の乗るMG-2には、機体の操縦を補助してくれる〈擬似魂魄AI〉という新機構が搭載されていた。
機体の動きから推測するに、帝国のGR-3もそうだろう。
第2世代型マシンゴーレムの、標準的な機構ということになる。
錬金術で人造人間等に植え付けられる、仮初の魂――「疑似魂魄」。
それをマシンゴーレムのコンピュータに当たる〈魔道演算機〉に憑依させ、人工知能のように操縦を補助させるシステムだ。
音声入力に従い、AI「マリア」は筒状の散布機を射出した。
圧縮空気を破裂させる魔法で打ち出され、炸裂し、魔力を反射する性質を持った細かい金属片〈ディスペルチャフ〉を撒き散らす。
煙幕魔法で視界を奪われたり、地面を崩されたりといった魔法による牽制・かく乱を無効化するために搭載した機構である。
ミサイルが魔力を追尾してくる方式だとしたら、それも〈ディスペルチャフ〉で無効化できるはずだ。
先程まで賢紀のMGー2が立っていた場所に、筒状の飛翔体が着弾した。
賢紀は爆炎魔法による大爆発を予想していたが、思ったよりも爆発は小さい。
代わりに小さめの穴が、深く地面に穿たれていた。
「マリア。今の爆発は、魔法ではないな?」
《肯定。魔力センサーには、飛翔体推進器の魔力反応しかありません》
「ということは、今のミサイル弾頭は……」
HEAT弾頭。
成形炸薬を使い、液状化した金属「メタルジェット」を超高速で撃ち出して装甲を貫く。
地球では、対戦車ミサイルなどに使われる代物だ。
マシンゴーレムの全身を覆うように展開されている魔法障壁は、運動エネルギーや化学反応による攻撃にも多少の防御効果はある。
しかしメインの用途は、魔法の魔力を霧散させる耐魔法コートだ。
つまりHEAT弾頭のミサイルを喰らえば、第2世代型マシンゴーレムとて無事では済まない。
「各機。魔力レーダーの照射を受けたら、〈ディスペルチャフ〉を散布しつつ回避行動。機体の魔力を追尾する、飛び道具が来るぞ」
指示する声こそ冷静だが、賢紀は内心動揺していた。
ミサイルやHEAT弾頭という、地球の近代兵器出現に驚いたのだ。
「帝国軍機も、魔法対策の機構があるなら使え。みんな、絶対に喰らうなよ」




