第48話 帝国の新型機~意味無くないですか?~
雨のように降り注ぐ、矢の群れ。
それを見た安川賢紀の脳裏をよぎったのは、死の覚悟でも恐怖でもない。
「もったいない」、という思いだった。
飛んでくる矢は、魔力を帯びている。
素晴らしい魔力伝導効率から察するに、質のいい魔鋼を素材にしているのは間違いない。
それをこのように大して狙いもつけず、雨あられと放つなど――
ケチ――もとい物を大切に使う精神が徹底している賢紀にとっては、憤慨ものの攻撃方法だった。
アディ・アーレイトも、弾薬を大量に消費するスタイルではある。
だが狙いは正確だし、無駄弾はほとんどない。
「アディに比べて、この【テスラガード】共ときたら……」
小型無人マシンゴーレム、〈トニー〉は不要。
賢紀はそう判断して、【ファクトリー】に収納した。
代わりにとあるゴーレムを1体取り出し、ひっそりと放つ。
そして飛来する矢の雨に、その身を晒した。
「いただきます」
手を合わせて呟く、【ゴーレム使い】。
彼は飛来する矢を、そのまま【ファクトリー】へと収納した。
賢紀の身体を中心に、矢の無いドーム状の空間がぽっかりと形成される。
ゴーレム操作中で動体視力が上がっている賢紀なら、矢ぐらいは見切って【ファクトリー】に収めてしまうことが可能だ。
銃弾並にスピードのある飛び道具は、認識できないので無理だが。
「やはり、高品質の魔鋼だったな。俺がマシンゴーレムの材料として、再利用してやる」
【ファクトリー】内で、矢の解析を一瞬で終えた賢紀。
彼は良質な材料をゲットしたことを、内心でほくそ笑んだ。
心にゆとりができた賢紀は辺りを見回し、戦況を確認する。
まずは先頭にいた、荒木瀬名。
彼は強力な光の障壁魔法を使用し、降り注ぐ矢を弾き返していた。
自分だけでなく、味方ほぼ全員を守っていたのだ。
ほぼというのも、賢紀だけは障壁魔法の範囲外である。
自分がしれっと範囲外にされていたことに、【ゴーレム使い】はちょっとムカついた。
エリーゼは、矢の雨の中を猛スピードで走っていた。
走りながらも、彼女は矢を的確に斬り払う。
エリーゼの長剣はやや長く、取り回しは決して良くないはずだ。
だが縦横無尽に走る剣閃から、不自由さは全く感じられない。
レクサはもっと凄かった。
両手に構えた二振りの剣は、完全に左右独立した動き。
次々と矢を斬り払う。
しかも風魔法でカマイタチを作り出し、矢をまとめて切断していく。
まるで脳が、3つはあるような処理能力だ。
同じ剣士でも、ニーサ・ジテアールは少しタイプが違う。
悠然と歩きながら、矢を斬り落としているようだ。
「ようだ」というのも、賢紀にはニーサの動きが微かにしかわからない。
右手がぶれたかと思った瞬間には、矢は斬り落とされていた。
刀は確かに抜かれたはずなのに、いつの間にか再び鞘へと納まっている。
手数が足りない分は、無数の小さな氷の板で矢を防ぐ。
魔法で、空中に生み出したものだ。
剣の腕だけでなく、魔法の腕も相当なものだと賢紀は震撼した。
イースズ・フォウワードは、風の魔法で矢の群れを反らしていた。
間隙を縫って、次々と矢を放つ。
矢に込めた魔力量は、【テスラガード】の射手達とは比べ物にならない。
鮮やかな紫色の光が帯となり、森の奥へと吸い込まれていく。
かなりの間を置いて、聞こえる悲鳴。
イースズの矢が、的確に標的を貫いている証拠だ。
アディ・アーレイトの姿は見えない。
彼女は最初に矢の大群が押し寄せて来た時、賢紀の視界から消えた。
木々を蹴りながら、駆け上がって行ったのまでは確認している。
時折聞こえる大口径ハンドガンの銃声と、エルフ達の絶叫。
「アサシンスレイヤーは、今日も元気にスレイしているな」と、賢紀は呑気な感想を抱いていた。
「おい! 矢を集めてばっかりいないで、戦えよ! 安川!」
光の障壁で味方を守りつつ、様々な属性の魔法で【テスラガード】達の数を減らしていた瀬名。
彼は苛立たしげに、賢紀へと向かって叫んだ。
「もう戦っている。気付いていないのか? 俺が遠隔操作で、ゴーレムを放っていることに」
賢紀の【ゴーレム使い】の能力は、日々進化を続けている。
度重なる実戦と、【ファクトリー】でのマシンゴーレムの開発・修理。
超人的な魔力操作を必要とする、マシンゴーレムのマニュアルコントロール。
脳の処理能力の限界を超えた、センサー類との【直結】等々。
能力が磨きあげられるには、充分な経験を積んできた。
おかげで最近では、かなり離れたところからゴーレムを遠隔操作できるようになってきたのだ。
複雑な構造で、マシンゴーレム並みの出力を持つ〈トニー〉はまだ難しかったりするが。
単純構造のゴーレムなら、遠距離からでも精密に動かせる。
「いきなり敵の気配が消えているのは、君の仕業か? 悲鳴すら聞こえない」
「ああ。この『ウォーターゴーレム』を使って、窒息させている」
飛んでくる矢の数が減ってきたので、処理能力に余裕ができた賢紀。
彼は先程放ったものに加えて、もう1体のウォーターゴーレムを出現させた。
ウォーターゴーレムは蛇のような形状になり、一旦賢紀の体に巻きつく。
その後は人型となり、主人の隣に佇んだ。
のっぺらぼうな顔だが、なぜか口だけはある。
ニヤリと口角を吊り上げていた。
このゴーレムのヒントになったのは、ランボルトの緻密な爆炎魔法だ。
先日魔物の掃討大会にて、元宮廷魔道士筆頭は目標の脳だけを破壊してみせた。
あれに比べると、ウォーターゴーレムの運用は簡単だ。
敵の鼻や口から侵入し、肺を水で満たすだけでよい。
賢紀は制圧を早めるため、2体目のウォーターゴーレムを敵にけしかけた。
ゴーレムは、地面に薄く延びる。
苔の間に浸透し、ほとんど視認できなくなった。
そのまま音も立てずに、スルスルと森の奥へと進んでゆく。
「暗殺向きの能力だな……。君の能力ってホント、主人公っぽさとか神の使徒らしさとかは皆無だね」
「うるさい、ほっとけ。俺は最近、この加護を気に入ってきたんだ……お?」
賢紀の耳に、良く聞きなれた音が微かに届く。
ジェットエンジンの吸気音に良く似た、甲高い音。
「安川……。これはまさか……?」
「【ゴーレム使い】の俺が、聞き間違えるわけがない。〈トライエレメントリアクター〉の吸気音だ」
マシンゴーレムの動力源たる、〈トライエレメントリアクター〉の吸気音が聞こえるということ。
それはすなわち――
「エルフがマシンゴーレムを保有しているなんて、カレラさんは全然話していなかったぞ」
「帝国にも、そんな情報は入っていない。帝国のGR-1を、鹵獲したのか? 安川がパクったと思われていた内の何機かは、エルフが入手していたと?」
賢紀は吸気音のする方向に意識を向け、魔力の流れを注意深く観察する。
【ゴーレム使い】の能力成長に伴い、【ゴーレム解析】も進化している。
直接手で触れなくても、大雑把な情報なら読み取れるようになってきていた。
「違うな……。GR-1じゃない。リアクターの出力が、GR-1の2倍はあるぞ。数は……15機だな」
【テスラガード】の弓兵達を倒し、戻ってきていたパーティの面々。
賢紀の発言を受けて、彼らの顔に緊張が走る。
「こちらもマシンゴーレムを出そう。さすがに2倍の出力差がある15機が相手では、GR-1では勝てぬだろう。GR-3の使用を許可する」
「何? GR-3だと?」
ニーサの言葉に、賢紀が激しく反応した。
帝国新型機の存在に、彼のロボット・オタク・スピリットは激しく燃え上がる。
「スペックは? 何か斬新な機構はあるのか? 見た目はどんなデザインだ? ペットネームは決まっているのか? 開発コンセプトは? GR-1とのキルレートはどうなっている? とにかくこの【ゴーレム使い】さんに、いちど見せてみなさい」
両手を変態的にワキワキさせながら、ニーサに詰め寄る賢紀。
悪寒を覚えた女帝は、思わず1歩後退した。
「ニーサ! 絶対そいつに、〈サミュレー〉を触らせるな! 【ゴーレム使い】の能力で、機体情報を丸裸にされるぞ!」
自分の企みを暴露されて、賢紀は舌打ちした。
しかし瀬名がペットネームだけは漏らしてくれたので、ちょっと収穫だったと喜んでいる。
「そっちも、イーグニースの新型があるんだろう? こっちも新型を見せるんだから、そちらも出してくれ」
「いやだ」
瀬名の提案に、ごねた賢紀。
あんまりな【ゴーレム使い】の返答に、その場にいた全員が腰砕けになる。
「ケンキ! ごねてる場合じゃないでしょう! ……ほら来た!」
エリーゼの指差す方向から木々を掻き分け、マシンゴーレムが出現した。
針金のように細いシルエットを持つ機体だ。
【ゴーレム使い】でなくても、ひと目でわかる。
これまでに量産された帝国のGR-1〈リースリッター〉とも、イーグニースの新型機MG-2〈ユノディエール〉とも全く違った系統のマシンゴーレム。
エルフが独自に開発した機体と見て、間違いなかった。
「くっ! 俺が時間を稼ぐ! その間にみんなは、マシンゴーレムに搭乗するんだ!」
瀬名はそう叫ぶと、2機のマシンゴーレムを【アイテムストレージ】から出現させた。
ルビーのように輝く赤い機体には、ニーサが。
森林迷彩色に塗装されたもう1機には、レクサが搭乗した。
2人がリアクターを起動させると、莫大な魔力が生み出される。
追ってくるエルフのマシンゴーレムよりも、はるかに大きい出力だ。
〈クリスタルアイ〉を輝かせ、2機のGR-3は静かに立ち上がった。
そのしなやかな動きを見て、賢紀は確信する。
MG-2と同じく、人工筋肉を使った次世代型マシンゴーレムだと。
イーグニースのMG-2と同じように、全高は8m以上になっているだろう。
頭身はGR-1と比べて伸びているが、機体の四肢がMG-2より太い。
装甲の厚さと人工筋肉の搭載量は、こちらの機体が上だと思われる。
鋭い目つきの双眼式〈クリスタルアイ〉が、睨みを利かせている。
一方口元はシャープで、すっきりとしたデザインだ。
両肩や腰部の装甲板は、小さなものが何枚かずらし重ねて装着されている。
そのシルエットは、「鎧武者」を連想させた。
「なるほど。〈サミュレー〉……サムライというわけか。ニーサ帝の日本刀といい、荒木が帝国に日本の文化を持ち込んだようだな」
感心して頷く【ゴーレム使い】に、帝国の【英雄】が叫ぶ。
「のんびり観察していないで、君達も早くマシンゴーレムに乗ってくれ!」
瀬名は時間を稼ぐために、敵機に向かって走り出した。
生身のままだ。
走りながら瀬名は、剣に膨大な量の魔力を込めた。
魔力伝導により、愛刀【神剣リースディア】は眩しく輝く。
青白い光の刃を振りかざし、瀬名は針金ゴーレムに向かって跳躍した。
「ハアッ!」
驚くことに瀬名は、針金ゴーレムの胴体を真っ二つにした。
生身で、しかも単独でのマシンゴーレム撃破。
これはエリーゼの父セブルス・エクシーズ王に続く、大陸史上2人目の偉業だ。
しかもセブルス王は深手を負いながらだったのに対し、瀬名は無傷での撃破である。
それを見た賢紀は、疑問を口にせずにはいられなかった。
「あいつ、マシンゴーレムに乗る意味無くね?」




