第43話 【ゴーレム使い】の敗北~侮り過ぎましたか?~
狙撃をするために、見通しの良い山上に陣取っていた安川賢紀とイースズ・フォウワード。
彼らの位置からは、新たに出現したマシンゴーレム達の全身は見えない。
それでも木々の間から、高速移動する機影をチラチラとうかがうことはできた。
『ケンキさん……。アレは何ね? 本当に、マシンゴーレムね?』
魔道無線機から、呆然としたイースズの声が聞こえてきた。
彼女の反応は、当然ともいえる。
謎の2機の動きは、これまでのマシンゴーレムの常識を越えていた。
森の中をしなやかに駆け抜ける姿は、まるで野生の肉食獣だ。
謎の2機の動きを観察した賢紀は、確信した。
「この生物的な動き……。人工筋肉を使っているな」
突然だった。
謎の機体のうち1機が、森の木々を飛び越えて跳躍した。
高度は50m程度。
マシンゴーレムを人間のサイズに置き換えるなら、10m以上飛び上がっている比率になる。
今までのマシンゴーレムではあり得ない、三次元機動。
「まるで、忍者だな」
それもリアルな、日本古来の諜報員としての忍者ではない。
海外で誤解されている方。
超人的な身のこなしで、魔法じみた忍術を使う誤ったイメージのNINJA。
大空に身を躍らせることにより、初めて忍者ゴーレムの全身が露になる。
全高は、GR-1より少し高い。
さらに四肢がGR-1よりも、かなりスリムになっている。
それにより、人間と変わらぬスマートな頭身となっていた。
横に細長い、ゴーグル型カメラ。
側頭部を守る装甲板と口元を覆面で覆うような顔立ちが、ますます忍者っぽさに拍車をかけている。
全身は、緑がかった青色――エアスぺリオリティブルーに塗装されていた。
今日のような、曇り空の中では目立ってしまう。
だが晴天時に空中に飛び上がれば、青空に紛れて非常に視認しにくい色だろう。
忍者ゴーレムは手に持っていたライフルを、空中から素早く3連射した。
それに呼応して、魔力レーダーに映っていた光点が3つ消える。
帝国軍のGR-1が、3機同時に撃破されたのだ。
『ウホ!? 帝国軍を倒したぞ!? 敵じゃないのか!?』
『まだ判断できないよ! 気を抜いたらダメだ!』
ゴリは若干、明るい声を発した。
しかしエネスクス・ホーンドは、まだ緊張を解いてはいない。
いつの間にか忍者ゴーレムの片割れも、2機のGR-1を片付けていた。
40機近くのマシンゴーレムを圧倒した賢紀達でも、脅威に感じる。
鮮やか過ぎる手際だ。
賢紀は操縦席の中で、敗北感に打ちひしがれていた。
「……どうしてこうなった? 奴らを侮り過ぎたか?」
自由神の使徒たる自分は【ゴーレム使い】。
マシンゴーレムに関することで、後れを取ることはないと高を括っていなかったか?
異世界人の兵器開発速度を、地球のそれと同程度だと思い込んでいなかったか?
自らの甘さを省みるも、時すでに遅しであった。
「仕方ないじゃないか。俺だって、色々と忙しかったんだ……」
マシンゴーレムの開発や試作は【ファクトリー】の中で、普段の生活と平行して行える。
だが全力で【ファクトリー】を稼動させると、賢紀の肉体は放心状態になってしまう。
それに武器や弾薬の製造を優先する必要があったので、新型機の開発は後回しにせざるを得なかったのだ。
「うん、仕方ない。俺は悪くないな」
今度は自分に言い訳し、開き直る【ゴーレム使い】。
だがそれでも、事実は消せない。
【神の加護】など持たない者達に、マシンゴーレムの開発で後れを取ったという事実は。
青い忍者ゴーレムはダンスのように華麗なステップで、敵機を翻弄する。
帝国軍の操縦兵は、いつ接近されたのかもわからない。
忍者ゴーレムが手にした短剣で、易々と操縦席を貫かれた。
『あの青いマシンゴーレムの操縦兵……。私、たぶん知ってるわ……』
「ウホ? マジっすか? 姉御、奴らは何者なんですか?』
ゴクリと唾を飲み込みながら、エリーゼに質問するゴリ。
質問には、賢紀が代わりに答えを出してやった。
無線で全周波数を使い、相手操縦兵に呼びかけることによって。
『こんなところで、何を遊んでいる? アレックス・S・マッサ。テストパイロットの仕事はどうした?』
『よーお、ケンキの旦那。元気にしてたかい? 遊んでるんじゃないぜ。こいつはれっきとした仕事だ。まあ新しい玩具を、存分に楽しんではいるけどな』
相変わらずの陽気な口調で、アレクは答えた。
新型マシンゴーレムを「玩具」呼ばわりするなど、いかにも彼らしい。
『信じられないな。もうロールアウトしているなんて……。この性能なら、トライアルはローザリィ社の圧勝だな』
賢紀はライバル社であるヴォクサー社の研究所で、彼らの試作機YMG-1〈パンツァープラッテ〉に乗せてもらった経験がある。
帝国軍のGR-1とは一線を画す性能を誇り、1機で3機のGR-1と渡り合えるぐらいの名機だ。
だがこの忍者じみたマシンゴーレムは、そのYMG-1を圧倒している。
よほど信頼性やコストが悪くない限り、イーグニース共和国軍の制式採用マシンゴーレムはこの機種に決まりだろう。
『ああ。こいつの名はYMG-2〈ユノディエール〉。来週からはプロトタイプを示すYが取れて、MG-2として量産が始まるぜ』
『量産が始まる? 制式採用される機体を選ぶ、トライアルはやらないのか?』
『もう、とっくに終わったぜ。いや~ドワーフ族って、ムチャクチャ仕事早ーわ。結果はYMG-2の圧勝。俺とスーテラには、社長から特別ボーナスが出てウハウハだ。……って、しまった! スーテラ!』
もう1機。
陸上迷彩のYMG-2には、スーテラ・トーターが乗っているようだ。
アレクほどズバ抜けた天才ではないとはいえ、スーテラも中々の腕前。
心配は無用だと、賢紀は思ったが――
『おしゃべりに夢中になってしまったようだな、アレク! 6機目は頂いた! 勝負は私の勝ちだ! 約束通り、ソルベルグ・カフェのデラックス・パフェを奢れ』
アレクとスーテラは、撃破数を競い合っていただけだった。
実戦の中でそんなゲームをするなど、スーテラもずいぶん丸くなったものだと賢紀は思う。
『久しぶりだな、ケンキ殿。YMG-2の性能は、凄いだろう?』
スーテラ機は機体の器用さをアピールするように、クルクルとライフルを回転させてみせた。
『ロスター社長が言ったのだ。「国境付近でうろうろしている、帝国軍が目障りだ。からかうついでに、実戦でのデータを取って来い。なんなら多少、間引きをしてやれ」とな』
ガハハと笑いながら無茶を言う髭三つ編みドワーフの顔が、賢紀の脳裏に浮かんだ。
『来てみれば、たった6機で大軍とやり合っている非常識な連中がいるではないか。これはもう、ケンキ殿達で間違いないと思ってな』
「それで助太刀してくれたというわけか……。共和国軍でもないのに国境越えて戦闘行為をして、イーグニース内で問題にならないのか?」
『あー旦那、それは大丈夫。少しでもマシンゴーレムの開発を進めたいから、大統領も共和国議会も多少の無茶は黙認だ。国境を越えてっていうのも大丈夫だろう。まだビサーストは正式に、帝国の支配下になったわけじゃないしな』
大統領を始めとするイーグニース重鎮達の無茶ぶりに、賢紀は呆れて溜息が出た。
『そうだ、呆れている場合じゃない。やることやっとかないとな。……アレク、今そっちに降りて行く。俺の機体そばまで来てくれ』
『なんだあ? 旦那、近くで見たいのか? まあ旦那なら、社長も機密だの何だと文句は言わないだろう』
賢紀はアレク機の近くに、自機を停めた。
操縦席から降りて、足下からYMG-2を見上げる。
『どうだ? 凄えカッコいいだろ? 社長がケンキの旦那になら、安く売ってもいいってよ。1機10億モジャのところを、特別価格7億モジャだ』
「ああ、凄くいい機体だな。嫉妬するくらいに……。【ゴーレム解析】」
YMG-2の脚部に手を触れ、賢紀は久々にこの能力を使用した。
GR-1やYMG-1よりも遥かに多い情報が、賢紀の中にある【神の加護】データベースに記録されていく。
『ああーっ! 旦那! 今、能力で機体情報を吸い出しやがったな!? セコイぞ!』
「ケチケチするな。ローザリィ社にGR-1を持ち込んでやったのは、誰だと思っている?」
『社長から聞いてるぞ! 1機5億モジャで売りつけられたって。くそう。俺のGR-1も、旦那に持っていかれてなかったら売ったのになあ……』
『アレク。過ぎたことは、もう良いではないか。それより帰って、パフェを食べに行くぞ。賢紀殿達も、激戦で疲れただろう。私達が護衛するから、早くイーグニースに戻って休むといい』
早くもスーテラ機は、撤収の準備を開始していた。
(スーテラ……。俺達への気遣いよりも、スイーツ食べたいが先にきたな?)
真面目過ぎる印象だったスーテラ。
だがイーグニースでの生活は、彼女を良い方向に変えたようだ。
(スーテラ……。スイーツ食べ過ぎて、ずんぐりしたGR-1体型になるなよ)
そんな台詞を、賢紀は胸にしまい込む。
GR-1とYMG-2の性能差は、圧倒的なのだ。
人間離れした操縦技能を持つ【ゴーレム使い】とはいえ、今のスーテラを怒らせたらひとたまりもない。
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ゴーレム・トラックの警護は、アレクとスーテラに引き継がれた。
これでエネスクスとゴリは、トラックのコンテナ内で休むことができる。
コンテナ内は空調が効いており、そこそこ座り心地のいい座席も用意してある。
なかなかに快適だ。
まだ戦闘に慣れていない2人は疲労困憊だったが、ここで休めば少しは回復できるだろう。
「2人共、お疲れ様。1機やっつけたんですって? 凄いわ」
シロン・ブガッディは2人に飲み物を渡しながら、活躍を誉め称えた。
「やったのはゴリさ。僕は援護しただけだよ」
「おう、素晴らしい援護だったぜ! 素晴らし過ぎて、後頭部がチリチリしたけどな」
もちろんゴリの皮肉は、現場を見ていなかったシロンには伝わらない。
「ねえ、エネスクス。ゴリさん。聞いてもいい? 戦場で敵を倒した時って……どんな気分だった?」
シロンはためらいがちに、質問を投げかけた。
彼女はマシンゴーレムのパイロットに志願しようかどうか、迷っているのだろう。
エネスクスは、そう推測した。
両親を失った、彼女の憎しみは深い。
自ら前線に出て、帝国兵を葬りたいという思いが伝わってきた。
特にマシンゴーレムのパイロットになれば、相手が直接見えない。
ためらいなく殺せると、考えているのかもしれない。
しかし、2人の答えはこうだ。
「あんまり、気分のいいもんじゃないね。できれば殺しなんて、したくない」
「おう、同感だ。マシンゴーレム戦で倒したのは初めてだが、生身の時と変わらない。飯が不味くなりそうな気分になる」
帝国軍によって故郷と家族を失った2人が、帝国兵を倒しても気分は晴れないという。
それを聞いたシロンは、残念そうな――しかし、どこかホッとしたような表情を見せた。
「帝国軍が心底憎いはずのあなた達がそう言うのなら、きっと私がやっても気分良くないわよね?」
「おう、シロン。マシンゴーレム乗りを目指すつもりなら、やめとけ。戦いはしんどいし、姉御達の訓練は地獄だしな。戦闘なんざ、エネスクスに丸投げしとけばいいんだ」
「なに人任せにしてんのさ? 猿系獣人の中でも、ゴリラ族は戦闘種族だろ? ゴリこそ頑張れよ」
またじゃれ合いを始めた2人の少年を見て、シロンは笑った。
心の底から笑えたのは、ずいぶん久しぶりな気がする。
「そうよね、私達は生き延びた……。失ったものも多かったけど、生きてさえいれば……。こんな風に笑い合えるできごとが、きっといくつも待っている」
シロンは故郷の方角を振り返ると、優しげに微笑んだ。
「バイバイ、ビサースト……。でも、またいつか……」




