第42話 友情の銃弾~「たぶん」って何だ!?~
『う~ん。こら、イカんばい』
操縦席の魔道無線機越しに聞こえる、イースズ・フォウワードの不満げな呟き。
それを聞いて、安川賢紀は疑問に思った。
「どうした? 敵機の頭を、見事に吹き飛ばしたように見えたぞ?」
イースズの放った76mm狙撃砲〈ヨイチ〉の砲弾は、リースディア帝国軍のGR-1〈リースリッター〉を正確に射抜いて撃破。
それを賢紀は、カメラのズーム機能で確認していた。
彼の目には、文句のつけようのない完璧な狙撃に見えたのだが――
『下に5cmもズレたばい。あぎゃんとは、外れたのと変わらん。火器管制システムが、ポンコツじゃなかとね?』
狙撃仕様GR-1には、賢紀が開発した自慢のFCSが組み込まれている。
高性能な魔道演算機が、これまた高精度なセンサーから得た気温や湿度、風向き、機体の振動等を勘案。
自動的に照準補正を行う、優れものだ。
「ホントか? どれ……」
今回賢紀が乗っているGR-1にも、同じFCSが組み込まれている。
賢紀は自分も狙撃砲で、帝国軍のGR-1を撃ち抜いてみた。
FCS動作確認のためだ。
「全然問題無いと思うぞ? 狙い通り、〈クリスタルアイ〉のド真ん中をぶち抜いた」
『ド真ん中ってね? 今のも上に、3cmズレとったよ。ちょい、FCSをカットして撃ってみるけんね』
「試射」のためにまた1機、帝国軍のGR-1が犠牲になった。
『右に1cm……。ごめん、FCSのせいだけじゃなかごた。マシになったばってん、あたしが狙撃砲にまだ慣れとらんのもあるばい。ライフル弾の回転の影響も、考慮せんとといかんね』
(俺の自信作であるFCSが、邪魔だというのか? イースズ! おそろしい子!)
相変わらずのポーカーフェイス。
しかし脳内では某少女マンガの元女優先生のような表情をして、賢紀はイースズに畏怖の念を抱くのだった。
ちなみに2人が狙撃しながらFCSについて議論していた場所は、攻撃目標から約3kmも離れた山上であった。
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帝国のマシンゴーレム部隊は、浮き足立っていた。
彼らの任務は、ビサーストからイーグニースへの脱走を図る獣人のゲリラ組織を追撃。殲滅すること。
攻撃目標は帝国軍から鹵獲されたものらしきゴーレム・トラック4台と、護衛のGR-1が2機。
追撃に投入された24機、全機で襲い掛かるのは過剰戦力もいいところ。
しかしなぜかレクサ・アルシエフ将軍からは、全戦力を惜しまず投入するようにとの指示があった。
敵が逃げるイーグニース共和国方面には、味方である国境警備部隊が包囲網を敷いている。
これを含めれば、合計50機近いマシンゴーレムによる挟撃という形になる。
追撃部隊の隊長スィーエィ・チアールは、あまりの過剰な戦力投入に疑念を抱いた。
だが「絶対に1人も逃がしてはいけない連中なのだろう」と解釈し、黙って忠実に作戦を遂行すると決めていた。
(蓋を開けてみればどうだ! この化け物共を相手に、たったこれだけの戦力で足りるのか!?)
スィーエィは敵に停止するよう、警告を発してやるつもりなどなかった。
遠距離からの攻撃魔法で車両を焼き払ってから、残されたマシンゴーレム2機を包囲。
接近戦で、袋叩きにしてやる予定だった。
だが魔法の射程距離に入る前に、3機が頭部を破壊され行動不能になった。
どこから来たのかわからない謎の攻撃で、瞬く間にだ。
その後も遠くから響く破裂音と共に、1機また1機と撃破されていく。
賢紀とイースズが放つ、76mm狙撃砲の弾速が速すぎて視認できないこと。
狙撃地点があまりに遠すぎて、見えないこと。
それらの理由により、帝国兵達は何が起こっているのか認識できていなかった。
何の前触れもなく、機体頭部が吹き飛ぶという理不尽な現象。
それはもはや、神か悪魔の仕業としか思えない。
『何だ!? あの動きは!? 獣みたいに速い奴が……ぐわっ!』
『あれは「銃」ってやつか? サファイア9が、一瞬でズタズタだ。……くそっ! こっちに来――』
『サファイア7、8が真っ二つだ! 何が起こってるのか、把握できない! ……えっ!?』
『敵機の両肩に、ルータス王家の紋章を確認した。……あれはルータスの亡霊だ!』
突然頭を吹き飛ばす謎の攻撃以外にも、森の中から悪夢のような敵機が迫ってきていた。
無線機から次々と飛び込んでくるのは、絶望的な報告。
もはや報告の体を成していない絶叫も、多く混ざっている。
魔力レーダーの映像投影魔道機からは、味方を示す光点が恐ろしいスピードで消えていった。
(撤退しようにも、背中を見せたら一瞬で狩られそうだ。ならばせめて、あのトラックだけでも)
スィーエィは、単機で強引な突破を試みる。
車両の護衛についている2機のGR-1は、森の中で暴れまわっている非常識な連中と比べると練度が低い。
彼の目には、そう映っていた。
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『エネスクス、ゴリ。そちらに獲物を、1匹通します。あなた達も獣人ならば、それくらい狩ってみせなさい』
無線から響く、アディ・アーレイト教官の無慈悲な声。
それを聞き、エネスクス・ホーンドとゴリは絶句した。
彼女は実戦の中で、訓練の成果を見せてみろというのだ。
『ウホ……。マジすか? ふ……ゴリ、了解。エネスクス、トラックの護衛と……余裕があれば、援護を頼む。俺が迎え撃つ!』
無線から聞こえたゴリの声は、かなりの緊張をはらんでいた。
彼にとっては、初のマシンゴーレム戦。
無理からぬことだ。
一方のエネスクスは、実戦2回目。
とは言っても、初陣の時はほとんど不意打ちによる勝利だった。
明確な殺意を持って襲ってくる兵士相手に、どこまでやれるかは未知数だ。
しかもすぐ近くには、守らなければならないシロン・ブガッディ達が乗ったトラックも走っている。
感じるプレッシャーは、ゴリとさほど変わらなかった。
アディによってわざとトラックの近くまで通されたGR-1は、頭部の形状が一般兵のものと若干異なっていた。
索敵能力が強化された、魔力レーダーの大型アンテナが目を引く。
指揮官機だ。
敵指揮官機は森の中から飛び出すと同時に、【ロックキャノン】の魔法を放った。
岩の砲弾が出現し、トラックに向けて飛ぶ。
『フンガァ!』
ゴリは暑苦しい雄叫びを上げながら、砲弾の進路上に割り込んだ。
飛来する岩を、機体の魔法障壁で受け止める。
あっけなく粉々になる、岩の砲弾。
無論、GR-1の装甲ならダメージは皆無だ。
しかし敵の指揮官も、それは想定内。
ゴリが棒立ちになっている隙に素早く間合いを詰め、斬りかかってきた。
得物は帝国マシンゴーレムの制式装備である片手剣、〈リネアール〉だ。
剣で槍に勝つためには、相手の3倍技量が必要であるといわれている。
しかし、敵指揮官機の間合いの取り方は絶妙だった。
槍のリーチを生かすには近過ぎ、両端を使った接近戦をするには遠過ぎる。
剣がアドバンテージを持つ距離を、巧みに保ちながら切り結ぶ。
何合か打ち合っていると、次第にゴリは劣勢に立たされてきた。
「伏せろ! ゴリ!」
エネスクスは叫ぶと同時に、スナイパーライフルを発砲した。
片膝を地面に着いた、膝撃ちの姿勢だ。
エネスクスの言葉通り、地面に貼り付くように伏せたゴリの機体。
その直上を、57mmライフル弾が通過した。
敵機はとっさに身を捻って、致命傷を避けようと試みる。
だが脇腹をライフル弾に抉られ、バランスを崩した。
さらにゴリが、槍で敵機の足を払う。
転倒した相手のコックピットブロックにすかさず槍を突き立て、完全に沈黙させた。
「ふう~。ゴリ、無事か?」
『「無事か?」じゃねーよ! 今の銃弾、後頭部をかすったぞ! もうちょっと、タイミングかコースに余裕を持たせろよ!』
「やだなー。ゴリのことを、信じていたんだよ。『当っても、たぶん死なない』ってさ」
『「避けてくれる」じゃねえのかよ! しかも、「たぶん」ってなんだ!?』
2人の少年がじゃれ合っていると、アディの機体が接近してきた。
近くで戦いぶりを、見守ってくれていたようだ。
鬼教官に怒られまいと、エネスクスとゴリはじゃれ合いを中断。
機体の姿勢を正す。
『ふむ。2人共、なかなかの戦いぶりでしたわね。あまり不甲斐ない戦いをするようでしたら、追加の訓練が必要かと思っていましたが』
エネスクスはそれを聞いて、心の底から安堵した。
アディやエリーゼ・エクシーズ相手のシミュレーター訓練は、地獄だ。
思い出しただけでも、吐きそうになる。
『いえ、俺はまだまだ未熟です。引き続き、ご指導を賜りたいと思います』
ハキハキと答えるゴリ。
それを聞いたエネスクスは、戦々恐々としていた。
(ゴリの馬鹿! お前はドMか!? 1人で勝手に、アディさんからシゴいてもらえ!)
そう口には出せず、エネスクスはおずおずと申し出る。
「えーと。僕はライフルの狙撃とかも覚えたいんで、ケンキさんにでも指導してもらおうかな~なんて……」
エネスクスはケンキやイースズの狙撃技術を、今回の戦いで充分思い知ることができた。
イースズはベアモン訛りが強くて、何を言ってるかわからないことが多い。
なので狙撃については、賢紀に教わる方がわかりやすいだろうと思っている。
もちろん、アディやエリーゼの訓練を受けたくないがための逃げだったのだが――
『エネスクス……。あなた、度胸がありますわね……』
アディの発言の意味を、この時のエネスクスは知る由もなかった。
エリーゼとアディ。
2人の鬼教官を鍛え上げた悪魔の存在を知った時、エネスクスは深く絶望することになる。
『まだ国境側に、10機ほど残っています。片付けてきますから、あなた達は引き続きトラックの護衛を――』
アディの言葉を遮るように、警告音が鳴り響く。
新たに2機。
味方ではないマシンゴーレムの出現を、知らせてきていた。
レーダーに表示された2つの光点の移動スピードは、異常な速度だった。
帝国軍のGR-1にしては、明らかに速すぎる。
『何だ!? この異常な速度は!?』
ゴリの声は、上ずっていた。
隣に居たアディもショットガンを構えて、緊張感を漂わせる。
『安川賢紀より各機へ。新たに2機、とんでもないのが出現した』
続けられた賢紀の言葉に、一同は凍りつく。
『6機がかりでも、あれには勝てない。抵抗するな』




