第37話 【ゴーレム使い】の祈り~追加人員は来ませんよね?~
『……取り消せよ!』
安川賢紀の予想以上に、荒木瀬名のプライドは傷付いていた。
放たれる殺気の鋭さが、1段階上がる。
元レーサーに、「操縦がヘタクソ」は禁句だったようだ。
『何度でも言ってやる。アンタの操縦はヘタクソだ。エマルツ・トーターやアレクみたいなエース格とは、比べ物に――』
今度は無言で、斬りかかって来る瀬名。
魔力で油圧系の動きをブーストし、瞬発力を向上させた踏み込みだった。
しかし賢紀は、余裕で回避した。
瀬名機は膝関節をやられているというのに、無茶な機動だ。
それだけではない。
賢紀の浸透勁モドキにより、機体内部に確実なダメージが通った。
内部の部品には、衝撃で不具合が及んでいるはずだ。
(コイツはそれに、気付いていない。自分自身の肉体が、頑丈過ぎる。……多分、そういう種類の【神の加護】なんだろう。機体に対する、気遣いが足りない)
現在のGR-1には、機体の不具合を自己診断する機能がついていない。
賢紀やエリーゼ・エクシーズ、アディ・アーレイトは機体の不具合に敏感だ。
しかしそういうことに鈍いパイロットが乗ることも、想定しなければならない。
自己診断機能を充実させようと、賢紀は決意した。
そんな風に開発者視点であれこれ考えている間にも、瀬名は斬撃を繰り出してきた。
暗い岩場に、白銀の剣閃が疾る。
確かに速い。
一般的な操縦兵では、すぐに切り刻まれてしまいそうなレベルの連撃だ。
「……しかし、雑だな。速いだけで、機体の動きにしなやかさがない。同じ魔力ブースト機動でも、アレクの繊細で緻密なコントロールとは全然違う」
機体の損傷抜きにしても、強引で負担のかかりそうな機動だ。
フェイントも、工夫が足りない。
賢紀は、心が急に冷めていくのを感じていた。
瀬名のプライドをへし折ってやりたいという気持ちが、すっかり失せる。
いや、すでに充分へし折ったからだろうか。
同時にマシンゴーレム乗りとしての荒木瀬名に対する、興味も薄れていく。
『俺より性能のいい機体や武器を使っているからって、図に乗るなよ!』
それは決定的な台詞だった。
賢紀が抱く瀬名への興味が、「薄れる」から「無くなった」に変わる。
確かに賢紀の機体は、改造機だ。
見た目こそ普通でも、一般的なGR-1〈リースリッター〉よりも優れたスペックを持っている。
しかし瀬名の白いGR-1も、それに匹敵する性能を持つカスタム機。
部分によっては、上回ってすらいる。
自分のような【ゴーレム使い】でもないのに、ここまで仕上げた帝国技術者は優秀。
さすがはマシンゴーレムの開祖だと、賢紀は感心していたぐらいだ。
『道具のせいにしているようじゃ、乗り手としては三流だ。アンタ、地球でも大したレーサーじゃなかったんじゃないのか?』
狂ったように剣撃を繰り出していた瀬名だったが、賢紀の言葉に動きを止めた。
怒りが狼狽へと変わる。
『違う……。俺はやれることは全部、やってきたんだ……。それなのに……』
何やら心の傷を抉ってしまったようだが、【ゴーレム使い】の反応は平然としていた。
『そうだ、アンタとじゃれ合っている場合じゃない。自由神の使徒として、仕事をしないとな』
頭の冷えた賢紀は、腕比べのスタイルからいつもの戦闘スタイルに戻す。
武器のアドバンテージを、最大限に生かすスタイルに。
また「ずるい」とか言われるかもしれないが、もう腕の差は明らかだった。
これ以上、付き合う義理はない。
速やかに決着をつけて、エリーゼやアディの援護に向かう必要がある。
賢紀は瞬時に、【ファクトリー】から銃を取り出す。
アサルトライフル〈ムアサドー〉だ。
アレクと戦った時と違い、銃身が短い。
近距離での取り回しを重視した、カービン仕様に改造してある。
近距離ということもあり、賢紀は狙いよりも広範囲に弾をばら撒くことを優先した。
フルオート射撃を実行。
貫通力強化の魔法を付与した40mm弾は、瀬名機全身に降り注ぐ。
白く美しい装甲は、ボロ雑巾へと変わっていった。
たまらず転倒する瀬名の機体に、賢紀はさらなる追い撃ちをかける。
30発全弾を撃ちつくしたライフルを【ファクトリー】にしまい、次に取り出したのは新開発したショットガン。
横たわる瀬名機に向けて、自機を歩ませる。
歩みながら発砲。
1発。
2発。
――4発。
途中で瀬名機のリアクターが機能停止し、機体への魔力供給が途絶えた。
魔力の反応を感知するレーダーから、光点が消える。
最後の1発は、至近距離からの射撃だった。
コックピットブロックの分厚い胸部装甲が、たまらずに吹き飛ぶ。
信じられないことに、操縦席の中で瀬名は生きていた。
体はかなり酷い有様だったが、目の光は失っていない。
カメラ越しに、睨み上げて来る。
「信じられない生命力だ……。俺だったら、とっくに死んでいる。念には念を、入れた方がいいな」
賢紀は機体左手に収納された魔法杖を伸ばし、虫の息になっている生身の瀬名に向ける。
リアクター起動時なら、常時展開されているはずの魔法障壁が途絶えていた。
分厚い耐魔法装甲も吹き飛んだ今、賢紀の魔法から瀬名の身を守るものは無い。
『代わりに女神様に、謝っておいてくれ。「ウチのアホ上司が、浮気してすいませんでした」ってな。……【エクスプロード】』
爆炎魔法が、至近距離から炸裂した。
魔法障壁と耐魔法装甲により、賢紀にダメージは無い。
だが瀬名は、当然無事では済まない。
『念のため、もう1発。【エクスプロード】』
いくら人間離れした生命力を持っていても、瀬名の体は炭屑と化しているはずだった。
『大サービスだ。もういっちょ【エクスプロード】』
瀬名が復活しないか恐れたビビリな賢紀は、3発目の爆炎魔法を放ったのだった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
自分の機体から降りてきた賢紀は、瀬名の生死を確認していた。
「操縦席周りだけじゃなくって、他の部分もズタボロだな。こりゃあ【ファクトリー】内で修理するのにも、時間がかかるぞ」
ズタボロにしたのは、自分の執拗な射撃と爆炎魔法。
なのに自分は悪くないかのように、【ゴーレム使い】はぼやいた。
ついでに瀬名機の残骸を、ちゃっかり【ファクトリー】に格納する。
「腕の差を機体のせいにするようなヘタクソ君が乗るよりも、俺達が修理して使ってやった方がこの機体も喜ぶはずだ」
かなり身勝手な言い分だったが、残念ながらそれを咎める者は近くに誰も居ない。
荒木瀬名の死体は、残っていなかった。
状況から見て、逃げおおせたとは考えにくい。
魔力の残りカスすら、感じ取れないのだから。
爆散し、焼き尽くされたと考えるのが妥当だろう。
「安らかに眠れ、同じ世界から来た男よ……。そして戦女神リースディース様。どうか追加で、使徒を補充してこないで下さい」
自分の仕える神にさえ、ロクに祈ったことのない賢紀。
だが彼は敵対する女神様に向けて、真剣な祈りを捧げるのだった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
再びマシンゴーレムの操縦席に収まった賢紀は、魔道無線通信で仲間達に呼びかける。
「安川賢紀だ。エリーゼ、アディ、こっちは片付いた。そちらの状況を知らせろ」
だが無線から返ってくるのは、沈黙だけだった。
「エリーゼ? アディ?」
やはり応答がない。
賢紀達の機体には、魔力レーダーが搭載されている。
ビサーストに入ってから、完成させたものだ。
これのおかげで操縦席内に居ても、周囲の魔力情報が映像投影魔道機の隅に写し出される。
膨大な魔力を放っているマシンゴーレムなら、おおよその位置は掴むことができるのだ。
しかし今、コックピットには魔力反応が全く表示されていない。
エリーゼ機、アディ機、そしてイースズ機の反応もだ。
「レーダーはまだ完成したばかりで、出力が弱いからな。仕方ない。リスクは伴うが、魔法障壁をカットするぞ」
マシンゴーレムを守り、同時に周囲の魔力を感知する妨げにもなっている魔力障壁。
それをカットすることにより、魔力レーダーはより詳細に機体位置を探知できる。
だがそれは同時に、自機の魔法防御力を大幅に落とすという危険も孕んでいた。
もちろん賢紀は、危険を充分に承知している。
周囲を警戒しながら、慎重に魔力障壁をカットした。
その瞬間。
魔力レーダーに、反応が出現した。
視界隅に、紫色の光が映る。
賢紀はとっさに機体を倒し込み、転がりながら飛来する光を回避。
光は機体が立っていた空間を、切り裂いた。
GR-1の全高ほどもある大岩を粉砕し、大地を穿つ。
粉砕された岩が飛び散った後、地面に突き刺さっていたのは金属製の矢。
魔力を帯びて紫色に輝く、マシンゴーレム用サイズのものだ。
「荒木なんかより、仮面の女の方がよっぽど強敵だったというわけか。まあ仮面のキャラが強いのは、ロボットアニメのお約束だな」
魔力レーダーの反応は、再び消えていた。
イースズは感知されぬようリアクター出力を最小限に絞り、息を潜めて隠れている。
そして自分を射抜く瞬間を、うかがっている――というのが賢紀の見立てだ。
第2射は、まだ来ない。
今と同じ距離から射ても、回避されるという判断だろう。
賢紀の腕と機体の運動性なら、当然可能だった。
向こうも矢を、無駄づかいしたくはないはずだ。
賢紀にとって不利なことに、近くには矢を防げそうな遮蔽物がない。
瀬名と戦っているうちに、開けた場所へと出てしまっていた。
相手は凄腕の狩人、獲物は自分。
緊張した賢紀の額に、一筋の冷たい汗が流れた。




