第32話 鉄の悪魔~好きで乗っているの思っているの?~
閃光が収まった時、すでにバレンティーノ達はゴーレム・トラックへと乗り込んでいた。
砂煙を上げながら、走り去ろうとしている。
「シューマッハさん! 奴が逃げる!」
とっさに目を閉じたクォヴレー・コーベットは、いち早く視力を回復することができた。
しかしシューマッハは直視してしまったのか、機体を立ち止まらせている。
バレンティーノを、追えていない。
『目を焼かれた。まだ、ぼんやりとしか見えない。……何とか追えるか?』
ようやくシューマッハのGR-1〈リースリッター〉は、バレンティーノのゴーレム・トラックを追いかけ始めた。
視界不良のためか、やや慎重な動き出しだ。
クォヴレーの元に、隠れていたロジャー・レインとシロン・ブガッディが駆け寄ってくる。
「なんや!? シューマッハの機体。あの滑るような機動は一体?」
ロジャー・レインは、不思議そうに叫んだ。
「シューマッハさん機の足裏には、車輪が付いているらしい。それであんな、機動ができるそうだ」
「帝国軍のGR-1には、そんな部品はついとらへんかったで。奴は何者なんや?」
「わからん。帝国からの脱走者だとしか……。彼が協力してくれる理由は、ことが済んだ後に我々獣人を『スカウト』する為だと言っていた。マシンゴーレム乗りとしての操縦適性を、高く評価してくれているらしい」
「『スカウト』か……。勧誘先が、まともな所だとええけどな」
バレンティーノとシューマッハが走り去った方角を見つめながら、ロジャーは疑わし気に呟いた。
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「すまない。逃げられた」
日が完全に落ちてしまった頃、シューマッハはアジトに戻ってきた。
目に不調を抱えていた為か、バレンティーノを捕らえることはできなかったらしい。
「ムスタングまで捕まるとは……。これでこのアジトの面子は、半分になってしまった」
すっかり人数が減ってしまった【魂の牙】のメンバー達は、今後どうするかについて会議を行っていた。
「これでは、まともな活動はできひんな……」
ロジャーも頭を抱える。
何せ以前から居るメンバーは、クォヴレーとロジャーだけなのだ。
他には得体のしれない偽名の助っ人2人と、弱冠14歳の少年少女が2人。
マシンゴーレム2機を、保有してはいる。
だがゲリラ組織としてリースディア帝国軍と戦うには、心細い人数だった。
「俺は……本部にいる本隊と、合流した方がいいと思っている」
クォヴレーの提案に、ロジャーは異論を唱える。
「ワイは反対や。ワイらが不用意に合流しようとすれば、帝国軍に本部の位置を知られる危険があんで。一箇所におびきよせられて強襲されたら、何もかも終わりや」
ロジャーの言い分は、もっともなことだった。
しかし、クォヴレーの反応は芳しくない。
「シューマッハさんは、どう思いますか?」
ただの助っ人であるはずのシューマッハに、クォヴレーは意見を求めた。
そのことが面白くないようで、ロジャーは眉間に皺を寄せる。
「俺が口を出してもいいのか? 本隊と合流するつもりなら、移動手段として帝国のものと同じゴーレム・トラックを提供することはできるが?」
「決まりだな。明日朝1番に、ここを発つ。各自、準備をしてくれ」
「おい! クォヴレー!」
「悪いけどロジャー、決定権は俺にある。シューマッハさんのゴーレム・トラックと【神の加護】があれば、帝国軍から気づかれずに本部までたどり着けるはずだ」
ロジャーはまだ、納得がいかない様子。
しかし本隊へ合流するという決定をもって会議は終了となり、各自準備のために会議室から出て行った。
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翌朝早く。
霧に覆われた白い世界に、いくつかの影が浮かんでいた。
【魂の牙】のメンバー達と、移動用のゴーレム・トラックだ。
一行はアジトを引き払い、出発しようとしていた。
「俺が土魔法で、入り口を塞ごう。みんな、下がってくれ。……【ロックキャノン】」
シューマッハは巨大な岩の砲弾を作り出し、アジトだった洞窟の入り口に向けて放つ。
岩は入り口を完全に塞ぎ、洞窟の痕跡を無かったものにした。
「マシンゴーレムの杖ブーストも無しに、この威力とはな……」
ロジャーは素直に感心しているわけではない。
何か、含むところがありそうな言い方だった。
「さすがですね、シューマッハさん。それではみんな、出発するぞ」
クォヴレーの号令で、一同は車両に乗り込む。
ゴーレム・トラックは魔導モーターの静かな駆動音を響かせながら、霧の中へと消えていった。
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「気に入らんな……」
「なんだいおっちゃん? ゴーレム・トラックの運転が上手くいかなかったことが、そんなに不満かい?」
助手席で仏頂面して腕を組んでいるロジャーに、軽い口調でエネスクス・ホーンドは答える。
彼はシューマッハにゴーレム・トラックの運転を教えてもらうと、すぐに乗りこなしてみせた。
口頭で、操作方法を説明してもらっただけでだ。
その才を見込まれ、今はハンドルを任されている。
対照的だったのは、ロジャーだ。
運転方法こそすぐに頭に入ったものの、操作はギクシャクして上手くいかなかった。
現在は、助手席でふてくされ中だ。
他のメンバーは、荷台のコンテナ内で休憩している。
「ちゃうわ! 今の組織の状況や。クォヴレーの奴、シューマッハの能力に依存してしもとる。古参の獣人メンバー達がおらんとなって、不安なんやろな」
「嫉妬しない、嫉妬しない。おっちゃんだって、古参なんだろ? クォヴレーさんも、アテにしてるって」
「古参といっても、【魂の牙】っちゅうゲリラ組織自体が出来て間もない組織やけどな。そん中でもワイは元々この国の人間やないし、種族もちゃう。発言力が低いのも、しゃあないところや。せやけどどうも、あのシューマッハのいいように転がされとる気ぃすな……」
ロジャーはさらに、シューマッハへの疑念を口にする。
「思えば奴の行動は、ケッタイなところが多い。今朝のごっつい土魔法、エネスクスも見たやろう?」
うんうんと、エネスクスは頷く。
「昨日バレンティーノの奴が攻めて来た時、なぜ奴はあの魔法で戦わんかった? わざわざマシンゴーレムを出す必要はあったか?」
「うーん。接近戦は苦手で、生身で戦いたくなかったとか?」
エネスクスの予想に、ロジャーは首を横に振った。
「そうやったら、奴の位置取りは変やで。剣を構えとる前衛のクォヴレー、ムスタングと並んで立っとった。魔法しか取り柄がないんやったら、少し下がって遠距離から魔法を撃ったらええ」
「案外戦闘はド素人で、思いつかなかっただけだったりして」
「それにしては、自信ありそうやったけどな。……たぶん奴は、接近戦にも対応できる何ぞを隠し持ってたとワイは睨んどる」
「なら他に考えられるのは……。ただ単に、マシンゴーレムを乗り回したかっただけとか?」
「ワレみたいなガキやないやろうし、あんな緊急時に自分の好みで行動する奴がおるか!」
「あれ? おっちゃんは僕が好きで、マシンゴーレムに乗ってると思っているの?」
「ちゃうんか? あれだけワイに、マシンゴーレムの話を聞きたがっとったやろ。実際に乗ってみて、操縦センスも悪くないなら楽しいやろ?」
スッと目を細めて、エネスクスは答える。
いつものように言葉遣いは飄々としているが、声色は氷のように冷たい。
「ちがうね。マシンゴーレムは僕の故郷と家族を焼き尽くした、鉄の悪魔さ。好きになんか、なれっこないね」
「すまん、無神経やったな」
「気にしないでくれよ、おっちゃん。自分に操縦センスがあることには、感謝しているんだ。今は使えるものは、何でも使わないとね。……悪魔だろうが何だろうが、乗ってみせるさ」
そう言ってエネスクスは、遠くを見つめる。
視線に14歳の少年とは思えない暗い殺気を感じ、ロジャーの背中には悪寒が走った。
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道中、何度か帝国軍と遭遇しそうになった。
だがエネスクス達はその度にシューマッハの能力でゴーレム・トラックを隠してもらったり、スピードを上げて振り切ってことなきを得ていた。
そして、アジトを出発してから3日後。
エネスクス達一行を乗せたゴーレム・トラックは、目的地へと到着する。
かつて首都レオパードが存在した、猫・獅子・虎系獣人の集うレオーネ州。
【魂の牙】本隊が、潜伏している場所だった。




