第19話 試験の結果~勝手に動いてますよね?~
魔物ハンターギルドの地下にある試験場は、円形の闘技場になっていた。
まるで古代ローマにあったという、コロッセウムのようだ。
観客席と思わしき石造りの席には、今は誰もいない。
戦いが行われていない闘技場の地面を、静かにぐるりと取り囲んでいた。
「受験者の皆様、こんにちわー! わたくし、本日の試験監督を務めさせていただきます。魔物ハンターギルドイーグニース支部、ギルドマスターのランシア・エヴォルツィオーネと申します」
挨拶したのは、人間族の女性。
美人で、グラマラスで、安川賢紀が持つ冒険者ギルド受付嬢のイメージそのままの人だった。
先ほどのムキムキ受付男性の方が、よっぽどギルドマスターっぽい。
「あら? 受験されるのはケンキ・ヤスカワさんお1人だけで、他の方々は付き添いなんですね。ドワーフ族はハンター志望者が少ないので、この支部はいつも受験者数が少ないのです。寂しいですね」
賢紀は納得した。
ドワーフの国なのに、ギルド内のドワーフが少ない理由はそれだと。
細工や鍛冶の技術に長けているドワーフは、危険な魔物ハンターにならなくても生計を立てていくことができるのだ。
「対戦相手の試験官を、ご紹介します。経験豊富なハンターにして、当ギルドの受付担当。ジーノ・ミラハッツです」
紹介されたミラハッツ氏は、挨拶代わりにポージングを決めてきた。
ボディビルダーがよくやる、上腕二頭筋をアピールするアレだ。
とても暑苦しい。
「ルールを説明させていただきます。ミラハッツと5分間戦い、その中で実力を示すことができれば合格です。武器は剣でも飛び道具でも自由。魔法の使用も可。試験官を故意に殺害したり、私が制止しても攻撃をやめなかった場合は不合格となります」
ランシアは賢紀だけではなく、エリーゼ・エクシーズとアディ・アーレイトにも警告する。
「あと、お連れの方の手出しも厳禁ですよ? 即、不合格になります。自分自身の実力で、勝負してくださいね」
それを聞いたエリーゼとアディは、大人しく観客席へと上がっていった。
2人を見送りながら、賢紀は心の中で不敵な笑みを浮かべる。
加勢など、全く必要はない。
ギルドマスターは確かに、「武器は自由」と言った。
【ゴーレム使い】には、とっておきの「武器」があるのだ。
「準備はよろしいですか? ……それでは、試験開始!」
開始の合図と共に、ミラハッツ氏は大剣を左上段に構えた。
烈火の如き気迫が放たれ、賢紀へと吹き付ける。
大柄なミラハッツが上段に構えると、さらに大きく威圧的に見えた。
一方の賢紀は――
何だか奇妙なポーズを取っている。
手の平を顔面に近づけ、指の隙間からミラハッツを見ていた。
左手のくねり具合も、体全体の角度も何か奇妙だ。
某奇妙な冒険漫画4巻表紙絵のモノマネだったりするが、当然ながら異世界では誰も分かってくれない。
「さあ、出て来い。俺の『武器』」
賢紀は【ファクトリー】から、人間サイズのゴーレムを取り出した。
一般的な成人男性よりは、少し大柄なサイズだ。
そのゴーレムは、賢紀のそばに寄り添うように立つ。
やはり奇妙なポーズで。
筋肉に覆われた、裸の戦士にも見えるフォルム。
ただし実際には筋肉ではなく、金属製の装甲版だ。
緑色に輝く瞳は、縦に2つ並んでいた。
大きさこそ小さいが、これはマシンゴーレムの光学カメラと同じもの。
GR-1〈リースリッター〉にも搭載されている、〈クリスタルアイ〉である。
なぜ縦並びなのかというと、製作者のデザインセンスだ。
賢紀が取り出したゴーレム。
これはサイズこそ小さいものの、紛れもないマシンゴーレムだ。
複雑な機械部品と、魔力回路で構成されている。
GR-1のようなパイロット搭乗型ではないが、出力も強大である。
賢紀には、接近戦に弱いという弱点があった。
いくら【ゴーレム使い】の能力が規格外でも、身体は普通の人間のスペックだ。
エリーゼやアディのような超スピードを誇る敵に、ゴーレムの横を抜かれたら一巻の終わりである。
そこで賢紀が思いついたのは、小型軽量・運動性の高い無人型マシンゴーレム。
これを操り、接近戦に対応することだった。
このマシンゴーレムには小型・低出力化こそされているが、GR-1と同じ〈トライエレメントリアクター〉が搭載されている。
さらにGR-1よりも、数多くの魔力感応型アクチュエーターが散りばめられているのだ。
演算能力を強化した〈エーテルプロセッサ〉による、姿勢制御システムも搭載。
GR-1よりも遥かに繊細で柔軟、人間的な動作を実現していた。
賢紀が理想としているのは、奇妙な冒険漫画に出てくる「側に立つアレ」である。
射程は短くて構わないので、超スピードとパワーで敵を圧倒する。
最終的な目標は、銃弾を指でつまんで止めるほどのスピードと精密動作性。
このマシンゴーレムには、まだそこまでの動きはできない。
だが賢紀はそれを目指して、改良を重ねていくつもりだった。
「何だ……? そいつは?」
小型マシンゴーレムを警戒したミラハッツは、大剣を中段に構え直した。
「こいつか? こいつの名は、小型マシンゴーレム『イチローく』……」
「ストーーーーップ!」
本日2回目のエリーゼストップがかかった。
「ケンキ! 『マシンゴーレム』に『イチロー君』はダメよ! なんかよくわからないけど、怒られそうな予感がするわ」
「何をわけのわからないことを言って……む? 俺の体の中にある、【神の加護】もダメだと警告しているな。某ゲーム会社から、怒られるだと? ならばデスマシン、『ジローく』……これもダメか……。どうするかな?」
名前の案を【神の加護】から却下されて、賢紀は腕組みしながら悩んだ。
「おい、まだか? とりあえず俺の質問には、小型のマシンゴーレムって答えで充分だ」
しびれを切らした試験管のミラハッツが急かした時、ようやく賢紀は決断する。
「待て。……決めた。マシンゴーレムの〈トニー〉だ」
〈トニー〉。
突発的に決めた名前にしては、悪くない。
なんだか社長か、天才科学者のような響きがある。
賢紀は自分にそう言い聞かせて、納得することにした。
「待たせたな、ミラハッツさん」
「今度こそ行くぞ、ケンキ・ヤスカワ」
ミラハッツは剣を中段に構えたまま、じりじりと間合いを詰めてくる。
――強い。
賢紀はそれを、肌でビリビリと感じ取った。
最初と違い、今のミラハッツは極めて慎重だ。
受験生の実力を、測ってやろうという態度ではない。
危険な魔物を狩る時のように、神経が研ぎ澄まされている。
だが、賢紀は理解してしまった。
それでも〈トニー〉には、遠く及ばないと。
一瞬で、勝負は決まってしまうと。
未完成とは言え、〈トニー〉の戦闘力は絶大だ。
エリーゼとアディの2人がかりで、ようやく勝負になるかどうかというところだろう。
上手くやれば、GR-1を抑え込めるかもしれない戦闘力だ。
(ひと思いに右……左? 両方? オラオラ……いや、やめておこう。死んでしまうかもしれない)
戦闘力差があり過ぎて、賢紀は攻めあぐねていた。
相手を殺してしまっては、不合格である。
寝覚めも悪い。
(よし決めた! 右ストレートでぶっとばす。真っすぐ行ってぶっとば……したらダメだ。当てたらやっぱり、ミラハッツさんが死ぬ。剣を弾き飛ばしてから、顔面に寸止めってプランで行こう)
圧倒的な力の差を確信していた賢紀は、無造作に〈トニー〉を突進させた。
あまりの速さに、ミラハッツの目には瞬間移動したかのように映っただろう。
ちなみに操縦する賢紀には、〈トニー〉の動きが見えている。
【ゴーレム使い】の能力補正により、ゴーレム操作時だけは動体視力や反応速度、情報処理能力が跳ね上がるのだ。
中段に構えたまま、反応できずにいるミラハッツ。
彼が構える大剣の切先を、〈トニー〉は左拳で弾いた。
そして顔面に向かって、右拳を振りかぶり――
「ストーーーーップ!」
(なんだ? 3回目のエリーゼストップか?)
賢紀は最初、そう思った。
しかし今回待ったをかけたのは、試験監督のランシア嬢だった。
「ヤスカワさん。このマシンゴーレム、勝手に動いていますよね?」
「いや、俺が動かしているんですよ」
「ルール違反です」
「は?」
「私はさっき、『自分自身の実力で勝負してください』って説明しました。別の存在を戦わせることは、試験の規則に反しています」
「なら、錬金術師とかはどうなるんだ? 彼らもゴーレムを使うんだろう?」
「彼らのゴーレム使役も、ルール違反になります。元々錬金術師は、戦闘職ではありません。ですから彼らも他の戦闘技能が無いと、魔物ハンターにはなれません。使役する存在がどんなに強くても、近くまで敵に接近されたら終わりじゃないですか」
「だからそれを補う為に、コイツを開発してだな……。とにかくコイツは、武器と同じだ。アンタさっき、『武器は自由』って言ったじゃないか」
「ヤスカワさんが、その小型マシンゴーレムに搭乗……このサイズなら装着ですね。装着が可能なら、装備している武器として認めることができます」
「無理だ。〈トニー〉は装着できるようには、作っていない」
賢紀は焦った。
ランシアやミラハッツからは、冷静に黙考しているように見えている。
だが実際には、頭を搔きむしりたいほどに焦っていたのだ。
(どうする? ゴーレム無しじゃ、とてもミラハッツさんとはまともに戦えそうにない。搭乗すればOKなら、【ファクトリー】からGR-1を出して……ってこんな狭い場所に出せるか! どうする? どうする……?)
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受験者名 ケンキ・ヤスカワ
適正試験における規則違反により試験中止
――――不合格とする
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マシンゴーレムに乗らずとも、自分は魔法を使って戦える。
そのことを賢紀が思い出したのは、就寝時ベッドに入ってからのことだった。




