第18話 異世界召喚モノのテンプレ~無い……のか?~
「冒険者になってみたい……」
よく晴れたある朝。
自由神の使徒安川賢紀は、唐突に切り出した。
聞いていたエリーゼ・エクシーズやアディ・アーレイトは、意味が分からずポカーンとしている。
ガルマ平原におけるマシンゴーレムのお披露目後、賢紀達はこのスヴェール邸へと転がり込んでいた。
エリーゼの母、イレッサの実家だからだ。
居候であるはずの賢紀達は、現在我が物顔でスヴェール邸のリビングを占拠している。
「今日からここが、『ルータス解放軍』の本部よ!」
スヴェール邸に着いた早々、エリーゼは堂々と宣言した。
館の主である、ヴィヴィオ・スヴェールがいる前で。
姪っ子の勝手な決定を聞いても、ヴィヴィオはただニコニコと微笑むだけだった。
祖父のヴィアルゼ大統領はエリーゼに相当甘いが、叔父のヴィヴィオも負けていない。
そのスヴェール邸リビングで発せられたのが、「冒険者になってみたい……」という賢紀の呟きである。
「ケンキ……。あなた時々、訳分からないこと言うわね。冒険者って? 冒険なら、今までもしてきたじゃない?」
「違う。俺が言ってるのは――」
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
冒険者。
それは冒険者ギルドに所属する、命知らずな荒くれ者達の集まり。
彼らは世界中を飛び回り、様々な依頼を受け遂行していく。
魔物を狩り、その素材を売る。
要人や商人の護衛につく。
希少価値の高い薬草や、鉱石を採取する。
財宝を求めて、危険極まりないダンジョンに潜る。
――等々、その仕事内容は多岐に渡る。
冒険者のランクはS~Eに分かれ、依頼を達成することで徐々にランクを上げていく。
Sランクともなると国の要人にも顔が利き、ちょっとした貴族並の扱いを受けるという。
仲間たちとは時に笑い合い、時には喧嘩をしながらも固い絆で結ばれている。
明日をも知れぬ身なれど、彼らは命を燃やして今日を生きる。
それが冒険者!
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
という風に、賢紀は自分の抱く冒険者像(主にWEB小説やライトノベルで培ったイメージ)を語ったのだが――
「無いわよ、そんな職業」
「無い……のか?」
「ケンキがいつも言ってる、『異世界のテンプレ』ってヤツ? その冒険者って、普通の日雇い労働者と何が違うの? チキュウの人達も、想像だけで妙な職業を考え出したものね~」
エリーゼに、「妙な職業」呼ばわりされてしまった冒険者。
異世界に来たらやってみたいと思っていた賢紀は、内心かなり凹む。
「ケンキ様。護衛やら探索やらの仕事はありませんけど、『魔物を狩って素材を売る』という職業は存在しますわ」
「本当か? アディ」
「はい。『魔物ハンター』という職業です。このスウィーフトにも、ギルドがあったはず」
「ああ、何だ。ケンキが言ってるのは、魔物ハンターのことか……。それなら私もアディも、資格は持ってるわよ」
魔物を狩る。
その仕事だけでも、充分だ。
凶暴な魔物達との、血湧き肉躍るバトル。
鍛えた技や魔法。
そして仲間との連携を駆使して、強敵に勝利する。
その果てに得るのは、存在すら疑われる伝説級のレア素材。
「うむ、ロマンだ」と、心の中で燃える賢紀。
彼は魔物狩り系のゲームも、わりと好きだった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
こうして【ゴーレム使い】は魔物ハンターになるべく、ギルドを訪れる決意をする。
「私達も、久しぶりに顔出してみるわ」ということで、エリーゼとアディもついてきた。
魔物ハンターは、荒くれ者が多いらしい。
「やはり新人は、絡まれたりするのか?」と、冒険者テンプレを思い浮かべる賢紀。
彼は内心ドキドキしながら、ギルドのドアを開けた。
すると中に屯していた者達の視線が、一斉に突き刺さってきた。
皆、筋骨隆々でむさ苦しい男達だ。
ドワーフ国のギルドだが、思ったよりもドワーフの視線は少ない。
数が多いのは、人間族と獣人族だ。
大して強くなさそうな若造が、美女2人を連れて両手に花状態。
これで絡まなければ、ギルドのモブではない。
案の定、入口付近に居た人間族のモブ男が近づいてきた。
モブ男は品の無い笑顔を浮かべながら、口を開く。
「アンタ、有名な白銀の魔――」
絡まれたのは賢紀ではなく、エリーゼの方だった。
「ストーーーーップ!」
エリーゼは背中の鞘から、長剣を抜き放っていた。
いつの間に抜いたのか、周囲の魔物ハンター達は見えていない。
切っ先はピタリと、モブ男の股間に突きつけられていた。
「それ以上センス無い二つ名を口にしたら、股間のショートソードが短剣のサイズになるわよ」
ショートソード並の長さなら、ソコソコだ。
エリーゼって、妙に脅し慣れてるよな。
――などと、どうでもいいことを考える賢紀。
そしてふと、気になった。
モブ男から発せられた、エリーゼの二つ名についてだ。
「なあアディ。そういえば何でエリーゼは、白銀の『魔獣』なんだ?」
前々から、賢紀は疑問に思っていた。
エリーゼの強さなら、二つ名が付くのも当然。
しかしそこで、「魔獣」は妙だ。
エリーゼの外見や、戦い方とマッチしていないように思える。
「あれは姫様が13歳。騎士団に入って、間もなくのことでしたわ……」
アディは懐かしむように、語り始めた。
「当時の姫様は、まだ騎士団の仕事に馴染めなくてストレスを溜め込んでいらっしゃいました。そこで鬱憤を晴らすべく、非番の日にハンターとして魔物の掃討に参加されたのです。わたくしにも黙って、こっそりと」
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
数が多いとはいえ、相手は弱い魔物の集団。
ハンターの数さえ揃えれば、大した危険はない仕事のはずだった。
だが掃討作戦中に、1匹の凶悪な魔物が乱入してきたのだ。
カラミティ・タイガー。
本来なら、魔物ハンターが対応する存在ではない。
騎士団に討伐命令が下るような、災害クラスの魔物だ。
掃討に参加したハンター達の中では、エリーゼが最強だった。
なので最年少ながらも、彼女がカラミティ・タイガーの相手をすることになったのだ。
エリーゼは思い出す。
父セブルス国王より教えられた、カラミティ・タイガーを相手にする時の心構えを。
カラミティ・タイガー相手に、弱気を見せたら一気に畳み掛けられる。
強気で押せ。
威嚇されたら、威嚇で返せ――と。
エリーゼは忠実に、その教えを守った。
唸りを上げて牙を剝く虎を、エリーゼも犬歯剥き出しで睨み返した。
「グァアアアーーーー!」という咆哮には、「ガァオオオーーーー!」と吼え返した。
激しい戦いになった。
エリーゼの剣と、虎の爪や牙。
それらが幾度となく打ち合わされ、火花を散らす。
斬り合いの最中にも、エリーゼは「ガウッ!」、「グルルル」と威嚇を入れるのを忘れない。
可憐な少女剣士の獣じみた咆哮に、周りの魔物ハンター達も引いていた。
しかし、激しい戦いで余裕の無いエリーゼは気づかなかった。
カラミティ・タイガーも、吼えまくる小さな女の子に戸惑ってしまった。
やがて、致命的な隙を晒してしまう。
噛みつきをかわされ伸びきった首を、エリーゼは斬り飛ばした。
結果から言うと、父セブルスの教えは正しかったのだろう。
娘の解釈は、若干違っていたが。
カラミティ・タイガーの死体に足をかけ、エリーゼは空に向かって勝利の咆哮を上げた。
それは「戦士の雄叫び」ではなく、「魔獣の咆哮」であった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「それが、あの可愛くない二つ名が爆誕してしまった瞬間でした。流れ者の魔物ハンターが多数、その場に居合わせたのもよくありませんでした。姫様の武勇と二つ名は、瞬く間に大陸中に広がりましたわ」
「コラッ! アディっ! 他人の黒歴史を、勝手に広めるんじゃないの! お仕置きするわよ?」
「姫様のお仕置き! ハァハァ……。どんなお仕置きでしょう? 期待してしまいますわ」
これで賢紀の抱いていた謎が、ひとつ解けた。
しかし、もうひとつ気になる謎も残っている。
アディの性癖が、どうしてこんな残念な感じになってしまったのかということだが――
(たぶん、先天的なものだな)
鼻血を垂らすアディを見て、賢紀はそう結論付けるのだった。
魔獣爆誕秘話を聞いているうちに、いつの間にかショートソードなモブ男は姿を消していた。
おそらく、無事に逃げおおせたのだろう。
エリーゼが便所に連れ込んでボコったりしないか心配していた賢紀は、少しホッとした。
「さあケンキ、こっちが受付よ。まずはここで、適性試験の申し込みをするの」
「ふむ、受付か。受付といえば……」
冒険者ギルドの受付嬢は、美人でグラマー。
お色気ムンムンのお姉さん。
賢紀の中では、それがテンプレ――お約束だった。
冒険者ギルドと魔物ハンターギルドという違いこそあれ、ギルドの受付という部分は同じ。
無表情ながらもちょっぴり期待を胸に秘め、受付カウンターを訪れた賢紀だったが――
(うむ。確かに大きなお胸を、持っていらっしゃる)
受付担当者の胸部は、シャツが大きく盛り上がっていた。
鍛え上げられた、大胸筋で。
受付カウンターの向かいに座る人物は、スキンヘッドでいかつい顔。
頬には大きな傷痕。
熊の様な巨躯を持つ、人間族の男性だった。
「……変な目で、見るんじゃねえよ」
受付の男は、顔を赤らめた。
そして恥ずかしそうに、豊かな大胸筋を両腕で隠してしまう。
腕は丸太のように太かった。
奥義「周辺視野おっぱい観察」を見破られ、驚愕する賢紀。
同時に色々と萎えた。
スキンヘッドのマッチョ男性が恥ずかしそうなリアクションをしても、当然のことながら全然嬉しくない。
スキンヘッドマッチョは、失望の【ゴーレム使い】に構わず説明を始めた。
「適性試験の受験希望者だな? 魔物ハンターの適性試験は実戦形式だ。試験場で試験官と1対1で戦い、その戦いを観察した試験監督が合否の判定をする」
いきなりの実戦形式試験に、賢紀は少々戸惑った。
魔力測定的なものが、あると思っていたからだ。
水晶っぽい魔道具等で測定するも、魔力チートゆえに測定器を破壊。
あるいは測定不能で数値が出ず、魔力無しの無能呼ばわり――からの成り上がり。
そういうテンプレを、期待していなかったかといえば嘘になる。
「試験官に負けても、充分な生存能力があると判定されれば合格が認められる。今日の午後からも試験があるが、受験するか?」
賢紀は迷った。
実戦形式試験は、面白くないなと思ったからだ。
マシンゴーレムなしの白兵戦とはいえ、賢紀は自由神の使徒。
ゴーレムを使えば、あっさり合格してしまうだろう。
「ケンキ。なーに迷ってるのよ。魔物ハンターに、なるんじゃなかったの?」
エリーゼに問われて、賢紀は当初の目的を思い出した。
試験の面白さなど、どうでもいいことなのだ。
「実戦形式の試験か……。ああ。そういえば、いい機会だ。アレを使ってみるか」
とっておきの玩具をテストしたくなった【ゴーレム使い】は、午後からの受験を決めた。




