おまけ6 コタツの魔力(下)~〇〇〇無しで生きられますか?~
「ケンキ……どうして?」
「『どうして居場所が分かったのか?』なら、お前が持つ『星天使の涙』からの反応を追ってきた。また、聞こえたぞ? 『助けて』とな」
エリーゼが首から下げているペンダントは、「星天使の涙」。
この魔道具には、助けを求める思念を飛ばす効果がある。
エリーゼは無意識のうちに、賢紀に助けを求めたのだ。
この寂しさから、救って欲しいと。
「『なぜ自分を追ってきたのか?』という意味なら、『当たり前だ』としか言いようがない。『白銀の魔獣』は問題を起こさないよう、俺の手が届くところに置いておかないとな」
回復魔法による治療を終え、賢紀はエリーゼを抱き起こす。
その瞬間、エリーゼの頭突きが炸裂した。
顎への強烈な一撃を受けて、賢紀は仰向けにダウンしてしまう。
「……その二つ名、嫌いだって言ってるでしょ!? バカ! ケンキのバカ! 勝手に出て行っちゃって……。もう戻ってこないんじゃないかと思って、不安になっちゃったじゃない! この大バカ【ゴーレム使い】!」
倒れている賢紀の胸に体を預け、エリーゼは何度もポカポカと叩く。
もちろん本気ではない。
怪力エリーゼが本気で叩けば、賢紀の肋骨は粉々である。
「すまなかった」
賢紀は素直に謝罪し、着ているローブにエリーゼを包み込んでしまう。
小柄な体は、すっぽりと覆い隠されてしまった。
「何コレ? 凄く温かい!」
エリーゼは首だけニョキっと外に出しながら、驚きの声を上げる。
「自由神フリード製のローブだからな。ある程度は、温度調整機能があるらしい」
賢紀の【ファクトリー】に50着も収められている、【ゴーレム使い】の制服。
ただのローブと簡易神官服、ズボンにしか見えないが、実は神の作り出した神器である。
雪山の寒さから装着者を守るぐらい、造作もないことだった。
「私の方こそ、ゴメンなさい。ケンキとニーサが……なんて、有り得ないわよね。なのに、カッとなっちゃって……」
「そうだな、有り得ない話だ。ニーサ・ジテアールは荒木瀬名を愛している。今でも……これからもずっとだ」
エリーゼは賢紀の胸の上で、自分も仰向けになり空を見上げた。
降り注ぐ雪を眺めていると、自分が天空に昇っていくように錯覚する。
「そういえばエリーゼはどうやって、この魔国ディトナまで来たんだ?」
「YAS研の整備場に、〈サンサーラ〉を出してたでしょう? あれに乗って、飛んできたの」
聞けばグレアム・レインの制止を振り切り、機体を奪ってきたという。
パートナー精霊のヨルムは初めての機体と飛行制御に疲労困憊となり、〈サンサーラ〉の操縦席で伸びているそうだ。
「ケンキ……。グレアムから聞いたわ。オリジナルの〈タブリス〉。あのデザインにはケンキとトキコさん、お友達のマシキさんとの思い出が詰まっているんですってね」
XMG-0〈タブリス〉のデザインが固まったのは、賢紀がまだ高校生だった頃だ。
山葉季子からイラストの指導を受け、初めて満足のいく出来映えに仕上がったロボ絵。
それが〈タブリス〉のイラストだったのだ。
自由意志の鬼神から名を取ったのも、この世界に転生してくる前の季子だった。
「ケンキがあのデザインに拘ったのって、トキコさんとの思い出を大切にしたいから?」
「ああ……」
賢紀は両目を閉じて、季子との思い出を振り返った。
高校時代、イラストの指導を受けていた時のこと。
時空魔王トキコ・ヤマハとして、幽霊になった彼女と再会した時のこと。
〈タブリス〉の副操縦士として、一緒に〈サンサーラ〉と死闘を繰り広げた時のこと。
「今でも〈タブリス〉に乗る度、近くに感じる。動力源に山葉の魔石を使っているんだから、当然だな」
「ねえ、ケンキ。量産型〈タブリス〉のデザイン。オリジナルと同じでいいよ。その話聞いたら、私も変えない方がいいと思い始めたの」
「いいのか? それにお前は……その……嫌じゃないのか? 山葉のことを、忘れられない男なんて……」
「別にィ~。私、ケンキの奥さんや恋人ってわけじゃないし」
無表情むっつり顔の賢紀が、内心で焦っているのがエリーゼには分かる。
時がきたのだ。
今まで互いに惹かれ合いながらも、それをハッキリとは口に出さなかった2人。
新大陸探査に旅立つ際、賢紀はエリーゼに「社長夫人というポストを用意しようと思っていたんだが」と言っていた。
その時は冗談だか本気だか分からない形で流されてしまったが、今回は違う。
賢紀の口から、はっきり言わせてやろうとエリーゼは思っていた。
うつ伏せに体の向きを変え、ニヤニヤとからかうような視線と表情で賢紀を見つめる。
「山葉のことを完全に忘れるには、時間がかかりそうだ。それでも……なってくれないか? YAS研社長夫人に」
「ブーッ! ダメです!」
エリーゼは両手で、バッテンを作った。
「まず私は、ルータス王国の女王です。一般市民とは、結婚できませーん。ぶっちゃけすぐ退位したいけど、無理っぽい。共和制にする準備をしているから、もうちょっと待っててね」
「『待っててね』ということは……」
賢紀の言葉を遮るように、エリーゼは続ける。
「ダメな点その2。私はケンキに、トキコさんのことを忘れて欲しくない。……みんなから忘れられちゃったら、かわいそうよ。一緒にトキコさんの記憶を、胸に刻んでおきましょう」
エリーゼは首を傾け、賢紀の胸にコテンと頭を預けてしまった。
「だいたいフリード教は、一夫多妻や多夫一妻ばっちこいな教義でしょう? 私が1番最初の奥さんなら、あとは他に奥さんが居ても全然平気なんだから」
「俺のいた日本では、一夫一妻……」
「はいはい。あなたはもう、カーガイル人。ルータス王国民。異世界地球の尺度で、ものごとを考えない」
「じゃあ……いいのか? 山葉のことを、完全には忘れられない男でも」
「忘れるなって、言ってるでしょ? あーあ、トキコさんが亡くなっていなかったらなぁ……。私、トキコさん、イースズの3人とも奥さんになって、理想の大家族を作れたのに」
「俺にハーレムは無理だ」
「そんぐらいの甲斐性、見せなさいよ! ……とにかく、まずは私からね。社長夫人にして、左うちわな暮らしをさせなさい」
「なんて欲望に忠実な女王陛下だ……」
「いま女王の激務に苦労しているんだから、それぐらいいいじゃない!」
エリーゼは再び賢紀の胸の上で、仰向けになった。
鉛色の空に手をかざしながら、そっと――しかし、ハッキリと要求した。
「幸せに……してよね……」
ローブの下でエリーゼを掻き抱きながら、賢紀は宣言した。
「ああ、必ず。安川賢紀はエリーゼ・エクシーズを幸せにする。自由神フリードと、時空魔王山葉季子に誓おう」
雪が積もって重く感じるようになるまで、賢紀とエリーゼは鉛色の空を見上げていた。
天に昇っていくかのような感覚は、錯覚だ。
だが2人の心は紛れもなく、空に向かって飛翔していた。
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「おっ。2人とも、戻ったな」
時空魔法研究所まで帰ってきた賢紀とエリーゼは、ニーサ・ジテアールに迎え入れられた。
賢紀に匹敵するコタツムリである元皇帝陛下は、やはりコタツから出てこようとしない。
手を繋いだ状態で屋内に入ってくる2人を見て、彼女はニヤリと口角を吊り上げた。
「ふん。ようやくお互い素直になったか。それが1番だ。一緒に過ごせる時間を、大切にな」
エリーゼを追って賢紀が飛び出した後も、ニーサは酒を飲み続けていた。
酔いが回り、口調も陽気になっている。
軽い口調で言ったニーサだったが、賢紀とエリーゼはその言葉を重く受け止めた。
賢紀は知っている。
ニーサが愛している男、荒木瀬名はもう生きていないことを。
魂すら砕け、輪廻の輪に戻れないことを。
そしてエリーゼはそこまで賢紀から事情は聞いていなかったが、瀬名がもう生きてはいないだろうと薄々察していた。
ニーサだけが、瀬名の生存を信じている。
異世界地球に帰還したという賢紀の嘘を信じ、再会するために時空魔法の研究員となった。
魔法で、地球への扉をこじ開けるために。
2度と出会えぬであろう2人のことを思い、賢紀とエリーゼはお互いの手をさらに強く握り締め合った。
「さあ、いつまでそうして突っ立っている。ヤスカワもエリーゼも、コタツに入れ。そして酒でも飲んで、温まれ」
「いや、ニーサさん。俺は〈タブリス〉を操縦して帰らないといけないから、酒は……」
勧められた酒を、やんわりとお断りする賢紀。
その代わりにエリーゼが、差し出されたグラスを受け取った。
「ニーサ、私が飲むわ。乗ってきた〈サンサーラ〉は、ケンキの【ファクトリー】に入れて持ち帰ればいいでしょう? 帰りは〈タブリス〉の後席に、乗せなさいよ」
「エリーゼ、お前はまだ17……」
「まーた地球の法を、私に押し付ける。エンス大陸諸国での成人は、15歳でーす。お酒を飲んでも、誰にも咎められませーん」
エリーゼは靴を脱ぎ、YAS研社長室と同じく畳張りとなっている時空魔法研究所の応接室へと上がり込んだ。
そしてニーサに促されるがまま、コタツに足を入れようとして――ためらう。
「なーんかこのコタツって、やな予感がするのよね。人をダメにする、魔力がありそうっていうか」
『そんなことはないぞ』
声をハモらせて、賢紀とニーサは否定する。
重度のコタツムリである2人から言われても、説得力を感じない。
だが賢紀から両肩を掴まれ座らされてしまったので、エリーゼは渋々とコタツに足を入れた。
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数分後。
「あっはっは~! コタツ最高~! 何コレ? ケンキったらこんな魔道具を、独り占めしてたわけ? そんなズルい奴、女王権限で処罰してやるわ」
「そのコタツを真っ二つにした女王陛下には、お咎めなしなのか?」
「それに関しては、本っ当にゴメンなさい」
エリーゼはコタツの卓上に、額をこすりつけて謝罪した。
「まあいいさ。真っ二つになったコタツは、【ファクトリー】の中で修復中だ。明日には直る」
「あのー。ケンキ? 〈タブリス〉量産型の前に、ちょっと作って欲しいものがあるんだけど……」
額をこすりつけていた状態から、真横に頭を向けるエリーゼ。
斜めの位置に座っていた賢紀と、ちょうど目が合う。
彼女は緑色の双眸をウルウルさせながら、甘えた声でおねだりした。
「どうせ、自分用のコタツを作ってくれとか言うんだろ? もう【ファクトリー】の中で、お前の分も製造中だ」
「やったー! ケンキ大好き! 愛してる!」
お酒が入っているせいか、エリーゼの口調は軽い。
賢紀は適当に聞き流していた。
しかしその後で言われた台詞には、思わずドキリとしてしまう。
「もうあなた無しでは、生きられないんだから……」
それが、コタツに対して向けられたものなのか。
それとも、自分に対して向けられたものなのか。
賢紀には、判断がつかなかった。
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こうして女王が愛用し始めたことにより、ルータス王国内ではコタツが一大ブームとなる。
マシンゴーレム開発・製造メーカーであるはずのYAS研だが、売り出したコタツの生産に追われてマシンゴーレムにかかわる仕事を圧迫するまでになった。
おかげでコタツの製造に関しては、別会社を設立してそちらにまかせる羽目になる。
【ゴーレム使い】ケンキ・ヤスカワは、素晴らしい暖房器具を王国内に流通させた功績を称えられた。
同時にコタツから出ようとしない「コタツムリ」を世に増やした諸悪の根源として、結構批判も浴びた。
そして賢紀もエリーゼもニーサ自身も知らない。
別の世界へと生まれ変わった瀬名とニーサがライバル同士として再会し、サーキットで火花を散らすレーシングストーリーがあることを。
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これにて解ゴーアフターストーリー、冬のエピソードは終わりです。
また新しいエピソードが湧いて来ましたら、投稿させていただきます。




