おまけ4 コタツの魔力(上)~かっちょいい顔にしなさいって言ってるだけでしょう!?~
ルータス王国には、人型機動兵器マシンゴーレムの設計・製造を行うメーカーが存在している。
メーカーの名は「YAS研」。
創業者、安川賢紀の名を冠した会社だ。
戦闘用のみならず、災害救助用や極地探索用、土木建築用の機体まで手掛けている。
現在ルータス王国軍のマシンゴーレム部隊は、同盟国であるイーグニース共和国のマシンゴーレムメーカーから輸入した機体に依存していた。
経済的・軍事的理由の両面から、ルータス王国のメーカーによる国産マシンゴーレムの量産が待ち望まれている状況だ。
そこで王国内唯一のマシンゴーレムメーカーであるYAS研には、女王エリーゼ・エクシーズが直々に軍用マシンゴーレムの開発を依頼していたのだが――
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「くぉうらぁ~! ケンキ・ヤスカワぁ~! 量産型〈タブリス〉の開発が遅れているのは、どういうことよ!?」
YAS研社長室のドアを蹴破り、小柄な少女が乱入してくる。
腰より長い、銀髪のストレートヘア。
いつもはクリクリと可愛い緑玉の瞳が、今は怒りで吊り上がり気味。
ルータス王国女王、エリーゼ・エクシーズである。
王族の気品など、どこ吹く風。
彼女は小柄な体から絞り出されたとは思えないほど、大音量で叫んだ。
恫喝する相手は、YAS研代表取締役社長。
自由神の使徒にして【ゴーレム使い】。
救国の英雄にして大陸最強マシンゴーレム操縦者のひとり、安川賢紀だ。
エリーゼの叫びに対して、賢紀は仏頂面で振り返った。
機嫌が悪いのではない。
この顔が、彼の通常モードなのである。
「エリーゼ……。開発が遅れているのは、お前がワガママを言うからだろう」
黒い双眸が、小柄な銀髪少女をジロリと一瞥する。
情報端末魔道具にタッチペンを走らせ仕事中だった賢紀だが、手を止めて自らの黒髪をポリポリと掻いた。
「ワガママですってぇ~!? 〈テルプシコーレ〉や〈サンサーラ〉みたいな、双眼式カメラのかっちょいい顔にしなさいって言ってるだけでしょう!?」
「ダメだ。俺の〈タブリス〉を、そんなダサいデザインに改悪して量産するなんて許さん。女王陛下の勅命でも、従えない」
「双眼式のどこがダサいって言うのよ! おかしいのは、ケンキの美的感覚の方! 何よ? オリジナル〈タブリス〉の単眼式カメラ。あれこそダッサいわ! 完全に、悪役顔じゃない!」
依頼主である王国のトップエリーゼと、受注側であるYAS研のトップ賢紀がモメている内容。
それは性能要件や価格、運用コストなどの問題ではない。
見た目である。
ルータス王国軍の時期主力マシンゴーレム。
それは安川賢紀の愛機、XMG-0〈タブリス〉を量産型として改修したものにすると決定されていた。
これまでただの陸戦兵器だったマシンゴーレムだが、〈タブリス〉は飛行が可能な機体である。
本機の量産型がルータス王国軍に配備されれば、1機で制空権の奪取から地上に降下して拠点制圧までできてしまう。
ルータス王国にとって、圧倒的優位。
他国にとっては、脅威となる性能になるはずだった。
さらにはマシンゴーレムを持たない他国に輸出すれば、莫大な収益が見込める。
しかし開発が、遅々として進まないのだ。
賢紀とエリーゼが、デザイン面で延々と言い争っているせいで。
地球のロボットアニメでいうなら、主役機顔のスマートマスクを採用したいエリーゼ。
それに対してディープなロボオタである賢紀は、悪役機というか某公国機動スーツ風デザイン。
あるいは最低な野郎共が乗るような、「むせる」デザインを好んでいた。
「とにかく! 私の案で、いちど量産型〈タブリス〉を試作してみなさいよ! 【ゴーレム使い】の能力なら、チャチャっと作れるでしょう? その怪しげな暖房器具から出て、整備場や研究室で作業しなさい!」
「断る。コタツで仕事するのが、1番捗るんだ」
エリーゼが怪しげな暖房器具と呼んだそれは、賢紀の故郷日本ではお馴染みのコタツである。
このYAS研社長室は和室を模したものとなっており、床は畳張り。
中央には、コタツが鎮座していた。
これは賢紀の特殊能力である異次元工場、【ファクトリー】で作り出した魔道具。
コタツはルータス王国においてはまだ普及していないが、やはり人をダメにする暖房器具であった。
今、ルータス王国をはじめとするエンス大陸の気候は真冬。
安川社長は社長室から出てこないで、黙々と仕事をしている――といえば聞こえはいい。
だが実際には、コタツムリと化してしまっていた。
「ケンキ! あなた最近、全然そのコタツとやらから出ようとしないじゃない! 運動不足よ! 不健康なんだから! 太っちゃうんだから!」
「別に俺が太ろうが、問題ないだろう?」
「大ありよ! 私は今の引き締まった体のケンキが、カッコい……ってそんなことはどうでもいいわ! ねえ。とにかく私と一緒に、社長室の外に出ましょうよ」
「嫌だ」
取りつく島もない賢紀の返答に、エリーゼはぷくーっと頬を膨らませた。
まるで自分自身を拒絶されたかのように、感じてしまったのだ。
「バカケンキ! もう知らない! コタツなんて、こうしてやる!」
エリーゼは斜めに背負っていた、【魔剣エスプリ】を引き抜いた。
細身でシャープなデザインをした、彼女の愛刀だ。
小柄な彼女が持つと、大剣のように見えてしまうロングソード。
しかしエリーゼは、そんなエスプリを目にも留まらぬ速さで抜刀。
軽々と振り下ろした。
コタツが、真っ二つに斬り裂かれる。
入れてあった賢紀の足ギリギリを掠めるように、鋭い刃が通過した。
ついでに敷布団や畳も、ちょっと切れてしまった。
「エリーゼ……なんてことを……」
無表情むっつり顔の賢紀だが、エリーゼは彼の感情を読み取ることに長けている。
本気で愕然とし、がっかりしている賢紀。
そんな彼に、エリーゼの方も苛立ちがさらに募る。
「コタツなんかに引きこもっている、ケンキが悪いんだから!」
捨て台詞を残し、社長室を出て行こうとするエリーゼ。
しかし途中でふと思い出し、振り返って賢紀に伝言を伝える。
「そういえば、整備場でグレアムが呼んでたわよ? 分解調査して〈タブリス〉量産型に応用したい部分があるから、【ファクトリー】の中から〈サンサーラ〉を出してくれって」
マシンゴーレム製造の始祖。
かつて帝国で、大陸最初のマシンゴーレムを開発した男グレアム・レイン。
彼は成り行きでこのルータス王国に流れ着き、YAS研にてマシンゴーレム開発主任と副社長をやっている。
賢紀とは、マッドサイエンティスト仲間。
だがグレアムは冬でも、「クハハハハ」とか哄笑をあげながら外で元気に作業している。
見習って欲しくない点満載な男だが、冬でも元気に動き回る点は賢紀にも見習って欲しいとエリーゼは思う。
GR-9〈サンサーラ〉は、賢紀の宿敵だった荒木瀬名の愛機。
現在は賢紀の能力で、異次元格納庫兼製造工場の【ファクトリー】に封印されている。
〈タブリス〉と〈サンサーラ〉。
飛行可能なマシンゴーレムは、現在のところ世界にこの2機だけである。
返事をせず、呆然とコタツの残骸を見下ろす賢紀。
エリーゼは、なんだか悲しくなった。
彼女は賢紀を連れ出してYAS研社内の整備場へ行き、マシンゴーレムの話をしたかったのだ。
試作機のテストパイロットをやってみたり、戦争を生き延びたエースパイロットの1人としてあれこれ意見を言ってみたりしたかった。
〈タブリス〉量産型を、自分色に染めたいわけではない。
大好きな安川賢紀と共に、マシンゴーレムづくりをしたかっただけなのに――
「……もう! ケンキなんて知らない!」
自分が蹴破ったせいで、ガタつきの出てしまったドア。
それを乱暴に閉め、エリーゼは社長室から出て行った。
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YAS研を出て、王宮の女王執務室に戻ってきたエリーゼ。
彼女は苛立ちで爆発しそうな全身を、乱暴に椅子へと投げ出す。
いつもは決裁待ちの書類で埋まっている執務室の机だが、今日はやけにキレイだった。
賢紀に会いに行く時間を作るために、エリーゼは必死で仕事を片付けたのだ。
「……なのに、あのマシンゴーレムバカは! いえ、もうマシンゴーレムバカでもないわね。コタツに取り込まれた、ただのグータラ男よ!」
机の上に足をドカッと乗せて、悪態をつくエリーゼ。
その姿はとても、一国の女王陛下には見えない。
元々12~13歳に見える背丈と顔に、剣士の出で立ちである。
女王っぽくないのは、本人も自覚している。
「アディ~!? いる~!? 紅茶淹れてくれると、助かるんだけど。……アディ!?」
いつも世話を焼いてくれる、獣人メイドのアディ・アーレイトから返事がない。
そういえば、自分が休みを与えたのだということ。
休みの間に友人のイースズ・フォウワードと買い物に行くと言っていたことを思い出し、エリーゼは深く溜息をついた。
諦めて、自分で何か飲み物を用意しようとしていた時だ。
執務室の窓が、轟音でビリビリと揺れた。
「この音……。マシンゴーレムの推進器排気音? ……まさか!」
エリーゼは急いで椅子から立ち上がり、窓へと駆け寄る。
外を覗き込めば巨大な影が、青空に向けて飛び立つところだった。
刃のように研ぎ澄まされた、漆黒のボディ。
天空を見上げる、真っ赤な単眼式〈クリスタルアイ〉。
6枚の翼から紫炎を上げて上昇していく機体は賢紀の愛機、自由意志の鬼神〈タブリス〉だ。
「ちょっ! ケンキ!? いったいどこへ……」
窓に張り付いたまま訝しむエリーゼの横に、緑色の蛇が飛んで来た。
正確には、蛇ではない。
実体を持たない彼(?)は、精霊である。
大地を司る高位精霊。
戦闘時はマシンゴーレムの操縦席で、エリーゼの操縦補助を務めるヨルムだった。
「エリーゼちゃん! ケンキさんが『俺はコタツを求めて旅立つ。探さないでくれ』って言って、飛んでっちゃったよ~!」
体に巻き付きながら騒ぎ立てるパートナー精霊の言葉を、エリーゼは呆然と聞いていた。




