おまけ1 真夏のビーチと【ゴーレム使い】(上)~2~3発撃ち込んでみましょうか?~
最終話のタイトルが「【解放のゴーレム使い】~きっとまた帰って来るよ!~」だったので、宣言通り帰ってきました。
このエピソードは全3話。
新大陸へと旅立ってから、一時帰還中のお話です。
「夏だぁーっ! 海だぁーっ! 水着だぁーっ!」
エネルギッシュに照り付ける、太陽の下。
エリーゼ・エクシーズは日差しに負けないぐらい、元気に叫んだ。
眩しいほど白い砂浜の上で、彼女は仁王立ちしていた。
今日のエリーゼは、髪型が違う。
いつもは下ろしている、腰まで届く銀の長髪。
それをまとめて、1本のおさげにしていた。
泳いでも、邪魔になりにくいようにだ。
水着はフリルの付いた、可愛らしいビキニ。
低身長に不釣り合いな、出るとこ出まくっているエリーゼのボディ。
自己主張の激しい特定部位を、水着氏はなんとか押さえつけている。
だが今にもその封印は解け、色々と溢れ出してしまいそうな勢いである。
「……元気だな」
「俺は全然元気じゃないのに」と言いたげな、むっつり顔。
水着回宣言中であるエリーゼの横を、青年がノソノソと通過していく。
このエンス大陸では、非常に珍しい完全な黒髪。
瞳も黒いのだが、今はサングラスの下で見えない。
ビーチパーカーを羽織り、膝まである迷彩柄サーフパンツを履いているこの男。
【ゴーレム使い】、安川賢紀だ。
地球で肉体労働に従事していた、彼の体は鍛えられていた。
腹筋も、シックスパックに割れている。
だがいかんせん覇気がなく、あまり健康的な雰囲気ではない。
「何よ~!? そのテンションの低さは!? こんなセクシー美女と海水浴ができるっていうのに、失礼じゃない!?」
「はいはい。セクシー、セクシー」
腕を組んで爆乳を強調するエリーゼだったが、賢紀の反応は薄い。
相変わらず大陸最強の――いや。
この世界最強のマシンゴーレムバカである彼は、昨夜も夜遅くまでマシンゴーレムの研究・開発を行っていた。
寝不足と過労で、疲れ果てていたのだ。
いま賢紀が取りかかっているのは、エリーゼ達の機体を飛行可能に改造する研究。
エリーゼの〈テルプシコーレ〉。
アディの〈イフリータ〉。
イースズの〈ディアナ〉。
3機ともだ。
現在は一時帰国中だが、賢紀とエリーゼは世界中を調査する旅の途中である。
新たなる世界樹を育てることができるという【生命の泉】を探して、別大陸まで足を延ばしていた。
【生命の泉】を見つけ出すのに、飛行可能なマシンゴーレムが賢紀の〈タブリス〉1機だけというのはかなり不便だ。
異次元格納庫兼工場である【ファクトリー】の中に、荒木瀬名の〈サンサーラ〉もあるにはある。
しかしできれば、一生このまま封印しておきたいと賢紀は考えている。
なので飛べる機体をさっさと用意するように、【ゴーレム使い】は色んな方面からプレッシャーを掛けられていたりするのだ。
「エリーゼちゃん。ケンキさんはお疲れだけん、しょうがなかとよ」
イースズ・フォウワードが、ダル気な賢紀を擁護する。
3つの瞳を持つ彼女は、エルフと魔族のハーフだ。
イースズの水着は、腰にパレオが巻かれたタイプ。
エリーゼのと比べると、布面積は広い。
だが緑色と樹木の柄が、色鮮やかに彼女の魅力を引き立てていた。
彼女もなかなかにたわわな果実を、身体の各所に実らせている。
「ぶ~! そんなにテンション低いと、つまんなーい」
「ならばケンキ様の足元に、銃弾でも2~3発撃ち込んでみましょうか? 元気に踊ってくれるかもしれませんわ」
賢紀の背後から響く、大口径ハンドガンのスライドが動く音。
アディ・アーレイトだ。
エリーゼやイースズに比べると、出るところは控えめ。
しかしスラリと引きしまった、美しい肢体。
しなやかで野性味溢れる水着姿は、エリーゼ達ワガママボディ組と甲乙つけがたい。
アディの水着はちょっと変わっていて、黒ビキニにフリルやスカートの付いたデザイン。
紛れもなくそれは、アディのアイデンティティと化しているメイド服をモチーフにしたものだった。
「アディ、撃つなよ? 今の俺には、避ける元気なんて残ってないからな」
「〈トニー〉なら、銃弾ぐらい受け止められるのではありませんの?」
「ダメだ。よっぽどのことがない限り、海では出したくない。防水処理してないからな」
小型マシンゴーレム〈トニー〉の代わりに賢紀が【ファクトリー】から取り出したのは、ビーチパラソルとマット。
そして、リクライニング機能付きのビーチチェア。
取り出すなり彼はサンダルを脱ぎ、ビーチチェアにゴロリと寝そべった。
一行が訪れているここは、ルータス王国西海岸にある海水浴場ガーライーヤビーチ。
リースディア帝国との開戦前から有名で、多くの人が集まるレジャースポットだった。
さすがに帝国の支配下にある時は、泳ぎに来る者などいなかった。
しかし今は、以前と変わらぬ賑わいを取り戻している。
賢紀達の手により首都エランが奪回され、避難していた住民達が戻ってきたからだ。
「ケンキよ。せっかくのバカンスなのだから、楽しまなければ勿体ないぞ?」
休眠モードに入ろうとしていた賢紀の耳元で、ふよふよと漂う小さな人影。
闇の精霊マリアも、海水浴に合わせて自らの装いを変えている。
実体を持たない精霊である彼女には、見た目を変化させることなど造作もない。
マリアの水着は、紺色の野暮ったいデザイン。
地球で、スクール水着と呼ばれる代物だ。
地球でいうと平仮名に当たるエンス大陸文字で、お腹の部分に「まりあ」と大きく書かれていた。
フラットボディのマリアには、妙にマッチした格好。
だが男女共に華やかな水着で武装した者ばかりのこのビーチでは、比喩的にも物理的にも浮いてしまっている。
「マリア。その水着は、いったい何だ?」
「コレか? 母上が残した書物にあった、『すくみず』じゃ。男を悩殺する、最強の水着じゃぞ? 魔国ディトナでは、マイナーチェンジを繰り返しつつずーっと販売されておるのじゃ」
賢紀は想像してしまった。
ディトナのビーチやプールで、魔族女性達がスクール水着姿でキャッキャウフフと戯れる姿を。
そして――どうでもいいやという結論に至った。
賢紀にはマニアックな水着の嗜好はなく、スタンダードに可愛い系の水着が好みなのだ。
「マリア。30分だけ、寝かせてくれ。起きたら俺も一緒に遊ぶから」
精霊であるマリアの体力は、無尽蔵。
そしてエリーゼ達3人娘のバイタリティも、普通の人間である賢紀と比べたら桁違い。
よって遊びに付き合おうと思ったら、途中参加の途中棄権しか貧弱ゴーレム使いには道がないのである。
賢紀が寝るのならばもう浜辺には用は無いとばかりに、マリアは【ファクトリー】へと引っ込んでしまった。
「ケンキー! 寝る前に、アレ出してよ! アレ!」
「わかった。だが、人の多いところでは徐行しろよ?」
「わーかってるって!」
「沖の方でもやたら飛ばしたり、アクロバティックな運転は禁止。高速・限界域でのテスト走行は、まだ充分とはいえないからな。危険だ」
「もう! 子供扱いしないでよ!」
エリーゼにせがまれて、賢紀は波打ち際まで歩いていった。
そこで海に向かって手をかざし、【ファクトリー】からとあるゴーレムを取り出す。
ゴーレムとはいっても、人型ではない。
ライムグリーンに塗られた、流線型のボディ。
ジェットスキー型ゴーレム、〈スクアーロ〉だ。
魔道モーターで駆動するウォータージェット推進器を2基備えており、最高速度は100km/hを超える。
「エリーゼ1人じゃ心配だ。イースズ。魔獣娘が暴走しないよう、見張っててくれ」
こんなこともあろうかと、賢紀は〈スクアーロ〉を2人乗り可能なランナバウトタイプとして作っていた。
暴走女王には、お目付け役が必要だ。
戦場で〈テルプシコーレ〉の推進器を噴かし、音速を超えて斬り込むエリーゼ。
彼女には、スピード狂の疑いが掛かっている。
水深の浅いところから深いところへ。
慎重に〈スクアーロ〉を押してゆくエリーゼとイースズの姿を、賢紀は見送った。
どうやら安全に遊んでくれそうだと判断した【ゴーレム使い】は、再びビーチチェアの傍らまで戻る。
今度こそ、安眠するためだ。
「アディは海に入らないのか?」
「ケンキ様がお休みになられるのでしたら、荷物を見ておく係も必要でしょう?」
とはいっても、貴重品の類は賢紀の【ファクトリー】に収納してあったりする。
だがアディの気遣いは有難いと思った賢紀は、そのまま仮眠を取ることにした。
「はあ……。本当は姫様の後席に乗って、運転で手が離せない姫様にあ~んなことやこ~んなことをしたかったのですけど……。鼻血を押さえる、自信がありませんものね……。残念ですわ」
残念なのはアディの頭だと胸の内で指摘しながら、【ゴーレム使い】は心地よい眠気に身を任せていった。




