第130話 【ゴーレム使い】の旅立ち~トンズラしたいのでしょう?~
ルータス王国の首都エラン。
都市防壁の外に、1機のマシンゴーレムが佇んでいた。
膝を大地に突いた、駐機姿勢だ。
漆黒のボディと6枚の翼を持つ自由意志の鬼神、XMG-0〈タブリス〉。
大空を自由に飛び回る白き天使、GR-9〈サンサーラ〉を撃墜するために作られた機体である。
しかし本機は新たなる使命を与えられ、今からルータス王国を離れるのだ。
〈タブリス〉の前で旅立ちの準備を進めるのは、操縦者である【ゴーレム使い】安川賢紀。
もうひとりはルータス女王、エリーゼ・エクシーズだった。
「ニーサとの約束は、守らないとね。『どちらか生き残った方が、責任を持って探す』って約束だったから……」
「ニーサさんも、死んだわけじゃないけどな」
旅立ちの準備とはいっても、荷物は極端に少ない。
なにせ【ファクトリー】の能力を持つ、賢紀が同行するのだ。
彼の能力は成長を続け、今や無限に近い物資を収納できるようになっている。
食料や飲み水も、軽く2ヶ月分は収納済みだ。
「エリーゼちゃん。1番大事な荷物ば、忘れとる」
イースズ・フォウワードが投げて寄越したのは、小さな袋だった。
「おっと、いけない。もう【ファクトリー】に、入れたつもりになっていたわ」
「今回の探索で、いきなり必要になるとは限らないがな」
エリーゼが受け取ったのは、世界樹の種。
今から賢紀とエリーゼは〈タブリス〉に乗り、他の大陸に湧き出ているという【生命の泉】を探す旅に出る。
そこに世界樹の種を投げ入れ、新たな世界樹を育てるのだ。
次代の世界樹を育てなければ、この世界は3大エネルギーのバランスが狂い滅びてしまう。
「やっぱり、あたしが行ったほうが良かと思うばい。エリーゼちゃんは、女王の仕事があるし……」
「ニーサと約束したのは、私だから……」
いい感じの雰囲気を出しつつ、遠くの空を見つめるエリーゼ。
だが彼女に仕える獣人メイドは、主の企みなどお見通しだ。
「そんなことを言って……。姫様は面倒くさい書類仕事から、トンズラしたいのでしょう?」
「うっ! そ、そんなことないわよ? ほら、適材適所って言葉があるじゃない。内政は終戦後に戻ってきた『五賢者』達に任せて、私は外で仕事するのが合ってると思うわ。それにアディやイースズがこのむっつりスケベと一緒に旅をして、襲われでもしたらどうするの?」
「速やかに射殺するので、問題ありません」
冷ややかな目をして、拳銃のスライドを引きながら答えるアディ・アーレイト。
「あたしはケンキさんが相手なら、襲われても別にかまわんばってん」
イースズは頬に手を当て、モジモジしながら答えた。
「エリーゼ。そんなに俺が危険な男だと思うのなら、1人で行っても構わないんだが……」
「……! ダメ! 絶対ダメ! ケンキを1人で、他所の大陸にやるなんて……。途中で目的を忘れて、新型ゴーレム開発に没頭したりしそうじゃない!」
「いくら俺でも、新大陸まで行ってそんなことはしない……と思う」
「ほら! 今、変な間があったわよ。それに『と思う』って、自信無さげな答え方だったわよ」
「はいはい。今回はエリーゼちゃんが、行ってきなっせ。マリアちゃん。エリーゼちゃんがケンキさんば襲わんごつ、しっかり見張っとって」
「イースズ! それ、逆じゃない? ケンキが私を襲わないように、じゃなくて?」
「ほら。エリーゼちゃんって、家系的に繁殖力が強そうだけん」
「イースズ、任せるのじゃ! 妾がエリーゼと思考をリンクさせて、不埒なことを考えぬようしっかり見張っておる」
「ちょっと、マリアちゃん! パイロットの頭の中を覗いていいのは、戦闘時だけよ!?」
バタバタとしたやり取りの末、賢紀とエリーゼは〈タブリス〉の操縦席に納まった。
メインパイロットである、賢紀が前席。
副操縦士である、エリーゼが後席だ。
陽炎の中。
〈タブリス〉は6基の推進器ユニットから紫炎を噴射し、ゆっくりと高度を上げていく。
まだ声が届く高度から、エリーゼは外部拡声魔道器を使い地上に告げた。
『いちど大陸の各国を回って、みんなに旅立ちの挨拶をしてくるわ。最後にルータス上空を飛行通過するから、その時は見送ってね』
賢紀は〈タブリス〉を、北の方角へと向ける。
最初の目的地は、リースディア帝国。
さすがに帝都ルノール・テシアに接近しようものなら国際問題になるが、今回の目的地は帝国領でも辺境の地だ。
ルータス軍の攻撃で防空網もダメージを受けた今の帝国に、ひっそりと侵入することはさほど難しくない。
現にニーサ・ジテアールを救出する際、賢紀はさほど苦労せず侵入・離脱に成功している。
かつての敵対国領空へと、〈タブリス〉は加速して行った。
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帝都ルノール・テシアからは、離れた場所にあるアルシエフ領。
ここが、賢紀達の目的地である。
元帝国将軍、レクサ・アルシエフが産まれた地だ。
レクサには、分家筋に当たる婚約者がいた。
彼女は許嫁として幼い頃からレクサの家で暮らし、仲睦まじく過ごしてきたという。
レクサが将軍として帝都に住むようになってからは、一緒に帝都で暮らしていた。
しかし今。
彼女の亡骸はこの地に戻り、眠っている。
幼い頃からの長い時間、レクサと共に過ごした思い出の場所に。
色とりどりの花が咲き乱れる、小高い丘の中央。
そこに彼女の墓石は、ポツリと寂し気に立っていた。
「すみませんでした。色々あって、後回しになってしまった……。あなたも、寂しかったでしょう」
賢紀は土魔法で墓の隣に穴を掘ると、【ファクトリー】内で冷凍保存していたレクサの亡骸を取り出した。
穴の底に、そっとレクサを寝かせる。
婚約者の墓と、寄り添うように。
彼の使っていた双剣も、一緒に添える。
「レクサ将軍も、すっかりお待たせしてしまいましたね。将軍の仕事は、忙しくて大変だったでしょう。ゆっくり休んで下さい」
「私のお父様や、エマルツ・トーター。向こうでは、稽古相手に困らないわね。今度戦う時は、あなたに敵わないかもしれないわ」
レクサの亡骸に土を被せた後、賢紀は大理石で作った墓石を立てた。
『大陸最高の双剣士、レクサ・アルシエフここに眠る』
あえて帝国将軍とは、刻まなかった。
将軍より剣士として名を遺した方がレクサは喜びそうだと、同じ剣士であるエリーゼが言ったからだ。
賢紀とエリーゼがレクサ達の墓に祈っていると、背後に強力な水のマナを感じた。
「小僧。よく帰ってこれたもんだね? この世界なんざ、どうなってもいいっていうのかい?」
「レヴィ……」
2人が背後を振り返ると、そこには長い角を生やした宙を漂う魚の姿。
水の高位精霊、レヴィがいた。
「充分に、説明したはずだよ? あんたやセナの小僧みたいな、異世界人の危険性は。……何で、戻って来たんだい?」
「……俺が、そうしたいと願ったからだ」
「はっ! 自分勝手な理由だね。そんなふうにあんた達人間は勝手だから、滅びに向かって突き進んでしまうのさ。精神的に、未熟な種族なんだよ。まだ若いアンタが、異世界の知識や【神の加護】なんて強大な力を持ってこの世界に存在している。……これがどれだけ危険なことか、自覚していないのかい?」
「確かにそうかもな。俺はまだ若く、精神的にも人間的にも未熟だ。……だからレヴィ、頼みがある。俺がこの世界を滅びに向かって進ませないように、近くで見張っていて欲しいんだ」
「……ふん。ちっとは覚悟して、戻って来たようだね。いいだろう。言っとくけどあたしは、口うるさいよ」
「知っているさ。よろしく頼む、レヴィ婆ちゃん」
「婆ちゃん?」
「この呼び方、ダメか? ヨルムも呼んでるし、いいだろう?」
賢紀は両親だけでなく、祖父母も早くに亡くしていた。
だからレヴィのようなお婆ちゃん口調の精霊と話していると、亡くなった祖母と話しているような懐かしい気持ちになるのだ。
「ふふふっ。その呼び方、私もしていい? レヴィお婆ちゃん」
「やれやれ。出来の悪い孫達を持つと、苦労するねぇ……。また【ファクトリー】の中で、厄介になるよ。ヨルムとマリアにも、挨拶してくる」
レヴィは身を翻し、飛沫を上げながら【ファクトリー】の中へと消える。
その姿は、ちょっと照れているようにも見えた。
「さて、レクサ……。行ってくるわね」
周辺の花を散らしてしまわぬよう、慎重に推力を上げる〈タブリス〉。
賢紀とエリーゼは次の目的地、魔国ディトナへ向け飛び立った。




