第117話 本物の助っ人~俺達はニセモノかよ!?~
ルータス王国の首都エラン。
都市防壁上で待機しているMG-2〈ユノディエール〉の操縦席で、ムルシイ・エラーゴは唸っていた。
『むぅ~。迂回ルートなのに、来るのが早い~。迷いなくエランに進軍してくるなんて、ニーサ帝は大胆~』
彼女が睨みつけるのは、操縦席の正面にあるメイン映像投影魔道機。
そこに映し出されるのは、巨大な鎧武者の軍勢である。
リースディア帝国軍のマシンゴーレム、GR-3〈サミュレー〉の大部隊だった。
彼らは陽炎の中、一糸乱れぬ行進で首都エランに接近して来る。
ムルシィは、やけにリラックスしているように見えた。
相変わらずの間延びした口調と、ボヘーっとした表情だからだ。
本人は、深刻な状況だと思っているのだが。
首都に残された守備隊の面々からは、「さすがはムルシィ隊長! どっしり構えていらっしゃる!」と、誤解されていた。
だが誤解されたままの方が指揮しやすいので、ムルシィは放置している。
守備隊メンバーのほとんどは、リースディア帝国軍獣人機動兵団の生き残り達だ。
彼らはエラン奪還戦の際、レクサ・アルシエフ将軍が倒れると同時に降伏。
ルータス解放軍に、寝返った。
元々獣人機動兵団は、捕虜によって構成されていた部隊。
帝国軍がルータス王国やビサースト獣人国連邦に侵攻した際、捕えた者達から選抜されていた。
帝国への反感は持ちつつも、団長だったアシュトン・マーティーンを個人的に慕い兵団入りしていたという獣人達だ。
アシュトンが自刃したことを告げると、全員がルータス軍入りを志願した。
「本当は団長も、ルータス解放軍に参加したかったはずだ」と、涙を流しながら。
『どうします? ムルシィ隊長。イーグニースからの助っ人は、まだ到着していませんよ?』
魔道無線でそう問いかけたのは、ムルシィの副官であるワン・エーティ。
マシンゴーレム操縦に、適性がないといわれる純血ドワーフ族の若者だ。
彼もその例に漏れず、マシンゴーレムの操縦があまり上手ではない。
戦闘機動などは、純血ドワーフとしては最高峰ともいえる。
しかし並外れた操縦兵が多いルータス軍全体の中では、下から数えた方が早い腕前だった。
だがワンは、ある技能において凄まじい腕前を誇る。
彼が得意とするのは、長距離からの狙撃。
コイントスされた直径25mm弱の10モジャ硬貨を、ライフルで撃ち抜いてみせたりする。
しかも、500m離れた地点からだ。
マシンゴーレム操縦時も、狙撃の腕前は遺憾なく発揮される。
自機を動かさない状態からならば、全力戦闘機動中のGRー3を狙撃砲で次々に撃破していくのだ。
当人曰く、「七面鳥撃ち」らしい。
エンス大陸中では、イースズ・フォウワードに次ぐ狙撃手である。
ワンの腕前を、ムルシィは充分に承知している。
だがそれでも、戦況は絶望的だ。
『10対50は無謀~。時間を稼ぐ~』
『奴らが防壁へと辿り着くまでに、何機減らせるかな?』
エラン都市防壁と帝国軍マシンゴーレム部隊との距離は、4kmを切った。
ムルシィとワンのMG-2は120mm狙撃砲を構え、防壁の上に伏せる。
まずは、ムルシィが発砲。
窓ガラスがひび割れてしまう音量で、発砲音がエランの市街地に轟いた。
帝国軍のマシンゴーレム部隊はすぐに散開し、各々が回避機動を取り始める。
『当たらない~。いい腕している~』
秒速3000mもの砲口初速で吐き出された砲弾を、帝国軍のGR-3は回避してみせた。
しかし飛び退いた先にも、ワンの120mm弾が飛来する。
機体の右腕が、肩から吹き飛んだ。
『コックピットを狙ったのに、身を捻って致命傷を避けやがった! ……GR-3も初期型の頃と比べると、運動性が段違いですね。マシンゴーレムが苦手とする平原なのに、勝てる気がしませんよ』
マシンゴーレムのような人型の兵器は、前面投影面積が大きい。
直立している時は的が大きく、平地では弾を食らいやすいのだ。
本来マシンゴーレムが得意とするのは、山岳地帯や森林、市街戦である。
その踏破性を活かせる上に、身を隠せる遮蔽物が存在しているからだ。
不利な地形にもかかわらず、その機体運動性と操縦技術をもって的を絞らせない帝国兵達。
ワンのような凄腕でなければ、この距離から砲弾を当てるのは至難の業だろう。
『大丈夫~。運動性が向上したのは、こっちのMG-2も同じ~。それに、助っ人が間に合った~』
青い光の矢が疾る。
帝国軍の部隊や、エランの市街地とは別の方向からだ。
それは帝国軍GR-3の主力武器、マルチランチャー〈スターダスト〉から放たれたプラズマ弾。
長距離からの攻撃だったため、帝国軍は全機回避できた。
しかし、部隊内に動揺が走る。
自分達が使用する武器と、同種の攻撃だったからである。
ルータス軍の機体が、このようなプラズマ弾を撃ってきたという情報は今までなかった。
『待たせたな! ムルシィ殿!』
イーグニース共和国方面から駆けてくるのは、GR-3が2機。
ただし、帝国軍機ではない。
2機のカラーリングは、帝国軍の都市迷彩色と若干色合いが違う。
共和国軍のMG-2と、同じ色に塗装されている。
『え~っと? どなたですか? 助っ人の方は、MG-2で来ると聞いていたのですが……?』
予定には無い味方増援の出現に、戸惑うワン。
彼の戸惑いを解消するべく、GR-3のパイロット達は素性を明かそうとした。
『俺達は、ビサーストエージェンシー所属の傭兵! テストパイロットとして、ヴォクサー社に出向していた――』
『ムスタンゴ~! リラッコ~! 無駄口叩かないで、さっさと敵を減らして~! それとちゃんとIFF(敵味方識別装置)の設定しておかないと、紛らわしい機体だから味方に撃たれる~。たぶん、私が間違って撃つ~』
『酷え……。なんで長いこと一緒に操縦訓練受けていた、ムルシィ姐さんが名前間違うんだよ……。ええい! とにかく、姐さんの指揮下に入るぞ! 火力支援頼むぜ! 俺もリラックも、平地にいるせいで帝国軍から丸見えだからな』
増援は、馬の獣人ムスタングと熊の獣人リラック。
彼らは安川賢紀が鹵獲、改修したGR-3に乗り駆けつけてくれたのだ。
2機のGR-3は平原を疾走しながら帝国軍と撃ち合いつつ、エランの方角へと向かった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
『むう。帝国軍は、強いですな。こちらのGR-3は、ヤスカワ殿の魔改造機だというのに……。数の差もありますし、我々が入っても戦況が厳しいのは変らぬか……』
リラックは唸りながら、回避機動を取る。
機体の運動性が高いこともあり、リラックとムスタングは雨あられと降り注ぐプラズマ弾を全て回避できていた。
しかし手数の差から、徐々に追い込まれていく。
彼ら助っ人コンビや、ムルシィ達、そしてエラン守備隊の攻撃で、帝国軍は何機か脱落していた。
だがそれでもまだ、かなりの数が残っている。
帝国軍は損傷を受けた機体を、速やかに後方へ下がらせ支援射撃に専念させていた。
そしてまだ元気な機体が新たな前衛を務め、徐々に戦線を押し上げてくる。
士気が高く、統率の取れた動きを見せる帝国軍。
彼らはエランの都市防壁まで、あと少しというところまで接近してきていた。
『マジかよ……。ピンチじゃん。スヴェール社長とドンさん、「ヤスカワスペシャルの実戦データを取って来い」なんて軽く言ってたのに……。機体を失ったりしたら、ジャニア社長に減給くらうぞ』
『ムスタング殿。機体を失う心配より、命の心配をした方が良いのではないか?』
『2人とも、もう大丈夫~。本物の助っ人達が来た~』
『ムルシィ姐さん! 俺達は、ニセモノかよ!?』
ムスタングがブーイングした瞬間、帝国軍機のうち1機がコックピットを吹き飛ばされた。
イーグニース方面、山岳地帯からの攻撃。
だが山肌から標的のGR-3までは、軽く7km以上は距離があった。
120mm狙撃砲でも、射程外だ。
『待たせたな』
魔道無線機から響いたのは、若い男の声。
『本当に待った~。うら若き乙女の命が、散らされるところだった~』
『いや。殺られそうだったのはムルシィ姐さんじゃなくって、都市防壁の外にいる俺とリラックだけどな』
『お姉さん以外は、どうでもいいかな? あんたらは、商売敵のヴォクサー社が雇ってるテストパイロットだし』
『……クソガキが! 後で覚えていろよ!』
『言っとくけど俺、マシンゴーレムから降りたら超弱いからな。ケンカして勝っても、自慢にならないぜ』
そこで音声だけの通信から、映像込みの通信に切り替わる。
助っ人のパイロットは。褐色の肌。
そして青みがかった、ウェーブの黒髪を持つ若者。
エキゾチックな顔立ちにイタズラ小僧のような笑みを浮かべ、彼はムルシィ達に挨拶をした。
『ローザリィ社専属テストパイロット、アレックス・S・マッサとスーテラ・トーターだ。俺のことはアレクって呼んでくれ』




