第115話 精鋭のコンビネーション~……なのに何で避けられるんだよ!?~
リースディア帝国軍最新鋭機、GR-10〈オリヴィエ〉。
その操縦席内で、操縦兵は忌々しげに吐き捨てた。
『ルータス軍が、完成させたのか……。リッチー・レインが開発していた、〈テルプシコーレ〉を……』
パラディン4のコールサインを持つ、アウル・インテグラーレ。
彼は〈テルプシコーレ〉開発の経緯について、聞き及んでいた。
厄介な機体が敵に回ったものだと、頭が痛いアウル。
そんな彼に、同僚のビックス・タイパールから無線が入る。
『パーソナルマークは、ルータス王家の紋章……。パイロットは、エリーゼ女王だな。わざわざ乗り換えているからには、〈サルタートリクス〉より高性能機に仕上がっているんだろう。締めてかかれよ、アウル』
『お前もな、ビックス』
早くも味方のGR-3〈サミュレー〉が1機、撃破されてしまっているのだ。
自分達の操縦技能と機体性能に自信は持ちつつも、「インペリアルパラディンズ」の2機は慎重だった。
遮蔽物に隠れながら、〈テルプシコーレ〉に接近していく。
(ルビー2……。ダスカン攻防戦を生き延びた、危険察知能力の高い優秀なパイロットだったのに……)
撃破されてしまったGR-3のパイロットを思い出し、アウルは下唇を噛む。
やったのは、イースズ・フォウワードの狙撃砲と見て間違いないだろう。
帝国軍にも優秀な狙撃手は多いが、彼女ほどの技能を持った者はいない。
元は帝国軍の戦闘奴隷だったという話を聞いた時、アウルは心底頭にきた。
なぜそんな凄腕を、奴隷として使い潰そうとしていたのかと。
「軍上層部にいる人間族至上主義なヴァカ共のせいで、俺達現場の兵士が悪魔のようなスナイパーを相手にせにゃならん。アイツがパラディン8だったら、どんなに頼もしかったことか……」
ないものねだりをしても、仕方がない。
イースズ・フォウワードは、もう敵なのだ。
アウルは覚悟を決めて、「白銀の魔獣」と悪魔なスナイパーコンビを迎え撃つ。
「まともには、やり合わん。隠れながら、チクチク削らせてもらうぞ」
〈テルプシコーレ〉はもちろん、イースズの射線上に入っても即やられてしまう。
格納庫の陰から半身だけを晒し、アウルのGR-10はライフルを2連射した。
新型ライフル〈オートクレール〉から、プラズマ弾が放たれる。
それまで帝国軍の主力兵器だった〈スターダスト〉よりも、遥かに高火力で弾速も速い。
しかし〈テルプシコーレ〉は光の剣を閃かせ、2発とも切り払ってしまう。
「そういう非常識な操縦は、セナさん相手で慣れてっからな。本命は、俺の弾じゃねえ!」
本命は反対方向から放たれた、ビックスの実弾。
パラディンズが使う〈オートクレール〉は、先進的な武器だ。
2つの砲身を縦に並べた、ダブルバレル構造となっている。
上の砲身からは、魔法で発生させたプラズマ弾を。
下の砲身からは、液体炸薬を用いた57mmケースレス弾を発射するというハイブリッドライフルだ。
プラズマ兵器は、魔法によりプラズマを発生させる。
そのためどんなに構造や素材を工夫して隠蔽しようとしても、発砲時は敵の魔力レーダーに反応が出てしまうという欠点があった。
しかし液体炸薬弾は、化学反応により砲弾を射出する構造。
発砲時に、魔力反応は出ない。
「……なのに、何で避けられるんだよ!? クソったれが!」
〈テルプシコーレ〉は砲弾を、難なく回避した。
実のところ、エリーゼが弾を避けられたのは完全な勘である。
戦いの中で積み上げられた経験則が、彼女に回避機動を取らせたのだ。
全く重力を感じさせないように、ふわりと宙を舞う〈テルプシコーレ〉。
さらにGR-3達のプラズマ弾を、ヒラヒラと回避する。
ジャンプ中で、動きが制限されているはずなのにである。
物理法則を無視したかのような戦闘機動に、アウルは言い表し難い恐怖を覚えた。
回避だけに留まらず、〈テルプシコーレ〉は反撃もしてくる。
身を翻しつつ、左手のランチャーからプラズマ短剣を3方向に撃ち出した。
帝国軍機の反応が、2つ消える。
『ぐっ! ルビー4だ! 右腕を損傷! なんだ!? この光の短剣は!? 気をつけろ! どういう仕組みかはわからんが、着弾後もしばらく刺さったまま残るぞ!』
「何だよ!? その武器は!? 気持ち悪ィ……」
アウルには気持ち悪がっている時間など、与えられていなかった。
マシンゴーレムの格納庫ごと、味方GR-3が1機吹き飛ぶ。
電磁加速砲による、長距離射撃だ。
格納庫などの建造物が、遮蔽物としての役割を全く果たしていない。
そのことに絶望感を覚えつつ、アウルは反撃を試みた。
格納庫の吹き飛び方から、敵機の位置を割り出す。
イースズ機は、まだ山岳地帯に潜んでいるはずだ。
遠くの山肌へ向けて、プラズマ弾を3連射。
爆炎が山岳地帯を照らし、オレンジ色に染め上げる。
『敵狙撃手は、ポイントA-7付近だ! まだ、仕留め切れてねえ! 各機! 〈エーテリック・カウンター・メジャー〉(魔力的電子妨害装置)は、ちゃんと作動しているのか!? ルビー4は、建物越しに位置を読まれていたぞ!』
ルータス王国の首都エラン攻防戦において、多数のマシンゴーレムがイースズのXMG-4〈サジタリィ〉に狙撃された。
しかも、壁越しにだ。
以来、帝国軍マシンゴーレムには強力なECMが積まれている。
遮蔽物の影響を受けない魔力レーダーとはいえ、ECMを展開して隠れているGR-3の位置を割り出すのは不可能なはずだ。
魔力兵器発砲中や、全力戦闘機動中でない限りは。
いくらイースズ・フォウワードでも、位置の分からない相手を建造物ごと撃ち抜けるはずはない。
「何らかの手段で、フォウワードは建物の陰にいる俺達の位置を把握しているんだ……。何だ? どういうカラクリだ?」
逡巡している間にも、轟音が基地を揺るがす。
建造物の破片が紙吹雪のように飛び散り、被害は拡大するばかりだった。
「幸い〈テルプシコーレ〉の方が、あんまり積極的に暴れていないから助かっているが……ん! なるほど……そういうことか!」
ちょうど時を同じくして、相方のビックスも気付いたらしい。
無線で呼びかけてきた。
『アウル! こいつはひょっとして、データリンクシステムを積んでいるんじゃないのか?』
『ああ。そうとしか、考えられねぇ!』
基地内まで突入している〈テルプシコーレ〉の得た情報が、遠くのスナイパーに送信されているのだ。
さすがにこれだけの至近距離であれば、ECMを展開していようとも魔力レーダー探知に引っ掛かってしまう。
『ならば先に、〈テルプシコーレ〉を叩くべきだな!』
『肯定だ! ビックス! コンビネーションで、一気に決めるぜ!』
アウルのGR-10は、前傾姿勢を取りながら大地を蹴った。
同時に、足裏の推進器を噴射。
弾丸のように、基地内の道路を駆け抜ける。
全力戦闘機動は、敵狙撃手のレーダー探知に引っ掛かってしまう可能性もあった。
だがこのスピードなら、簡単には照準できないはずだ。
〈テルプシコーレ〉の位置は、格納庫を挟んでひとつ隣の道路。
「食らえや!」
アウルは高速移動しながら、57mm弾を通した。
隣接する格納庫と格納庫の隙間から、チラリと見えただけの〈テルプシコーレ〉に向けて。
アウル機の速度は、200km/hオーバー。
さらには格納庫間の隙間が15m程しかないことを考えると、神業のような射撃だ。
「『白銀の魔獣』は、アレぐらいじゃあくたばらねえ!」
着弾確認もせず、機体を直角にターン。
扉が開いていた格納庫へと飛び込む、アウルの〈オリヴィエ〉。
中のマシンゴーレムは全機出払っているし、整備兵も全員避難済みだ。
反対側の壁を体当たりで突き破り、アウルは〈テルプシコーレ〉がいるはずの道路へと飛び出した。
飛び出し様にライフルを向けたその先には、派手な紫色の敵機。
踊りの女神〈テルプシコーレ〉。
アウルは舌打ちした。
無傷なところを見るに、やはり自分の57mm弾は回避されてしまったのだ。
しかし、パラディンズのコンビネーションは止まらない。
100m近い高空から、敵機に襲い掛かろうとしているビックスの姿があった。
だがそんな彼を、山岳地帯に潜んでいた敵スナイパーの砲弾が襲う。
ビックスは空中で、天を蹴るように足裏の推進器を噴射。
破壊と死をもたらす、金属の矢を回避した。
さらにはその勢いを利用して、〈テルプシコーレ〉目がけ突進する。
57mm弾を、連射しながら。
「決めるぜ!」
ビックスからの弾を避けるために、飛び退いていた〈テルプシコーレ〉。
それを追いかけるように、アウルは自機を加速させた。
加速しつつ、57mm弾を残弾が尽きるまで撃ちまくる。
〈テルプシコーレ〉は後退しながら、弾を全てプラズマソードで切り払っていた。
だがそこへ、拳を振りかざしたアウルの〈オリヴィエ〉が襲い掛かる。
左手の甲に、強力な貫徹力を持つ光の杭を形成しながら。




