第113話 運び屋の【ゴーレム使い】~もっと楽ができたのに?~
『魔王様のプレゼントは、空間転移の魔道具。魔王陵各階ボス部屋の前に、脱出用の魔法陣があっただろう? あれを小型にして、持ち運び可能にしたヤツだ』
安川賢紀が明かした話に、荒木瀬名は少し安心した。
あの魔法陣は、人間を1人か2人ずつぐらいしか転送できない。
しかも小型というなら、人間1人ずつが限界だろう。
『それを使って、帝国内に誰か転送でもしたのか? 刺客を送り込んでも、簡単に暗殺されるようなニーサじゃない。何より俺がさせない! 歩兵部隊を山ほど送り込んでも、帝都の防衛についている200機の精鋭マシンゴーレム部隊に蹴散らされるだけだ』
『その通りだな。こっちもマシンゴーレムを持って来ないと、まず無理だ。山葉製空間転移の魔道具が、マシンゴーレムも通れるぐらい大きかったらな……。もっと楽ができたのに……』
――もっと楽ができたのに。
その言葉の意味を反芻し、瀬名の全身が粟立つ。
〈サンサーラ〉が異空間に飛ばされていた、空白の30分間。
(それだけの時間があれば、奴は……!)
瀬名は鍔迫り合いを止め、機体を急上昇させた。
〈タブリス〉が密着状態から、異空間射撃のマシンガンで狙っていたのだ。
間合いを外すついでに、ぐんぐん高度を上げる〈サンサーラ〉。
「レオナ! 〈エーテリック・カウンター・カウンター・メジャー〉(魔力的電子戦防護)、最大出力!」
「了解! ……いました! データベースに、該当機あり! 〈シラヌイ〉です!」
メイン映像投影魔道機の片隅に、ズームされた映像が別ウィンドゥで開く。
〈タブリス〉と同じ漆黒の機体が、山岳地帯に隠れていた。
【ゴーレム使い】が、以前乗っていた電子戦機。
XMG-4〈シラヌイ〉だ。
「全然気付かなかった……。異空間に閉じ込められた時から、ECCMをカットしていたのが裏目に出たか……」
ECCMを展開していれば、話は違った。
〈シラヌイ〉の〈マルチプルディセプター〉による光学センサー欺瞞や、レーダー欺瞞を無効化できる。
しかしECCMは、常時展開していれば結構な魔力を食う装置だ。
〈タブリス〉に、〈シラヌイ〉のものほど高度な〈エーテリック・カウンター・メジャー〉(魔力的電子妨害装置)は積まれていない。
そう判断した瀬名とレオナは、ECCMをカット。
余剰魔力をプラズマライフルの火力や、魔力変換装甲の防御力に回してしまっていたのだ。
『ケンキさん、見つかっちゃったよ。〈エーテリックジャマー〉解除。離脱するね』
『通信妨害ご苦労、エネスクス。〈シラヌイ〉の乗り心地はどうだ?』
『やることが多くて、大変な機体だね。最新式〈擬似魂魄AI〉のサポートがあっても、全部使いこなすのは無理!』
〈シラヌイ〉の操縦兵は、猿獣人の少年エネスクス・ホーンドだった。
『エネスクス! 逃がすと思うのか!?』
〈サンサーラ〉の腰部両側に携えられたプラズマランチャー、〈リインカネイター〉。
瀬名はその砲口を、離脱しようとしている〈シラヌイ〉の背中へと向ける。
だが、〈タブリス〉のブレードが一閃。
発砲を妨害した。
瀬名は〈サンサーラ〉を、木の葉のような軽やかさでロールさせる。
〈タブリス〉のブレードは回避したが、〈シラヌイ〉への砲撃のタイミングは完全に逃してしまった。
『エネスクスには、手出しさせない。アンタは俺と、空のダンスといこうか』
『男とダンスなんて、ゴメンだね! 君とエネスクスを片付けて、ニーサと踊るよ』
『いいや。悪いがニーサ帝は、ウチのじゃじゃ馬娘共と踊ってもらう』
『なっ!? 君は、まさか……?』
『30分も時間をもらっておいて、【ファクトリー】から出したのが〈シラヌイ〉1機だけのわけないだろう? パイロット達は空間転移装置で、この近くの洞窟に転移してきていた。俺が飛んでくるより、ずっと前からな』
賢紀の言葉を裏付けるかのように、魔道無線機から通信が入る。
それは緊迫した、ニーサ・ジテアール帝の声だった。
『セナ! セナ! やられてしまったのか!? 応答してくれ!』
『ニーサ! 俺は大丈夫だ! 通信を妨害されている間に、何があった? エリーゼ女王達が、そっちに行ったのか?』
『ああ、無事だったか。良かった……。現在敵マシンゴーレムの部隊が、帝都ルノール・テシアに向けて接近中だ。数は40!』
圧倒的に戦力の劣るルータス軍による、帝都への強襲。
そんな馬鹿げた作戦は、さすがにニーサも瀬名も想定していなかった。
直接攻撃するにしても、〈シラヌイ〉による単機での潜入・破壊工作ぐらいのものだろうと踏んでいたのだ。
『ぶっちゃけ俺も、無茶苦茶だと思う。まあ発案者は、俺じゃないからな』
『そう? これぐらいで無茶苦茶なんて、甘いよ。新人使徒君たち』
山葉季子のダメ出しが飛んだ。
神々の使徒としては、賢紀や瀬名より500年も先輩。
戦に関するキャリアは、季子の方が何倍も長い。
今回のような奇襲・奇策を行ったり受けたりという経験は、星の数ほどあった。
『たった40機で、帝都を強襲か。リースディア帝国軍を、甘く見るなよ? 簡単にやられるニーサや、「インペリアルパラディンズ」じゃない。帝都の防衛は、ニーサ達を信じて任せる。俺の役目は、安川……君を抑えることだ』
『できるかな? ……ギヤを1段上げるぞ』
『ふん。変速ミスじゃないと、いいけどね』
刹那、大気が震えた。
轟音を上げて加速した2機のマシンゴーレムは、彗星となる。
それぞれに紫と青の尾を引く彗星は、重い鉛色の空を駆け巡った。
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雨の降りしきる、山岳地帯。
泥の飛沫を巻き上げながら、金属の巨人達は疾走する。
その姿はさながら、獲物を追いかける肉食獣。
機械的な輝きを放つ瞳が、薄暗い天気の中に残光の軌跡を描く。
部隊の先頭を走るのは、色鮮やかにペイントされた3機のマシンゴーレム。
紫、赤、緑。
非常に目立つ塗装だが、意味がある。
それぞれ塗料に運動性向上や、耐熱性向上、静粛性向上などの効能がある特殊塗料なのだ。
多少目立ってしまってでも、使うメリットがある。
紫の機体はエリーゼ・エクシーズ女王の新しい愛機、RHR-1〈テルプシコーレ〉。
先代の愛機〈サルタートリクス〉では1基だった背中の推力偏向ノズルが、2基に増えている。
リッチー・レインの研究所にあった放熱版のような謎ユニットが搭載され、機体4箇所から突き出ているのも特徴だ。
暗めな赤色の機体は、GR-6FH〈イフリータ〉。
駆るのは犬獣人メイド、アディ・アーレイト。
先代〈フレアハウンド〉と違い、〈超魔導リニアホイール〉は省略されてしまった本機。
そのため滑走機動ではなく、低空飛行しながらエリーゼ機を追っている。
機体各部に仕込まれた小型大出力推進器により、低空・短時間ならば飛行が可能なのだ。
エリーゼとアディより少し遅れて、エメラルドグリーンに塗装された機体が走っていた。
長大な狙撃砲を肩に担いでいるのは、イースズ・フォウワードの新しい機体。
XMG-3HEL〈ディアナ〉。
強化された電磁加速砲の反動に耐えられるよう、腕部や脚部は〈サジタリィ〉よりも太いデザインになった。
この機体も背中に、何やら怪しげなユニットを搭載している。
『エリーゼより、各機! みんな! ちゃんとついて来ているわね?』
『エリーゼちゃん! あたしの機体、2人のより足遅かとよ。もう、10km離されとる!』
『大丈夫よ! イースズなら、そこからでも射程距離内でしょう?』
『アディより姫様! あまり突出しないで下さい! 城塞都市ダスカンの時と、同じではありませんか!』
『同じようには、いかないわ。あの時の何倍も敵マシンゴーレムが配備されている。ポルティエの情報にあった、「インペリアルパラディンズ」もいる。おまけに敵パイロット達の腕もいい――もう迎撃に来た! 正面に、GR-3〈サミュレー〉が3機! 距離3000!』
『訂正するばい。2機』
イースズ・フォウワードの通信からワンテンポ置いて、魔力・電波併用式レーダーから敵機の反応がひとつ消える。
少し遅れてエリーゼ・エクシーズの耳に入る、GR-3の撃破音。
さらに遅れて、ようやく後方からの発砲音が聞こえる。
イースズの機体位置が遠く、電磁加速砲の弾が速過ぎるのだ。
『さらに訂正。あと1機ですわ』
アディ・アーレイトのアサルトライフルが、さらに敵機の数を減らす。
「さあ、エリーゼちゃん! 最後の1機は、オイラ達でいただくよ!」
「OK、ヨルム! 距離300! ぶった斬……」
エリーゼが獲物認定していた、敵GR-3。
その側頭部が、吹き飛んだ。
『ウホッ! 姉御、見てくれました? 今の支援射撃。俺も結構、腕を上げたもんでしょう?』
魔道無線から入ったのは、エリーゼの弟分ゴリの自信に満ちた声。
ついでに映像通信も入っていた。
彼のむさ苦しいドヤ顔とサムズアップする様子も見せつけられ、エリーゼとヨルムはイラっとした。
『見事よ、ゴリ……。成長したご褒美に、帰ったら「ゴリ専用地獄の訓練プログラム」を組んであげるわ』
『ウホッ!? なんで怒ってるんスか!? 地獄の訓練嫌だー! エネスクスの奴も、道連れにしてやるー!』
『エリーゼちゃん。ゴリくん。じゃれあってる場合じゃなかよ。前菜は終わりたい。いよいよフルコースで、おもてなしがくるばい』
『ウホッ。俺、大食いには自信ありますけど……。食いきれますかね?』
『残したら、作った人達に申し訳ないでしょう?』
エリーゼは、舌なめずりした。
映像投影魔道機に浮かぶ、数えるのも馬鹿らしくなるほどの光点を見つめながら。
『全機! 好き嫌いせずに、残さず食べるのよ!』




