第111話 奈落の牢獄~悪人みたいじゃない?~
4基のミサイルポッドから射出された、合計64発のマイクロミサイル。
それらが一斉に、空を走る。
狙いは荒木瀬名が乗る、GR-9〈サンサーラ〉の強大な魔力反応。
ミサイル達の軌道は、個性的だ。
真っ直ぐに、最短距離を飛ぼうとするもの。
ジグザグに飛びながら、軌道予測を困難にするもの。
敵機の進路上に、回り込もうとするものもある。
それぞれが、独立した意思を持つかのような動きだ。
瀬名は防御手段として、〈エーテルデコイ〉という機構を作動させた。
これは囮となる光球を、散布するものだ。
魔力レーダーによる追跡を、引きつけることができる。
瀬名の思惑通り、ミサイルのうち何発かは〈エーテルデコイ〉を追いかけ誤爆した。
その数、約10発。
だが依然として50発ほどのミサイルが、しつこく追いかけてくる。
〈サンサーラ〉の飛行速度は、軽く音速を超えているというのに。
「今、デコイに当たる前に起爆したな?」
「近接信管が、作動したようです」
レオナの回答に、瀬名は違和感を覚えた。
「妙だ……。魔力レーダーの反応から見て、化学反応弾頭じゃなく魔法による爆発……。直撃させて魔法障壁の内側から起爆させないと、ダメージは望めないだろうに……」
思考の最中も、瀬名は戦闘機動を続ける。
急激な加減速・急旋回を織り交ぜ、ミサイルの追撃を振り切ろうとしていた。
最新型の〈慣性緩和魔道機〉が積まれたこの機体は、操縦者にかかるGを大幅に軽減してくれる。
GR-3〈サミュレー〉ならば乗り手が圧死してしまうような機動でも、〈サンサーラ〉ならば可能なのだ。
それに瀬名は、元F3ドライバー。
慣れていない縦Gはともかく、レーサー時代に散々経験してきた横Gにはめっぽう強い。
そんな〈サンサーラ〉の機動力と瀬名の操縦をもってしても、マイクロミサイル全弾は振り切れない。
徐々に詰まる、ミサイルとの距離。
〈エーテリック・カウンター・メジャー〉(魔力的電子妨害装置)も展開したが、追尾は止まらない。
電波、赤外線、音波。
魔力レーダー以外にも、いずれかの索敵手段を持っているのだろう。
瀬名は機体の手に持っていた〈魔剣クラウ・ソラス〉を【アイテムストレージ】に放り込んだ。
代わりにプラズマライフル〈プレデトロス〉を、再び取り出す。
モードセレクターをライフルモードから、マシンガンモードへと切り替えた。
ライフルモードだと高威力、長射程だが連射が効かない。
マシンガンモードなら威力と射程は落ちるが、高速連射が可能だ。
瀬名は小ぶりな光弾を連射して、追撃してくるミサイルを次々と撃ち落していく。
「セナ! こいつを先に落として! 他のは食らってもいい!」
映像投影魔道機に映る、無数のミサイル群。
その1発に、レオナは赤いマーカーを表示した。
特に目立った軌道は取っていない。
周りのものと、全く見分けがつかないミサイルだ。
「わかった!」
レオナが警戒した理由を、瀬名もすぐに理解した。
撃ち落したミサイルが爆発した時に生じる魔力残滓に紛れ、判別しにくくなってはいる。
だがそのミサイルだけは、強力な魔力反応があるのだ。
瀬名が問題のミサイルをプラズマライフルで貫くと、不気味な黒い球体が発生。
急激に、膨張した。
球体は直径5mほどの大きさにまで肥大化した後、急速にしぼんで消滅する。
「今のは何だ?」
「信じられません! 観測データによると、周囲の空間が抉り取られたようです!」
「空間転移弾頭だと!?」
女神の加護、【英雄】の超再生能力【不屈】。
周囲の魔素・マナ・瘴気を取り込み、いくらでも肉体を再生できる。
この能力を得て以来、瀬名は死の恐怖を感じることが無くなった。
そんな彼に恐怖を与えることができるのは、「どこかに転移させる装置」。
あるいは、「生かしたまま封印する装置」である。
もし仮に魔素もマナも瘴気も存在しない世界に飛ばされてしまっては、彼の超再生能力も発動しない。
生かしたまま封印され、これら3種類のエネルギーの供給を絶たれても同じことだ。
久々に感じる死の恐怖に、冷たい汗が背中を伝う。
若干動揺した瀬名は、ミサイルのうち数発を振り切ることができなかった。
爆発に、巻き込まれてしまう。
だがレオナが「食らってもいい」と判断していたように、機体へのダメージは全くない。
空間転移弾頭ミサイル以外は、爆炎魔法弾頭。
近接信管が作動し、近づいただけで爆発してしまっている。
機体周囲の強固な魔法障壁によって、完全に防げていた。
「セナ。また心拍数が、上がっていますよ? 心配しないで下さい。空間転移弾頭ミサイルの反応は、データベースに登録しました。もう、この〈サンサーラ〉に当てることは不可能です。セナが目を瞑っていても、私の判断で〈エーテルデコイ〉を放出し、回避します」
「頼もしいな。正直、ちょっとビビったよ……」
ミサイルの炎に包まれた〈サンサーラ〉。
その操縦席内で、瀬名は深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
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〈サンサーラ〉が、ノーダメージながら炎に包まれている頃。
〈タブリス〉のコックピットでは、山葉季子が残念そうな声を上げていた。
「あ~、やっぱり撃ち落されちゃったね。空間転移弾頭ミサイルの魔力反応を完全に隠蔽するのって、今の技術じゃ無理だもんね」
「〈サンサーラ〉の〈エーテリック・カウンター・カウンター・メジャー〉(魔力的電子戦防護)は、従来機のものより遥かに進化している。〈シラヌイ〉の〈マルチプルディセプター〉で隠れても、発見されてしまうだろうな。〈エーテリックジャマー〉で、かろうじて無線を妨害できる程度か?」
分析の後、【ゴーレム使い】は呟く。
「あのミサイル、製作に金と時間がかかったのに……。超小型の〈トライエレメントリアクター〉が1個、パアになった」
平坦な口調だが、本気でガッカリしていることを季子は感じ取った。
「ええい! 母上もケンキも、過ぎたことはしょうがないではないか! 次のカードを、切るしかないのじゃ!」
「これが効かなかったら、私と安川君は……」
「母上。妾も地獄の果てまで、お付き合いするのじゃ」
「いや。この〈タブリス〉が破壊されても、マリアは精霊だから死なないだろう?」
「それに『地獄』って、どういう意味? 私と安川君が、地獄行き確定の悪人みたいじゃない?」
「雰囲気じゃ雰囲気! さあ母上! ビットを射出して下され!」
「マリアちゃん、また勝手に! 火器管制は、私だって言ってるのに!」
戦闘継続中にもかかわらず、コックピット内で言い争う母子。
安川賢紀は内心、呆れていた。
同時に、「山葉は変わったな」とも思う。
よく喋るようになった。
300年も生きて、その後は200年も幽霊をやっていたのだ。
性格も変化するはずだと、【ゴーレム使い】は納得する。
「さて、荒木。地獄行きは俺達じゃなくて、アンタの方だ。……山葉。マリアの言うとおりに、ビットを射出してくれ。〈タルタロスプリズン〉を使う」
賢紀の指示通りに、力を振るう季子。
〈タブリス〉の機体周辺に、異空間への4つの穴が開く。
そこから飛び出てきたのは、植物の種に似た形状の飛翔体。
大きさは、全長70cmくらい。
黒光りしながら空を自在に駆けるそれは、ビットと呼ばれるもの。
4基のビットは小型の推進器を噴かし、それぞれバラバラな方向へ一旦散開。
それから目標に向かい、飛行していった。
未だ炎の中にいる〈サンサーラ〉を、取り囲むように。
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〈サンサーラ〉のコックピット内で、レオナが叫ぶ。
「セナ! 炎の向こう側に、何かいます!」
「ああ。わかっている」
炎のヴェールで覆われた前方を、何かの影がちらりと横切る。
炸裂したミサイルの爆炎魔法が邪魔をして、魔力レーダーは役に立たなくなっていた。
よっぽど強力な反応でないと、捉えられない。
赤外線センサーも、使い物にならなくなっている。
「動かないのは、危険だな」
そう判断した瀬名は、機体を急上昇させた。
炎の中から、〈サンサーラ〉が脱出する。
その白い機影を追うように、追跡してくる3つの飛翔体。
それぞれが独立した意志を持つ生き物のように、複雑な機動で〈サンサーラ〉に迫る。
「安川め。また妙な武器を……。これはひょっとして……。マシンゴーレムから独立して動き、攻撃できるビットか?」
ミサイルよりも最高速度は遅いが、運動性はビットの方が上だ。
目まぐるしく動き回る。
瀬名は回避し続けるよりも、早めに撃ち落とすことを選択した。
プラズマライフルの銃口を、ビットに向ける。
「セナ! 頭上に、もう1基!」
レオナの声に反応し、頭上を見上げる瀬名。
チラリと一瞬だけ、4基目のビットを確認。
再び下方のビットへと視線を戻し、撃ち落そうとしたのだが――
4基のビットが、フォーメーションを取る。
〈サンサーラ〉を中心として、正三角錐の頂点に位置するように。
その瞬間、それぞれのビットは3本の光線を発射した。
「俺に当たる軌道じゃない? ……しまった!」
互いの放つ光線が繋がった瞬間、外界から隔絶された異空間が完成した。
ガラスが光を反射するように、三角錐の面がキラリと輝く。
『〈タルタロスプリズン〉、完成だ。さらば荒木。もう帰って来るなよ、女神の使徒』
魔道無線越しに、宿敵【ゴーレム使い】の声が響く。
そして、再びピラミッドの面が光った時――
荒木瀬名の乗る〈サンサーラ〉は、何も見えない暗黒の空間に放り出された。




