第110話 陽動の【ゴーレム使い】~図星かな?~
「見つけたぞ」
荒木瀬名は、XMG-0〈タブリス〉の姿を捉えた。
漆黒のマシンゴーレムは、地面ギリギリを飛行している。
山岳地帯の高低差に合わせ、旋回したり高度を微調整しながら。
相手は最短距離を飛べていないので、簡単に追いつくことができた。
さっそく瀬名は、攻撃を試みるが――
「ちっ! ああも低空を飛ばれると、照準が合わせづらいな……」
機体下部にマウントされた、プラズマライフル〈プレデトロス〉。
その銃口を向けようと機首を下げると、高度が下がり墜落してしまう。
自分も人型形態に変形し、超低空飛行しながら追撃する方法も考えた。
しかし山が遮蔽物になって、狙いにくくなってしまう。
瀬名としては、避けたかった。
狙いを外したプラズマ弾が、これ以上帝国の美しい山々を傷つけるような事態は。
「ならば先回りして、格闘戦に持ち込むまでだ」
瀬名は高度をそのままに〈サンサーラ〉を加速させ、〈タブリス〉の進路上に回り込む。
同時に人型形態への変形を済ませ、目の前に着地した。
安川賢紀の〈タブリス〉も、地上へと降りてくる。
回り込まれたのに、全く怯む様子はない。
瀬名の〈サンサーラ〉に向かって、突っ込んでくる。
〈タブリス〉の両腕には、日本刀のように反った刃。
いつの間にか、手首に装着されていた。
おそらくは【ファクトリー】から、取り出されたものだろう。
刀身は、腕と平行。
切先は、肘側へと向いていた。
まるで二刀を、逆手に構えているような武器だ。
「格闘戦を、受けて立ってくれるか? ありがたいね」
瀬名は既に、プラズマライフルを【アイテムストレージ】にしまい込んでいる。
代わりに握られていたのは、製作者グレアム・レイン自慢の一振り。
高出力プラズマソード、〈魔剣クラウ・ソラス〉。
〈魔剣クラウ・ソラス〉単体では、剣の一部には見えない。
グリップやハンドガード周辺はメカニカルで、SFタッチのデザインだ。
グリップ上部には、青い菱形の水晶が埋め込まれていた。
これは魔力伝導時に、増幅器の役目を果たす。
瀬名が〈魔剣クラウ・ソラス〉に魔力を流すと、光の刀身が形成された。
賢紀も両腕のブレードに、魔力を流す。
タイミングは、同時だった。
青と赤の剣閃が走り、打ち合わされる。
電気がショートするような音と共に、電光と火花が空中に走った。
反発力が発生して、互いの剣が弾かれる。
「セナ! 気をつけて! 敵のブレードは、角度を自由に変えられるようです」
〈タブリス〉の両手首に装着されている刃は、いつの間にか腕と垂直な角度にまで起きている。
最初は腕と、平行な角度だったはずなのに。
「切先が指先側に来るまで、可変できると思っていた方が良さそうだな。たしかに、やりにくい」
黒と白のマシンゴーレム2機は、ほとんど地面に足を着けていない。
雨でぬかるんだ泥を巻き上げながら、地面すれすれを飛行していた。
飛行しながら、何度も交錯して切り結ぶ。
「セナ。相手のブレードは片刃です。外から内への斬撃にだけ、注意を向ければ……」
「普通はそう思うだろ? ところがどっこい……ほら来た!」
峰打ちになってしまうはずの軌道――内から外へ、バックハンドの斬撃が振るわれた。
〈タブリス〉をよく見れば腕と刃とのジョイント部分が回転し、刃の向きは逆になっている。
「普通に、両刃剣の二刀使いを相手にしていると思えばいいだけだ」
瀬名はそう開き直り、〈タブリス〉から繰り出される嵐のような斬撃を捌いていく。
手数こそ、賢紀の方が圧倒的に多い。
だが瀬名は全てを確実に受け止め、流し、時折返す。
〈サンサーラ〉の剣閃は、少しずつ〈タブリス〉を追い込み始めた。
『君に殺されるまで、俺の稽古相手はレクサ将軍だったんだ。二刀の相手には、慣れている』
『なら、もう1本追加してやる』
斬撃を避けるために、瀬名がわずかに機体を後退させた瞬間だった。
突如、突き付けられる銃口。
〈タブリス〉の両腕にあったブレードは、たたまれていた。
代わりに【ファクトリー】から取り出したショットガンを、両手で構えている。
目にも留まらぬ早技だったが、瀬名は反応できていた。
ブレードがたたまれたのを見た瞬間、危険を察知していたのだ。
ショットガンが発砲される直前に足裏の推進器を最大出力で噴かし、急速に後退していた。
広範囲に散らばった散弾全ては避けられなかったが、充分に距離を取ることができた。
さらに装甲の防御力もあって、損傷はゼロだ。
〈サンサーラ〉の装甲は特殊で、〈魔力変換装甲〉という。
リアクターの余剰出力を用い、装甲の分子間結合力を強化する代物だ。
これにより、機体を軽量化しつつも高い防御力を実現している。
ショットガンを弾き、瀬名もレオナも安心したところに57mmライフル弾が飛んできた。
機体を捻って、何とか回避する瀬名。
「もう1本」とか言っておきながら、まさかの2本追加。
そもそも銃なので、数え方は「丁」。
「本」ではない。
『クッソ! 相変わらず、性格悪い!』
『セナ! ヤスカワが逃げます!』
賢紀の〈タブリス〉は空中へと飛び上がり、帝都ルノール・テシアの方角へと向かおうとしていた。
だがその行く先を、オレンジ色の閃光が遮る。
〈サンサーラ〉の腰から放たれた高出力プラズマランチャー、〈リインカネイター〉だ。
今度は何もかもを吹き飛ばしてしまわぬよう、出力が抑えられていた。
『しつこく帝都を、単機で攻撃しようとするんだな……。俺と〈サンサーラ〉の追撃を振り切って、そんなことができるとでも思っているのか?』
『やってみなければ、わからないだろう?』
『もう、演技は止せ。どうせ君は、陽動だろう? 今頃エリーゼ女王率いるルータス軍本隊が、国境沿いに配置している帝国軍マシンゴーレム部隊を強襲している。……違うか?』
雷光が瞬き、2機のマシンゴーレムを青白く染める。
『……なぜ、そう思う?』
相変わらずの淡々とした声で、自由神の使徒は魔道無線機越しに返信する。
『「エースパイロットが乗る、高性能機による陽動」。ルータス奪回までの戦いで、君達は何度もそれをやっている。兵力に差があるから、そうせざるを得ないんだろうけどね……。さすがに、こちらも慣れるよ』
『…………』
『言い返さないところを見ると、図星かな? 残念だが国境の部隊は、ルータスの首都エランへ向けて進軍を開始している。強襲されないよう、迂回しながらな。最低限の兵しか置いていないエランを再び占拠され、エリーゼ女王の部隊は孤立する羽目になるだろうな』
『ならばアンタを倒して、俺が駆けつけるだけだ』
言い終わると同時に〈タブリス〉のライフルから、57mm砲弾が放たれた。
『安川! 今の俺にはもう、化学反応や爆炎魔法の力で砲弾を飛ばす兵器は通用しないぞ!』
賢紀が持つ【ゴーレム使い】の加護が成長してきたように、瀬名の【英雄】も進化し続けていた。
動体視力も反応速度も、常軌を逸したものになっている。
操縦技術の向上もあり、マルチランチャー〈スターダスト〉のプラズマ弾を空中で撃ち落とせるほどだ。
今の瀬名にとって、秒速2km程度が限界である従来の砲弾はスローモーションのように感じてしまう。
ライフル弾ならば、その回転すらもハッキリ見えてしまうほどだ。
〈サンサーラ〉のような運動性が高い機体に乗っていれば、余裕を持って回避できる。
実弾兵器を当てたければ、弾速の速い電磁加速砲でも持ってくるしかない。
ゆっくり自分に迫ってくる砲弾を、機体を半身にしてかわそうとする瀬名。
(……ん? 何だ?)
視野も、驚異的に広い瀬名。
彼は視線を砲弾に向けながらも、〈タブリス〉の足元に何か変化が起こるのを視界の端で捉えていた。
何も無い空間に黒い稲妻が走り、穴が開く。
直径1m程の大きさだ。
そこから突き出て来たのは、サイズから見てマシンゴーレム用と思わしき銃火器の砲口。
(見覚えがある。あの大きな砲口は……〈フレアハウンド〉のグレネードマシンガン!)
かつて瀬名の目の前で、強固な防御力を誇る〈ミドガルズオルム〉をズタズタにした高火力兵器。
認識した瞬間、瀬名は空中へ飛翔した。
高度を取る〈サンサーラ〉。
一瞬前までいた地面に、衝撃波と炎の嵐が巻き起こる。
強力な爆炎魔法が付与された、グレネード弾の雨が降り注いだのだ。
炎の嵐を振り切るように、白き天使は空へと舞い上がった。
少しばかり炎に包まれてしまったが、常に薄く展開されている魔法障壁によってダメージは無い。
だがもしグレネード弾が直撃すれば、魔法障壁を貫通した内部で爆炎魔法が炸裂する。
さすがの〈サンサーラ〉でも、損傷を受けてしまうだろう。
「今のは、ひょっとして……。【アイテムストレージ】……いや、奴の場合は【ファクトリー】だったな。その中から射撃したというのか? 馬鹿な!?」
驚愕の呟きを聞かれぬよう、瀬名は魔道無線機のマイクをオフにしていた。
今の〈タブリス〉の攻撃は、有り得ない。
「俺もできないか、試したことはあったけど……。異空間から取り出す役と、異空間内部の銃に干渉して発砲する役を両方こなさないといけない。だから俺が、2人いないと無理……2人?」
操縦席内でブツブツと呟いていた瀬名だったが、再びマイクをオンにした。
『……そうか。山葉季子は、「時空魔王」だったな』
『ご明察。私は安川君の【ファクトリー】に干渉して、中から発砲することができるの。……こんな風にね!』
今度は4ヶ所に、黒い穴が開く。
〈タブリス〉の右上。
右下。
左上。
左下。
それぞれの穴から現れたのは、金属製の四角い箱。
箱の中ではびっしりと敷き詰められたマイクロミサイルが、弾頭を〈サンサーラ〉に向けていた。
『〈サンサーラ〉、ロックオンなのじゃ!』
『んもう、マリアちゃん! 火器管制は、私に任せてって言ったのに。……マイクロミサイル、全弾発射!』




