閑話11 レヴィのアドバイス~どれの話ですか?~
魔王陵の入り口。
受付小屋の前では、2人の魔族が嘆息していた。
受付嬢のキャデラと、ベテラン探索者のデミーオである。
「あの子達……。帰ってこないわね……」
「若い奴らが、帰ってこない……。探索者稼業やってて、1番気分が沈む時だ」
「私……もうこの仕事、辞めようかしら? 顔見知りの人達が、いつものように挨拶して魔王陵に入っていく。……なのにある日突然、帰ってこなくなる。それがこんなにもつらいなんて、就職する時は考えもしなかったわ」
「俺達が探索に潜っている時も、そんなに心配してくれているのかい?」
軽口を叩いたデミーオに、キャデラはキッと怒りの視線を投げつけた。
「当たり前でしょう! デミーオさんが帰ってこなかったら、私……。私……」
「悪かったよ、キャデラ。まったく。魔王陵探索者というものは、因果な商売だな。俺達も生きていくのに充分な額は稼いだし、そろそろ引退を考えるべきかな?」
「私も、転職しようかしら? でも、いい転職先あるかな?」
「引退した探索者のところに、永久就職っていうのはどうだ?」
「デミーオさん!? それ、本気!?」
普段は青白いキャデラの頬が、サッと赤く染まる。
「ああ、本気だよ。探索者以外の仕事をするにしても、毎日君に見送って欲しいんだ」
周りに誰もいないのをいいことに、2人は互いに手を取り合い見つめ合った。
せっかく盛り上がっていたキャデラとデミーオだったが、慌てて離れる。
目の前にある脱出用転移魔法陣が、強い輝きを放ち始めたからだ。
誰かが魔王陵から、出てくる。
「良かった! きっと、あの子達よ!」
入場者名簿に名前があり、帰還していないのは4人だけ。
ケンキ・ヤスカワ。
エリーゼ・エクシーズ。
アディ・アーレイト。
イースズ・フォウワードのパーティだ。
「ん? ちょっと待て、キャデラ。脱出階数表示が、おかしくないか?」
「え!? ウソ!? 魔道具の故障じゃないの!?」
長年受付嬢を勤めてきたキャデラが、初めて見る3桁の数字。
『地下100階』。
それは魔王陵を、最深部まで踏破したことを意味する。
魔法陣を包む光のカーテンの中から、人影が出てきた。
名簿に名前を書いたまま、戻ってきていなかった4人の若者達だ。
誰ひとり欠けることなく、彼らは無事に帰ってきた。
――否。
欠けるどころか、増えていた。
「んーっ。200年ぶりの外は、気持ちいいね。あ。こんにちは、私の子孫達……っていうわけでもないか。私のかつての国民達? いやいや、当時は君主制だったけど、私のモノ扱いは良くないよね」
「あわわわ……。本物なの!?」
「魔石と共に、魂は未だこの世に存在していらっしゃると言い伝えられてはいたが……」
ケンキ・ヤスカワ達のパーティと共に現れたのは、伝説となっている人物。
艶やかな長い黒髪に、紫がかった黒鳥の翼。
そして「返り血が目立たないから」という理由で、よく着用していたワインレッドのドレス。
魔国ディトナの住民なら、誰でも知っている存在。
『魔王アクヤック・レイジョール様!』
「違ーーーーう!」
かつて時空魔王としてこの地を支配していた山葉季子は、怒りと悲しみの混じった絶叫を上げた。
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「なんてこと……。学校の教科書にも、アクヤックの名前で記載されているなんて……」
「ええ。俺も古い文献では、トキコ・ヤマハという名前も見かけたことがあるんですが……。一般的には、全く浸透していません」
デミーオの説明に、季子は顔を両手で覆った。
「首都は今も、魔法都市イムサなの? 安川君! 今すぐイムサ行政府に行って、教科書に載ってる私の名前を訂正させよう!」
「山葉、残念ながら却下だ。みんな疲れてるから、ここで1泊するぞ。イムサは帰りにまた寄るから、その滞在期間中に頑張れ」
「ヤスカワさん、また勝手にコテージ建てる気ですね? まあ、黙認しますけど。すぐにどかして、地面も戻せるってもう分かってるから」
キャデラが言い終わる前に、安川賢紀は土魔法による整地を始めていた。
あっという間に、立派なコテージが出現する。
やれ「疲れた」だの「お腹が空いた」だの言いながら、若者達はコテージの中へ消えて行った。
魔王陵最深部踏破という、歴史的快挙を成し遂げた者達には見えない。
「あ……。そう言えば魔王様の魂、ここからいなくなっちゃうのよね? これからもダンジョンって、正常に動くのかしら?」
「それは、望み薄だろうな……。やれやれ。これは否応なく、引退だな」
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コテージ内で、夕食を取った後。
エリーゼは季子の魔石を、自室に持ってきていた。
「ヤマハさんにだけ、話があるの」
賢紀と季子本人に、そう断りを入れて。
魂だけの存在になった季子は、自分の魔石からあまり遠くに離れることができないのだ。
「さて、エリーゼちゃん。お話って、何かな?」
「えっと、ヤマハさん……。その……。ケンキとは、これからどうするんですか?」
「そりゃあ、お互い好きだったって分かったんだもん。一緒になるよ」
当然でしょ? とでも言わんばかりの返答に、エリーゼの顔が凍りついた。
凍りついた表情筋をむりやり動かして笑顔を作り、ぎこちない声で彼女は質問を続ける。
「前の旦那さんは、どうされたんですか? ティーゼお義母様の、お父さん」
「ティーゼは私の娘だけど、分身体みたいなもの。だから、父親はいないよ」
エリーゼは、みるみる落ち込んでいった。
最後の希望を込めて、もうひとつ質問を追加する。
「一夫多妻制について、どう思われますか? この世界では、さして珍しくはないのですが……」
「絶対認めないよ。私も安川君も、日本人。一夫一妻制で、重婚は罪になる国で生まれ育ったの。もし浮気したら、相手の子はマリアちゃんと同じ刑に処す。安川君は2度と浮気できないよう、異空間に監禁する」
それを聞いたエリーゼは、机に突っ伏した。
「あ……。エリーゼちゃんのHPが、ゼロになった」
ひと目会った時から、季子には分かっていた。
エリーゼが賢紀のことを、どう思っているかなど。
「ティーゼお義母様は、一夫多妻全然OKな人だったのに……」
「ティーゼか……。ティーゼ・ヤマハはね、私がもうすぐ寿命で死ぬって時に生み出したの。私が死んだ後、ひょっとしたらいつか、安川君がこの世界にくるかもしれないって思って……」
季子は遠い目で、コテージの天井を見上げた。
「私が安川君と結ばれないなら、ティーゼがそうなったらいいなって……。でもそれって、私のひどいエゴだよね。そんな理由で生み出されて、あの子は幸せだったのかな……?」
「そりゃあもう! お父様と一緒にいる時のティーゼお義母様は、いつも幸せそうでした!」
顔だけテーブルからガバっと起こし、エリーゼは力説した。
「ふふっ、良かった。あの子が自分の愛する人を、見つけることができて……。最期まで、添い遂げることができて……」
「他に妃がいても、幸せになれるんですよ。だからヤマハさんも是非、一夫多妻制導入のご検討を……」
「ダ~メ。それは貴女のお父さんが、複数の女性を上手に愛せる男だったから。お妃さん同士が争わないように、もの凄く気を配っていたはずよ。安川君は、そういうことができるタイプじゃない。それは貴女も、良く分かっているでしょう?」
再び机に突っ伏したエリーゼを、季子は可愛いと思ってしまった。
「ちょっと、意地悪し過ぎちゃったかな? ねえ、エリーゼちゃん。私を見て」
顔を上げたエリーゼの頬に、季子は両手で触れようとした。
だがその手はエリーゼの顔を通り抜け、後頭部から飛び出してしまう。
「私は魂だけの存在。安川君と再会できたのは嬉しいけど、もう彼に触れることはできないの。一緒になるなんていっても、何もできやしない。抱きしめることはおろか、手を握ってもらうことだって……」
季子よりも、エリーゼの方が悲しそうな顔をしていた。
他人の不幸を、自分のことのように悲しんでくれる少女。
彼女を見て、季子は思った。
「この子になら、彼を任せてもいい」と。
「だから、もう少しだけ……。操縦席の中で、彼と一緒に居させて。もうじき魔神様の神罰が解けて、私はこの世からいなくなる。その後は、貴女が彼を……」
涙を流すエリーゼに、季子は触れることができない。
それでも彼女の頭を抱きかかえ、長い銀髪を季子は優しく撫で続けた。
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季子の魔石は、エリーゼの手によって賢紀の部屋まで届けられた。
今は部屋のテーブル上に、置かれている。
隣の賢紀の部屋までぐらいの距離なら、魔石から離れることも可能だ。
しかし壁をすり抜けて移動すると、いかにも幽霊っぽくて季子は悲しくなる。
おまけに、周りの人間の心臓にも悪い。
「山葉。実はレヴィ……【ファクトリー】の中にいる水の高位精霊が、大事な話があるそうだ。俺と、お前にだけな」
「うん、何かな?」
実体を持たない水しぶきを上げながら、空中にレヴィが現れた。
「なーに。ちょっとアドバイスを、くれてやろうと思ったのさ。そこの小僧がずっと悩んでいる問題を、何とかできるかもしれないと思ってね。……時空魔王のあんたが、協力すれば」
「俺の悩みだと? まあ確かに、いくつか解決の目処が立っていない問題はあるが……。どれの話だ?」
レヴィは長い角を、振りかざしながら答えた。
「不死の英雄……セナ・アラキの殺し方さ」
こんにちは、山葉季子です。
アクヤック・レイジョールの名前で呼んだ人は、次元の狭間に放り込むので注意して下さい。
どう、このお話楽しめてる?
次は最終章だし、評価やブックマーク登録をお願いしてもいいかな?
やり方は簡単。
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この下にある★★★★★マークのフォームから、評価の送信ができるよ。
……え? 評価してやるから何かくれって?
そうだね……。私の力作BL本とかどうかな?
※本気にしないで下さい。また、魔王トキコ・ヤマハの過激BL本は、魔国ディトナ内で所持していた場合、法律により罰せられます。




