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【解放のゴーレム使い】~ロボはゴーレムに入りますか?~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
第6章 魔族の国 魔国ディトナ編

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第102話 あの日の真実(2)~そこに彼はいないんでしょう!?~

 気がつくと、(やま)()(とき)()は神殿と思わしき建造物の中にいた。


 自身の恰好は、Tシャツとハーフパンツ。


 車に()ねられ酷い怪我を負ったはずなのに、なぜか血で汚れてはいない。



 神殿は床も壁も柱も全て、黒曜石を思わせる黒い石で作られていた。


 重苦しい(せい)(じゃく)と、謎の圧迫感が(ただよ)う空間だ。


 壁や柱には、オイルランプのような照明器具がかけられている。


 青い炎が揺らめき、室内を冷たく照らしていた。




「ああ。ここがあの世なんだなあ……」




 冥界の入り口としか思えない(おもむき)の室内を見渡して、季子は(みずか)らの死を理解した。




「うーん。ここから何とか、帰れないかな? まだ、(さん)()の川を渡った記憶はないし……。今から後ろを振り返って全力ダッシュすれば、現世に戻れたりとか?」




 季子はクルリと、背後を振り返った。


 闇に向かって、どこまでも通路が伸びている。




『そんなことはやめておけ、無力な娘よ。貴様の肉体は、すでに死んでいる。戻っても、生き返るなど不可能だ』


 季子の疑問に答えるかのように、声が神殿内に響き渡った。


 低い男性の声で、(いく)()にも反響して聞こえる。




 数拍の間を置いて、幽霊のように透けた人影が現れた。


 ちょうど季子の背後だ。




 振り返ってよく見ると、透けた人影は青年の形をしていた。


 徐々に全身の色が濃くなり、はっきりとした姿になる。




 さらりとした、ミディアムの黒髪。


 同色のロングコートは、闇と同化していた。


 髪と服装が黒いので、肌の白さが目立つ。


 眼鏡越しに、鋭い目つきがうかがえる。


 神殿内の光源であるランプの光が、レンズを青く光らせた。


 美形だが、やけに(こく)(はく)な印象だ。




(うん。属性は、ドS眼鏡ってところね)


 季子は勝手に、青年をカテゴライズした。




「貴様は、生き返ることはできない。……しかし私の与える使命を果たすと約束するなら、異なる世界での新たなる人生を授けよう。しかも今の記憶を、引き継いでだ」


 青年は、眼鏡のブリッジをクイッと押し上げながら名乗る。


「我が名は魔神ヴェントレイ。トキコ・ヤマハよ、貴様は魔神の使徒となれ。絶滅の危機にある魔族達を(まと)め上げ、他種族に魔神の力を知らしめよ! 私への信仰心を、取り戻させるのだ!」


 コート(すそ)をバサーッ! とはためかせ、カッコよく決めた魔神様。


 だが季子は彼の決めポーズを無視すると、回れ右して通路の奥――闇の中へと全力ダッシュを始めた。




 数歩進んだところで、季子は(えり)(くび)(つか)まれ引きずり戻される。


 首を(ひね)って背後を見ると、魔神の手首から先が黒い蛇のように変化していた。


 それが彼女に巻き付き、拘束していたのだ。




「聞いていたのか? トキコ・ヤマハよ。貴様は新たなる世界で、【魔神の使徒】として――」


「いえ。私そういうの無理なんで、他を当って下さい。私は現世に帰ります! 肉体が死んでてもいいんで、帰ります! 幽霊でも構わないから、帰ります!」


「意外と強情な。今なら前世の記憶だけでなく、特別な力【魔神の加護】も付けてやるぞ? お前の住んでいた日本では、『チート能力』と呼ばれているのだろう? 貴様ら日本人はこういうのが大好きだと、知り合いの()(しん)が言っていたぞ?」


「駄神の言うことなんて、真に受けないで下さい。リサーチ不足です。女の子はチート能力で異世界無双するよりも、乙女ゲームの世界に転生して破滅エンドを回避したり、ざまぁするのが大好きなんです」


「むう……。フリードの奴め、相変わらず適当なことを言いおって……。まあ待て、トキコ・ヤマハ。『幽霊でも構わない』と言ったな? 魂だけの不安定な存在になった貴様が、ここから無事に地球まで帰れる可能性は低い」


 幽霊として帰還することすら、難しい。


 その事実は、季子の胸に重くのしかかった。




「あんなに『生きたい』と、叫んでいたではないか。ここはひとつ、異世界で生まれ変わり逆ハーレムでも築いてだな……」


「だって……。生まれ変わっても、そこに彼はいないんでしょう!?」


 全身を振り向かせた拍子に、季子の瞳から涙の(しずく)が飛び散った。


 魔神ヴェントレイも、ここまで(かたく)なに(こば)まれるとは思っていなかったのだろう。


 酷薄そうな表情から、人間味を()びた困り顔になっていた。




「トキコ・ヤマハ……。貴様の地球での最期には、同情するが……。転生すれば貴様は、約300年の時を生きる魔族として生まれる。人の魂は世界を越えて、輪廻転生を繰り返す。長生きすれば、彼の生まれ変わりに出会う可能性もゼロではない」


「300年……。それだけの時間があれば……」


「前向きに、検討してくれるか? 今なら加護は、2種類から選べるぞ。まずは絶大な魔力量と、魔法知識。異空間に大量の道具を保管できる、【次元収納魔法】も得られる【魔王】という加護」


 魔神ヴェントレイの右手に、光の球が浮かび上がった。


 続けて左手にも、光球が生まれる。


「……そして不人気で、いつも売れ残ってる【ゴーレム使い】だ。こちらはあまり、おすすめできぬな……」


「そうですね、【ゴーレム使い】はないです。ヴェントレイ様。魔神の使徒としての使命を果たした後、残りの人生……魔族生は好きに生きていいんですか? 【魔神の加護】は、取り上げられたりしませんか?」


「ああ、かまわぬぞ。加護は使命を果たした(あと)も、そのまま残る。貴様が使命を果たせなかった場合は、私が消滅してしまう。そうなったら、加護も消えてしまうがな」


「もうひとつ、質問。次元や世界の壁を越えるのって、神々の(きん)()だったりします?」


「いや。越えた先の世界を害するのでなければ、特には……。まさか、貴様……」




 季子が何を(たくら)んでいるのか、魔神ヴェントレイは(さっ)したようだ。


 何度も眼鏡をクイする。




「地球と異世界では、時間にズレが生じる。お互いが生きているうちに帰ろうとするなら、空間だけでなく時間にもある程度干渉する必要があるのだぞ? わかっているのか? それは神々の所業と変わらぬ」


 魔神ヴェントレイは驚きつつも、季子の計画を否定しているわけではないようだ。


 むしろ、どこか面白がっているようにすら見える。


「異世界での魔法は、無限の可能性を秘めた力。だが時空を飛び越える魔法など、存在していない」


「でも【魔王】の能力で、【次元収納魔法】はあるんですよね? それを解析して、発展させれば……」


「恐ろしい執念だな……。可能性は、ほとんどないぞ?」


「人型機動兵器のパイロットになるなんていう(こう)(とう)()(けい)な夢よりは、たぶん現実的ですよ」


 (やす)(かわ)(けん)()は中学生の時まで、そんなことを本気で言っていたらしいのだ。


 高校に入ってからは、周りに「産業ロボットメーカーの開発職を目指す」と公言していた。


 しかし、季子は気付いていた。


 彼は(いま)だに心の奥底で、「人型ロボットに乗りてえ~」と思っている男なのだ。


 産業ロボットメーカーを足がかりに、「いつかは自衛隊用の人型機動兵器を作り出す」とかいう野望を持っていたのかもしれない。


 今や双腕式パワーショベルなどという、ロボットじみた建設機械も存在するのだ。


 重機オペレーターの職についたことですら諦めなどではなく、壮大な野望の第1歩に過ぎないのかも知れない。


 季子は勝手にそう思っていた。

 



 ――目標への執念という点において、彼に負けるわけにはいかない。


 魔神の使徒の使命も、世界の壁も上等だ。


 みんなさっさと片付けてやる。




「……? よく意味はわからんが、やる気になってくれたのは結構なことだ。さっそく【魔神の加護】、【魔王】の能力を授けよう」


 ヴェントレイの手の平から、光の球が飛ぶ。


 光球は、季子の胸へと吸い込まれていった。




「これは! 凄い力……。これならきっと……。そうよ、私は世界の壁を越えてみせる。時空を自在に操る魔法を編み出すのよ。今日から私は魔王……時空魔王、山葉季子!」




 この時の季子は、想像もしなかった。


 生まれ変わった先で、アクヤック・レイジョールなどというふざけた名前を付けられるという未来を――






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 魔王陵最下層で、幽霊季子は賢紀にまくし立てた。


 転生してからの苦労を。




 彼女がエンス大陸に転生してきたのは、今から500年も前。


 これは魔神ヴェントレイが言っていた、異なる2つの世界における時間のズレだろう。


 当時の魔族は、大幅に数を減らしていた。


 そのくせ協調性がなく、皆がバラバラに活動していたのだ。


 力の強い魔族達は、自信家ばかりだった。


 「我こそは魔王!」と吹聴しては他種族に喧嘩を売り、逆に追い詰められ数を減らしていくという有様。


 魔王気取りなその連中を、季子は全員叩きのめして配下にしたらしい。


 そこから百年かけて魔国ディトナを建国したりと、本当に大変だったようだ。




「……しかもその後、『魔王トキコ・ヤマハ』って改名しても誰も聞いてくれないし……。最後まで、『悪役令嬢』だったの」




 途中まで、泣きそうな気持ちで季子の回想を聞いていた賢紀。


 だが、季子が魔王気取りを叩きのめして回った件。


 そして『悪役令嬢』の話を聞いて、心の中で噴き出してしまう。


 賢紀はあくまで心の中で噴き出してしまっただけだが、背後ではエリーゼ・エクシーズが本当に腹を抱え爆笑していた。


 初対面のくせに、季子に対して失礼だ。


 賢紀はそう思い、やめさせようとしたのだが――




「ブフーッ! 『いつも売れ残りで、オススメできない【ゴーレム使い】』! 『【ゴーレム使い】はないです』! やめて~! もうそれ以上、ケンキを追い込まないで~!」


 エリーゼが笑っていたのは季子ではなく、賢紀のことだった。




「ひょっとして、安川君の加護って……。ゴメンね。私が【魔王】、取っちゃったから……。安川君、【魔王】とか好きそうなのに」


「いいんだ、山葉。今は【ゴーレム使い】の能力が、気に入っている」




 エリーゼは、しつこく笑い続けていた。


 平静を保っているように見える【ゴーレム使い】だが、段々腹が立ってくる。




「ふむ、よかろうエリーゼ。お前が馬鹿にした【ゴーレム使い】の能力、思い知れ」




 賢紀は【ファクトリー】から取り出した、新型のマシンゴーレムを起動する。


 今まで戦闘に使っていた〈トニー〉よりもひと回り小さく、賢紀の身長よりは少し全高が低い。


 四肢は細くてスマートになり、いかにも運動性が高そうに見える。


 だがこのマシンゴーレムは、戦闘用ではない。


 新型マシンゴーレムは、エリーゼの背後に回り込んだ。


 動体視力に優れた彼女でも、見失ってしまうほどのスピードだ。


 背後へと回り込んだ新型マシンゴーレムは、高速回転する両拳でエリーゼのこめかみを圧迫した。




「ギャアー! 何よ!? コレ!?」


「お仕置き用マシンゴーレム、〈エクスキューショナー君〉だ。〈トニー〉でやると死ぬって言ってたから、新規開発した」


「それだけのために、新しいマシンゴーレムを!? ……何よ!? コイツのボディ!? ミスリル合金にルーンタイト、レアメタルの使い過ぎよ!」




 季子も賢紀の変態的なゴーレムを見ながら、呆れていた。


「地球のカーボンファイバーまで再現して使ってるし、(ぜい)(たく)ねえ。ネーミングセンスも、相変わらずだし……。そうそう。お仕置きで、思い出した……」




 季子は虚空に向かって、微笑んだ。


 この笑みを、賢紀は知っている。


 高校時代、絵の描き方を教わっていた頃だ。


 彼女からの注意点を守らず、勝手に描いてしまった時に見せた笑顔。


 静かなる激おこモードな時の季子だ。






「マリアちゃん、居るのは分かっているのよ? 出てきなさい」






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