第99話 最下層の番人~話が違うんじゃないですか?~
魔王陵地下80階。
安川賢紀達の現在位置は、ボス部屋の手前。
脱出用の転移魔法陣がある部屋で、休んでいた。
この部屋は、魔物が入ってこない仕様になっているらしい。
案内用石碑にも、ここでの休息が推奨と書かれている。
賢紀達一行も睡眠を取るべく、部屋を占拠していた。
【ファクトリー】から取り出した4人分のベッド(しかもそれぞれがクイーンサイズ)を、広げてしまっているのだ。
そんな中、ベッドに入った賢紀はポツリと漏らした。
「マシンゴーレムに乗りたい……」
「どうしたのケンキ? 突然、マシンゴーレムに乗りたいなんて……」
寝間着姿のエリーゼ・エクシーズが、その呟きに反応した。
寝間着はけっこう薄手なため、色々なところが盛り上がって扇情的な姿になっている。
エリーゼ自身も賢紀に見せつけようとしている節があるが、【ゴーレム使い】は今それどころではないのだ。
「ダンジョン探索飽きた。帰ってマシンゴーレムに乗りたい」
それは嘘偽りの無い、賢紀の本音だった。
彼はダンジョンアタック系のゲームや小説は、「そこそこ好き」ぐらいの感覚でしかない。
ロボのように、病的に好きなわけではないのだ。
「もう! ワガママ言わないの! 時空魔王の魔石が新型マシンゴーレムの開発に必要だから、わざわざここまで来たんじゃない!」
魔王陵探索を結構楽しんでいるエリーゼは、賢紀の発言をワガママと切って捨てる。
「でも、ケンキさんの気持ちもわかるばい。あたし達、操縦のブランクが空いとるよね? 次回の休憩の時に、久々にシミュレーター訓練ばせんね?」
「イースズ! 訓練でケンキ様にボロボロにされて悦ぶのは、あなただけですわ。自分の性癖に、皆を巻き込まないで下さい」
イースズ・フォウワードの提案に、アディ・アーレイトは尻尾をプルプル震わせながら抗議した。
「シミュレーターを稼動させると、俺の魔力がメチャメチャ消費されて休息にならないんだが……。まあ、いいか。とっとと魔王の魔石を手に入れて、帰ろう」
賢紀は悶々とした気分で眠りに就いた。
彼を悶々とさせているのは、周りですうすうと可愛らしい寝息を立てて眠る美女達ではない。
今や懐かしいとまで感じるようになってしまった、マシンゴーレムの操縦席だった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
魔王陵の地下81階からは、海辺のエリアといったところ。
大海に浮かぶ細長い形状の島と島を、ドアが繋いでいる。
そう、ドアだ。
ドアが砂浜にポツンと佇んでおり、開けると次の島へと続いているのだ。
ドアの背面に回りこんでも、ただの壁になっているようにしか見えない。
だが扉を開いた先に広がるのは、確かに今までとは違う別の島だ。
「さすがは時空魔王と呼ばれる、アクヤック・レイジョール。いや、アクヤえもんと呼ぶことにしよう」
賢紀は魔王に、国民的猫型ロボットっぽいニックネームを付けることにした。
このドアといい魔王が使いこなしていたという【次元収納魔法】といい、両者には共通点が多いと思ったからだ。
「妙に語呂が悪いニックネームね。……それにしてもこのドア、どんな仕組みになっているのかしら?」
「さっぱりわからん。空間魔法というのは、とてつもなく高度で複雑な魔法だな。このドアを【ファクトリー】に入れて、持ち帰ってみたいが……。入らなかった」
「早速パクろうとしたのね……。持って帰ったら、絶対キャデラさんに怒られるわよ」
「どこでもトビラ」の解析を諦めた賢紀達一行は、先に進むことにする。
道中では海の中から、水棲系の魔物が次々と現れては襲い掛かってきた。
飛び魚。
亀。
半魚人。
海蛇などだ。
さすがにこれくらい下層のエリアになると、魔物達も強い。
上層のザコ達と違って、瞬殺とまではいかない。
賢紀達は探索のペースを落としつつ、慎重に魔物達を撃破しながら下層へと進んで行った。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
地下90階。
「……デカイな」
「ほんとね。イカ焼きにしたら、何人分できるのかしら?」
賢紀達の前に聳え立つのは、ちょっとした山くらいの巨体を持った魔物。
タコとイカを掛け合わせたような姿をしているそれは、アトミック・クラーケンと呼ばれている。
あまりにも大きなこのボスとの戦闘を想定してなのか、今回の戦場はかなり広い島となっていた。
アトミック・クラーケンは、海の浅い部分にいて上がってこない。
しかし陸からでも、魔法やライフルでの攻撃ならば充分届きそうだ。
「それにしても、この大きさは厄介だな……。水の中の魔物だし、ベッツさんから教わった、雷の魔法が有効か?」
賢紀が攻め方を考えていると、隣でイースズが感嘆の声を上げた。
「まうごつデカかね~。マシンゴーレムの全高よりも、大きかばい!」
その言葉を聴いた瞬間、賢紀の脳裏にある作戦が閃いた。
目の前の脅威を速やかに排除しつつ、自らの欲求も解消できる名案だ。
「なあ。ここで、マシンゴーレム出したらダメか?」
はじめは全員が「ええっ!?」という反応を示したが、すぐに納得の表情になる。
これだけ広い空間があれば、全高8mを超える第2世代型マシンゴーレムでの戦闘も可能だろう。
さっそく賢紀は【ファクトリー】の中から、愛機XMG-4〈シラヌイ〉を取り出そうとしたのだが――
(うーん、うーん。ケンキ、妾はお腹が痛いのじゃ。〈シラヌイ〉は使えぬ)
【ファクトリー】の中にいる闇の高位精霊マリアが、賢紀に念話を飛ばしてきた。
演技くさい口調で。
精霊が腹痛を起こすなど、聞いたことがない。
「そうか? 仕方ないな。ならば久しぶりに、MG-2〈ユノディエール〉で……」
(ケンキ用MG-2の〈擬似魂魄AI〉は、妾が食った。もう動かぬぞ)
「勝手なことを……。GR-1だと、少々手こずりそうな大きさだしな。どうしたもんか……」
(ハーイ! ハーイ! ケンキさん! オイラと〈サルタートリクス〉は、いつでも準備OKだよ!)
マリアと同じく【ファクトリー】内にいる土の高位精霊ヨルムが、やる気満々の念話を飛ばしてくる。
「ヨルム。俺を〈サルタートリクス〉に、乗せてくれるのか?」
(えっ、それは無理だよ。シート形状やペダル、レバーの位置が、エリーゼちゃん用のセッティングになっているから)
今や安川Xナンバーズは、特定のパイロットに合わせた専用機と化している。
操縦装置の剛性を上げるために、シートなどの調節機構を省略してしまったのが裏目に出た。
賢紀より30cmも小柄なエリーゼに合わせた操縦席では、下手したら座ることさえできない。
(ケンキ! 妾という者がありながら、ヨルムに浮気するとはどういうことじゃ!?)
「マリア。そんなことを言うのなら、お前が出てこい」
(うーん、うーん、またお腹が……)
「仕方無いな。ああ。俺も乗りたいが……エリーゼ、頼む」
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
エリーゼが乗った、XMG-2〈サルタートリクス〉の強さは圧倒的だった。
まずは左腕に備えた小型ランチャーから、牽制射撃。
低威力だが着弾時の閃光だけはド派手な光弾が発射され、アトミック・クラーケンが怯む。
さらにエリーゼは、爆弾を投擲した。
賢紀が発明したもので、〈ディスタービンググレネード〉という。
炸裂と同時に〈ディスペルチャフ〉を撒き散らし、相手の魔力感知を撹乱する。
後は魔剣〈エヴォーラ〉の出番だ。
ガラスのように透き通るプラズマソードの刀身で、触手を1本1本丁寧に斬り落としていく。
エリーゼは最後に、アトミック・クラーケン本体を細切れにした。
『あー。やっぱりマシンゴーレムの操縦は、楽しいわね!』
わざわざ外部魔道拡声器で、爽やかな感想を漏らすエリーゼ。
彼女に悪意はないのだろうが、賢紀は恨めしい気持ちで〈サルタートリクス〉を見つめるのだった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
(ああ、やっぱマシンゴーレムはいいな。俺も乗りたかった……。マリアの奴め、見え見えの仮病を使いやがって。……アイツ、何で出たがらなかったんだろう? いつもならすぐ、【ファクトリー】の外に出たがるのに……。そういえば魔国ディトナに入ってから、全然出たがらないな。何でだ?)
賢紀は考えごとをしながら、魔王陵を突き進む。
途中で何度か、魔物が襲ってきた。
【ゴーレム使い】は上の空ながらも反応し、〈トニー〉で殴り飛ばしていく。
ふと賢紀が気付くと、他の3人が足を止めていた。
「ん? みんな、どうした? ここが地下91階か? 綺麗なところだな」
いま賢紀達が立っているのは、水晶のような材質で出来た床の上。
透かしてみれば、足元には星空が広がっている。
頭上を見上げても星空。
赤い天の川が見えた。
正面には白磁の壁を持つ、ドーム型をした建物が存在している。
黒い大きな扉が、ドームへの来訪者を拒むかのように固く閉ざされていた。
「信じられませんわ! よっぽどボーっとしてたのですわね」
「それであの戦いぶりは、凄かばい。エルダー・ブラックドラゴンを、〈トニー〉でワンパンしたのは憶えとらんとね?」
「ケンキ……。ここはもう、地下100階よ」
「……マジか?」
ラストフロアへ到着したと聞いて、さすがに気を引き締める賢紀。
前方を見ると、他の3人が足を止めている理由が分かった。
見ているだけで命を吸われていくと錯覚する、禍々しい瘴気。
空間を歪ませんばかりの魔力。
それらが1点に集中し、邪悪な黒い渦を作り出している。
やがて渦は輪郭を浮かび上がらせ、人の形を取り始めた。
スラリと伸びた、長い手足。
深い闇を連想させる、黒いコート。
魔族に多い、紫がかった肌の色。
迸る魔力の波動によって、長い金髪をなびかせている。
そして額から1本の角を生やしたその男は、美形だが刃物のように鋭い顔立ちをしていた。
彼は賢紀達に告げた。
低く、それでいて艶やかな声で。
「よくきたな、挑戦者達よ……。私が魔王だ」




