第98話 【ゴーレム使い】のやり直し~何がいけなかったと思う?~
魔国ディトナには、プロ探索者と呼ばれる者達がいる。
彼らは魔王陵のダンジョンに潜って魔物を狩り、その魔石を売って生計を立てるのだ。
そんなプロ探索者の中でも、デミーオ・スポルトスは大ベテラン。
彼のパーティーは魔王陵探索ランキングの3位につけている、強豪パーティ――だった。
その日。
デミーオが朝からパーティメンバーと共に魔王陵へと向かうと、受付小屋の隣に見慣れぬ新しい建物があった。
「何だコレは? コテージ? こんなコテージ、3日前に探索から引き上げた時には無かったぞ?」
「テスラパイン」と呼ばれる高級な木材を精巧に組んで作られた、2階建ての立派なコテージ。
土台である基礎の部分こそ、土魔法を用いたやっつけ仕事感がある。
しかし、3日程度で組み上げてしまえる代物とは到底思えなかった。
デミーオは釈然としない思いを抱えながら、受付の方へと歩いてゆく。
するといつもは愛想いい受付嬢のキャデラが、見知らぬパーティに向かい怒っている光景が見えた。
かなりの剣幕だ。
「無断で敷地内にあんなドでかいコテージを建てるなんて、あなた達は何を考えているんですか!」
どうやら隣のコテージは、いま怒られている4人組パーティが建てたものらしい。
小柄な身長に見合わぬ、長い長剣を背負った少女。
とても探索に来た格好だとは思えない、メイド服の犬耳獣人。
魔族の血が入っていると思わしき、ハーフエルフの女性。
そして黒髪黒目で無表情な、何を考えているのか分からない人間族の男。
恐らく、新人パーティだ。
こんな珍妙な集団が前々から魔王陵に出入りしていたのなら、デミーオの耳に入らないはずがない。
「おはよう、キャデラ。朝っぱらからそんなに怒って、どうしたんだい?」
「あっ! デミーオさん! 聞いてくださいよ! この子達、勝手にあんな馬鹿でかいコテージを建てちゃったんですよ!」
「だって……。利用規則には、ダメって書いてなかったし……」
小柄な銀髪少女が、口を尖らせて反論する。
12、13歳くらいに見えるが、ドワーフの血が入っていると思われる。
実年齢は、もっと上なはず。
その証拠に、女性特有の部分がご立派だ。
「施設の利用規則じゃなくて、法律レベルの問題です! 許可なく他人の土地に家を建てるのは、この魔国以外でも違法でしょう!?」
銀髪少女は、明後日の方向を見ながら口笛を吹き始めた。
これは反省していない。
「それだけじゃありません! 私は昨日、言いましたよね!? 『無理をしないように』、『危険を感じたら、引き換えすように』って! それが何ですか? 初挑戦で地下50階? 無茶しすぎです! 死にたいのですか!?」
地下50階という言葉に驚いたデミーオは、急いでランキングボード前に走った。
順位を確認すると、自分達の順位がひとつ下がって4位になっている。
その上にきているのは、馴染みのない名前が並ぶパーティだ。
ケンキ・ヤスカワ。
エリーゼ・エクシーズ。
アディ・アーレイト。
イースズ・フォウワード。
「エクシーズ……。アーレイト……。そうか! あの有名な『白銀の魔獣』と、『アサシンスレイヤー』か! 俺が憧れたヒーロー、セブルス・エクシーズの娘……。フッ、血は争えぬということか」
最近リースディア帝国からきた皇帝ご一行に抜かれてしまったが、長年探索者ランキングのトップに君臨し続けていたのはセブルス・エクシーズのパーティ。
彼らは全ての探索者パーティにとって、憧れの存在だった。
セブルスの娘が魔王陵に挑戦し、初挑戦で地下50階までクリアした。
そんな物語は、デミーオの胸を熱くさせる。
「いきなり地下50階とは、さすがだ……。しかし、同時に危険でもあるな」
個々の戦闘力は高いのだろうが、彼らは昨日デビューしたばかりの新人達。
才能溢れる若き探索者は、自分の力を過信しがちだ。
限界を超えた無茶な探索をして、命を落とすケースは度々ある。
デミーオは彼らに、死んで欲しくなかった。
(まあ。キャデラにもう少し、説教を食らっとくんだな。少し可哀想だが、お前達の為だ)
デミーオはそんな老婆心を抱きながら、パーティ全員分の入場料を受付に置いた。
入場者名簿にも、記名を済ます。
そしてお説教継続中のキャデラにひと声かけてから、魔王陵の中へと入って行った。
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魔王陵地下3階。
デミーオ達が、ボス部屋手前の通路を進んでいた時だ。
「どいてどいて~!」
背後から聞こえてきた、少女の大声。
デミーオが振り返ると、入り口で見た4人の姿があった。
いや。
なぜか1人増えて、5人パーティになっている。
増えたのは、全身鎧を身にまとった大柄な人物だ。
目が縦に並んだ、奇妙なデザインの兜が印象的だった。
全身鎧の大男は、黒髪の人間を背負っている。
こちらはさきほど、受付でも見た青年だ。
その5人が、猛スピードで疾走して来るのが見えた。
「…………! お前ら! キャデラの説教を、聞いていなかったのか!? もっと慎重に……」
デミーオがそこまで言いかけた時、三ツ目ハーフ・エルフの女性が走りながら武器を構えた。
金属でできた、長い杖のような武器だ。
彼女が指を動かすと、破裂音が響き渡る。
ひと呼吸遅れて、デミーオは異変に気付いた。
遥か先にいたこの階層のボス、リーベン・ウルフの魔力が途絶えたのだ。
優れた魔力感知能力を持つデミーオは、それを正確に感じ取った。
あのハーフ・エルフ女性が殺ったのだ。
「そんなのアリか?」
速度を緩めることもなく、ボス部屋の外から超遠距離攻撃。
反則技もいいところだ。
走り去って行く新人達の背中を、デミーオは呆然と見送る。
彼の中にある魔王陵攻略の常識は、ガラガラと音を立てて崩れていった。
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前回通路から落下し、外に放り出された地下51階の空中回廊。
因縁ある長い通路の前まで、賢紀達は前回の3分の1という短時間で辿り着いた。
「さて。前回は、何がいけなかったと思う?」
「はい。どっかの突撃女王が、『通路は一気に走り抜けよう』って提案したのが悪いと思います」
エリーゼの質問に、手を上げて答えた賢紀。
だが回答の都合が悪い部分は、カットされてしまう。
「そうよ。私達は、先を急ぎすぎていたわ。今回は空中の魔物を全滅させてから、通路を渡りましょう。魔王陵の魔物は無限に湧くけど、復活にはある程度時間がかかるの」
エリーゼは簡単に「全滅させる」と言うが、実行するのはなかなか大変――
――でもなかった。
まずは〈トニー〉とアディがカービンライフルの2丁撃ちで、空中の魔物を次々と撃ち落としていく。
イースズは二脚で支持した対物ライフルを使い、通路の向こうに集まり始めたゴリラ型の魔物達を狙撃した。
通路の向こうまで、2kmは離れているのだが。
あまりに目標が遠いため、対物ライフルの弾速でも着弾までに時間差がある。
しかし命中を確認する前にイースズは次弾を放ち、それが全部命中している。
エリーゼは、伏せ撃ちの姿勢で動けないイースズのバックアップ。
狙撃手に近づく魔物を、斬り伏せていった。
空中の魔物もゴリラ型の魔物もあらかた片付いた時、再びソイツは現れた。
「出たな、サイの魔物。突進を食らったエリーゼの痛みと、再入場料4000モジャ×4人分の恨みを思い知れ」
賢紀は突進の軸線上に仲間達を入れぬよう、位置を変えた。
自分を標的にさせるべく、手招きしてサイの魔物を挑発する。
【ゴーレム操作】を行使中の賢紀は、動体視力や反応速度は超人的な補正がかかる。
しかし身体能力や肉体強度は、普通の人間のものでしかない。
何t体重があるのか分からないサイの魔物から突進を食らえば、即死は免れない。
そんな貧弱【ゴーレム使い】を組み易しと見たのか、サイの魔物は地を蹴った。
全体重を、賢紀に叩きつけるべく。
「【フリクションゼロ】」
それは賢紀が開発した、オリジナル魔法。
地面を凍らせるという、氷魔法だ。
凍らせるだけなら既存の氷魔法が存在したのだが、賢紀のものはさらに繊細な術式を用いている。
凍った地面の上に、薄い水膜を形成するのだ。
「摩擦ゼロ」という名前は、少し大袈裟かもしれない。
しかし従来の氷魔法よりも、圧倒的に滑りやすい氷の滑走路が出現した。
サイの魔物は自らの意思に反し、浮遊大地の縁へとスライドしていってしまう。
もちろん賢紀は、すでに体当たりの軸線上にはいない。
魔法発動と同時に、横へと飛び退いている。
今回は狭い通路上ではないので、回避できるだけのスペースがあった。
(サイだけに、サイなら~)
下らない駄洒落を心の中で呟きながら、無限の蒼穹へと旅立った魔物を見送る賢紀。
オヤジギャグだと言われそうなので口には出さず、胸の奥に封印する。
神より付与された言語理解能力は、何故かこのような駄洒落も正確に翻訳されてしまうからだ。
「ケンキ! 声に出さなくても、思った時点で負けなのよ!」
心の奥底まで見通すような、エリーゼの指摘。
【ゴーレム使い】は凍ったように、動きを止めるのだった。




