第92話 2人のバカ~機嫌が悪いのは何故か?~
ゴーレム・ワゴンの外側には、幻想的でロマンチックな風景が広がっていた。
淡い紫色の光を放ちながら、闇夜に浮かび上がるワインディングロード。
「蛇神の道」という、名称ではある。
だがその姿は蛇というより、さながら地上の天の川だ。
女性だったら、思わずうっとりしてしまいそうなシチュエーション。
現にライフウォールのゲートで配られているパンフレットにも、オススメデートスポットとして紹介されている。
しかし、ゴーレム・ワゴンの中にいる女性陣の反応は芳しくない。
ハンドルを握るアディ・アーレイトだけは、淡々とした表情で車を走らせている。
だが助手席のイースズ・フォウワードと後部座席のエリーゼ・エクシーズは、あからさまに機嫌が悪かった。
夜間に輝くサーペントロードを、楽しみにしていたはずの彼女達の機嫌が悪いのは何故か?
原因は後部座席の最後尾で話し込む、2人のマシンゴーレムバカにあった。
「なるほど。こっちの魔力回路の方が、だいぶ冷却効率が良くなりますね。こんなアイディアもあるのか……。俺は従来方式の進化型しか、考えていなかった」
「悪くはないのさ……お前の考え方も……。結局はTRY&ERROR……。繰り返すしか、道はねえ……」
「推力偏向の反応速度向上については、どうですか?」
「そうさ……こいつは……。ソフト面とハード面……。両方に残されているのさ……改善の余地が……。まずはノズル形状と材質を変えてみろ……。それからさ……OS術式を煮詰めるのは……。入力面は充分速い……。スピリット・アシステッド・インターフェース……それがあるからさ……。誰かがそう教えてくれた……」
立体映像投影の魔道具を間に挟み、安川賢紀の向かい側で話しているドワーフがいる。
面倒臭い、独特な口調の男。
レイン七兄弟の三男、コージー・レインだ。
賢紀達の手により、大クラッシュしたスーパーカー・ゴーレムの残骸から救出されたコージー。
驚いたことに、彼は軽い打撲と擦り傷のみで済んでいた。
強靭な肉体を持つ者が多いドワーフ族だというのを考慮しても、呆れるほどの頑丈さだ。
コージーはヴォクサー社を出奔した後、兄リッチーが開発した魔法全身鎧にスラスターユニットを取付け飛行させる技術を研究していた。
魔力による推進器開発の第一人者が彼である。
賢紀達は元々、魔国ディトナに来たらコージーを探し出す予定だった。
新型マシンゴーレム用の推進器について、教えを乞いたかったのだ。
偶然出会ったのを幸いに、コージーを魔法都市イムサの自宅まで送って行くことになった。
コージーとの会話が途切れた一瞬の隙を突き、エリーゼは賢紀に話しかける。
「ケンキ、外見てる? すっごく綺麗なのよ? 素敵でしょう?」
「ああ、綺麗だな」
軽く頷いた賢紀。
だが彼はすぐに、映し出されているマシンゴーレムの立体映像へと視線を戻してしまう。
「はあ~、ケンキ。あなたが地球でモテなかったっていう理由、良くわかるわ。ヤマハさんと再会できても、フラれるわよ? 3000モジャ賭けてもいいわ」
(3000モジャとは、女王様にしては控えめな金額だな。……それにしても、何故に俺はディスられてるんだ?)
モテない使徒、賢紀は苦悩した。
しかしそれはほんの僅かな時間で、すぐにまたコージーとマシンゴーレムの話を始めてしまう。
「男という生き物がバカなのか、それともこの2人が特別バカなのか……」
呆れ果てたエリーゼは窓枠に肘をつき、闇夜に輝くサーペントロードの鑑賞に集中することにした。
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「魔法都市イムサが、見えて来たば~い!」
早朝の運転手を務めていたイースズの声に、仮眠を取っていた者達が起床する。
ばっちり覚醒しているように見えて、実は相当寝ぼけていた賢紀。
だが前方に姿を現した巨大都市を見て、さすがの彼も本当に目が覚めた。
地球の高層ビル程の高さまで伸びる、色とりどりの建造物。
見慣れた地球のビルとは違い、そのフォルムはまるで刀剣か槍のように尖っている。
シャープな形状の建物がひしめき合う周囲を、ぐるりと1周する数本の道路。
高い位置に建設されているそれは、地球の環状線を思い出させる。
いま賢紀達が走行しているサーペントロードも、交通量が増えてきていた。
すれ違う大多数は、馬型ゴーレムが引くゴーレム馬車。
数は少ないが、車両型ゴーレムも走っている。
リースディア帝国や、イーグニース共和国からの輸入品だろう。
「凄い都市だ……。魔国ディトナの文明は、かなり進んでいるみたいだな。だが、変だな? これだけの国なら、エンス大陸全土に進出していてもおかしくないと思うが?」
「ディトナは領土拡大に、無関心なの。魔族は人口が少ないし、いまの瘴気まみれの国土だけなら、他種族に侵攻される心配も少ないしね」
「なるほど。当代の魔王様は、平和主義というわけか……」
「ケンキ。魔王が治めるという君主制度は、彼の時空魔王の代で終わっているのよ。それ以降ディトナの政治形態は、議会制民主主義になっているわ」
あまり政治に関心が無い賢紀は、「ふ~ん、近代的だな~」くらいの感想しか持たなかった。
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コージーの自宅は、イムサの中心地から外れた住宅街にあった。
家はそんなに大きくないが、車庫だけはやたらとデカい。
コージーが木製のガレージドアを開けると、クラッシュしたものとは別のスーパーカー・ゴーレムが2台も停まっていた。
「コージーさんのゴーレム、ここに出しますよ」
【ファクトリー】の中に回収していたスーパーカー・ゴーレムを、車庫の空いているスペースに出現させる賢紀。
その情報を解析させてもらうお礼に、賢紀が理解できた部品は修復済みだ。
「コージーさん。もう、あぎゃんスピード出したらでけんばい」
「止まらねえのさ……。そうさ、俺のハートが吼えやがる……。もっと、もっとスピードを寄越せってな……」
詩的で危険な発言をするコージーを見かねて、賢紀はひとつの提案をした。
「コージーさん、サーキットに行って下さい」
「サーキット……? 聞き慣れねえ言葉さ……」
「サーキットというのは俺のいた世界にあった、車両型ゴーレム競技専用の周回路で……。とにかく公道で飛ばすと危ないから、ないのなら自分で専用の施設を作ってそこで存分に走って下さい」
「考えたことも、なかったのさ……。競技専用の周回路……。これで警察からESCAPEの日々とも、オサラバさ……」
「いっぺん捕まりなさい! まったく……。ドワーフ族がいくら頑丈だっていっても、あんなことを繰り返していたら、いつか死んじゃうわよ」
「頑丈といえば……。コージー様の服は耐瘴スーツではないようですけど、どういう瘴気対策をされているんですの?」
アディの問いに対し、コージーは車庫から少し出て遠くの空を見つめながら答えた。
「瘴気に耐えるコツは、2つのK……。KIAI&KONJOUさ……」
「要するに、痩せ我慢ですのね」
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賢紀とコージーは、夕方までマシンゴーレムやスーパーカー・ゴーレムについて語り尽くした。
「今日は泊まって行くといいさ……。ここがお前らの、魂のSAVE POINT……」
などという、わけのわからないコージーの申し出を3人娘は丁重にお断りした。
名残惜しそうにしている賢紀の襟首を引っ掴み、そそくさとコージー邸を後にする。
「また来るぜ……コージーさん……。そうさ……魔王の魔石を、手に入れたらな……」
「ケンキ~。喋り方、うつってるわよ~」
ゴーレム・ワゴン後部の窓ガラス越しに手を振って、別れを惜しむ賢紀をたしなめるエリーゼ。
「泊まっていっても、良かったんじゃないのか? コージーさんの、せっかくの厚意を……。まだ、マシンゴーレムの話もしたかったし……」
「だ・か・ら・よ! ケンキはレイン七兄弟と一緒にしとくと、いつまでもマシンゴーレムの話を続けるでしょう? 私達の最優先事項は、魔王の魔石の入手! 今夜泊る宿は決まっているし、それに……」
「それに?」
エリーゼとイースズが、顔を見合わせてニヤリと微笑み合った。
「今夜泊る宿には、アレがあるとよね?」
「そうよ。私、楽しみにしてたんだから!」
2人は手を取り合って、声を完璧にシンクロさせながら言った。
『お・ん・せ・ん・♪』




