X-1"(×_×)"
新章です。
私があの男と出会ったのは、私が大学生の頃、三ヶ月間付き合っていた彼女に振られた直後の話。
私がふてくされて、キャンパスにほど近いゲームセンターで憂さ晴らしをしていた時のことだった。
「くそっ……」
実際にグローブ型のコントローラーを使ってプレイする格闘ゲームで、コンピュータキャラに八つ当たりする。
「うまくいってると思ってたのに……」
ただひたすら、コンピュータキャラをボコボコにする。
「私、なにか悪いことしたか……?」
ボコボコにする。
「……なにが、『子ども欲しくなったから、麻子とはこれ以上ムリ』だよ……」
ボコボコにする。
「……悪かったな、女でよぉっ!」
コンピュータキャラの鼻っ面を正面からぶん殴った。
『\ケーオー!/』
『\決まったぁーっ! まさに無敵! 流星の如く輝く、超新星の登場だぁーっ!/』
「……ゲームに褒められても、なんにも嬉しくねぇよ」
……なぁ、吉美。
「……私が男だったら、もっと一緒にいてくれたのか……?」
「おねーさん、ゲームに勝ったのに、なんで泣いてるの?」
「は……?」
いつの間にか、後ろに小さな少女が……いや、幼女がいた。
「おねーさん、どこか痛いの……?」
「……あぁ。ちょっと、胸がな……」
「じゃあ、おねーさんにこれあげる!」
幼女が差し出してきたのは、ピンク色の可愛らしいハンカチだった。ウサギの刺繍もついていた。
私は屈んで、幼女に答えた。
「……ありがとな。でも、これはお前が持っていろ。私に、その薬は強すぎる」
「いらないの……? じゃあ……『痛いの痛いの飛んでいけー!』」
幼女はオーバーな動きで、私におまじないをかけた。その仕草があまりにも可愛くて、私は思わず。
「ぶふっ」
私は、笑った。
「おねーさんが笑ったー!」
幼女はその場で跳ねて、全身を使って喜びを表現していた。
「……そういやお前、どうしてこんなところにいる。オヤジやオフクロはどうした?」
「うー?」
「おーい安子ー! どこにいるんだー? いたら返事してくれー!」
ゲームセンターの入口の方から、男の声が聞こえてきた。
「あ、パパだー! ここだよー!」
幼女は手を振って、その声に応えた。するとそれに気がついた長身の男が、こちらへ向かってきた。
「安子、みんな心配したんだぞ?」
「ん、ごめんなさーい……。……でも、おねーさんが泣いてたの」
「おねーさん? ……あぁ、安子を見てくれていたんですか。ありがとうございます」
男は、丁寧に頭を下げて私に感謝した。
「……そんな大層なことしてねーよ」
「いやいや、家族が無事に戻ってきたんです。感謝するのは、当然ですよ」
「家族、ねぇ…………」
私がこの男に抱いた最初の印象は「家族を大事にする男」だった。
◆
……恋人に振られたショックもあったのだろう。そしてそれによって出来た心の隙間を、この男は埋めてくれるかもしれないという願いもあったのだと思う。
その男の名は「蔵梨大」。
私はその後、この「家族を大事にする男」もとい、とある孤児院を営んでいるらしい男の持つ「愛情」に惹かれ、のちに結婚し、一人の娘を授かった。
たくさんの仲間に囲まれて、その中心にいてほしい。そんな願いを込めて、私は「村」「町」「都市」を意味する漢字「邑」を使って「ゆう」と名付けた。
◆
季節は流れ、邑は小学生になった。
大学を卒業してすぐに飛び込んだ主婦の世界にも慣れてきて、次女も生まれ、私達四人の生活はまあまあ順調に進んでいた。
その頃になると、邑は自分があまり器用でないことに気がついた。私へ頻繁に「同じ『ゆう』でも、『優れている』の『優』にしてほしかった」と文句を言い始めた。
ごめんと言いつつも、私はいつもそれを受け流していた。親バカかもしれないが、私は割りと「邑」が気に入っている。ただ、次は変に凝って文句を言われないように、次女の名前は出産時に私が入院していた病院の敷地に生えていたカエデの木にあやかって「楓」と名付けた。「ゆう」と「ふう」。語感を揃えたことで、なかなか姉妹っぽくなったと思う。私の自己満足だ。
たとえどんなに離れても、お前らは姉妹だ。語感を揃えたのは、そんな意味も込めている。やっぱり、ただの自己満足の域を出ないが。
このまま元気に育ってほしい。すくすくと、大きくなってほしい。こう考えるのは、母親として、なにか間違っているだろうか。
そんな時だった。
邑が小学校でいじめを受けている、と聞いたのは。




