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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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第一七四話 ティアンの上澄み

(=ↀωↀ=)<今週の話を読む前に


(=ↀωↀ=)<AEの女帝と節制のQ&Aシリーズをまだお読みでない人は


(=ↀωↀ=)<読んでもらっておいた方がミミィ周りが分かりやすいかもしれません

 □■皇都ヴァンデルヘイム


『……つまり俺は精霊になってお嬢ちゃんの中に住むことになったと』

『ああ。その通りだ、新入り』


 発電所での戦闘の後、精霊化したエレクィングは先輩であるエルヴィオンからそう説明を受けていた。

 どちらも実体化(精霊顕現)していないため、精霊以外でその姿を見て会話できているのはミミィだけだ。


『……特務兵で俺以外はこうなってないんだな?』

『ああ。お前だけだな』

(なら、この女に殺されたのはアイツらじゃねえな)


 『共存可能な精神』の持ち主ならば精霊化する可能性があるとは既に聞いた。

 あくまでも仕事。上司からの任務だから従っている程度の忠誠心の面子ならば、自分同様にこちらに来ていてもおかしくはない。

 しかし逆に、ザナファルドを崇拝している隊員ならば転がることはないだろう。

 幸か不幸か、自分に近い同僚達はミミィに倒されてはいないらしかった。


『……しかし<天獄の駒>になった後は精霊か。俺も俺でよく分からんことになっちまったな……。しかも、ステータスは生前の四分の一くらいだしよ』

『フッ、やはり私よりも弱かったか』

『あ?』

『転生時の弱体化は生前強い者ほどより大きくなるのだ。私は五分の一以下だった』

『…………そーかい』


 四分の一になったエレクィングとは、その程度の実力差があったということだ。

 精霊自体の性能に上限が設けられているのもニライカナイの制限だろう。

 尤も、戦闘となればパッシブスキルの《精霊信仰》EXによって生前よりも強化されるものが殆どではあるが。


『とはいえ、元がどれほど弱くとも半減はするのだがな。いま顕現してミミィを載せている小間使い(ドワーフ)共がその類だ』


 現在のミミィはセブン・ドワーフの輿に乗り、バルサミナと合流するために移動中である。


『戦力として使えずとも、役に立たせることはできる。お前も励むがいい』

『…………』

「役に立つ立たないで言えば今はエルヴィオンの方が役立たずだよ? エルヴィオンと違ってエレキングさんはこの土地と相性良いから普通に《精霊顕現》できるもん」

『……フッ、やはり人間の街では私の高貴さが仇になってしまうようだな』

『俺は皇国育ちだし、電気も馴染むだろうよ。あとエレクィングな』


 精霊の力の使い易さは精霊と土地の相性による。

 この皇都はエルヴィオンとの相性が最悪に近く、逆にエレクィングは良好だ。


『だがミミィよ必要とあれば【バッテリー】を使ってでも私を呼べ。これ以上暴走する訳にもいかぬしな』

「アレって交渉決裂したとき用に預かったものなんだけど……」

『交渉は既に成立した。ならば、後は危難の排除に使っても構うまい。そしてこの新入りレベルまでなら【バッテリー】を使えばどうとでもなる』

『…………』


 【バッテリー】とやらが何かを新参のエレクィングは知らない。

 だが、エルヴィオンの発言に聞き捨てならないものはあった。


『……特務兵を舐めない方がいいぜ』


 それは自分達の侮辱……以上に状況の楽観視の危うさゆえ。

 所属が変わってしまった以上、このミミィ達の被害は自分の被害でもあるからだ。


『俺達は陛下が集めたティアンの上澄み戦闘集団だ。俺は皇国生まれだが他の国……中には天地から来た奴らもいる』


 ミミィはその説明を聞いて『ティアン版の<メジャー・アルカナ>みたいなもの?』という感想を抱いた。


『どいつもこいつも超級職やそれに匹敵する技術の持ち主だ。俺達が生きている間に他国との戦争はなかったが、<マスター>の少ない時期に投入されていれば王国もカルディナも攻め落とせていただろうさ』

『レジェンダリアを除いたのは正しい評価だな』


 エレクィングの言葉にエルヴィオンはウンウンと頷いている。

 彼としては単に皇国の隣国ではないから挙げなかっただけだが、とはいえ攻めるに難いのがレジェンダリアという国なので間違ってもいない。


『……とにかく、俺達はティアンの中でも上澄みだ。しかし、そんな俺達が集まればその中でも当然上下が生まれる。上澄みの中の上澄みが明らかになる』

『道理だな。ミミィの<メジャー・アルカナ>、あるいは準<超級>という大きな括りとて、ピンからキリまでいるだろう』


 ミミィは条件付きのピンである。


『ああ。そして、俺達の中の上澄みは……俺達とは格が違う』

『ふむ。貴様らの上澄みとは何者だ?』


『――<機皇親衛隊>』


 エレクィングは思う。

 そもそも人間であったかも怪しい特務兵長モルド・マシーネを除いたならば。

 皇国の人類(ティアン)最強は奴等の中の誰かだろう、と。


 ◇◆◇


 □■【皇玉座 エンペルスタンド】・玉座の間


 玉座の間で起きた“獣の化身”と<天獄の駒>の衝突。

 かつてのカルチェラタンの<遺跡>で発揮した出力ほどではないが、獣としての姿を解禁した今のチェシャは三強時代よりも強い。


 しかしそれでも、五人の元人間を押し切れない。


「どうした“化身”? あと一分で二射目が放たれるぞ?」


 挑発するような言葉と共に神速の連射で獣を葬り続けるザナファルド。

 【皇玉座】から銃器に魔力が流れている現状……無制限の残弾を持つ今の彼の戦力が大きいことはこれまでの戦いでも分かっていた。

 それでもこの姿になったならば、チェシャは押し切れると考えていたのだ。


 ゆえに問題は後から戦いに加わった四人……<機皇親衛隊>だ。


 ◇◆


『触れぬ、届かぬ、掠りもせぬ。そんなものか、獣共』


 獣達の中心で踊るのは、赤い布を纏った男。

 闘牛士系統超級職、【血闘刃】ルヴルカーン。

 闘牛士系統の特徴は端的に言えば回避剣士。

 ジョブの代表的なスキルである《グレース・グレイズ》は、相手の攻撃を回避すればするほどに全ステータスが上昇していく。

 それこそフィガロの《生命の舞踏》と同じく戦えば戦うほど強化されるが、あちらと違って一度のダメージで強化がリセットされるというリスクが存在する。

 

 だがそれも、当たらなければどうということはない。


 避けている。避けている。全ての攻撃を避けている。

 自身を囲う獣達の猛攻を掠らせることもなく避けている。

 回避を繰り返すほどに加速し、振るわれる刃の威力は高まり、獣の首を容易く断つ。

 彼が振るうは【魔剣グラスアート】。

 『自身の防御力をゼロにする』代わりに、攻撃力とAGIを引き上げる呪いの魔剣。

 ENDは変わらぬため自らの動きで損傷することはないが、他者からの攻撃一つが致命傷になる。

 ハイリスクハイリターンの回避剣士ビルド。

 しかし、このビルドでありながら……ルヴルカーンの死因は殉死。

 即ち、彼の生涯に致命傷を与えられた者は一人としていないということだ。


『GAAAA……!』


 だが、此度の相手は“獣の化身”。

 無数に増殖する超獣の群れ。

 一斉に飛び掛かり、一斉に切られ、しかし自らの死体を目隠しの壁としてルヴルカーンに一撃を撃ち込む。

 そして、ついに爪の先端がルヴルカーンに触れ……。


『!?』


 チェシャは、その攻撃が誘われたものだと触れた瞬間に理解した。


『その判定は私ではない』


 上級職【赤闘布(レッド・ブル)】奥義、《ムレータ》。

 自分の被弾を一度だけMPとSPを消費して生成した赤布に移し替える。

 自らに触れたものを触れていないと、世界を欺き魅せる一手。

 しかしその一手は、次への布石。


 超級職【血闘刃】奥義、《エストカダ》。

 《ムレータ》に攻撃を移された対象に対しての攻撃力強化、及び防御スキル無効。

 コンボによって放たれるのは――衝撃即応反撃と同様に被弾から瞬転するカウンター。

 威力を上昇させた斬撃と刺突が、同一人物と判定される獣を尽く切り刻んだ。


 血霧に変わった獣達が、ルヴルカーンの全身を赤く染める。


 ◇◆


 破壊の嵐を巻き起こすのはルヴルカーンだけではない。

 少し離れた場所では、下着と見紛う軽装の女が二丁の斧を振り回して獣達を砕いている。


『足りない足りないまだ足りない。忠誠を示す傷が足りない。陛下に捧ぐ命が足りない』


 蛮戦士系統超級職、【蛮姫】バ・ルバリア。

 蛮戦士系統はとてもシンプルなジョブ系統だ。

 STRとAGIに偏ったステータス。

 そして、攻撃力を高める代わりに装備防御力を落とすジョブスキル。

 余人から見れば下着のように見える彼女のオーダーメイド装備には防御力などまるでなく、代わりに状態異常への耐性は多めに盛られている。

 両の手に半刃半槌の片手斧(タバルジン)を握りしめているが、それらの柄は鎖で繋がっている。

 生前からの彼女の愛用武器、【紅蓮鎖獄の処刑人クリムゾン・デッド・エクスキューショナー】。

 伸長する鎖で繋がった二刃一対の武器を振り回し、群がる獣を叩き切っていく。

 だが、彼女の身のこなしはルヴルカーンほど規格外ではない。

 彼女は膨大な数の獣達の猛攻を凌ぎきれない。

 爪が掠め、牙に抉られ、顕わになっている肌からは毎秒のように血が噴き出す。

 赤く、紅く、霧のように血が舞い散る。

 その出血量は膨大で、既に致死量に達していた。

 血が流れれば生物は死ぬ。

 ゆえに彼女は二度目の死を迎えている……はずだ。


 だが、彼女は健在なまま、斧を振るい続けている。


 その肌には、傷の一つも(・・・・・)ありはしない(・・・・・・)

 傷を負い、血が噴き出し、――次の瞬間には閉じている(・・・・・)


 頭部に被弾して片目が溢れる。

 されど、瞬き一つで眼球は元通り。

 即ち、身体的損傷の超速再生。


『傷を与える。傷を寄越せ。命を積み重ねて我が忠義の証とする』


 彼女こそは幻獣人種不死鳥部族。

 生まれもって【龍帝】にも匹敵する不死身の肉体を持つ種族。

 傷がほぼ意味をなさない彼女にとって、【蛮姫】のデメリットなど在って無い。

 ザナファルドの殉死に最も苦労した親衛隊員である。


 ◇◆


 室内には、いつしか雨雲(・・)が生じていた。

 大きさだけで言えば、触れられるならば人が数人乗れる程度の小さな雲。

 だが、それは二重にありえない光景だ。

 ここは雲が生じる高度ではない。


 そして、この雲は――本来巨大な入道雲(・・・)なのだ。


『雨さん此方、手の成る法へ』


 虚無僧の如き装いの人物が、童謡のような詠唱と共に手を動かす。

 言葉と手に連動して、頭上の雨雲が蠢く。

 その動きを潰すために獣達は駆け出すが……。


『――《斬雨(きりさめ)》』

 ――雨雲から圧縮された水が噴き出し、ウォーターカッターとなって獣達を切り刻む。


『……!!』


 それでも斬撃の網を掻い潜り、雨雲を操る者へと肉薄した獣もいた。

 獣の爪が、被っていた深編笠ごとその人物を切り裂く。


『――《貼雨(はるさめ)》』


 しかし仕留めたと思ったそれは……雲で作られた虚像。

 触れた瞬間に、姿がぼやけて吹き散らされる。

 直後、再び降り注いだウォーターカッターが獣を八つ裂きにした。


『今宵、血の雨』


 祈祷師系統雨乞派生超級職、【雨降】海奈津(かいなつ)

 ただ雨を降らせる……非戦闘系ジョブでありながら、自力での魔法の構築によって殺傷能力を極限まで高めた魔法職である。


 ◇◆


『…………』


 ボロ布で全身を覆い隠した人物……【死将軍】スカルミリオンは他の三人と違って特別なことなど何もない。

 ルヴルカーンのような尋常ならざる動きをする訳ではなく、バ・ルバリアのような不死性を持つ訳でもなく、海奈津のようにジョブスキルを魔改造している訳でもない。

 スカルミリオンは基本に忠実だ。

 超級職【死将軍】のジョブスキル……アンデッド軍団の指揮を行う、ただそれだけ。


『『『OoooOOOoooo……』』』


 スカルミリオンの操るスケルトンの群れが獣達の群れとぶつかり合う。

 だが、両者の性能差(ステータス)は歴然だ。

 スケルトンは数こそ多いが、【死将軍】のバフを含めても亜竜程度。

 獣達の性能にはまるで及ばない。

 獣達への壁となった屍は鎧袖一触で蹴散らされていき、


 消滅と同時に発生した闇属性のエネルギーが獣に傷を負わせる。


 【死将軍】の最終奥義、《触りし神に祟りあり》。

 【蟲将軍】の《一寸の虫にも五分の道連れ》と同型のスキルだ。

 アンデッドが死亡したタイミングで、周囲に生物の命を削る闇属性爆発を引き起こす。

 言うなれば、展開したスケルトンの群れは肉壁であり、爆弾だ。


『GAAA!!』


 だが、その程度であれば獣は突破する。

 スケルトン達の頭上を踏破し、闇属性爆発を尻目に駆け抜けながら、ボロ布のスカルミリオンへと肉薄。

 頭上からその爪を振り下ろし、ボロ布ごと真っ二つにした。

 今度は海奈津と違い、確実に本物だった。

 そう、獣は確かにスカルミリオンを倒した。


 しかし頭を亡くしたはずのアンデッド達が止まらない。

 変わらず、一糸乱れず、獣達への肉壁と爆弾になり続けている。


『…………』


 そんな混戦の中で、スケルトンの一体がそれまでとは違う気配を纏う。

 あるいは、《看破》でそのスケルトンを見ればこう表示されるだろう。


 【死将軍】スカルミリオン、と。


 【死将軍】奥義、《継承髑髏》。

 死亡時に自分の魂とジョブの器を支配下のアンデッドに移す常時発動型奥義。


 支配下のアンデッドがいる限り、スカルミリオンはその本体を移し替える。

 それが続く限り、屍の軍団も止まることはない。


 本来の名など彼、あるいは彼女自身も忘れている。

 ゆえにその名は百万髑髏(スカルミリオン)

 自らの崇拝する皇に従う死霊の群れ。


 ◇◆


『いやどれだけ戦力隠してたのさ皇国!!』


 第七形態出力とはいえ自分と互角以上に戦っている<機皇親衛隊>に、チェシャは思わずそう叫んでいた。

 だが、そんなチェシャにザナファルドは呆れたように息を吐く。


「隠してなどいない。貴様らがティアンを精査していなかっただけだ」


 「あるいは【覇王】や先々代【龍帝】を基準にしたせいで物差しが狂っていたのか?」とザナファルドは皮肉るように笑う。


『…………』


 ある意味では、それは正しい。

 この五人は<エンブリオ>を持たぬティアンであるが、その実力はいずれも準<超級>、あるいは<超級>にも届く。

 しかしそれでも……五人合わせても三強時代で競ったあの二人の片方には及ばない。

 チェシャがわざわざ関わることになったティアンの上澄み(前例)が規格外にも程があったがゆえに、それ以外のティアンの脅威度を低く見ていたのは否定し難い事実だった。


(ちょっと反省しなきゃいけないかも……!)


 だが、その反省を活かす機会も、この最悪を止めなければ訪れない。

 最悪の最悪は自分達では干渉できない<終焉>が目覚めてこれまでの積み重ねが御破算になることだからだ。

 全三発の砲撃、その二発目の発射が目前に迫っている。


(王都の<マスター>達で、何発防げる……?)


 一発目が発射された時点で、王都側での防御に期待するしかなくなった。

 ここでの発射回数を減らすことは、王都が護られる確率は上がるのだ。

 あるいは一発も防げないかもしれない。

 しかしそれでも、チェシャは……トムは王国の<マスター>を信じていた。

 数を減らせば、それを凌いでくれるはずだと。


「そら、二発目だ」

『……!』


 しかし、無情にも轟音と共に二度目の発射が成されたとき……。


 ――それとは別の衝撃が【皇玉座】を揺らした。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<むぅ……皇都パートがあと一話で終わる予定だったけど終わらない……


(=ↀωↀ=)<書いている内に膨らんでいく……


( ꒪|勅|꒪)<今週お前がボコボコにされてるだけなのにナ


(=ↀωↀ=)<ぐふっ…………


(=ↀωↀ=)<で、でもまだ途中で連続更新挟めば年内に戦争終わるはずなんだ……



○<機皇親衛隊>


(=ↀωↀ=)<超級職+独自の超技術or何かヤバい体質の組み合わせ


(=ↀωↀ=)<ちなみにジョブスキルを普通に使ってるだけに見えるスカルミリオンですが


(=ↀωↀ=)<あの奥義は常人なら数回使った時点で自我が崩壊します

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― 新着の感想 ―
スカルミリオン:スカルミリョーネ 海奈津:カイナッツォ バ・ルバリア:バルバリシア ルヴルカーン:ルビカンテ でOKでしょうか?w
死将軍ってマスターが取得したらデメリット無しで奥義を使えるのか、それともタルラーと融合したルークみたいにしんどい感じになるのかな そもそもルークの時に精神保護働かなかったのも不思議な感じはあるけども
なるほどバッテリーか 正直バルサミナが持ち逃げしようとしたときなぜかニライカナイの内部に突っ込んでくるとか意味わからんムーブしない限り、ミミィが殺せるとは思えなかったけど 短時間だけ対バルサミナ用精霊…
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