第一五一話 首狩りVS首狩り 前編
□断頭台について
“断頭台”。
王国の準<超級>の中でも個人戦闘型最強の【抜刀神】カシミヤ。
その彼がこの戦争期間中に何をしていたのかと言えば、辻斬りだ。
王国各地を回りながら、目についた皇国戦力をソロで斬って、斬って、斬って……斬り続けていた。
他の者達と足並みを揃えて動くよりも、王国最速の斬撃で片付けて回った方が手っ取り早かったということもある。
しかも今は戦争中。既に王国全土が戦闘地帯となれば、普段やっているPK前の告知すらも必要ない。奇襲による首狩りはやりたい放題であった。【ブローチ】を着けていようと、最大八連で斬れるカシミヤの前では首が飛ぶ。
余談だが、カシミヤとしてはむしろ奇襲に対応してくれる猛者が片手の指で足りる程度であったのが不満だった。
カシミヤは講和会議で交戦したクロノ級の猛者を求めるも、あんな理不尽の権化はそうそうおらず、結果、欲求不満のカシミヤによってこの三日間で数十の猛者が狩られた。
カシミヤ以外に影法師も徘徊していたため、皇国にとっては理不尽な徘徊ボスが二体もいたことになる。
片や猛者を狙い、片や超級職をサーチするため、戦争前の超級職人数の優位が吹っ飛んだ理由のほとんどはこいつらだった。
なお、カシミヤ自身は影法師と遭遇していない。
それは偶然ではなく、影法師の方が【試製滅丸】シリーズ所有者であるカシミヤを避けていたからだ。カシミヤとしてはむしろ遭遇したかったことだろう。
さて、そんな辻斬り行為を三日も続けていれば……獲物も見なくなる。
次の獲物はどこにいるかと考えていたカシミヤだが、そんなタイミングで流れたのがフランクリンの放送だ。
かの<超級>がギデオンを襲うと聞いた彼は……しかしギデオンから離れた場所で活動することにした。
あの講和会議でフランクリンの切札と相対した男……シュウから、『フランクリンには近づくな』と事前に忠告を受けていたからだ。
曰く、『フランクリンとの戦いでカシミヤが傍にいると最悪詰む』、と。
シュウがそう考えた理由と根拠を聞き、カシミヤ自身も納得したため、カシミヤはフランクリンには近づかない。
ただ、残念でもあった。
戦争という大舞台。血で血を洗い、猛者と猛者が対峙し続ける修羅の巷。
そんな状況ならば、<超級>と斬り合う機会もあるかと思っていた。
だが、この三日間、カシミヤは運悪く<超級>達と邂逅する機会がなかった。
そうする間にマードックがアルベルトと相打ちになり、チームイゴーロナクが壊滅し、ローガンが姿を眩まし、スプレンディダが倒された。
残るフランクリンとは戦えず、ベヘモットはスタイルが噛み合わない上にシュウが相手取ると聞いている。
結局、<超級>とは戦わずにカシミヤの戦争が終わりかけている。
準<超級>の十人二十人では、首狩り兎は食い足りないというのに。
仕方がないから本拠地に帰ろうと、カシミヤは王都に戻ってきた。
そんな折……。
「街中で突然マスター達が死んで……」
「教会にその犯人が……」
「何でもスパイが実は<超級>だったって……」
そんな人々の会話が耳に入った。
「……<超級>?」
敵の<超級>がまだ残っている。
それは獲物を求める首狩り兎にとっては朗報であり……。
「すみません。少々お尋ねしてもよろしいですか?」
「はぇ?」
カシミヤはその詳細を、<ソル・クライシス>の一件で顔は知っていた<マスター>に聞いてみることにした。
◇◆◇
□■<王都アルテア>・王城内部・通路
ヴォイニッチは苦虫を噛み潰したような顔をした。
本日何度目になるか分からない。今日は厄日だった。
(彼と対峙するくらいなら、なりふり構わずさっさと始末しておけば良かった……)
ダムダムを早急に殺す手段は幾つかあったが、様子見してしまった。
それはダムダムがヴォイニッチにとって未知の相手であり、どうにでもなる相手だったからだ。
議長以外の指し手の介入を疑い、相手を観察すると共に情報を探った。
自らの拘束が時間制限のある【リング・オブ・ゴッドフォース】によるものだと一目で理解できたことや、《視天使》越しのテレジアの様子に変化がなかったこともその理由。
効果時間が切れて拘束不可能になるまで会話し、情報を得んとしていた。
その数十秒で、修羅がここに来てしまった。
「あのよー……俺、言ったよな? アイツにダメージ食らわすと他の誰かにダメージ飛ぶって……」
ヴォイニッチが苦虫を噛み潰す横で、ダムダムは引きつった顔をしていた。
カシミヤに事情を説明して<超級>のところまで案内したのはダムダムだ。
途中、ヴォイニッチの凶行を止めるために必殺スキルで転移したので距離が離れてしまったが、すぐに追いついてきてくれたことはありがたく思っている。
しかし、カシミヤの行動……《飼の宣告》に構わず攻撃したことには引いている。
今頃、王都のどこかで<マスター>の首が飛んでいることだろう。
「はい。ですがやはり試してみないことには分からないので……まだやります」
「オイオイオイ。死んだわ<マスター>」
カシミヤに躊躇いも後悔もなかった。
有言実行で、また抜刀術でヴォイニッチの首に刃が通る。
「つーか何回も首切らなくても武器壊せばよくねーか!? それが<エンブリオ>の本体だろ!?」
「ちゃんと試しました。鎌の方も、近くにいた人型の天使の方も」
「へ?」
カシミヤの言葉にダムダムが驚き、ヴォイニッチも目を見開く。
「天使は斬れましたけど、鎌の方はダメです。本人同様にダメージが飛ばされるようです」
「……大鎌も斬っていたんですか」
ヴォイニッチはそれを聞いて、初手で人型天使だけでなくアザゼル本体も斬られていたことにようやく気づいた。
あまりにも速い斬撃で、首を斬られた結果が残った人型天使と感覚で分かった自分への斬撃以外は気づかなかった。
とはいえ、装備のダメージも転嫁できるため大鎌は破壊されない。
教会で集中砲火を浴びても服に焦げ跡一つつかなかったのはそのためだ。
「少なくとも単純なダメージでは壊せません。武器破壊に特化した能力ならいけるかもしれませんが……」
カシミヤが連想したのは、かつてPKクランとして肩を並べた<ゴブリンストリート>のオーナー、エルドリッジのスケルトンだ。
とはいえ、彼は先んじて<超級>と戦って退場している。
なので、カシミヤは武器破壊を狙わずにまた首を狙った。
ヴォイニッチの代わりにどこかの<マスター>の首が飛ぶ。
「……ッ!」
《視天使》の視界の中、ゴゥルとの戦闘地点にいた<マスター>の首が飛んだが、傍にいた夢路が即座に止血して、首を繋ぎ、蘇生の【司教】を呼んでいた。
『やっぱり先に夢路を殺しておきたかった』と思うヴォイニッチだった。
(夢路にダメージ転嫁で死んでもらうのは……まぁ無理ですね。超級職相手だと転嫁率が落ちますし、即死でなければ自分で治すでしょう)
そもそも、レベル差による転嫁率が一〇〇%の相手でなければヴォイニッチにダメージが残る。
だからこそ、一〇〇%飛ばせる相手から優先的に転嫁する設定なので、夢路の順番は最後になるだろう。
そして、首が飛んでから治療された相手に再転嫁することができない。
『ダメージ転嫁は一対象につき一回。再転嫁の際は再び取り憑かせる必要がある』。
これもまた伏せていた《飼の宣告》の制限だ。
実際は能力の制限で雁字搦めだが、そうと見せずに底知れぬ脅威を演出する。
それこそがヴォイニッチの戦闘スタイルだが……現状では機能していない。
ヴォイニッチの能力相手でもお構いなし、怯えず竦まず躊躇わず首を切り続ける修羅が相手だからだ。
「君にとって他人は随分と軽いようですね」
何の躊躇いもなく首を斬り続けるカシミヤに対し、皮肉を込めてヴォイニッチはそう尋ねる。
「あなたに言われても……。それに天使を入れられた時点でその人達は死んでいるようなものですよね?」
だが、カシミヤは気にせず、刀を抜き放ち、納めながら答える。
会話のついでで首を斬っている。
「そもそも君自身の首が飛ぶとは思わないので?」
「? 僕には入れられなかったんですよね?」
脅すようにヴォイニッチが問えば、カシミヤは首を傾げた。
「……なぜそう思いますか?」
「あなたに触れられた覚えはないですし」
カシミヤはそう言いながら、
「――こんなのが近づいてきたら気づきます」
――背後から忍び寄った天使を視線も向けぬまま両断した。
蟲型の天使が光の塵になり、――その隙に忍び寄ったもう一匹も両断される。
視ていないのに把握し、あっさりと切り捨てていた。
「これだから、天地の修羅は……!」
天使を取り憑かせるという準備段階。
だが、一定ラインを超えた猛者にはこの準備を完遂することが難しい。
スキルで察しているわけでもないのに、動物的直感や歴戦の勘で気づいてしまう。
身内相手のテストでもファトゥムには通じたが、ザカライアには察知された。
リアルから戦闘マシーン染みた脳をしている連中には効かないのだとヴォイニッチは再確認する。
(天使が憑かないなら、必殺も《飼の宣告》も不可。……直接狙うしかないようですね)
ヴォイニッチは大鎌を握りしめる。
しかし、相手を直接斬る難度は高い。
急所へのクリティカルヒットを武器種の特性とする大鎌だが、カシミヤという修羅の首を斬れるか。
ステータスでは優越しているが、抜刀中のカシミヤの前では遅すぎる。
そも、相手の間合いに踏み込んだ時点で《居合い》も発動してカウンターを喰らう。
ならばカウンターの斬撃を受けながら残機によるゴリ押しで狙うか。
それもイナバの固有スキルである《鮫兎無歩》で距離を取られて回避されるだろう。
(……となると、使える手は一つ)
ヴォイニッチは視線を一瞬だけ自分の左手首……服の袖の中に隠した特典武具へ向ける。
――直後、カシミヤの斬撃がヴォイニッチの左手首を通過した。
「ッ!?」
「やっぱり駄目ですね……」
ほんの一瞬視線を送っただけで、そこに何かあると読まれて斬られた。
装備品へのダメージも飛ばせなければ、切り札を使う前に潰されていた。
現状、《飼の宣告》による残機がなければ、ヴォイニッチは何もできずに殺されている。
とはいえ、残機も含めてヴォイニッチという超級の強さだが。
(このままではジリ貧ですか……。しかし、これは……一回だけしか使えない)
特典武具によるコンボならばカシミヤの首も取れる。
だが、必殺よりも遥かに使用が制限されるそれをこの場で……<超級>でもないカシミヤ相手に使うべきかどうかをヴォイニッチは思案する。
「首も装備も切れない。――これも試します」
しかし、思案する間に――カシミヤが先に切り札を抜く。
カシミヤが手にしたのは、腰に佩いていた赤鞘の大太刀。
それまで次々に刀をアイテムボックスから取り出しておきながら、手に取ることすらしなかった一刀。
彼がそれの柄に手を掛けた瞬間、
『――【鎌王】、確認候』
――赤鞘の大太刀が言葉を発した。
「!?」
赤鞘の大太刀の銘は、【試製滅丸星刀】。
<SUBM>、【ホロビマル】が欠片の一つ。
宿す力は、斬れぬものを斬る《防虚殺し》。
幽体であろうと、雷光であろうと断ち切る刃。
それを一目見て、ヴォイニッチの直感が『マズい』と告げた次の瞬間。
刃は――ヴォイニッチの首を通り抜けた。
「……ッ、ァッ!?」
ヴォイニッチは荒く息を吐いて自分の首に手をやり、それが繋がっているかを確かめずにはいられなかった。
首は、斬れていない。
しかしそれでも、自分の首が落ちる様を幻視せずにはいられなかった。
《飼の宣告》の残機はまだ豊富にあるというのに。
それほどの威圧感が、カシミヤと彼が手にした大太刀にはある。
(そうだった……このカシミヤは、ただの準<超級>じゃない……!)
議長を介して、ヴォイニッチは真相を聞かされている。
カシミヤは準<超級>の中でただ一人……<SUBM>を倒し、欠片を得たもの。
超級武具に等しい大太刀……規格外の武器を手にしている。
それが意味することの大きさを、ある意味ではカシミヤ本人以上にヴォイニッチは理解している。
「……これでも切れません」
戦慄するヴォイニッチの前で、しかしカシミヤは小さく息を吐く。
自らの切り札たる大太刀を用いた斬撃でも、ヴォイニッチの頸は切れなかった。
しかし、それも予想の範疇ではある。
【星刀】はダメージを与えることに秀でている。
だが、《飼の宣告》は斬られた結果を他人に押し付ける能力であり、【星刀】でも斬った後のダメージを転嫁させられてしまうことには対応できない。
これが【元始聖剣】ならば転嫁させずに刻みつけるかもしれないが、生憎とそれほどの能力ではない。
【星刀】では、《飼の宣告》発動中のヴォイニッチの頸は切れない。
だが……。
「けれど段々……分かってきたのです」
カシミヤの眼に、一遍の躊躇も絶望もない。
彼は既に……<超級>を斬ると決めていた。
To be continued
〇ヴォイニッチ
(=ↀωↀ=)<一見すると無敵の能力だが
(=ↀωↀ=)<色々と下準備や制限が大変なこともあり
(=ↀωↀ=)<水面下で必死に水を掻く白鳥のような男
〇カシミヤ
(=ↀωↀ=)<<超級>以外で<SUBM>倒したのは三人
(=ↀωↀ=)<その中で準<超級>はカシミヤだけですね
(=ↀωↀ=)<あとの二人はティアンの刀理とそもそも準<超級>ですらないアルトなので




