第十九話 <UBM>閑話
(=ↀωↀ=)<感想500件突破!
( ̄(エ) ̄)<俺もお前も大忙しクマ!
□【聖騎士】レイ・スターリング
【<UBM>【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【レイ・スターリング】がMVPに選出されました】
【【レイ・スターリング】にMVP特典【紫怨走甲 ゴゥズメイズ】を贈与します】
「そうか……」
【ゴゥズメイズ】の体が少しずつ光の塵になり、【ガルドランダ】を倒したときと同じ形式のアナウンスがウィンドウに表示されて【ゴゥズメイズ】の撃破が確実となったが……俺はそれどころではない。
なぜなら、地上四○メートル――【ゴゥズメイズ】の頭の高さ――から落下の真っ最中だからだ。
大剣を突き刺していた頭部がなくなればこうもなる。
更に言えば身体も動かない。
【ゴゥズメイズ】に勝つため、少し無茶な手段で《逆転は翻る旗の如く》を発動させた。
そうして得た状態異常逆転のバフ効果のお陰で、俺の全力以上の力を発揮し、奴を倒すことは出来た。
だが、【ガルドランダ】のときと同様に武器の変更や、敵である【ゴゥズメイズ】の討伐を果たせばスキルは解除される。
後に残るのはいくつもの状態異常に罹った俺だ。
ステータスウィンドウには【猛毒】、【衰弱】、【酩酊】といった《地獄瘴気》を源泉とした状態異常に加え、【呪詛】や【食中毒】といった【ゴゥズメイズ】の肉の摂取が原因の状態異常も見える。
アンデッドの肉を食えばこうなって当然と言えば当然だ。
《逆転》解除後も《復讐するは我にあり》を発動するまでは何とか身体も動いたが今はもう駄目だ。
ピクリとも動かない。
この分だとあと数秒で受身も取れず地面に叩きつけられる。
今のHPと身体状況で耐えられるかはまた危うい賭けになる。
「南無三!」
眼を閉じて、訪れるであろう衝撃に動かぬ身体を強張らせていると……不自然なほど軽い感触に触れた。
まず一度目、それから二度目。
二回の緩やかな揺れの後……俺の身体は地面に転がっていた。
「?」
恐る恐る瞼を開けてみれば、傍らには銀色の人工馬――シルバーの姿があった。
シルバーは俺が初めて落馬したときと同じく、心配げにこちらを見下ろしている。
どうやらシルバーが落下する俺を優しくキャッチして、地面に降ろしたらしい。
馬の身でどうやったのかはよく分からなかったが。
「はは……ありがとう、シルバー」
シルバーは生物ではないし、口もないので鳴きはしないが、返答代わりに俺の頬に鼻先を擦り付けてきた。
その仕草は本物の馬と同じようだった。
【大死霊】との戦いや【ゴゥズメイズ】の追跡でも活躍してくれたし、シルバーは今回の功労者だ。
それに両手の篭手、【瘴焔手甲 ガルドランダ】がなければ……あの夢を見ていなければ勝てなかったかもしれない。
それに……誰よりも身体を張って俺を助けてくれた奴がいる。
「ありがとうな、ネメシス。お前が頑張ってくれなきゃ、きっと終わっていた」
ネメシスがいなければ、俺が気絶している間に時間を稼いでくれなければ、俺は早々にデスペナルティに追い込まれ……あの【ゴゥズメイズ】は誰かを襲っていただろう。
そうならなかったのは、ネメシスのお陰だ。
だから、感謝の言葉を伝えたかったのだが……。
『……………………Zz』
寝ていた。
「<エンブリオ>でも疲れて失神することってあるのか?」、「今回は相当に無茶をしたし、限界が来たって感じなのか?」等々疑問は尽きない。
他にも武器の形態で寝るのかとか、寝ていると武器としてのステータス補正どうなるとか色々言いたいことはある
だが……何にしても。
「御疲れ様、ネメシス」
ネメシスは装備状態を解除するとすぐに左手の紋章の中に入ってしまった。
俺はと言えば身動きできないまま回復魔法スキルでHPを維持し、体が動くようになったら手持ちのアイテムで状態異常の緩和を図った。
今朝方の失敗もあったので《地獄瘴気》で罹る【猛毒】、【衰弱】、【酩酊】については買い物のときに対応する回復アイテムを入手してあったのですぐに快復できた。
【食中毒】は何度か嘔吐して症状が軽くなった後に解毒アイテムを飲んだら治った。
残る【呪詛】もそうして他の状態異常を直している間にいつの間にか消えていた。
【ゴゥズメイズ】が大暴れしていた反動なのか回復に専念している間はモンスターの襲撃もなく、ゆっくりと表面上のステータスは完治状態にまで戻すことが出来た。
とは言っても、それはあくまでステータスの話。
砦に突入してから【ゴゥズメイズ】との戦闘を終えるまでで精神的、体力的には随分と疲弊している。
HPが満タンでもパフォーマンスで言えば普段の六割以下だろう。
ネメシスも戦えそうにないしな。
ちなみに、【ゴゥズメイズ】から取得したMVP特典装備のチェックは行っている。
【ゴゥズメイズ】のMVP特典は【紫怨走甲】の名が示すように紫色の金属と革素材――人革ではないと思いたい――で出来たブーツで、ウィンドウでの説明はこのようなものだった。
【紫怨走甲 ゴゥズメイズ】
<逸話級武具>
怨念を纏いし牛頭人馬の概念を具現化した逸品。
周囲に漂う負の想念を純粋な力に変換すると共に、装着者に人馬一体の心得を刻む。
※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし
・装備補正
AGI+30%
防御力+50
・装備スキル
《怨念変換》
《人馬一体》
「<逸話級武具>?」
ステータス画面を見てまず口走ったのがそれだ。
【瘴焔手甲 ガルドランダ】は<伝説級武具>だったがどう違うのか。
気になってヘルプウィンドウで調べていたら“MVP特典のランク”という項目に行き当たった。
前にこの辺のヘルプ項目をチェックしたときにはなかったのでいつの間にか増えたらしい。
恐らくは【瘴焔手甲】取得時にはもうあったのではなかろうか。
……ヘルプ増えても告知しないのはやっぱり問題だよなぁ。
さて、肝心のヘルプの内容だが、<UBM>討伐によって得られるMVP特典、そして<UBM>自身には何段階かのランクが存在するそうだ。
それらは主に<UBM>の強弱や脅威度によって設定され、下位から順にこのような設定になっている。
<逸話級>
<伝説級>
<古代伝説級>
<神話級>
<超級>
この説明について疑問点は二つあった。
一つは俺の持つ二つのMVP特典のランク。
戦った感触としてはこちらの戦力が増強していることを踏まえても、【ゴゥズメイズ】の方が【ガルドランダ】より強敵だったはずだ。
だが、ランクは【瘴焔手甲】の方が高く、ステータス補正の上昇値や固有スキルの数も秀でている。
このことについて“本人”は何か知っている気がした。
自分のことを、使われなかった力、生まれそこなった命と知性と言っていたのだから。
しかし、両手の【瘴焔手甲】に声をかけてみたがウンともスンとも言わなかった。
例の夢で意思が残っているらしいことはわかったが、現実で言葉を発することは出来ないらしい。
ここで気づく。
【ガルドランダ】と同じように考えると、【ゴゥズメイズ】にも意思が残っていることになるのでは、と。
「…………」
一気に呪いの装備みたいに思えてきたが……【紫怨走甲】にあれらの意思は残ってはいない気がする。
ただの勘なのだが、なぜだか少しも間違っている気がしなかった。
あえて理屈を並べるなら、もはや怨念が感じられないこれに……“怨念しかなかった”【ゴゥズメイズ】の中身の何が残っているのか、といったところだ。
次に疑問に思ったのはランクの最上位<超級>。
最下位の<逸話級>のUBMである【ゴゥズメイズ】で死ぬような思いをした。
逆を言えば最上位の<超級>に相当するUBMは遥かに危険ということだ。
<超級>は名前からして超級職や<超級エンブリオ>と関係がありそうだが……。
超級職で<超級エンブリオ>の使い手であるフィガロさんなら何か知っているかもしれない。
しかし何にしても、そんなランクに該当するUBMとは暫く出会いたくない。
さて、ランクについての推察はその辺にして、スキルについて確かめてみる。
《怨念変換》は【ゴゥズメイズ】の怨念動力のマイナーチェンジだ。
周囲の怨念を吸収・貯蔵してSPやMPに変換できるらしい。
場面にもよるが使い勝手は良さそうだ。
機能の一部にあるのではないかと思ったあの自己修復能力はついていない。
……手足が千切れても生えてくるような修復を自分の身でやることを考えたら怖くなってきた。これはいいか。
【紫怨走甲】のスキルはもう一つある。
あれが人馬でもあったことから得られただろうスキル、《人馬一体》だ。
その効果は《乗馬》レベルをプラス1だ。
繰り返そう。
《乗馬》レベルをプラス1だ。
「これでシルバーに乗れる!」
感極まって叫んでしまった。
これは本当に良いものだ。
今の俺にとって必要なものであり……これでもうシルバーにウォータースポーツ紛いの曲乗りをしなくていいのだから。
ちなみに他にも乗馬時に《乗馬》のスキルレベル×10%の補正がAGIに付く効果もある。
これも良い……と言うか本来こちらが《人馬一体》スキルのメイン効果なのだろう。
しかしながら俺は乗ることから始めなければならないので付随効果の方がありがたかった。
かくして、俺はシルバーに乗馬し、ユーゴー達の乗った馬車を追いかけてギデオンへの帰路につく。
パカラパカラと軽快に蹄で地を蹴るシルバー。
そんなシルバーに乗りながら、ちっとも振り落とされないことにちょっと感動した。
さて、乗っていて気づくこともある。
現実で馬に乗ったことはあるが、人工馬であるシルバーに乗った感覚はそれとは少し違っているのだ。
感覚で言えば、生き物ではなく大型バイク……いやむしろロケットにでも跨っているようなイメージだ。
シルバーが機械であることと、乗せた腰から鞍を通して伝わってくる力強さがそう感じさせるのだろう。
乗り心地も非常によく、俺は安心してシルバーに道行きを任せながらギデオンへ向かう。
帰るまでにどこかでユーゴー達と合流できればいいのだけど。
◇◇◇
□■???
【砂漠呑 アズモール】
最終到達レベル:56
討伐MVP:【地神】ファトゥム Lv1157(合計レベル1657)
<エンブリオ>:【無渇聖餐杯 グラール】
MVP特典:伝説級【砂充袋 アズモール】
【紅蓮機甲 エグザデモン】
最終到達レベル:63
討伐MVP:【殲滅王】アルベルト・シュバルツカイザー Lv620(合計レベル 1120)
<エンブリオ>:【七星転身 セプテントリオン】
MVP特典:古代伝説級【紅徹甲 エグザデモン】
【四次元海獣 トドギラス】
最終到達レベル:51
討伐MVP:【総司令官】グレイ・α・ケンタウリ Lv490(合計レベル 990)
<エンブリオ>:【未確認飛行要塞 ラピュータ】
MVP特典:古代伝説級【Q極きぐるみしりーず とどぎらす】
【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】
最終到達レベル:34
討伐MVP:【聖騎士】レイ・スターリング Lv35(合計レベル35)
<エンブリオ>:【復讐乙女 ネメシス】
MVP特典:逸話級【紫怨走甲 ゴゥズメイズ】
「……ン?」
無数の情報ウィンドウが青白く発光する空間でソレは疑問の声を漏らす。
ソレは一見すると人間の成人男性のようだった。
しかしよく見れば、ソレの皮膚は所々竜に似た鱗や獣に似た革に変化し、頭部には悪魔染みた角が生えている。人間よりは竜人や獣人、更に言えば人に似たモンスターといった風情だったが、顔にかけているメガネのお陰でギリギリ人間寄りの印象になっていた。
ソレは課せられた仕事の一つ、一定時間ごとの<UBM>の討伐情報をチェックしていた。
<Infinite Dendrogram>というシステムにおけるソレの役割は<UBM>の認定である。
<UBM>は異常な強さや能力を保有したモンスターの総称であるが、その最たる特徴は倒された際にMVP特典に姿を変えることだ。
強力な個体や特殊能力を有した個体は<UBM>ではないボスモンスターにも多く存在する。
それらは人や他のモンスターに倒された際にはシステムによって定められた【宝櫃】、あるいは生前に所有していたアイテムを遺す。
しかし<UBM>が遺すMVP特典はそれらとは全く違うものだ。
<UBM>自身の保有していた能力と築き上げたイメージ……つまりはその<UBM>の概念を討伐において最も功ある者にアジャストした形で具現化する。
強さや能力ではない。
その変化こそが<UBM>の最大の特徴だ。
そんな性質を、モンスターとしての<UBM>は本来持ち合わせていない。
しかし、この<Infinite Dendrogram>内で<UBM>を管理する管理AIが「この個体は<UBM>である」と認定すれば、死後にMVP特典へと変ずる性質が付与されるのだ。
そして、この空間で無数のウィンドウを相手に作業をしていたソレこそが、<UBM>の認定や性質付与、さらには一部の<UBM>の“デザイン”をも手がける管理AI――ジャバウォックであった。
「レイ・スターリング。地球時間で昨日にも見たプレイヤーネームだ」
それは昨日、低レベルでありながらジャバウォックが“デザイン”した【大瘴鬼 ガルドランダ】を撃破した者の名だった。
それがまさか連日、<UBM>のMVP討伐者として名を連ねていることにジャバウォックは少し驚いた。
この世界にはジャバウォックがデザイン、あるいは認定した<UBM>は数多存在する。
しかしながら、MVP討伐者はあまり多くない。
倒せない。
出会えない。
MVPになれない。
何より絶対強者――<超級>が複数体の<UBM>を狩る。
結果として運良く出会い、折り良く倒せた者以外では、少数のトッププレイヤーしか<UBM>のMVP討伐者にはなれない。
そんな中で、連日<UBM>に遭遇し、二回とも苦戦の果てに己の力で撃破しているレイの存在は、ジャバウォックの興味を引いた。
「面白い。叶うなら、普段から彼のように倒してもらいたいものだ。<超級>に作業で狩られる現状は不満だ。やはり苦戦とドラマの末に倒し、宝物を得る。それこそが英雄叙事詩というもの」
ジャバウォックは何度か自分の言葉に頷きながら、思案する。
「これからはより強靭なデザインにするか」
そうして瞑目して考え……。
「――手始めに放射熱線を吐かせる。ゴ○ラのように」
「やめてー」
ジャバウォックがあらゆる意味で危険な思いつきを声に出して発すると、応える声があった。
いつの間にか、ネコ型のマスコットがジャバウォックの背後の空間に腰掛けていた。
猫型のマスコット――管理AI13号チェシャは「やれやれ困った人だなぁ」という思いを首振るジェスチェーにありったけ込めながら、言葉を発する。
「強いのは災厄で出す<SUBM>だけで十分だよー。イレギュラー進化しそうなのは要らないよー。以前のイレギュラー二件でどんだけ苦労したと思ってるのー。【屍要塞】はハンプティのお気に入りの彼やグランバロアの<超級>でもめちゃくちゃ苦労したし、【災菌兵器】なんて今もレドキングが“監獄”で空間封印してるんだよー? 君が創った<UBM>で苦労したり処理したりするのは僕達やティアン、それにプレイヤーの皆さんなんだからね?」
「熟知している。で、本題は何だ13号」
「ああ、そうそう。モンスター管理AI……クイーンからの伝言だよー」
「内容は?」
「『先ほどの認定はどういうつもりだ』、だって」
「それだけで何を察しろと?」
「文面も預かっているけど実にあの人らしい感情的且つ冗長な文面だったから短縮しましたー。付け加えると君がさっき<UBM>に認定した【ゴゥズメイズ】ってモンスターの件だねー」
「ああ」
その情報でジャバウォックは納得した。
「もうちょっと枝葉をつけると『自然発生でもなければ私や貴様のアレンジメイキングでもない、人間の術式で造った人造アンデッドを<UBM>に認定してどうする』だってー」
「【ゴゥズメイズ】は面白い固有能力を持っていた。性能や誕生のエピソードも逸話級ならば十分該当する。また、誕生経緯から今後二体目の【ゴゥズメイズ】が生ずることもない」
だから<UBM>とすることには何の問題もない、とジャバウォックは続けた。
「そうだねー。クイーンが文句を言っているのも、自分が品種改良したボスモンスターの<UBM>認定が少ない腹癒せだろうしねー」
「ただの仕事だ。私が<UBM>に認定するしないなど、管理AIにとってどれほど価値と問題があるものか」
「……単に認められないから拗ねているだけだと思うのだけどー。まあいいやー」
チェシャは目の前の鈍感と、クイーンという同僚の関係を考えて、溜息をつく。
「そもそも3号のデザインは良く言って武骨、悪く言えばワンパターンで発想と発展性に乏しい。あれなら今回の【ゴゥズメイズ】やプレイヤーの設計案の方が余程<UBM>に向いている」
「クイーンは単純一途だからねー……今なんて?」
ジャバウォックの言葉に、聞き逃せぬものがあったのをチェシャは察した。
「プレイヤーの設計案って、なに?」
「そのままの意味だ。例のドライフの<超級>だよ」
「……あー」
そこまで聞いて、チェシャも納得する。
思い浮かんだ人物ならば、そういうことが可能だし……ジャバウォックの目に留めるモンスターも創れるだろう、と。
「それ絡みにレイ君も巻き込まれる気がするー」
根拠はない。それこそ勘と言っていいもの。
だが、管理AIのそれは、人知未踏の演算能力によるものであり……ただの勘とは言い切れないものだ。
「…………」
ジャバウォックはチェシャの呟きに、己が先刻まで関心を寄せていたプレイヤーの名前があることを少し不思議がったが、特に反応はしなかった。
ただ、チェシャの方は自分で呟いた内容に関連した、あることを疑問に思った。
「あ、そうだ。レイ君で思い出した。ねぇジャバウォック」
「なにか?」
「最近レイ君に倒された【大瘴鬼 ガルドランダ】っていたじゃない?」
「ああ」
「あれってさ、完全体になるとどうなっていたの? 結局第二形態で倒されてたから気になるのー」
内心、「自分が弱点バラしたから完全体の出番無かったんだよなー」と思いながらチェシャは尋ねた。
それに対するジャバウォックの回答は、
「産まれていた」
という簡潔すぎるものだった。
「……ごめんよく分かんない」
如何に人知未踏の演算能力と言えど、察せられないものはある。
「あれの完全体はあの大鬼が蓄積した戦闘経験を元に“産まれてくるもの”がそれに当たる」
「別個体?」
「いや、どちらかと言えば母体はカバーで、産まれてくる子供が真の【ガルドランダ】となるはずだった。出番は無かったがな」
それは使われなかった力であり、生まれ損なった生命と知性だ。
レイの夢の中でシルエット――母ではない【ガルドランダ】が告げたことそのままに。
チェシャはそれを聞いて、「お腹が弱点とは知っていたけどそれが理由だったのかー」と心中で納得した。
「ちなみに産まれていたらどんな個体だったんだろうねー」
「母体は人間との戦闘回数が多く、捕食回数も多かったからな。恐らく人型で産まれてきただろう」
「でも、もう産まれる機会は無いんだね」
「ああ、ないとも」
そう答えながら、ジャバウォックは内心で「ただし……」と付け加えた。
(武具化したあれの最後のスキル次第では、わからんがな)
未だ開放されていないスキルの内容次第では、生まれ損なったものが何らかの形で出てくる可能性はある。
しかしジャバウォックが想定しているそのケースに前例は無いので、恐らく無いだろうと結論づけた。
「それでは私は作業に戻る」
「うん、僕もお仕事行くー」
ジャバウォックは会話を打ち切り、何事かの情報を吐き出しているウィンドウに向き直った。
チェシャもまた、ジャバウォックの仕事場を出て、また別の仕事へと奔走し始めた。
To be continued
次の投稿は明日の21:00です。
(=ↀωↀ=)<久しぶりの本編での出番ー
( ̄(エ) ̄)<お前さん、本編より感想コメントで仕事してるクマー




