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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第二章 不死の獣たち

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第九話 【マーシャルⅡ】

( ̄(エ) ̄)<月間総合10位ランクインクマー

(=ↀωↀ=)<読者の皆さまありがとうございますー

□■【高位操縦士】ユーゴー・レセップス


 ◇◇◇


 私が所属するクランは生産職のプレイヤーが集ったクランだ。

 【研究者】、【整備士】、【薬剤師】、【鍛冶師】などの生産職はこの世界に元々存在する。

 だが、ティアンとプレイヤーを比較すれば多くの場合、プレイヤーの方が技術に秀でている。

 それは戦闘職と同様に<エンブリオ>の能力、そして補助による成長の早さなどが理由。

 作るアイテムの品質や成功率はスキルレベルとステータスのDEX(器用)に依存し、リアルでの手先の器用さは通常の生産では関係ない。

 そのため、素人のプレイヤーでも熟練工のようにアイテムの作成が可能になる。

 クランオーナーは言っていた。


「身体を動かす戦闘とは違って、生産はVRじゃなかった時代のMMORPGのアイテム生産と大差ないんだよねぇ。だからドン臭くて不器用な人でも問題ないの」


 しかしこうも言っていた。


「ただし今の話は、既存の物を作る場合で。新しいものを創造するには、それを思い描く力が要る。答えが過去にないものを作ろうとすれば、必要な物資や発想は桁違いに多くなるんだよねぇ」


 <Infinite Dendrogram>での生産は二種類に分類される。

 既存アイテムの“生産”と、新規アイテムの“創造”の二種類。

 どちらも必要な材料を用意し、スキルとステータスを用いて作成するのは変わらない。

 ただし、既存アイテムが【レシピ】という製法を記したアイテムに沿って作ればいいだけであることと比べ、新規アイテムの創造は製法から新たに創り上げなければならない。

 こういうものが作りたいと思うだけでは出来ず、必要な工程に対する理解やこの世界の科学・魔術知識を備え、必要材料を把握し、作成する必要がある。

 そう、新規アイテムの創造には必要なものが多過ぎた。

 ゆえに、<Infinite Dendrogram>が開始して半年の間は既存アイテムや多少のカスタムアイテム程度の生産しか行われなかったらしい。

 それを変えたのが私たちのクラン。

 クランオーナーは生産スキルに、あるブレイクスルーを引き起こした。

 それは、リアルで技術と知識を持った人間の集合。

 ドライフ皇国は機械技術の発展した国。

 機械の動力が魔力である点など現実との相違は多いものの、それでも現実と重なる部分もあった。

 オーナーはそれを利用した。

 大学院の機械工学専攻の学生、自動車工場で働く熟練工、重機の設計士、あるいは車両・兵器マニアなど多種多様の機械に関する現実の知識を持ったプレイヤーを結集して、新たなアイテムの生産に取り掛かった。

 無論、ただ募ったところで人材が集まるとは限らない。

 そこでオーナーはある明確なプロジェクト目標を打ち立てて、人材を募集した。

 それは、「人型の戦闘ロボットを創り上げる」という目標だ。

 そう、当時のドライフにはまだ人型機動兵器としての<マジンギア>は存在しなかった。

 ゲームの開始時点でドライフに用意されていた<マジンギア>は機械式甲冑パワードスーツ【マーシャル】や戦車【ガイスト】であり、人型の戦闘ロボットとしての<マジンギア>はなかった。

 ゆえに、オーナーは未だ存在しないそれを生み出すことを目的とした。

 その目標に惹かれる者は多く、クランには結成時点で数十人の知識人・技術者が集合した。

 そうして彼らは一つの目的目標を持ち、そのプロジェクトを遂行し始めた。


「必要なのは知識と設備と人手と材料と金とイマジネーションとスキルレベルと運と実験台さぁ!」


 とは、プロジェクトをスタートした際のオーナーの弁である。

 必要なもの多すぎ。

 けれど、彼らはそれを用意してみせた。

 彼らは機械知識を突き合せて、魔法技術と刷り合わせて、統合の試行錯誤を繰り返した。

 無数の失敗、素材コスト、離れていくメンバー。多くの問題が生じながらも彼らは突き進んだ。

 「さながらプ○ジェクトXだった」とは一人の古参メンバーの言葉であり、頷く者も多かった。

 私は寡聞にしてその番組を知らなかったけれど、彼の世代、特に日本人の間では通じる話であるらしかった。

 そうしてリアルで二ヶ月、<Infinite Dendrogram>で半年の月日が経過し……多くの困難を乗り越えて彼らは一体の新規アイテムを完成させた。

 それこそが人型機動兵器【マーシャルⅡ】。

 亜竜クラスの戦闘力を持ち、量産可能な兵器。

 機械甲冑であった【マーシャル】の先に存在する、初の人型機動兵器としての<マジンギア>。

 【マーシャルⅡ】の完成とレシピの公開を機に、私達のクランはドライフ皇国最大のギルドとしての道を歩み始めたそうだ。


 ◇◇◇


 砦前の戦闘は、次第に終息へと向かっていた。


『ゆ―ごー、ごじほうこう、【がんなー】1』

了解ウィ


 霧の中で斥候を務めるキューコからの指示に従い、機体を反転させ、教えられた場所へ左手の【ハンドキャノン】を発砲する。

 こちらを魔法銃器で狙っていた【銃士】は回避に失敗し、【MRW03ハンドキャノン】から放たれた炸裂弾によって四散する。

 着弾跡には銃を握った腕だけが残っている。

 あの銃、皇国の旧式銃か。

 また横流し品が“あの国”を通して流れているらしい。


「次」

『ろくじほうこう、【ふぁいたー】2』

「了解」


 機体の上半身を急旋回させ、後方に迫っていた【戦士】に、遠心力を乗せた【SRW02バトルナイフ】を叩きつける。

 一人目は反応できず、鎧、肉、骨、肉、鎧の順に切断されて胴から上下に分かれた。

 二人目は反応し、大盾を【バトルナイフ】にぶつけてその動きを止めた。

 リアルと違い、この<Infinite Dendrogram>の戦士は強靭だ。

 大型重機を上回るパワーを持つ【マーシャルⅡ】相手でもこのように攻撃を防ぎ、また傷つけることが可能な者も多い。

 この【戦士】も反応が早かった。

 パワーもある。

 だが、


「足元がお留守だ」


 私は【バトルナイフ】の圧で大盾とそれを持つ【戦士】の動きを抑えながら、【マーシャルⅡ】の足で【戦士】の足を踏みつけた。

 合計10tにも及ぶ【マーシャルⅡ】の重量は、鉄板入りの靴程度で防げるものではなく、【戦士】の足は潰れた。


「!!??!!?」


 【戦士】が声にならぬ悲鳴を上げて盾から気を逸らしたところで、自由になった【バトルナイフ】で頭頂部から両断した。


「次」

『しかいないに、てきえいなし』

「了解。引き続き周囲を警戒。特に砦方向に注意」

『うぃ』


 一先ず、片付いた。


「フ……」


 危ない橋を渡り終えた実感に息をつく。

 私の【マーシャルⅡ】だけが戦場に立ち、山賊は全て屍と化している。


「…………」


 この惨憺たる光景を作り出したのは私。

 多くを殺したことに対して、思うところはある。

 けれど、痛みはしないし後悔もしていない。

 私はレベッカから話を聞く前に……ギデオンに訪れる前からゴゥズメイズ山賊団の存在は知っていた。

 “計画”に際してギデオン周囲の勢力としてゴゥズメイズ山賊団のことは予め頭に入れておいたからだ。

 これまで彼らはあまりにも多くの子供と、幼い命を助けようとした人々を殺しすぎた。

 人間の命を奪ったなら、人間に殺されても仕方のないこと。

 わたし(・・・)はそう考えている。

 こちらで不死身の<マスター>が唱えるには、傲慢で矛盾を孕んだ考えではあるけれど。


「……さて」


 ゴゥズメイズ山賊団との交戦は、結果だけを見れば私の完勝に見えるが、決してそうではない。

 私のHPは1%も減ってはいないが、【マーシャルⅡ】のダメージは深刻だ。

 戦闘中に受けたダメージによって【マーシャルⅡ】の装甲は三割方剥離し、内部のフレームにもダメージが蓄積している。左腕も、若干反応が遅くなっている。

 車や船舶のような特殊装備品に該当する【マーシャルⅡ】にHP表示はないものの、もしも表示されればHPゲージは三割に差し掛かるといったところ。

 それほどに、苦戦はしていた。

 ロボットアニメーションの人型ロボット兵器そのものの【マーシャルⅡ】ではあるが、それを言えばあちらもファンタジーアニメーションの住人そのもの。

 振るわれる斧は鋼鉄を砕き、矢さえも装甲に突き刺さる。

 クランの面々が、所属する<マスター>用にチューンナップした【マーシャルⅡ】の性能がなければ、私自身が上級職【高位操縦士】として機体性能を引き出せていなければ……数に圧されて負けていたところだ。


「フッ」


 私はまた息をついて、アイテムボックスから【MP回復ポーション】Lv5を取り出した。

 <マジンギア>は動くたび、戦闘するたびにMPを消費する。

 現に私のMPは最大時の二割を切っており、回復しなければこれから先の戦闘は【マーシャルⅡ】の損傷以前に厳しい。


『ゆーごー』


 【ポーション】の瓶から口を離し、キューコに応える。


「何かな、キューコ」

『<えんぶりお>の“すきる”をつかっていれば、こんなにたいへんじゃなかった』

「然り」


 たしかに私が<エンブリオ>とそのスキルを使っていれば、苦戦はしなかった。

 どころか、傷一つ負うことなく倒せたかもしれない。

 こういった手合いに対して、私の<エンブリオ>のスキルは天敵だからだ。

 けれど。


「それはできない。私があのスキルを開陳するのは“計画”が始まってからだ。それまでは使うわけにはいかない。オーナーからもそう指示されているし、約束もした」

『だれもみてないよ? れいもいないよ?』

「それでもさ。私が“計画”の前にスキルを使うとすれば、どうしても使わなければならない状況になったときさ」


 幸い、そういった状況には陥っていない。


『がんこ』

「自覚してる。……さて、あの馬車の中には攫われてきた子供らがいるか」


 ここで子供らを助けることはできるが、助けた場合は私に人質が有効であると看破されてしまう。

 もしこれからまた戦闘が起きたときに子供を人質にとられることになる。

 もう山賊が残っていない、あるいはレイが砦内の山賊を殲滅してくれていればいいが、そうでなければ危険だ。

 今は放置するしかない。

 そう考えていたけれど、


「…………、フッ」

『ゆーごー』

「把握している」


 私は浅く息をつき、レバーを操作して【ハンドキャノン】の弾倉を腰部にジョイントされていた予備の爆裂弾倉と交換した。

 その動作の際も、やはり左腕の動きが鈍い。


「一度【マーシャルⅡ】を【ガレージ】に戻せば整備はできるが……それは諦めるしかないな」


 何分、そんな時間はないようだ。

 私は【ハンドキャノン】の砲弾を砦の出入り口に向けて撃ち放った。

 爆裂弾は開かれた扉――その向こうにいたモノに着弾し、爆裂。

 爆裂弾は通常の人体ならば五体が四散し、キロ単位の肉片は残らないほどの威力を持つ。

 だが、そこに立つモノにとってはそうではなかったらしい。


「いてえいてエ。おまけにアツい」


 そんなことを言いながら、堪えた様子もなく砦の中から姿を現すモノがいた。

 それは、巨大な鬼だった。

 牛頭でありながら口には鋭い犬歯だけの牙が並んでいる。

 その背丈は【マーシャルⅡ】に迫るほどであり、人の背丈の倍以上の高さがある砦の入り口でも窮屈そうに身を屈めて通るほどだ。

 明らかに、今まで戦っていた山賊とは格が違う。

 少し、体が震えた。


「……ゴゥズメイズ山賊団の頭目とお見受けするが?」


「オお。俺様はゴゥズメイズ山賊団の二大頭目、【剛闘士ストロング・グラディエーター】ゴゥズだぁ」


 To be continued


次回は本日22:00に投稿します。


( ̄(エ) ̄)<二本立てクマー

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― 新着の感想 ―
[一言] 皇国が戦争仕掛けたのも大体マスターのせいでは…
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