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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第二章 不死の獣たち

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第二話 イヌミミ

□決闘都市ギデオン・北門 【聖騎士】レイ・スターリング


 謎のペンギンに一服盛られた俺は頭にイヌミミを生やしたまま街へと戻った。

 イヌミミがあっても、亜人も多い街なので門衛には特に何も言われなかった。

 強いて言えば「あれ? 朝に挨拶したけど頭に耳生えてなかったような……? 寝ぼけてたかな」という呟きが聞こえたくらいだろう。


「さてどうしたものか」


 本来の予定であればアレハンドロさんの店に挨拶に行ったり、装備を新調したり、ルークやマリーがログインしているなら一緒に狩りにでも行こうかと思っていた。

 しかし今は知り合いに会いたくない。

 頭からイヌミミ生やした無様な姿を見られたくない。


「別段気にしなくてもよいと思うがのぅ」


 今は人型に戻っているネメシスがそんなことを言うが、俺から言わせれば気にしないほうがおかしい。

 想像してほしい。

 自分の友人が突然頭からイヌミミを生やしている光景を。

 俺はそんなものを見たら一生記憶に残す自信がある。

 そして一生記憶に残されたらたまったものではないので、今は会いたくないな……。


「あ、レイさんにネメシスさん、おはようございます」

「…………」


 会いたくなかったのになぁ!?


「マリーではないか」

「はいマリーですよネメシスさん。ところでレイさんは何でそんな個性的な表情を……」


 マリーの視線が俺の頭上に固定される。

 やばい、超見られている。ガン見されている。

 これではまるで俺がイヌミミアイテムを嬉々として装着する奴だと思われる。


「……マリー、これは俺の趣味とかではなく」

「レイさんそこでストップ!」

「はい!?」


 有無を言わせぬマリーの一喝で俺は微動だにできなくなる。

 そんな俺に視線を固定しながら、マリーは手首のリストバンド型アイテムボックスから何かを取り出す。

 あれは……。


「スケッチブックと、ペン?」


 以前の解説で使ったそれに、マリーは凄まじい勢いで筆を滑らす。

 絵画に詳しくはないが、はたして絵とはこれほどの速さで描くものだっただろうかと問いたくなる。

 輪郭が、髪が、顔のパーツが、そしてイヌミミが見事なタッチで描かれていく。

 そして二分後。


「ふぅ」


 マリーはやりきった顔で筆を置いた。

 彼女の手元のスケッチブックには……滅茶苦茶上手い金髪イヌミミ青年(上半身裸)のイラストが描かれていた。

 ……え? これ俺なの?

 俺脱いでないけど?


「上手いのぅ」

「上手いけど、いや上手いけど……上手いけど」


 上手いけど、自分をモデルにした上半身裸のイヌミミイラストに対してどうコメントして良いか分からない。

 女性読者の多い月刊少年誌で連載していても違和感のない絵柄で描かれているのがさらに何とも言えない。


「スキルに《絵画》とかあったっけ?」

「センススキルにありますけどこれは自前ですねー」


 ああ、元々絵が上手いのか、マリー。


「それでどうしてそんな素敵なイヌミミが生えているんですかレイさん」

「……ペンギンに一服盛られたんだよ」


 俺は先刻のミスターフラミンゴとの一件をマリーに説明した。


「そのペンギン、実に良い趣味をしてますねー。市販されたらボクも買いたいです、【ケモミミ薬】」

「止めないけど……本気か」

「本気です。ところでレイさん。イヌミミが大変似合っていますがトラミミやキツネミミは」

「言っとくけど俺に使うなよ!?」

「……チッ」


 今思いっきり舌打ちしたなこのグラサン記者!!


「それで、効果が消えるのが今日の夕方でしたっけ。それまでどうするんです?」

「【ガルドランダ】の件で知り合ったアレハンドロさんに挨拶に行こうと思ったけど、こんな耳が生えてちゃ行けないよな、って思ってたとこ」


 ……身内に会いたくないって願いは速攻で潰えたし。


「んー、別に気にしなくていいと思いますよ。その耳」

「いやでも……」

「<マスター>なら突然ケモミミが生えていても然程驚かれませんよ。基本、<マスター>は常識の埒外にいるものってティアンには認識されてますしねー」


 そういうものなのだろうか。

 ……まぁ、【破壊王】が森を一晩で消したりしてたし、常識の埒外と言えばそうかもしれない。


「じゃあアレハンドロさんのところに行くか」

「僕も挨拶できたらいいんですけどねー。ちょっとまだ手が空いてないので今回は遠慮します」

「手?」

「諸々の手配で少々。あ、レイさん、明日の約束忘れないでくださいね」

「ああ、大丈夫だ。ところで明日は何を用意しているんだ?」

「それはヒミツです。それではまた明日!」


 そう言ってマリーはどこかへと駆け出して行った。

 明日、どんなサプライズを用意しているのだろう。


 ◇


 マリーと別れてから、俺とネメシスは“マーケット”と呼ばれるギデオンの四番街を訪れていた。

 昨日アレハンドロさんから聞いていた住所がこの四番街のものだったからだ。

 四番街は店舗以外にも無数のバザーが立ち並び、物と人の迷路と化していたがどうにか無事にアレハンドロさんの店に辿りついた。

 大きな店舗には“アレハンドロ商会”と看板が掛けられている。

 入ってみると、中にはそこそこの客と店員、そして多種多様な商品が並んでいた。

 武器や防具、回復アイテム等は勿論、なぜか絵画や石像などの美術品や果物などの食料品、さらには【ジュエル】も陳列されている。

 まるでデパートだ。


「ごめんくださーい」


 呼びかけると、店員らしき若い女性が近づいてきた。


「アレハンドロさんはおられますか?」

「あ! 一昨日の<マスター>さん! その節はありがとう御座いました! 会長に御用ですね! 少々お待ちを!」


 店員女性はそう言って店の奥へと小走りで戻っていった。

 今の反応からすると、彼女は【ガルドランダ】に襲われたときに馬車に乗っていた内の一人であるらしい。

 見覚えがあるようなないような……まぁあのときはドタバタしてたからなぁ。


「それはそうと慌しい娘だのぅ。雰囲気からするとドジっ娘属性なのかのぅ」


 属性ねぇ……あまり人にそういうの当て嵌めるのはどうかと思うけど。

 ちなみに、それで言うとネメシスは何属性?


「女神」


 名前の元ネタはそうだろうけどさ。

 ネメシスはどっちかと言えばロリバ思考中断。


「おい!? 今何を考えようとした!?」

「HAHAHA、突然大声出すなよ。他のお客さんの迷惑だろう」

「笑いが白々しい!?」


 などと馬鹿話をしている内に店の奥からアレハンドロさんが姿を現した。


「これはこれはレイさん。ようこそ御出で下さいました」

「こんにちはアレハンドロさん。お言葉に甘えて商品を見せて貰いにきました」

「どうぞどうぞ、ごゆっくりご覧になって下さい。値段も勉強させていただきますよ」

「ありがとうございます」


 レベルの都合で装備一式変える頃合だったから値引いてもらえるなら非常に助かる。

 そして一つ気づいたことがある。

 さっきの女性店員にしても、アレハンドロさんにしても、全く俺のイヌミミについては触れてこない。

 女性店員の方はチラチラと視線は向けるが口では何も言わず、アレハンドロさんに至ってはまったく視線が動かない。プロだ。

 ……あるいは、マリーが言っていたように<マスター>相手にこのくらいのことは日常茶飯事なのか。

 どちらにしてもイヌミミについての問答がないのはありがたい。会う人会う人に事情話すのも面倒だし。

 あとはルークに再会する前にイヌミミが消えていてくれることを祈るだけだ。


「あ、レイさん、ネメシスさん。おはようございます。もうログインなさっていたんですね」

「やっほー♪ あれ? レイってばその耳どうしたのー?」


 俺より先に店内で買い物をしていたらしいルークとバビがそこにいた。


「…………」


 おい、さっきから俺が祈った端から望みが潰えるじゃないか。

 呪いか? このイヌミミは呪いでも掛かっているのか?


「今朝からの流れを踏まえると【瘴焔手甲】が呪い装備という可能性もあるのぅ」


 ……あるかも。


「レイさん、そのよくお似合いの耳は……」

「かくかくしかじかまるまるうまうま」

「それでは伝わらぬだろう」

「なるほど、謎の人物に騙され一服盛られてしまった結果そうなった、ということですね」

「「九割伝わってらっしゃる!?」」


 ルークってエスパー!?


「いえ、超能力ではありません。コツはいりますが訓練すればこのくらいはいけますよ」

「ネメシスと同じくらい自然に俺の心の声に受け答えされている!?」

「おおお……私のアイデンティティが……」


 なぜかショックを受けたネメシスが膝をついた。


「すごいなルーク。ババ抜き最強じゃないか」

「ババ抜き…………。けど、さすがにこの精度で読むのは知り合いにしか使えませんよ。あとは精々喜怒哀楽と下心の有無くらいです」


 十分凄いと思う。


 ◇


 ルークの意外な特技に心底驚いた後、俺達は店内の商品を見て回ることにした。


「ルークは何の用でここに? やっぱり挨拶と装備の購入か?」

「ええ。僕やバビだけじゃなくてマリリンやオードリーの武器も買えるらしいので。それと昨日は僕達だけで狩りに行っていたのでドロップアイテムの売却も、ですね」


 へぇモンスター用の装備も売っているのか。

 本当に商品の種類が豊富だな。


「狩りかー。レベルはいくつになったんだ?」

「48です」


 ……下級職のレベルカンスト直前じゃないですかー。

 俺のほぼ倍じゃないですかー。

 やだー。


「おお……すごいな」


 としか言う言葉が見つからない。

 やっぱりマリリンとオードリーがいるから狩りの効率いいんだろうな。

 ルークとバビも集団戦ではとんでもないし。


「ありがとうございます。もうじきレベル50なので、そうしたら今度は上級職への転職を目指さなければいけませんね」

「目星はついてるのか?」

「はい、調べてみたところ【女衒】の上級職は【亡八ロストハート】というそうです」


 【亡八】、か。

 南総里見八犬伝なんかで有名な仁義礼智忠信孝悌の八徳、それをなくした者って意味だったっけな。

 たしか遊女屋の主人の別称でもあったか。


「条件はこれですね」


 ルークはそう言って【カタログ】の【亡八】のページを見せた。


その一、【女衒】のレベルが50に達している。

その二、配下の女性モンスター・奴隷の合計ステータスが一定以上。

その三、配下の女性モンスター・奴隷の斡旋で入手した金銭が100万リル以上。


「へぇ」


 【聖騎士】のように人間関係や特殊な勝利が必要なわけではなく、むしろ長期的に進めていけばクリアできる類の条件で埋まっている。

 基本的に【女衒】が戦闘職ではないのもこの条件の理由だろうか。

 ……まぁルークの場合は戦闘職より恐ろしい職業になっているけど。


「その一はもうすぐクリアできますし、その二は達成済みです。その三がまだまだなので頑張らないといけません」

「ああ、たしかに大変そうだ」


 マリリンとオードリーにどうやって【女衒】の仕事を斡旋するのだろう。


「やっぱり建設現場なんかだと効率が良さそうですよね」

「それだとモン○ターファームの一作目みたいだな」


 育成中のモンスターにバイトさせる奴だ。

 子供の頃、兄のレトロゲームコレクションでやったことがある。

 CDやカセットなど、今(2045年)では中々お目にかかれない昔のゲーム媒体が沢山あったなぁ……。

 まぁ、今も昔もドラ○もんは不滅だが。

 FCドラ○もん難し過ぎ。

 閑話休題。


「ところでルーク、その新しい装備格好良いな」


 俺はルークの羽織っている銀色のコートについて感想を述べる。それは昨日俺が寝る前には装備していなかったものだ。

 細部の装飾が凝っているし、金属質の輝きがクール。

 左右で袖の長さが違うのもオシャレ。

 ルークの顔と合わせて凄く完成度の高いファッションだ。


「はい、僕もとても気に入っています」


 だろうなぁ。


[♪]


 はて? 今何か服が不自然に動いたような?


 ◇


 そうこうしている内に俺達は購入する商品を選び終えた。

 両腕に【瘴焔手甲】を装備するのは決定事項であるため、今回は【ライアット】シリーズのようにセットで効果を発揮する防具は選ばない。

 特に重要なのは体の防具であるが、ルークの装備しているコートが格好良かったので俺もコート型の装備を選んだ。

 名前は【ブレイズメタルスケイルコート】。

 【ブレイズウルフ】という赤色の狼型モンスターの皮で作られたコートに、鱗のような金属板をいくつも貼り付けた代物だ。

 自身の火属性攻撃を10%強化する《火炎適性》Lv1と、炎によるダメージを10%軽減する《火炎耐性》Lv1の二つのスキルがついており、《煉獄火炎》の使用に適しているのも選んだ理由だ。

 値段は8万リルと中々の高級品だが、選んで悔いなし。

 他にも適当に装備を見繕い、清算のためカウンターへと向かった。


「え?」


 そこには、カウンターの横には、リアルではよくみる代物があった。

 レバーがついた透明な四角いケースで、中には丸いカプセルがいくつも収まっている。

 貨幣を投じレバーをひねると、中のカプセルが出てくる仕組みの機械。


 ――そこにあったのは所謂ガチャであった。


「……よし」


 To be continued


明日は21:00に更新です。

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― 新着の感想 ―
ガチャは沼ですぜレイ氏ぃ!!
[一言] ガチャは悪い文化 FCドラえもんはRPGのが好きだったわ、アクションのは難しすぎた
[一言] アリス探偵局かよ
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