第十五話 彼の宣言
(=ↀωↀ=)<キャラ紹介とかも含めてですが今回で三〇〇話目
( ̄(エ) ̄)<思えば遠くに来たものクマ……
(=ↀωↀ=)(多分、完結はこれまでの倍くらいの話数になるだろうけど)
(=ↀωↀ=)<さて、デンドロもノミネートされている
(=ↀωↀ=)<『このライトノベルがすごい!2018』の投票が
(=ↀωↀ=)<9月24日までのようです
(=ↀωↀ=)<よろしければご確認をー
□■国境地帯・議場
王都で【盗賊王】ゼタが動く少し前、議場ではクラウディアがスイッチを押した直後に動きがあった。
クラウディアが言った『引き金』という言葉が文字通りにそうであったかのように、その一瞬で全ては動き出していた。
まず、レヴィアタンが動いた。
ベヘモットをクラウディアの傍に置いて、自らはアルティミアへと跳んだ。
その手には小さな刃物。刃渡りはとても短く、殺傷能力はなさそうだが……表面が液体に塗れた刃。
それを――アルティミアへと投擲する。
「!」
何らかの毒物が塗布されていたそれを、アルティミアは腰の剣――【元始聖剣 アルター】を抜いて切り払う。
しかし、アルティミアが剣を振った直後、至近距離にレヴィアタン自身が近づいていた。
「確保、ッ!」
「――木断」
そんなレヴィアタンに、横合いからシュウの上段蹴りが突き刺さる。
既に【熊神衣 キムンカムイ】へと装備を変形させていたがゆえ、初撃限定の光学迷彩と気配遮断が効果を発揮し、不可視の一撃がレヴィアタンの頚椎にめり込んだ。
【獣王】がいつ動いても対応できるように構えていたシュウの一撃は狙い通りの位置に当たり、最大の効率でその威力を発揮する。
「ッ!」
かつて伝説級に相当するモンスターを一撃で破壊したその蹴りに、さしものレヴィアタンでも踏ん張れず、砲弾の如き勢いで弾き飛ばされ……激突した壁に穴を空ける。
だがしかし――直撃を受けたその首は千切れても、折れてもいない。
レヴィアタンは吹き飛ばされた先ですぐに起き上がっている。
そして追撃するようにマリーから放たれていた貫通誘導弾を、両腕を振るって木っ端微塵に粉砕する。
そこまでの攻防に要した時間は五秒足らず。
その場にいた他の多くの護衛は、動揺が見られた。
何より、唐突に講和会議の全権代理人を襲撃したレヴィアタンの凶行に、皇国側の他の護衛からも驚愕と動揺が見える。
その様子に、シュウは『なるほど』と納得した。
皇国側も、ベヘモットとレヴィアタン以外はこの段取りを聞かされていなかったのだろう、と。
全権代理人であるクラウディアと、皇王の側近中の側近である【獣王】以外に、この場で講和会議の策謀の全容を知る者は……皇国側にもいなかったのだ。
「やっぱり駄目でしたわね」
自らが指示した凶行を阻まれたことを、むしろ当然という風にクラウディアはそう言った。
「殺していいのなら、あんな玩具を使う必要も、余計な手間を掛けてしくじることもありませんでしたが」
「ああ、それは駄目ですわ。他の何がどれだけ死んでも、アルティミアは生きて確保。これは厳守ですわ」
「……それだと私には向きませんね。やはりベヘモットにお願いします」
『KK』
凶行で緊迫した空気の中でどこか和やかに、……けれど内容は王国の国家元首代理であるアルティミアの誘拐を狙っていることを、隠しもせずに述べている。
「クラウディア……アナタは、どういうつもりで……! それにさっきのスイッチは……!」
「これで講和会議はお終い、ということですわ」
何でもないことのようにクラウディアはそう言った。
「さっきそこの彼……名前はレイで合っていますわよね? レイがこちらの思惑を読み解いてくれたでしょう? ああも詳らかに手の内を晒されては、この場での講和など不可能で、今後もこちらが望む講和の目はなくなりましたわ」
どれほどに表面上は穏やかな講和条件であっても、皇国は罠を仕掛けてくる。
ゆえに今後の講和では今よりも遥かに警戒し、今回のような罠は不可能だろう。
「ですが、皇国が戦争を起こしたくないのは事実。それは最後の手段ですもの。ですので戦争前に王国という国を潰しますわ」
「……どうやってだ?」
王国を潰すと気負いなく言ったクラウディアに対し、レイが問い質す。
「まず、第二王女と第三王女の確保又は殺害。そしてこの場でアルティミアを確保。これで王国は潰れますわ。ああ、さっきのスイッチであなたが指摘した【盗賊王】ゼタが、彼女の本来の仲間と一緒に王都を襲撃しているはずですわ」
事も無げに放たれた『王女達の確保又は殺害』、そして『王都襲撃』という衝撃的な言葉に、動揺が走る。
文官は通信魔法で王都と連絡を取ろうとしているし、マリーなどは外へ出ようとしていた。
レイもまた咄嗟に王都の方角を向きかけて、
「動くな」
それらの動きを、シュウが一言で制した。
今はここを動くな、と。
ここもまた、王都襲撃に匹敵するか……凌駕するほどの最前線なのだ、と。
あるいは、目を逸らした瞬間に殺されかねない相手……【獣王】がいるからか。
既に戦闘態勢に入っている【破壊王】は、最大の緊張と共にあった。
そんな中で、
「……私達がいなくなっただけで、王国が潰れると本気で思っているの?」
王都襲撃と……その目的にされているであろう妹達を思いながら、しかし国家を預かる者としての責任でその場から動かず、アルティミアはクラウディアに問い質した。
「思いますわよ? だって、王国が王国であるのは、建国王の子孫であるアルティミア達……王族が残っているからですもの」
そう言って、クラウディアはアルティミアを指差す。
「今、王国がまとまっているのはアルティミアがいるからですわ。では、翻って……他の貴族にまとめられますかしら?」
「……!」
「王国貴族で一番規模が大きかったのはルニングス公爵家。けれど、【グローリア】事件で一族郎党壊滅済み。それから、先の戦争で多くの貴族家が被害を受けていますわね。無事な貴族で一番の位が高いのはフィンドル侯爵? けれど、あの方は諜報の取りまとめ。国のトップに立つ人物ではない。そうでなければギデオン伯爵? けれど、若すぎますわね。彼をトップとすれば混乱に拍車が掛かる。代理の王すら立てられなければ、【誓約書】も<戦争結界>も……国家元首に由来するあらゆる行動が出来ず、国は機能不全に陥りますわ」
クラウディアは「それに……」と続ける。
「混乱を収めるために無理やり誰かがトップをとろうとしても、必ずそうなってほしくない誰かが足を引っ張る。ボロゼル侯爵のように、王女の暗殺計画を立ててでも利権を拡大したい貴族がいることを考えれば当たり前ですわね。そして王族がいなくなれば、こちらに恭順する貴族もいくらかは見当がついてますわ。それに皇国に加わらないだろう諸侯でも、皇国以外なら分からない。南西に領地を持つニッサ辺境伯はレジェンダリアと仲が良いですから、この機会にあちらに併合されることを望むかしら。それで言えば、西の港湾地帯を治めるキオーラ伯爵もグランバロアの貿易船団ととても仲がいいですわ。グランバロアも陸の領地は欲しいでしょうし、好条件で迎えられそうですわね。……とまぁ、柱がなくなればそんなことが多々起こって、かつての戦国時代のようにバラバラになりますわね」
王族という柱がいなくなれば、王国は幾つもの小国へと四散するとクラウディアは告げる。
元々は小国の集まりであり、建国王が一つに纏めた王国。再び小国群に戻ることは考えられる。
だが、それよりも問題なのは……クラウディアが王国の内情を把握しすぎていることだ。
アルティミアどころか、<DIN>ですら把握しているかも怪しい情報。それを幾つも抱え込んでいる。
その情報源は、【盗賊王】に由来する。
【盗賊王】の所属するクランである<IF>。そのオーナーである【犯罪王】ゼクス・ヴュルフェルが、王国内でどれだけの情報を抱え込んでいたのかは、誰にも想像がつかない。
そして彼はそれらの情報を<IF>のメンバーにも渡しており、情報共有している。それに加えて、ゼタ自身も多くの情報を収集しているため、<IF>のデータベースは膨大。
今回のテロと、王国に関する裏情報の売却。
皇国が【盗賊王】に求めたのはその二点であった。
王族を王国から排して国そのものを機能不全に追い込み、皇国だけでない他国からの干渉でバラバラにする。
この戦略の肝は、他国が本当に親交ある貴族の抱え込みに動くかだが……。
(……そういう線もあるか)
既にグランバロアやレジェンダリアとは話がついているのかもしれない、とシュウは考えた。
あの二ヶ国は、王国と皇国の戦争には参戦しない。
だが、王国が崩れた後には、領地を吸収しにくる。
そういった約定を……あの二国からすれば得しかない契約を結んでいる可能性はあった。
皇国にも利点はある。
王国が崩れれば、最大の仮想敵国であるカルディナの対抗勢力が崩れることになる。
しかし下手人である皇国に靡く王国勢は少ない。
だから同じくカルディナと敵対する他の国を加わらせ、王国を穏やかに吸収させる。そういう狙いだ。
(……王国と黄河の婚姻同盟も、第二王女がいなくなれば立ち消えか。黄河がそのことで皇国に文句をつけようにも、間にはカルディナがある。軍の侵攻など不可能。むしろそうなってくれればカルディナを削れて万々歳といったところか)
もう一つのルートである<厳冬山脈>横断も、カルディナ以上に不可能だとシュウは知っている。
かつてそれをやろうとした<超級>が、<厳冬山脈>の空の王者である【彗星神鳥 ツングースカ】によって自慢の浮遊要塞を墜落させられた事件に巻き込まれたのだから。
皇国の思惑は、王国や他国のどちらであっても、ティアンへの対処は十二分に施しているように思える。
だが……。
「……ティアンに限ればそうなるかもしれない。だが、俺達……<マスター>はどうなる? 王国がなくなっても、皇国に噛みつく奴は多そうだぜ?」
シュウはちらりと己の弟を見ながらそう言った。
国としてバラバラになろうとも、皇国へ反抗する元王国の<マスター>は必ず出る。
特に、【絶影】や【暗殺王】による要人暗殺を防ぐのは<超級>でも難しい。
「せやねー。指名手配で縛るにしても仕返しの一つ二つはできそうやしねー。他国に移ってもええし」
「報酬は奮発しますから皇国に来ませんこと?」
「うちらがそう簡単に寝返ると思ったら大間違いやー」
「<月世の会>を皇国の国教にしても構いませんわよ?」
「……う、うちらがそう簡単に……。ちょっとタンマ、考えさせて……」
かつて王国に断られた最大級の要求をあっさりと提示されたことで、月夜は半ば本気で揺れ動いていた。
「……全員が全員、女化生先輩みたいに報酬で転ぶ<マスター>ばかりだと思うな」
少しだけ月夜への好感度を下げながら、レイはクラウディアを牽制するようにそう言った。
「ですわね。あなたのような<マスター>もいることは知ってますわ。むしろ、あの敗戦の後に王国に残り続けている<マスター>なら、そういう方が多いことも承知の上」
利益優先の<マスター>ならとっくに他国に移るか、先のギデオンの事件でフランクリンが雇った寝返り組のようになっている。
今残っている<マスター>は王国に縁深いティアンがいるか、王国そのものが好きで守りたいと思っている者が多い。
クラウディアは「ですから……」と言葉を繋げ、
「そんな<マスター>の動きを封じる策を、用意もせずにこんな強硬手段に出るとでも?」
「…………その策ってのは?」
「言えませんわ。だって、まだそれの前段ですもの」
クラウディアはアルティミアへと視線を戻しながら、言葉を述べる。
「王都で二人の王女を、ここでアルティミアを押さえる。<マスター>への対策を行うのはその後ですわ」
一連の発言に、《真偽判定》はやはり反応しない。
本当に、王国を崩した後の<マスター>への対処は考えてあるのだろう。
(暗殺への警戒姿勢を見せていないところからしても、色々とろくでもないことを考えていそうだ。そうなるとここでの肝はやはり……)
皇国の手から王女達を守ることが、最重要のポイントだった。
王国が王国として存続できなければ、皇国の思惑通りに事が転がる。
(……そもそもテレジアにちょっかいを出される事がまずい。最悪……詰むぞ)
テレジアの真の特異性を知る数少ない人物の一人であるシュウは、眼前の【獣王】に相対して流す汗とは違う汗を背中に流した。
最善は早急に王都の防衛へ向かうことだと考える。
今の王都は先の【兎神】の襲撃と講和会議の護衛で、突出した戦力はほぼ蛻の殻だからだ。相手の規模次第では何もかもが終わってしまう。
しかし王都に戻る前の最大の問題は……相手が容易には逃がしてはくれないということだ。
“物理最強”の【獣王】を相手に、撤退戦は悪手である。
(恐らくは<超級殺し>や月影みたいなAGI型を先に潰すだろうな。消えようが影に沈もうが、お構い無しでマップごと潰しに来る。よしんばあの二人だけは逃れられたとしても、俺達鈍足じゃあの二人より速いだろう【獣王】相手に撤退は不可能。必ず回り込まれる『にげる』なんざやるだけ無駄だ。それくらいならば向こうの護衛対象がいて無差別破壊は出来ないここで戦った方がまだマシか)
それにもしも【獣王】がいなくとも、超音速機動が使えなければ王都に戻るまでにどれだけ時間が掛かるかも分からない。
(だが、どちらにしても戦った分だけ王都への到着が遅れることは変わらない。現状の最善手はここでアルティミアを守りきることか、それでも脱出を強行することか……)
シュウが考えを回していると、
「……一つ尋ねるわ、クラウディア」
クラウディアの策略を聞いてから黙していたアルティミアが声を発した。
「ええ、聞きますわ」
「王都での凶行。アナタからの指示で止められるのかしら?」
「ええ。このスイッチの下のボタンを押し込めばそれで止まる手筈に……」
クラウディアがあっさりとテロを止める手段を暴露しながら、スイッチを持った右手を見せた瞬間。
アルティミアは手にした【アルター】をクラウディアの手元に振るい、
スイッチを持った右手を――――手首から切り落とした。
アルティミアは剣とは逆の手で落ちる手首を掴もうとするが、剣の間合いギリギリだったためにまだ届かない。
ゆえにそれよりも早くクラウディアが左手で自らの右手首を弾き、後方へと飛ばす。
目の前に手首が落ちてきた皇国の<マスター>達が、悲鳴を上げて思わず後ずさった。
「……もう」
床に落ちた自分の右手首を見ながら、クラウディアは少し頬を膨らませて不機嫌をアピールした。
「手首を切り落としてまでスイッチを奪おうなんて、私と手を切りたい……友達をやめたいという意思表示ですの!?」
手首を切断されたにしてはひどく薄い怒りの色で、クラウディアはそう言った。
対して、アルティミアは……。
「いいえ。アナタは親友よ、クラウディア」
彼女の言葉を否定する。
「けれど、アナタとアナタの兄の企みで命を狙われているあの子達の姉として、そしてこの国を背負う者として……アナタに剣を向ける。親友に一生涯恨まれることも覚悟してやっているわ」
否定した上で、己の意思を告げる。
そんなアルティミアを見るクラウディアの目に怒りはない。
むしろ……喜びが見えた。
「フフフ。そういうところ、やっぱり私達は似たもの同士ですのね」
「……そうかしら?」
「ええ、私もあなたに一生恨まれてでも、あなたを奪うつもりですもの」
そう言って、クラウディアは嬉しそうに微笑む。
「けれど、私は手を切られたくらいであなたを恨んだりはしませんわ。きっと、首を切られても同じ。千の傷みを受けようとも変わりませんわ」
クラウディアの視線にあるのは深い友情と……それに混ざった違う感情。
「ただ今回は……さほど痛くもありませんわね」
クラウディアがそう呟くと……グシャリという音が議場に響いた。
その音の発生源を見れば、切り落とされたクラウディアの右手首が……独りでに動いてスイッチを握り潰していた。
その手首の断面からはパチパチと火花が散って……金属のフレームや電気配線が赤い液体に塗れている。
「クラウディア。アナタ……」
「私も修羅場を潜っておりますもの。元の体を幾らか失くすくらいはしていますわ。<マスター>の言葉ではサイボーグ、というらしいですわね?」
クラウディアは何でもないように言って……右手の肘から先を外した。
そしてアイテムボックスから新たな腕を取り出し、断面を見せる肘に接合する。
それは人肌を模したカバーが張られておらず、無骨で……戦闘用にしか見えないものだ。
「さて、最も手っ取り早い停止手段であるスイッチはなくなりましたわ。けれど……私が通信魔法で停止を呼びかけた場合も、ゼタは王都から退くことになっていますの。【契約書】で約しているから確実ですわ」
「……クラウディア?」
わざわざ王都のテロを止める手段を、またも自ら提示しながら……クラウディアは微笑む。
その発言にも、先刻同様に嘘がないと《真偽判定》が告げていた。
丁度そのとき、最初のレヴィアタンとの攻防による衝撃音を聞きつけたためか、外部警備の<マスター>達が議場にあつまってきた。
それはお互いの護衛の残るほぼ全てであったが、王国側には【猫神】トム・キャットがおらず、皇国側には【兎神】クロノ・クラウンがいなかった。
「……<マスター>も集まってきた。丁度いいですわね」
クラウディアは周囲を見回してそう呟いた。
それから機械の右手で自らを指差し、次いでアルティミアを指差す。
「私達はアルティミアの身柄が欲しい。あなた達は王都のテロを止めるために私の身柄が欲しい。お互いが刃を向けて、ここはもはや講和の場でもなくなった。なら、どうすればいいかしら?」
そう言いながら、クラウディアは《瞬間装着》で全身に鎧を纏う。
否、それは鎧ではなく……機械甲冑。
特典素材を用いて作られた、彼女専用の……鮮血のように紅い機械甲冑。
「私達はお互いを奪い合う。そして護衛は自分達の守るべき対象を守る」
次いで取り出したのは、機械式の螺旋馬上槍。
かつて彼女自身が古代伝説級の<UBM>を討伐して手に入れた槍。
クラウディアは、巨大な槍を重さなど感じないかのようにクルクルと回す。
「お兄様のプランとは少しだけ違いますけれど……非常に分かりやすい構図にしてさしあげましたわ」
(……そういうことかよ)
シュウは納得して……歯軋りする。
クラウディアが王都への襲撃を教えたのも、このため。
自分というテロのブレーキを餌にアルティミア達が逃げる理由を削り、引き止める理由を増やすため。
加えて、これで王国側はクラウディアを殺せなくなった。
生かしたまま、停止命令を出させなければならないのだから。
それ自体は【魅了】でどうにかできるが、死んでいればそれも不可能になる。生前の理性のまま蘇らせるなどという芸当は、【冥王】でもなければ出来るものではない。
どの道、王都への急行を選んでも【獣王】や移動速度を考えれば王都防衛は困難。
王都に向かわず、王都に向かうよりも早くテロを止める手立ては……目の前のクラウディアしかいない。
王国側が被害を最小限にするには、ここで【獣王】を含めた皇国の護衛を相手に勝利し、クラウディアを生かしたまま捕らえて、停止命令を出させるしかない。
つまりはクラウディアの思惑に乗り、その上で勝利する以外に道はない。
「それでは――始めますわよ?」
クラウディアは螺旋馬上槍の先端をアルティミアへと向けて、闘争の開始を宣言した。
◇
クラウディアに開始を宣言されても、殆どの<マスター>は一瞬どうすればいいか分からない状態に陥った。
話についていけていない、というよりは狂気的な切り替わりについていけない者。
あるいは、守るべきものに意識を集中させて自らは動けない者。
停滞はほんの一瞬で、歴戦の<マスター>であれば一瞬後には迅速に動き出せる。
しかし、他の<マスター>が動けなかった最初の一瞬で――動いた<マスター>が四人いた。
【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトが「なるほど。つまりレイ・スターリングとこの場で戦って倒してもいいということだな!」と得心して、己の悪魔召喚の新戦術を行使しようとし。
【獣王】ベヘモットの意を受けたレヴィアタンが、今のメイデン体から己の全ステータスを解放できるガーディアン体への変貌を始め。
【女教皇】扶桑月夜が、《月面除算結界・薄明》を「皇国の<マスター>」の「合計レベル」を対象に実行し。
【破壊王】シュウ・スターリングが、変貌途中のレヴィアタンに肉薄した。
「フハハハッ! 行くぞ! 《コール・デヴィル……」
ローガンが悪魔召喚を発動しようとした直前。
彼を始めとした皇国側の護衛が《薄明》で合計レベルを六分の一にされ、
「――《絶死結界》」
月夜が発動したスキルにより――【獣王】以外の全員が即死した。
【ブローチ】の発動で一瞬だけ耐えはしたものの、絶え間ない即死判定によってあっという間に砕け散り、声もなく即死する。
それこそは『半径五〇〇メテル以内の合計レベル一〇〇以下の人間範疇生物を即死させる』装備スキル――超級武具【グローリアβ】の《絶死結界》。
外部の警備をしていた者も含めた皇国側の護衛のほぼ全ては、かつての【グローリア】事件でその脅威に相対した<マスター>のように、何が起きたかもわからないままにデスペナルティとなる。
合計レベルそのものを六分の一にした《薄明》と、合計レベル一〇〇以下を抹殺する《絶死結界》のコンボ。
対象を人間に限定されてはいるが、かつての【グローリア】よりも恐ろしい結果を引き起こす、【女教皇】扶桑月夜の切り札の一つ。
免れたのは……元の合計レベル六〇〇以上であったために即死を免れた【獣王】のみ。
同じ超級職であっても、レベルの上げ直し中だった【魔将軍】はあえなく即死していた。
皇国の護衛は、かつて王国が味わった理不尽をその身に受けて壊滅した。
『……何と役に立たない』
徐々に膨張し、人間の形を捨てながらレヴィアタンはそう吐き捨てた。
『それで、あなたは何をするつもりですか?』
巨大化していく己にしがみついているシュウを見下ろして、レヴィアタンは尋ねる。
だが、シュウはそれには答えず、己の弟……レイを振り返る。
「…………」
自分のこれからの行動が最善手であると判断し、現状で最も【獣王】への勝算が高い戦術はこれだと確信しながらも……僅かに躊躇いはあった。
なぜなら、確実に弟とその仲間を死地へと送り込むことになるからだ。
クラウディアがこんな戦いを行う最大の要因であり、勝利を確信するほどの存在がここにいる。
そんな相手と王国側の最大戦力であるシュウを欠いて戦うことは、死刑宣告に等しい。
だが、振り返ったシュウが見たレイの目は……欠片も怯えてはいなかった。
怯えなど、既に覚悟の中に消えている。
ゆえに、シュウも覚悟を決めた。
最大最強の敵を……ここに残していくと決意した。
ゆえに、彼は弟に向けて……こう言い残した。
「――ここは任せた」
「――任された」
そう言葉を交わして、シュウは己の全力で両足を踏み込む。
彼の破格のSTRは議場の床を大きく破壊しながら、反動をシュウと彼が抱えたレヴィアタンに伝える。
脚力による踏み込みでの高速移動。
シュウはその勢いのまま砲弾の如く飛翔し、先刻レヴィアタンが激突して壁が崩れた一角から議場の外へと消えた。
この場での戦いを、弟に託して……。
◇
皇国側の護衛の殆どが即死して。
シュウ・スターリングとレヴィアタンが共にこの場を離れて。
後に残ったのは剣と槍を向け合う二人の姫君。
<デス・ピリオド>と<月世の会>の混成……八六人の王国の<マスター>。
そして、皇国でただ一匹……否、一人だけ残った<マスター>。
皇国最強にして、“物理最強”。
――【獣王】ベヘモットがそこには残っていた。
『…………』
ベヘモットは壁に開いた穴と、そこに消えた二人を見送りながら……沈黙している。
『……相手がいなくなった。レヴィ、ずるい』
それが余程にショックを受けたのか、スラングではなく普通の言葉でそう呟いて溜め息をつく。
王国の<マスター>に半包囲されているというのに、まるでシュウ以外の誰も相手にならないのだと嘆くように、その身に纏う雰囲気を暗くする。
『仕方ない……。すぐに王国の王女を確保して……、シュウのところにわたしも……』
ベヘモットはそう言ってアルティミアに向き直るが……。
「――違う」
そんな彼女を止めるように、一人の<マスター>が声をあげた。
「お前の相手は兄貴じゃない」
『?』
一人の<マスター>――レイ・スターリングは、
「お前の相手は、俺達だ」
“物理最強”を真っ直ぐに見据えて……。
「俺達が――【獣王】を止める」
――かつての兄のように、そう宣言した。
ベヘモットはそう言ったレイと、彼の周りで意思を同じくしている仲間達を……『珍しいもの』でも見るような目で見た。
『…………』
そうして瞼をパチクリと開き、閉じて、また開き……。
『imba……(アンバランスだとは思うけれど……)』
獣の顎の口角を上げ、笑みを浮かべながら、
『――I like it』
全身から獰猛な気配を立ちのぼらせて――戦闘態勢に移行した。
そして、幕は上がる。
レイ・スターリングにとって、“最強”との最初の戦いが……始まった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<閣下、新戦術披露する前に退場
( ꒪|勅|꒪)<南無
(=ↀωↀ=)<そしてA戦場の現状
【破壊王】シュウ・スターリングVS【怪獣女王 レヴィアタン】
【聖剣姫】アルティミア・A・アルターVS【衝神】クラウディア・L・ドライフ
<デス・ピリオド>&<月世の会>VS【獣王】ベヘモット
(=`ω´=)<こんなに大勢いるなら楽勝やー
( ̄(エ) ̄)<……
( ꒪|勅|꒪)<ところでお前ハ?
(=ↀωↀ=)<追々
(=ↀωↀ=)<なお、文字数的にはそろそろ六章後半一冊目が終わる模様




