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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第一章 Ordeal of Rookie

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第九話 マリー・アドラー

□王都アルテア・大衆食堂<嵐牛亭> 【聖騎士】レイ・スターリング


 俺とルークはお互いの近況を話し終えた。

 PKにデスペナくらって<墓標迷宮>潜ってフィガロさんに会った俺は珍しい経験をしたと思ったものだが、ルークも相当だった。

 これは俺とルークがたまたま稀有な経験をしているのか、それとも<Infinite Dendrogram>で珍事に遭遇する確率がデフォルトでこんなものなのか。


「ところでレイさん」

「ん? どした?」

「さっきのPKのお話で一点気になったんですけど」


 ……あー、多分俺が考え込んでいたのと同じ部分だな。


「レイさんがお会いしたフィガロさんは、“南の”PKを何とかするって言っていたんですよね?」

「ああ、間違いなく決闘都市の通り道になっている南の狩場をどうにかしてくれるって話だった」

「でも、今は全部の狩場でPKが止まっていますよね?」


 そう。ちょうどルークに再会する直前まで、俺もそれを疑問に思っていた。

 王国のトップランカーであるフィガロさんなら、狩場のPKを止めさせてもあまり不思議はない。

 それこそ、まとめてデスペナすれば最低三日間、そこのPKは活動できないだろうから。

 でも、フィガロさんは南の<サウダ山道>についてしか言及していなかった。

 だから他の狩場でのPKも南と同様に止まっているのが不思議だった。


「考えられるケースは三つある」

「と言うと」

「一つ、フィガロさんがついでに他の三箇所もどうにかしてくれたケース」


 でもこれは多分無い。

 あの人はお詫びと、自分の拠点である決闘都市への交通網を修繕するために南の狩場の問題を解決はするだろう。

 けど、他の狩場まで解決する理由があの人にはない。


「二つ、南の狩場でPK問題が片付いたのを知ったから他の三箇所が手を引いた」


 これも、どうだろう。

 さっきはまとめてデスペナすれば三日間PKは動けないと思った。

 けれど、今回の事件は計画的なテロで、目的はアルター王国所属プレイヤーの戦力増強阻止であるらしい。

 王国の東西南北を押さえるその動きからも、一つの意思で動いていることは明らかだ。

 なら、一箇所が駄目になったからとやめることはない。

 南が駄目になっても他が無事なら、逆に他のエリアから南に補充が来そうなものだ。


「…………」


 いや、ひょっとしたらフィガロさんのとった対応策は俺が考えているような小規模なものではなく、もっと大きなこと……例えばPK陣営との交渉だったのかもしれない。

 それなら四方全て片付いても不思議はない。

 でも、どうだろう?

 フィガロさんはいい人だけれど……そんな風に動く人だろうか?

 短い間ではあるが、何となくフィガロさんから受けた印象と違う気がする。

 正体不明の相手(俺)を初手で殺しにかかる人だし。

 根は脳筋……もとい大雑把な人に思える。


「あの、レイさん。最後の三つ目は?」


 おっと、一人で考え込んでしまった。

 俺は三つ目の……消去法の回答を口にする。


「三つ目、“南以外の場所は同時期に別の人物の手で片付いた”」


 フィガロさんが全部やったわけでもなく、相手が引いたわけでもないのなら……他の誰かがフィガロさんと同じことを別の方面の狩場で行った。

 なにせ連中がやっていたことはPKだ。

 迷惑に思う人間は大勢いるだろう。

 そんな中で、実際にPKを排除できる人間がフィガロさんと時を同じくして動いたのではないだろうか。

 意味のある偶然の一致……いわゆるシンクロニシティという奴が起きたのではないかと、俺は消去法で推測したわけだ。


「はいそれ正解ですねー」

「!?」


 唐突だった。

 いつの間にかテーブル席の、俺とルークの間の席に見知らぬ女性が座っていた。唐突な声の主はその女性だ。

 俺の隣に座っているのに、声を掛けられるまでまったく気づかなかった。

 だと言うのに、その女性はなぜ気づかなかったのか不思議なほど特徴的な容姿をしている。

 首に掛かる程度の黒髪で年齢は俺と同じくらいだが、これは普通。

 問題は服装だ。

 彼女は奇妙な服装をしていた。

 と言うとフィガロさんと感想が被るが、ベクトルが逆だ。

 あの人はファンタジーらしく、けれど統一性のない衣装だった。

 彼女は逆に統一された格好はしている。

 しかしそれはファンタジーに似合わない、男性用のビジネススーツだった。

 おまけに顔にはサングラスをかけている。


 ここがファンタジーな世界観ではなく、企業のオフィスならば違和感は無かっただろう。

 強いて言えば、顔に掛けているサングラスだけが違和感か。

 しかしスーツとサングラスもあるんだな、この世界。

 ……違和感凄まじくて怪しさが限界突破してるけど。


「あの、あなたは?」


 俺が彼女を観察している間に、ルークが女性に話しかける。


「ああ、失礼。面白そうな話をしていたので首を突っ込んでしまいました。ボクはこういうものです」


 女性でありながら「ボク」という一人称を使う女性は、名刺……ではなく名前とジョブなどが書かれた簡易ステータスウィンドウを見せた。

 

ネーム:【マリー・アドラー】

ジョブ:【記者ジャーナリスト】(所属出版社:<DIN>)


 【女衒】なんてジョブもあったから驚かないけど【記者】もあるのか。ジョブの幅広いな。


「<DIN>って?」

「<デンドログラム・インフォメーション・ネットワーク>の略ですねー。昔風に言えばブン屋。ちょっと格好つけて言ってみれば国境なき情報屋集団です。国々で情報をゲットして他の国に売り払うんですねー」

「……それ今のご時勢で大丈夫なのか」


 王国は今まさに隣の国と戦争中だ。

 自分の国の情報を他国に流す奴とか真っ先にとっ捕まりそうだが。


「そこは各国のお偉方には<DIN>の“ファン”も多いので。ボクは下っ端だから市民や<マスター>向けの事件や情報専門ですけど」

「例えば」

「市民向けでは、黄河で山一杯に繁殖したパンダを撮ったり描いたりしましたね」


 ……掲示板で見たなそれ。

 うちの国と比べて長閑な話だと思ったものだ。


「そして<マスター>向けは、ここ最近アルター王国周辺を騒がせたPKテロのお話ですねー」


 それを話題に出すということは、彼女は今回の件が解決した流れについて何か知っているのか?


「先刻、正解だと言っておったが……御主は事の真相を知っておるのか?」

「聞きます? 一箇所600リル。四箇所セットはお得な2000リルとなっております」


 なるほど、思わせぶりな登場は情報を売りつけるためか。

 悔しいが興味は引かれているし、何があったかも気になっている。


「……払う」

「あ! レイさん、僕も半分出します!」


 俺とルークで1000リルずつ出しあった。


「毎度あり。まず結論から言ってしまいますと、ここ王都アルテアの東西南北の狩場を占拠していたPKは全て壊滅させられました」


 いきなり穏やかではない単語が飛び出した。


「壊滅ってのは?」

「狩場にいたPKは、ほぼ全員デスペナですね。各クランはまだ残っていますが、あんなおっかないことがあった以上、もう仕事には来ないでしょう。クランによっては解散するかもしれませんね」


 各クラン? 仕事?


「えっと……」

「あ、そうでした。前提情報の提示が足りませんでした。実はこのPK集団は複数のPKクランの連合だったのです」

「連合……?」


 単独じゃないとは言われていたけど、PKクランの連合ね。

 ……いや、連合組めるほどPKクランあるのかよこの国。


「はい。

 東の<イースター平原>は<K&R(カアル)

 南の<サウダ山道>は<凶城マッドキャッスル

 西の<ウェズ海道>は<ゴブリンストリート>

 以上三つのPKを生業としたクランが陣取っていました」


 二つほど露骨に悪役というか世紀末orマッドでマックスなクラン名だ。狙ってつけたのだろうか。

 ……はて、肝心の北は?


「なぜ陣取っていたかと言いますと、彼らを高額で雇い入れてそこでPKをやるように指示した人物がいたからだそうです」

「ドライフですか?」


 ルークが尋ねると、マリーはお手上げという風に軽く両手を上げて首を左右に振る。


「噂ではそうなっていますけど、<DIN>ではまだそこまでの事実確認に至っていないので、分かりませんとお答えします」


 まぁ、今この国が被害を受けて喜ぶのは戦争中のドライフだから可能性は高いよな。

 やっぱり直接的過ぎる気はするが。


「PKクランにしてみれば今回の件は普段やっていることが場所を変えただけで追加報酬もらえてヒャッホーだったのでしょうが、世の中そうそう美味い話はないのです。彼らはある四人の<マスター>の働きによって壊滅しました」

「四人……」


 たった四人の<マスター>で、東西南北のPKを壊滅。

 そんな真似ができ……いや、南はあのフィガロさんだ。

 なら、他の狩場も……。


「そう、アルター王国に属する四人の<超級>が同時に動き……PKクランは殲滅されたのです」


 <超級>。

 <エンブリオ>を最終系である第七形態にまで進化させた者達。

 現状、ゲーム全体でも100人に満たないと言われる最上級プレイヤー層。


「“正体不明”【破壊王キング・オブ・デストロイ】、“無限連鎖”のフィガロ、“月世界”の扶桑月夜、“酒池肉林”のレイレイ。彼らが各狩場に巣食っていたPKクランを一人一つずつ殲滅した形ですねー。ああ、クランランキングトップランカーの扶桑月夜に関してはクランと一緒ですけど」

「へぇ……」


 フィガロさん、“無限連鎖”って二つ名だったのか。

 鎖使いだから?

 あと【破壊王】の二つ名の“正体不明”ってなんだよ。

 名前も出てないし変な奴なのか?


「それではこちらをご覧くださいねー」


 マリーは水晶玉を取り出してテーブルの上に置いた。


「それは?」

「んー、映像メディアみたいなものです。魔法カメラで録画した映像を映せます」


 魔法カメラ……まぁ魔法で動くビデオカメラなのだろうけど、運営は魔法ってつければ何でもいいと思っているのだろうか。


「<DIN>は近頃事件や騒動が多いアルター王国に秘密で隠しカメ……こほん、情報収集設備を増やしたんですけどね」


 ……ご法度な隠し撮りかー。


「その情報収集設備に今回のテロ事件の終焉が映っていたのです。ここにあるのはその一部始終」


 マリーは手元の水晶玉を起動させる。

 

「じゃあ先ほどお二人が話されていた南……【超闘士】、“無限連鎖”のフィガロのところから映しましょう」


 To be continued


明日も21:00更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言] かっつんさん, それぞれお金を支払うくらいなら、むしろ一人が買って 他の人に教えればいいんじゃないですか?
[気になる点] 情報を割り勘できるのやばいですよ。どれだけ貴重な情報でも大人数で割り勘すれば安くそして多くの人に広まってしまいます。 例えば、1000万の価値のある情報があるとして、この情報には価値が…
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