第五話 <墓標迷宮>
日間総合4位です。
目をこすりながら見ましたが見間違いじゃありませんでした。
胃が痛いを通り越し、胃が震えてきましたがこれからも頑張ります!
( ̄(エ) ̄)つ「胃薬」
(=ↀωↀ=)つ「目薬」
□王都アルテア 【聖騎士】レイ・スターリング
噴水広場から逃げるように移動した後、俺とネメシスは商店が連なる大路へとやって来ていた。
「さて、俺達はさっきも言ったように強くなりたい。ベストは王都周辺の狩場でレベルを上げることだが、それができないのが現状だ」
「まだ連中の活動が収まっておらぬからのぅ」
<ノズ森林>の銃弾のPKにリベンジするためにレベルを上げようにも、PK集団が暗躍し続けている限り王都から出たらすぐに殺されてしまう。
「だから兄貴に教えてもらった狩場の中で、王都に残った最後の狩場に向かう」
「<墓標迷宮>、だったかの」
「ああ」
<墓標迷宮>。
この王都周辺にある狩場の中で唯一つ、王都の中にある狩場。
その正体は、王都の墓地区画の地下に広がった大迷宮だ。
兄からの話に加えて、デスペナ中に攻略情報wikiをチェックしたところ、<墓標迷宮>は以下のような場所らしい。
その一、五階層ごとに趣や生息モンスターの異なる地下ダンジョン。
その二、深く潜れば潜るほど強力なモンスターが出現する。
その三、数十層も潜れば俺が戦った【デミドラグワーム】とは比較にならない強さのボスモンスターが数多存在する。
その四、逆に言えば浅い階層ではモンスターの力も弱く、王都周辺と同程度のモンスターが出現する。
その五、攻略wiki有志による探索では現在地下四十五層までを確認済み。
重要なのはその四だ。
この<墓標迷宮>の浅い階層ならば初心者である俺達でもレベルが上げられるし、PKの心配もない。
「普通ならば、他の初心者も殺到して混雑になっておるはずだが……それはないのだったか」
「ああ、他の初心者プレイヤーはほとんど入れないはずだ」
「……世知辛いのぅ」
「まったくだ」
他の初心者が入れない理由を思い出し、俺とネメシスは溜め息をついた。
◇
俺は<墓標迷宮>でレベル上げをするのに必要なものを入手するため、兄から聞いていた店を探した。
やがて商店の連なる通りに目当ての店を見つけ、中に入る。
「いらっしゃい」
カウンターの奥には店主らしき人物が座っていた。
頭巾を頭から被っており、<マスター>とティアンの区別はおろか性別すら分からない。
「……何とも怪しげな店だのぅ」
店内には剣や鎧などの武具や薬品、小物など多くの品々が棚やガラスケースに収めて飾られていた。
それらの商品は安くても一万リル以上の値札が貼り付けられている。
この店は古物商で、<マスター>が売却したレアアイテムなどを専門に取り扱っている店だそうだ。
兄によれば、<墓標迷宮>を探索するにはここであるアイテムを購入する必要があるらしい。
「【墓標迷宮探索許可証】を一つ」
俺は店主に目当てのアイテム名を告げる。
すると店主は店の棚からリクエストの品を取り出す。それはメダルの形をしたアイテムだった。
【墓標迷宮探索許可証】という名が示すように、これが無ければ<墓標迷宮>には入れない。
しかもこれ一つにつき一人しか有効にならないらしい。
入手方法はボスモンスター宝箱からのランダムドロップ、又は王国が定期的に発注する難易度:三のクエストの報酬らしい。
しかし必ずしも自力でボスを倒したり、クエストをクリアして入手する必要はない。
入手後に売却されることも度々あるので、それを購入すればいいだけ。
しかしその入手方法を選択した際の問題は……値段だ。
「十万リルになります」
そう、【墓標迷宮探索許可証】は市場相場十万リルもの高額アイテムなのだ。
<墓標迷宮>の浅い階層は確かに初心者のレベル上げに使える。
しかし初心者が最初に持たされる金銭は五千リル。こんな高いものを手に入れられるわけがない。
だからレベル帯は適正でも<墓標迷宮>が初心者狩場として使われることはない。
同じく初心者である俺も普通なら無理だが……。
「はい」
「まいどー」
俺は代金の十万リルを払うことが出来る。
なぜなら俺には【デミドラグワーム】のドロップである【全身鎧】を売ったときの残金二十万リルがある。
PK時のランダムドロップとやらでなくなっていることを恐れたが、幸い高額貨幣は落としていなかった。
お陰で今こうして【許可証】を手に入れることが出来る。
「あのムカデ、死んだ後に色々と役に立つのぅ」
「……そうだな」
【聖騎士】への転職条件や今回の購入資金など、あいつを倒していなければ出来ないことも多かったので、非常に助かってはいる。
ミリアーヌを襲っていたし、俺も殺されかけたので倒したことは全く後悔していないが。
そもそも、あいつを倒すまでに壊れたアクセサリーの総額を考えると…………兄に感謝すべきだな。
今度、リアルでおみやげ持って遊びに行こう。東京に引っ越して住む場所も近くなったし。
「まぁ、兎にも角にも準備は出来たな」
俺は【墓標迷宮探索許可証】を手に入れた。
出費は痛いがこれでレベル上げの目処は立った。
「それにしても十万リルか……金銭の有無は大きいのぅ」
「人間が文明圏で生きるなら金が必須ってことだろ」
「うむ。あ、そろそろ夕食の時間だの。三日ぶりだから豪勢に食べたいのぅ」
「……財布が寂しくなってきたから節約したいんだけどな」
◇
案の定ネメシスが恐ろしい量を平らげる夕食を済ませ、俺達は墓地区画へとやってきた。
当たり前と言えば当たり前だが、この墓地の墓石は和風ではなく西洋風だ。
故人の名前と生没年が書かれた墓碑と共に、無数の墓石が並んでいる。
広い墓地なので入り口には案内板がある。
これによると<墓標迷宮>の入り口は墓地の奥にあるらしい。その近くにダンジョンを管理する兵士の詰め所もあるようだ。
墓地の中を歩いて迷宮の入り口へと向かう。
「…………うわぁ」
見慣れない西洋墓地&夜というシチュエーションは中々に肝が冷える。
あ、まずいまずい。
こんなことを考えているとまたネメシスに茶化され……ん?
「ネメシス?」
「…………」
ネメシスは無反応。
その表情は無表情、というか努めて感情を消しているようにすら見える。
デスペナルティから復帰して初めての戦闘になるから、気を張っているのだろうか。
「ネメシス」
「……な、ん、だ?」
ギギギと音がしそうなほどぎこちなく、ネメシスはまるで錆びついた人形のようにゆっくりと唇を動かした。
「……いや、何でもない」
「そ、う、か」
……気を張ってるというか緊張している?
復活から間もないし今日はネメシスに気を配った方がいいかもな。
それにしてもこの墓地は不気味だな。
いや、夜の墓地でろくに灯りもないんじゃ不気味で当たり前なんだけどさ。
それこそモンスターが普通にいるのが<Infinite Dendrogram>だろう?
あの墓石を下からゾンビが持ち上げて這い出してきて肉片を撒き散らしながら群れで迫ってきたり、そういうホラーな展開は十分ありえる。
あ、ホラーと言えば、前に知り合いのYさんから聞いた話だけれど。
彼女は以前、ちょっと用事があって夜中に横浜の外人墓地の近くを通ったそうだ。
「くらいなぁ、こわいなぁ」と思いながら歩いていると、どこからか「ポー、ポー」と汽笛が鳴るような音が聞こえたんだって。
Yさんは「え?」って思ったんだ。
何でって?
それはね、汽笛の音が海じゃなくて、“墓地から”聞こえてきたからなんだって。
「なんだろう。こわいなぁ」と思っているのに、どうしても気になって、Yさんは音のする方に近づいて行ったんだって。
そうすると分かったんだって。
なにが?
汽笛の音は「ポー、ポー」じゃなくて、「プルゥオー、プルゥオー」って何か柔らかいものの間を風が通り抜けるような音だって。
吸い寄せられるようにYさんはドンドン音に近づいていく。
そして……。
「やめんかぁーーーーーー!!」
「うおぅ!?」
ネメシスがいきなり大声を出すものだから滅茶苦茶ビックリした。
一体どうしたんだ。
「やめんかって、何がだよ? そもそも誰に言ったんだ?」
「お・ぬ・し・だ! その頭の中で考えている創作怪談をすぐにやめんか!!」
ああ、そうか。俺の考えていることが伝わるだもんな。
「でもこれは創作怪談じゃなくてYさんの体験談で」
「なお悪いわぁーーーー!! 何で語り口調で体験談思い出しておるのだーーーー!!」
ものすごく怒っている。
これは悪いことをしたか。
ん?
でも俺が怖い話を思い出したことに対して怒るって、つまり……。
「お前……おばけ怖いのか?」
「…………」
ネメシスは途端に無言になって顔を背けた。
図星か。
だの口調で、大食いで、上から目線で、幽霊怖い。
絆を深めた我が相棒ながら、ネメシスのキャラをまだ掴みきれていなかったようだ。
「怖いならもう変身すればいいんじゃないか?」
「…………うん」
ネメシスは俺の手を握り、すぐに大剣へと変身した。
何となくネメシスが一安心という心持ちになったのを感じる。
やっぱり形態変わると心強さみたいなのが違うのだろうか。
かく言う俺は、夜の墓地で抜き身の大剣ぶらさげた不審者の様相だったが、仕方ないことだ。
見咎められないうちに入り口まで行こう。
◇
十分ほど歩いて<墓標迷宮>の入り口に到着した。
この墓地区画、結構な広さだった。
まぁ地下に迷宮が丸々埋まっているのだから当然とも言えるか。
入り口の辺りまで来ればダンジョンの手前なので武器を持っていても何も言われない。
<墓標迷宮>の入り口は石造りのしっかりとした門だった。
ちなみに、<墓標迷宮>のモンスターがあの門を抜けてくることはないらしい。
門の傍には見張りの兵士がいる。恐らくは彼に【許可証】を見せるのだろう。
ここに来るまでに【許可証】への記名もちゃんと済ませてある。
記名することで【許可証】は俺専用の【許可証】となり、入場に使用することが出来る。
もう売却は出来なくなるが、問題はない。
「<墓標迷宮>を探索する<マスター>の方ですか? この地の探索には【墓標迷宮探索許可証】が必要となります」
俺は左手で荷物を漁って許可証を取り出そうと……。
「おや? 貴方は【聖騎士】様ですね。ならば構いません。どうぞお通りください」
見張りの兵士はそう言って、俺が【許可証】を見せるまでもなく入り口から退いた。
…………あれ?
「……【迷宮探索許可証】は?」
「【聖騎士】様ならば不要です」
……………………マジで?
『十万、無駄になったのぅ』
「おおぉ……」
俺は墓地に膝をついた。
デスペナルティを経ても折らなかった膝がここで折れた。
ショックでかい。
これは本当にショックでかい。
某レトロゲームで苦労して金貯めて買ったはがねの剣が、買った直後に宝箱から出てくるパターンの三十倍くらいショックでかい。
日本円で百万円したのに……。
クマ兄も教えておいてくれれば……いや、知らなかったんだろうな、【聖騎士】じゃないだろうし。
「だ、大丈夫ですか?」
ショックのあまり膝をついた俺に、兵士さんは心配そうに声を掛けてくる。
『ショックなのはわかるが、俯いていてもしようがあるまい』
「……そうだ、な」
俺は立ち上がる。
気を取り直そう。元を取ってやるくらいの気持ちでこの迷宮に挑むんだ。
「じゃあ、中に入っても、いいかな」
「は、はい。お気をつけください」
兵士さんが何事かの呪文を唱えると、門が開いた。
門の向こうには仄暗い薄闇と、地下へと向かう石段が在った。
「行くか」
『応』
俺達は<墓標迷宮>の内部へと足を踏み入れた。
To be continued
明日も21:00更新です。
( ̄(エ) ̄)<買ってから見落としに気づくことはよくあるクマー
(=ↀωↀ=)つ「電池別売り」




