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42話 死に神


 「あなた死んでくれない? 」


目の前にいる中学生くらいの少女。

彼女は唐突にトンでもないことを言ってきた。


肩まで伸ばしキッチリと切り揃えられた黒髪。少し気の強そうな印象の黒い瞳。

そして夏なのに黒のセーラー服。

一見すると、どこかのお嬢様学校の生徒を思わせるような少女だった。



「やだ。」



いくら俺が女性には甘いとは言っても

こればっかりは「ハイ」という訳にはいかない。


「まあ、そう云わず。三ヶ月だけでもいいから死んでくれない? サービスするわよ。今なら洗剤もつけちゃうんだから! 」


「どこの新聞の勧誘員だ!? 」と突っ込みを入れたくなる。


三ヶ月だけ死ぬってどんなんだよ?

大体において洗剤貰って死ぬってどうなのよ? 

死んだら使えないじゃない!


「お願いよお…… 今月ノルマ厳しいのよ。」


少女は哀願するように手を合わせ

必死の表情で迫ってくる。


知らんがな。

泣き落としされたって困るもんは困る。


「何でもするから! ちょっとだけ! ちょっとだけ死んでみない? ね? ね? 」


冗談じゃねえ! 

死ぬのに、ちょっともクソもあるか。

光の国の巨人じゃあるまいし、命は一つしかないんだぞ!


「あ、何でもとは云ったけど「えっち」なのは駄目よ!」


しねえよ!


こんな中学生くらいの娘になんかする訳ない。

別の意味で人生が終わるわ。

都条例を舐めんなよ!


「でも死んでくれるなら…… は、恥ずかしいけど、少しくらいなら良いよ? 」


彼女はスカートを、たくし上げ始めようとする。


おいバカやめろ!

生物学的な死ではなく社会的に抹殺されてしまいます。


「じゃあ、死んでくれる?」


「ヤナこった。」


少女は「ぷうっ」とドングリを頬張るリスのように頬を膨らます。


「大体、キミは何だい? 死んでみない? とかノルマとか? 」


まあ、どうせヒトじゃないんだろうけどさ。

妖怪か? 神様か? はたまた、それらに類する何かだろう。


「しまった! 」という顔をしてから

大慌ての体で「ペコリ」と頭を下げてから少女は自己紹介を始める。


「私は死音しおん。アルバイトで死神をしてるの。ごめんなさい。まだ慣れなくて。」



死神かよ!!!

しかもアルバイト!!!


「あ、でもね死神奨学制度を利用して死神初級は持ってるから安心してね。」


ああ、それで制服姿なのね。納得した。


てか、死神奨学制度ってなんぞ!?

奨学って誰がそんなモノを専門教育してんだよ? しかも初級!


「いっぱい勉強してね、資格取って将来は立派な正規死神になるの♪ 」


音符つけたって可愛くないぞ?死神だしな。

いくらアルバイトだって云ってもな。


「そのためには一生懸命頑張らないとね♪ 」


彼女はニッコリと微笑んで、手をゆっくりと振り上げる。

すると何もない空間から、突如として大鎌が現れ少女の手へと収まった。


「ちょっとタンマ! それ西洋の死神が持つ大鎌じゃないか!? お前、日本の死神だろ?! 」


死音しおんは、白く細い指を紅く薄い唇に当て、少し考えると


「だって、ウチは元は外資の死神の系列だし。ホラ、日本て高齢化が進行してるでしょう? これからの需要増を見越して、アチコチが進出してきたのよねえ。でも、日本の死神で外資の大元死神を買収しちゃったから、現在はれっきとした日本の死神よ! 」


凶悪な武器を構えて、そんなことを抜かしてきた。


どこかで聞いたような話だぞコラッ!

そんでもってブラックか!? ブラックなのか!? 死神だけに!!!

バイトにノルマ課してる位だから絶対にブラックだな!!!


「貴方の「波」は、とっても素敵なの。 刈り取って持っていけば、きっと店長さんに褒められるわ。 」


誰だよ? 店長って!?

少なくとも、この暴走死神少女の責任者であることは間違いないな。


この苦境を無事に切り抜けられたら、絶対に苦情の電話入れてやるからな!

「お宅のバイト教育どうなってんの? 」ってな!

DQNクレーマーと呼ばれる覚悟と決意はできたぞ!


「だから死んでね♪ なるべく痛くしないから。」


流石に、これは大ピンチ!!!


しかし彼女は大鎌を大きく振りかぶりフルスイングしてきた。

これは、もうダメかもしんない。

せめて苦情メールの一つも送りたかった……。


「 ガキャンッ!!! 」


ギュッ! と目を瞑った俺の耳に、凄まじい金属の激突音が響く。

恐る恐る目を開いてみると……


 俺の前に銀色が立ち塞がり

死音しおんの命を狩り取る大鎌を、抜き放った妖刀で抑え押し戻していた。


「「あるじ様!ご無事で 」あるか!? 」ありまするか!? 」


銀色と妖刀の声がハモる。

無事です! なんとか無事です! 助かったわー。


ジリッジリッと横への、すり足で銀色と死音しおんは互いに優位なポジション取りに動く。

張り詰めるような緊迫感と緊張感。


両者共に僅かな動きすら見逃すまいと、相手から目を離さなず

刹那寸毫の隙すら見せない。

その身の運び動きたるや、まるで剣豪同士の真剣勝負のようだ。


 「しかし」と思う。客観的に見るならば俺の目の前には

抜身の日本刀を正眼に構えたヴィクトリア朝風メード服の美少女と

西洋大鎌を大きく横へと構えたセーラー服の美少女が対峙する光景。


本人達は至って真剣で大真面目なのだが。 なんだが……なのはずなんだが……。

これは厨二病全開のシュールな光景だよなあ。


今ここでボケたらスゴイ怒られるだろうなあ……

……何時までも、へたり込んでいるのもアレだな。とりあえず立ち上がろう。「よいしょ! 」っと


その瞬間、両者が同時に動いた!


死音しおんが俺の動きに気を取られたのだ。その須臾を銀色は見逃さなかった。

電光石火の打ち込み。振り遅れた死音しおんの大鎌の刃が「ギンッ」と弾かれへし折られる。


「 獲った! 」


返す刀で銀色の妖刀が死音しおんの喉元へと迫る!


「やめろ!」


そう叫ぼうとした。だが言葉を発するには間に合わない!

銀色と妖刀は彼女を貫いてしまうだろう。 

愛らしい銀色が、たとい死神でも誰かを傷付ける所など見たくない!


 「キンッ! 」


銀色の妖刀は黒い巨大な刃の大鎌に防がれた。


「 なっ! 」


そこには俺と同じ程度の歳格好と思われる眉目秀麗な男性が

死音しおんを守る様に大鎌を突き出し立っていた。


銀色は、すぐに飛び退き俺を守るように立ち塞がる。

額からはジワリと汗が滲み出ている。死音など比べるべくもない難敵なのだろう。


「て、店長! 助けに来てくれたんですね!! 」


死音しおんは喜びを露わにして男に語りかける。


この男が店長……バイト死神の上司……つまり正規の上級死神。

間違いなく桁違いの強敵!


男は一見すると優男風の外見をしている。


長い黒髪を首の所で縛り、細身の輪郭に柳眉、優しげに見える流麗なる黒い瞳。

ずばりイケメン男性だ。

そして黒のスラックスに……く、黒いコンビニ店員風の制服?


男は無言のまま大鎌を引き、地面にそっと置く。

そして「スッ」と膝を折ると正座し、手を地に着け頭を深々と下げる。


それは……由緒正しき「DOGEZA」の姿勢だった!



「 ス イ マ セ ン で し た ー !!!! 」



男は土下座の姿勢のまま謝罪の言葉を口にする。


「ちょ! ちょっと店長! 何故謝るんですか!? 」


不満げに死音しおんが抗議する。

すると、その言葉を耳にした店長は、ユラリと立ち上がる。

目付きがヤバイ! あれは殺意の波動に満ちた眼だ!


「……何故だと? 死音しおんクン「何故謝るのか? 」だと?」


店長と呼ばれた男は腹部。

主に胃の辺りを擦りながら、駄目死神バイトの死音しおんに向き直る。


「魂を頂くのは、寿命を迎えられた方だけだと、口が酸っぱくなる程に言ってるのに何回教えればわかるんじゃー!! こんボケェがー!!! 毎回毎回、健康なお客様の命狙いやがって! こんのニワトリ頭めがー!!! 頭ン中にちゃんと脳味噌入っとんかぁー!!! 時給減らすぞゴルァー!!!! 」


店長の怒髪天をつく剣幕に

死音しおんは「気を付け! 」の姿勢で涙目になりながら


「はひぃ! で、でもヤッパリ、ぴちぴちの新鮮な魂の方が良いよね!と自分なりに良かれと考えましてぇ! 」


「それが余計な気遣いってヤツなんじゃぁーボケェ!!! マニュアルくらい目を通せやクソガキぁー!!! 謝れ!! 今すぐお客様に土下座して謝れや!!! 」


「えぐっえぐっ」と泣きながら俺たちに土下座謝罪する死音しおんと、それに付き合う店長の死神2人。


「「スイマセンでしたー !!!」」


……なんか……怒る気も失せたわ。




───「キッチリとキッパリとシメときますんで。」


「それで、モノはご相談なんですが……今回の件は動画投稿とかSNSとかにアップするのだけは勘弁して頂けませんでしょうかねえ? いやいや、ヤッパリこんな娘ですけど将来がありますんで……何とか穏便に収めて頂けませんでしょうか? 」


ベソをかく死音しおんの首根っこ捕まえて店長は

俺達にお詫びの菓子折りを渡しながらそう云った。


「まあ、もう良いですよ。誠意は十分に伝わりましたんで。」


「本当に、ありがとうございます。 以後は十分に気を付けさせますので。」


何度も何度も頭を下げながら2人は帰って行った。


そんな死神達を見送りながら

俺は銀色の頭をポンポンと叩いてから撫でてやる。


「銀色も妖刀もありがとな。助かった。」


銀色は、はにかむように頬を染め、妖刀は震えるように鍔を鳴らした。


「「「それにしてもブラックだったな」の」でありまするねえ。」


三人でハモった。



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