三十一話 獣人
何かがこちらに向かってくるのが気配でわかる。
アシェル殿下は私を背にかばい、次の瞬間剣を引き抜くと身構えた。
生垣から飛び出てきた黒い影は、アシェル殿下の目の前で、ゆっくりと体を起き上がらせ、そして黄金の瞳をぎらつかせながら、鋭い牙のある口を大きく開いた。
「突然の訪問、申し訳ございません。どうか、ご容赦願いたい」
『この女から子どもたちの匂いがする!』
目の前には、二メートルはありそうなほど体の大きな獣人が立っていた。
アシェル殿下はその姿に剣を鞘へと直すと、静かな口調で言った。
「獣人の国の王弟殿下ではありませんか。獣人の国へ手紙を出してからそんなに日数は立っていないというのに、まさか、単独で来られたのですか?!」
『何故王弟殿下が?! どういうことだ』
四方八方から騎士たちが慌てた様子で現れるが、アシェル殿下はそれを制される。
王弟殿下は、息を荒くしながら、その場に膝をつくと言った。
「我が子どもたちが、こちらの国で保護されたと、そう聞きました。どうか、どうか会わせていただきたい!」
『生きているのか!? 生きて……あぁ、どうか。神よ。どうか』
頭を下げるその姿に、アシェル殿下は驚くと、すぐに馬車を手配する。そして、私の屋敷へと人の姿へと戻った王弟殿下と共に移動する。
アシェル殿下は馬車の中で事件について王弟殿下に話をする。ただ、王弟殿下の子どもである確証はないと伝えるが、その言葉など、耳には入っていない様子であった。
王弟殿下の話によれば、手紙から我が子の匂いがしたとのことである。アシェル殿下は確かにリク、カイ、クウから話を聞き、手紙を書いたとは言うが、獣人の鼻のよさには驚かざるを得ない。
そして屋敷につき、獣人の子どもたちが暮らす部屋へと案内しようとした時であった。
遠吠えのような声が聞こえたかと思うと、三人の獣人の子どもたちがすごい勢いでかけてきたのである。
王弟殿下も駆け出し、そして子どもたち三人をぎゅっと抱きしめた。
おいおいと泣く姿に、屋敷の使用人たちは驚き、私とアシェル殿下は、突然のことに驚き、後ろに控えるしかない。
『父上!』
『お父様!』
『ととさまぁぁぁ』
子どもたちは泣きながら王弟殿下に泣きつき、そして王弟殿下もワンワンと泣き続ける。
「よかった……お前たちが、無事で、本当に、本当に!!!」
『奇跡だ……死んだと思っていた子どもたちに会えるとは、神よ!感謝いたします!』
まさか獣人の国の王弟殿下の子どもたちだとは、思いもよらなかった。
それはアシェル殿下も同様の様子であり、私と顔を見合わせながら驚いた表情を浮かべている。
『まさか獣人の王族の子どもだったとは……この子どもたちも正直に教えてくれたらいいのにぃ。まぁ、人間のことを信じられないってことだよなぁ』
アシェル殿下の心の声に、確かにそうだなと思いながらも、これで人間と獣人の関係が悪くならなければいいばと私は不安に感じる。
それでも、心から喜び、獣人の親子が無事に再会できたことをうれしく思った。
獣人の子どもは可愛いでしょうね。そんな世界に異世界転生したいです。






