十九話 デートのはずが
城下町は賑わっており、道にはたくさんの露店が並ぶ。
売られているのは、果物から装飾品まで様々であり、私はウキウキとしながら馬車からおりた。
「すごいですね。とても、活気に溢れています!」
「ええ。嬉しい限りです」
『町が賑わうのは、平和な証拠だから、本当に嬉しいことだなぁー』
アシェル殿下は私の手をそっと取ると言った。
「護衛はついていますし、大丈夫だとは思いますが、はぐれないようにしましょうね」
『大丈夫だとは思うけれど、エレノア嬢は綺麗な人だから狙われそうーー。しっかり守らないとね!』
守ってくれるのだと、そう思うと何故か嬉しくて私はアシェル殿下の手を握り返した。
「はい!」
『可愛い! え?! もう可愛いがすぎるよー!』
アシェル殿下は歩き始め、私はついていく。
町の中は、人々が賑わっている。
心の声も、ここでは様々な人々の生活の音で溢れている。
『さぁ、売るぜ!』
『あら、うちの子ったら、またお菓子ばかり食べてー!』
『まぁまぁ! このネックレス素敵!』
賑やかな人々の声は、舞踏会とは違う。生き生きと、人々の活気に溢れていた。
「エレノア嬢、ほら、あっちに雑貨屋がありますよ。行ってみますか?」
『エレノア嬢に何かプレゼントしたいな。願わくばお揃いとか、そんなのが欲しい』
その声に、私は大きくうなずいた。
「行きたいです!」
お揃いのもの、私も欲しいと思い、そう言ったときであった。
『王子様みーつけた』
可愛らしい声が聞こえた。
私の心臓はドキリと鳴り、思わず辺りを見回す。
けれど、声の主らしき人は見えない。
『悪役令嬢もみーつけた。ふふっ! 悪役令嬢には少しの間、退場願いますかね』
緊張が走る。
「エレノア嬢?」
『急に、どうしたのかな?』
「アシェル殿下・・!?」
キラリと何かが光って見えた。私は思わずアシェル殿下の腕を引っ張る。
するとその時、建物の影から少女が飛び出てきた。
「危ない!」
アシェル殿下を庇うようにして立った少女の肩に弓矢がかする。
「きゃぁ!」
護衛達は現れるが、黒い衣装を身にまとい、顔を仮面で隠した集団が現れ乱闘騒ぎとなる。
アシェル殿下も剣を抜き、私をかばいながら戦い始めるが、私は腕を捕まれ、そして路地裏へと引きづり込まれる。
『ばいばい! 悪役令嬢ちゃん! しばらくの間、そっちの男達と楽しんでねー!』
少女がにやりと笑う。
これは、シナリオなのだろうか。
こんなシナリオがあったのだろうか。
こんなことならば、もっと内容を覚えておけばよかった。けれど、この世界に生まれ変わってからの年月で、記憶は薄れている。
私は、これからどうなるのだろうか。
「エレノア!」
アシェル殿下の声が、遠ざかっていく。
私は、自分の身に何が起こるのか、怖くて怖くて仕方がなかった。
えれのあぁぁぁっぁ!






