18話
「エル様! スイッチをお願いします!」
「わかった」
『任せろ』
アシェル殿下が騎士達に合図を送り一気に男達と距離を詰めていく。
「かかれ!」
『さぁ、ノアを、僕達の仲間を助けるぞ!』
騎士達も気合が入っており、皆の心の声が響き渡って聞こえた。
『ノア殿! くそがぁ! そんな卑怯な首輪使いおって!』
『我らの仲間に手を出したこと後悔させてやる!』
『今助けます!』
その心の声を聞きながら、アニスとルイスが声をあげた。
「愛されているなぁ」
「さすがノア様。エレノア様。ノア様、未来でも人気者よ」
二人もそう言いながらも剣を構えている。
エル様が男からスイッチを奪うと、こちらへと帰って来て守りの光を私達の周りに張った。
その時、カルちゃんが私の上から飛び出して走り出した。
「ノア!」
『私が、私がノアを守るんだ!』
私はカルちゃんを追いかけて駆けだした。
「エル様は子ども達をお願いします!」
「エレノア!」
『無茶をするな!』
「「お母様!」」
小さなカルちゃんの背中を私は追いかける。
アシェル殿下達は現在男達と応戦している。
ノア様は泉を見つめながら呆然と立ち尽くしており、そんなノア様に向かって一直線にカルちゃんが駆
けていく。
そしてノア様の背中へと、カルちゃんが抱き着いた時のことであった。
泉の中から、巨大な竜が突如として姿を現したのである。
真っ赤な鱗のその竜は、空に向かって咆哮をあげる。
その体のいたるところに、弓で射られた後があり、その首には巨大な首輪がはめられている。
竜は巨大な腕をノア様の方へと振り下ろそうとする。
「ノア!」
『ノア逃げないと!』
カルちゃんが叫ぶが、ノア様は反応しない。
私はノア様の腕を思い切り引いた。
――――――ドゴォォォォン。
目の前に竜の巨大な腕が下ろされ間一髪のところであった。
呆然としているノア様の両頬を私は手で包み込むと声をあげた。
「ノア様! 大丈夫ですか⁉ 私の声、聞こえますか⁉」
『エレノア……様……』
薬のせいで体が上手く動かせないのか、ノア様は目を何度も瞬きし、それから息を吐いた。
「すみ……ません。迷惑を……」
『っくそ……しっかりしろ自分。助けてもらって、情けなくないのか!』
その声に、私はノア様の手を取る。
「無事で……良かったです。カルちゃんもすごく心配していましたよ」
「ノアごめんねぇぇぇ。私が、私が……」
『私が勝手に走ったから、ごめんなさい! ごめんなさいぃぃ』
ノア様にしがみつくカルちゃん。私は無事に会えてよかったと思ったけれど、見上げれば竜が鼻息荒くこちらへと視線を向けていた。
「とにかく、逃げましょう!」
私はノア様の腕を引っ張って、エル様達の元へと走る。
竜はこちらへの興味はなくしたように、戦っている男達に向かってドシドシと足音を鳴らしながら向かっていく。
―――――ギャォォォォォン。
雄叫びが響き渡り、空気が震えた。私達は耳を慌てて塞ぐけれどその声の大きさに耳に痛みが走る。
とにかくエル様の元へと思い、急ぎ戻ると、アニスとルイスがすぐに私に抱き着いた。
「エレノア様! 無理しないで! せめてエル様を連れて行ってよ!」
「それに言ってくれたら僕達がノア様を迎えに行ったのに!」
二人の言葉に、私は首を横に振る。
「自分よりも幼い貴方達を危険な目には合わせられないわ。エル様、すみません。ノア様を見ていただけますか? 薬を飲まされたようなのです」
エル様はこちらをちらりと見て、心の中で呟く。
『子ども達が大事なのは分かるが、私にとってエレノアは最も大切な存在だ。お願いされたとしても……くっ。だが主の願いを聞き入れないこと、それが出来ないから困る』
申し訳ないことをしたなと思いつつも、あの時はあれが最善であったと思う。
子ども達には安全でいてほしいし、もしもの時はエル様今持ってもらうのが最適だ。
エル様はノア様の様子を見つめながら、しばらくしてノア様に口を開かせた。
口の中にノア様が木の実のようなものを差し入れ、それをノア様が飲み込んでしばらくした時であった。
「あれ……」
『体が、軽くなった』
ノア様はそう言うと、座っているのすらキツそうだった体を起き上がらせると立ち上がり自分の体を確かめるように動かした。
「ありがとうございます。調子が戻りました」
『すごい。さっきまで、体が動かなかったというのに』
エル様はノア様の様子を見ながら言った。
「体の中の毒素を霧散させる薬のようなものだ」
「これで、戦えまます。エレノア様、貴方方の守護はエル様に任せてアシェル殿下の方へ行ってもかまいませんか?」
『竜が、人を傷つけるのを止めたい。一体どうしてあんなことに……』
その言葉に、私は竜の方へと視線を向けた。
集中をして竜の声を聞こうとすると、まるで、ノイズが走っているかのようなひび割れた音がする。
そんな、中で微かに声が聞こえはじめ、それは言葉の羅列へと変化していく。
『……く、る……しい……なに……している? わからない……誰も……もう、誰も、いない……嫌いだ嫌いきらいきらいきらいみんないないきらいきえちゃえ』
胸が苦しくなるような声であった。






