二十四話
額が熱くなる。そして次の瞬間光が溢れたかと思うと、扉が現れ、ユグドラシル様が姿を現すと、他の妖精達も楽しげな様子で飛んでくるのが見えた。
私の横にはエル様が立ち、私を支えてくれている。
「エレノア! 来たわよ! ちょっと呼ぶのが遅いのではない?」
『これはかなり危ない状況ねぇ~。エレノアが呼んでくれたら道が出来た。良かったわ。あんなのが暴れたら、妖精の国だって荒れちゃうもの』
「大丈夫か?」
『すまない。私の力が及ばぬばかりに』
私は唇をぐっと噛み、涙を堪えると声をあげた。
「ごめんなさい。自分勝手に呼んで。何でも差し上げます。何でもします。ですから、お願いします。力を貸して下さい」
堪えようとするのに、涙が零れ落ちてしまう。
「私は、私は無力だから、頼ることしか出来なくて、でも、でもお願いします」
そう伝えると、ユグドラシル様は宙を回って笑い、私の涙を一滴どこからか出したのか小瓶に入れる。
「ふふふ。無力なんかじゃないわ。だって、こんな貴重なもの、あなた以外からは採取出来ないのよ?」
『純粋な乙女の涙。これがあれば、呪いに汚れた妖精がもし次現れても助けることが出来るわ。エレノア、貴方のおかげよ』
エル様も微笑み、私の背中を優しく叩く。
「私はエレノアの味方だ。契約をした主を助けるのは精霊の務め。心配するな」
『自分勝手な願いはしないくせに、誰かの為には必死になる。そんなエレノアだから私は主に選んだのだ』
妖精達の体が金色に輝く。そしてユグドラシル様を先頭に古竜に向かってまるで弓矢のように飛んでいく。
私の体をエル様は抱き上げる。私はココレット様に視線を向けると尋ねた。
「私は行っても大丈夫ですか? これで、悪い方向へは行かないですよね?」
ココレット様は大きくうなずいてから、笑顔を私に向けた。
「未来が、未来が大きく動きました! エレノア様、行ってください! お願いします!」
『眩しい。あぁぁ。光だ。わっぜか』
「エレノア様!? ……とにかくご無事で!」
『誰!? 妖精!? エレノア様、一体何者なの?』
私はうなずきかえすとエル様と共に、古竜の方に向かったのであった。
爆音と共にもがく古竜。近くに行ってみると、騎士達が古竜の口を魔術具の縄で地面に押さえつけて、炎を吐かないようにとどめている。
アシェル殿下もすすにまみれながら、古竜の暴れる巨大なしっぽをよけ、襲い掛かる爪をかいくぐって剣を振りかざすのを見た。
古竜の後ろでは確かに魔術師と騎士達が下へと落とすために動き始めており、あと少しだというのは分かる。
けれど、古竜の口からはマグマのような熱い液体が漏れ始めた。
「ユグドラシル様!」
声をかけると、妖精達は古竜の上で妖精の金色の粉を巻き始める。
「さぁ! 妖精の粉よ! 催眠効果があるから! あ、古竜にしか効かないように調整してあるから安心してね!」
『ふふふふ。さぁ、一気に降らせるわよー!』
古竜の瞳が閉じ始めるが、その体は未だにもがいており、しっぽを大きく揺らすだけで地面がひび割れる。
その時、地面を砕き地中へと古竜を戻すための魔術が発動する。古竜の体が大きく揺れ、そして落ちる。
そう、思った。
「え?」
巨大な翼が、地中から現れる。
「ダメだ! 空を飛ばれたらもう、戻せないぞ!」
カザン様の声に、アシェル殿下とノア様が竜の翼に魔術の縄を協力して巻き付けていく。
二人は声をあげた。
「発動しろ!」
「今しかない!」
翼が魔術が発動したことにより縄がぎゅっと翼を縛り、竜の体は大きく傾く。そして二人の声に呼応するように、次々に地面に仕掛けられた魔術が発動し、地面を砕き、地中へと古竜を落とす穴が広がった。
誰もが未来の為に動く。だからこそアシェル殿下もノア様もためらいなく発動をと叫んだのだ。
その時、アシェル殿下とノア様の姿が見えなくなる。
私は声をあげた。
「アシェル殿下! ノア様!」
二人のことが心配になる。今すぐにでも助けに行きたいという気持ちが生まれる。
けれど。
『チャンスはこれきりだ! くそっ! あと少し!』
『家族を、国を守るんだぁあっ!』
『ダメだ! 落ちない! ここまでか! このままじゃ国が! くそ!』
アシェル殿下とノア様も、皆と同じ気持ちで、だからこそあの時、自分の危険も顧みずに古竜の背に乗ったのだ。
私は、大きく息を吸うと、エル様に言った。
「エル様! 上から竜を押すことはできますか!?」
「わかった。エレノア、行くぞ」
『やるしかないか』
私とエル様は上空から古竜を見下ろすと、それに向かって風の壁をぶつける。そしてそれをぐっと押すように進めていった。
古竜が大きくもがくけれど、それに押し負けないように踏ん張る。
「エル様! あと少しです!」
「あぁ!」
『っく。バカ力が!』
その時、更に地上の魔術も次々に発動を始めた。
青白い魔術具の発動の光が溢れ、そして次の瞬間、地面に巨大な亀裂が入った。
「離れろ! 崩れるぞ!」
カザン様の声に合わせて、騎士や魔術師達が後ろへと下がる。
まさに間一髪。
古竜の周囲の地面が砕け、そして地中へと古竜が落ちていく。そして地面に衝突したであろう大きな衝撃音が響き渡った。
その瞬間、皆から歓声が上がり、古竜を地下へと戻したことに皆が喜んだ。
はぁぁぁ(人*´∀`)。*゜+
皆さんのおかげで幸せです!






