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累計20万部突破 完結済【書籍化・コミカライズ】心の声が聞こえる悪役令嬢は、今日も子犬殿下に翻弄される   作者: かのん
第三章

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九話

読んでいただけることに感謝(*'ω'*)

『ぼん、きゅ、ぼーん!』


「エレノア!」

『大変なことになった……一体何がどうなっているんだ』


 部屋へと戻った私とアシェル殿下とハリー様は先ほどの起こったことに対して一度落ち着いて話をしようとソファへと座ると、話始めた。


 侍女達は下がらせて、ハリー様が落ち着けるようにとお茶を入れてくれた。


「ありがとうございます」


 そう言いながらティーカップへと手を伸ばしたのだけれど、手が震えていて上手く持てなかった。


 自分でも知らず知らずのうちに緊張していたようだ。


「エレノア。大丈夫?」

『心配いらないよ。大丈夫だよ。絶対に、大丈夫』


 アシェル殿下は私の横に座りなおすと、私の手を握りそう声をかけてくれた。


「はい……すみません。いろいろとありすぎて、少し、驚いたようです」


「うん……」

『神々のこの島で……普通はこちらへと干渉してこない神々が信託を落とすほどの危機か』

 

 私達は何が起こったのかについて整理するとともに、今後起こりえる事情についても考えていく。


 神々が信託をするほどの危機とは何なのか、そして乙女とは誰なのか。そして乙女の候補となっている私が一体どのような事態に巻き込まれるのか。


 アシェル殿下は私を安心させるようにずっと手を握っていてくれる。


 私は笑みを返し、そして先ほど聞こえてきた心の声を二人にも話す。


 オリーティシア様が予言の乙女になりたいと願っていることや、もう一人の眼鏡の令嬢の心の声についても話をしていく。


 するとハリー様が手帳を開いて言った。


「指輪に選ばれた眼鏡のご令嬢ですが、小さな島にある小国の姫君でココレット・マ―シェリー様です。あまり喋らない方で、会合でも必要最低限のみの会話しかないとか。兄であるヴィクター様がご一緒とのことです。たしか、五年ほど前に一度我が国にも来たことがあります」

『ぼん、きゅ、ぼーん』


 その言葉にアシェル殿下もうなずいた。


「覚えているよ。お兄さんは僕の二つ年上で武芸に富んだ人だよ。妹のココレット嬢はそんなヴィクター殿の後ろをついて歩いていたという記憶があるな」

『まぁ結構前のことだから、曖昧だけれど当時はヴィクター殿と良く手合わせをしたな』


 私はその言葉になるほどとうなずく。


「ココレット様……心の中の声ですが、訛があるのかよくわからない言葉も使ってらっしゃいました。そして気になるのがサラン王国が亡んでいないというような言葉を呟いていたのはココレット様だったのです」


 私の言葉に、アシェル殿下とハリー様は眉間にしわを寄せた。それと同時にハリー様はパラパラと手帳のページをめくっていく。


『ぼん、きゅ、ぼん!』

「ココレット・マーシュリー様。無口。マーシュリー王国は平和な国でほぼ争いはないようですね。そうですね……ふむ。気になることがあったと言えば、マーシュリー王国では自然災害の被害がほぼ出ていない点は、気になるところです」


「転生者である可能性も、あるね……」

『うーん。どうなのだろう。むぅぅぅ。難しいね』


 私達は考えるも、現段階で持っている情報が少なすぎる故に、結論はもちろん出せない。


 なので、しっかりと方向性を決めていく。


「エレノアは、ココレット嬢とオリーティシア様については一番身近にいることになるだろうから、調査をよろしく。ハリーは会場全体の状況と情報集めを頼む。僕はヴィクター殿と話をしつつ各国の代表達と話をし、他の国々がどのような考えを持っているか伺ってくる」

『今後どうなるかなぁ』


 私達は頷き合いながらも、今後どうなるのだろうかという不安は抱えたままであった。


 今まで体験したことのない事態に、私達はゆっくりと紅茶を飲むと静かにゆっくりと息をついた。


「何が起こるのですかね」


「本当に……というか、エレノアが残っているのが、僕は不安。だってエレノアの能力も、精霊と契約をしていることも、それに転生者であることだって、エレノアが予言の乙女だと決めつけられそうだしさ……というか、他国に情報が漏れていないことは救いだね」

『ジークフリート殿あたりは情報は入手しているかもしれないけれどね』


 アシェル殿下の言葉にハリー様は同意するようにうなずいた。


「エレノア様が精霊と契約をしていることについても、また能力についても今後も気づかれない方が得策でしょう。気づかれればエレノア様は今回の予言の乙女でなくても、他国にとっては欲しい逸材となるでしょうから」

『特殊能力ぼん、きゅ、ぼーん』


 サラン王国で私はアシェル殿下と一緒にいたい。だからこそ、私の能力については誰にも知られない方がいい。ただ、何が起こるか分からない以上、絶対に気付かれないようにするということはできないかもしれない。


 ハリー様は眼鏡をくいっと上げると言った。


「ちなみに、エレノア様が今回の予言の乙女である可能性はあるのでしょうか?」

『ぼん、きゅ、ぼん』


 私は首を横に振った。


「おそらく違うと思います。私は予言できませんし」


「では、一番可能性が高いのはどなただとお考えで?」

『鋼鉄女神官か眼鏡仲間』


 私は思わずハリー様を見つめたまま呟いた。


「……どこからそんなことを、いつも思いつくのです?」


「あ……」

『ぼん』


「あ、すみません。えっと、一番可能性が高いのはココレット様ではないでしょうか。オリーティシア様からは予言が出来るとかそういう感じはしなかったので……ですが確証はありません」


 アシェル殿下はうなずくと言った。


「よし。じゃあ先ほど話した通り、まずはそれぞれ調査だね。エレノア。でもくれぐれも無理はしないでね」

『エレノアはすぐに無理をするからね。無理はだめだよぉ~』


 その後、アシェル殿下と私は皆が集まる会場へと向かった。煌びやかな会場ではなく、あくまでも白を基調とした統一感のある部屋であった。


 話し合いに参加するのは、各国の代表と指輪に近づくことの出来た私、オリーティシア様、そしてココレット様であった。


 会場内に入ると、その場は緊張感に包まれており、代表者の多くは男性であった。女性は数名であり、そんな中でオリーティシア様は堂々と座っていた。


『……予言の乙女、可能性が一番高いのは私。選ばれたい。神様、どうかオリーティシアに力を貸して下さいませ』


 そしてココレット様はというと、縮こまるように肩を丸くして様子を伺っている。その横には、ココレット様の兄であるヴィクター様であろうか。


 恐らく各国は代表者一名ずつであるが、ココレット様が予言の乙女かもしれないということで同席しているのであろう。


 ココレット様同様栗色の髪と、瞳は藍色に近い色をしていた。


 きりりとした印象であり、体を鍛えているのであろうか他の貴族の男性よりもがっしりとして見える。


 可愛らしい印象のココレット様の真逆のタイプに内心兄弟でも違うのだなと思った。


『んだなぁ……一体、何がおこるのけぇ……』


『ココレット。ふぅ。今回の場にはアシェル殿もいるのだ。問題は起こしてくれるな。というか、ココレット、頼むから喋らないでくれよ』


 私はその言葉に、ココレット様も未来が見えているというわけではないのだなと思う。


 そしてヴィクター様はアシェル殿下のことも覚えているのだと思い視線を向けると、こちらを見たヴィクター様に睨みつけられた。


『ふん! 見た目だけの小娘が! そなたなど、アシェル殿には相応しくない!』


 私はパッと目をそらしてしまう。


 これまで女性に言われることは多かったけれど、男性に言われたのは初めてのことである。


 心臓が少しドキドキとしながら、一体どういう意味だろうかと私は思った。


 ただ、今はこれからの会議に集中しなければならない。


 各国の代表者達も私達に視線を向けながら誰が予言の乙女なのか吟味するかのように心の中で呟いている。


 一体どうやって見つければいいというのだろうか。


 私がそう思った時であった、オリーティシア様が声をあげた。


「指輪を、はめてみるというのはどうでしょうか」

『神々ははめてはいけないとは言わなかったわ。これで見つけられるはず。簡単よ』


 その言葉に、諸外国の皆がどうだろうかと様々な意見が出たが、結局は神々はそれについて禁止するようなことは行っていなかったことから、はめてみてもいいのではないかと話はまとまった。


 私達は先ほどの舞踏会会場へと移動すると、指輪の方へと向かい、そして順番にはめてみることとなった。


「では、最初に私が」

『……大丈夫よ。きっと、神々は私を選んでくださる』


 オリーティシア様は指輪へと手を伸ばすと、それをはめようとしたその時であった。


 地面から突き上げるような揺れが起こると同時に、指輪の光が消え、地面へと転がったのである。


 突然のことに皆が目を丸くした時、小さな足音が響き、揺れをものともせずに会場を走り抜けた。


「もらったぁぁあ」


「わぁぁぁぁい」


「にげろっぉぉぉぉ」


 私達はその姿をはっきりと目で納めながらも、揺れの為動けず、そしてレプラコーン達のあまりの素早さに追いかけることすら出来なかった。


「アシェル殿下! 追いかけますか!?」


 ノア様が翼を広げて宙に浮くと、アシェル殿下に尋ねる。おそらく護衛を優先するかレプラコーン探索を優先するかの指示を待っているのだ。


「ノア殿! 追跡頼みます!」

『っくそ。この揺れ、なんなんだ!?』


 私はアシェル殿下に支えられ、ハリー様は揺れに対抗するように変なバランスを取っている。


『地震雷火事親父!』


 突然呟くハリー様の心の声に、私はこんな時ですら一体何を考えち得るのだと思ってしまう。


『これ……夢で見たやつだ……』


「え?」


 私は近くで揺れに耐えているココレット様に視線を向けた。


 ココレット様は呆然とレプラコーンの方を見つめており、次の瞬間、天井を見上げる。


『まさか……まさか。違うわ。あれはただの夢よ! 夢! 』


 私はココレット様の視線を追い、そして揺れるそれを見てノア様に向かって声をあげた。


「ノア様! シャンデリアが! 危ない!」


 次の瞬間シャンデリアが揺れによって大きく揺らぎ、丁度その下を飛んでいたノア様にぶつかる寸前であった。


 ノア様は私の声にすぐに方向を変えたためにぶつからずに済んだけれど、声を掛けなければまず間違いなくぶつかっていた。


「あぁぁ」

『よ、よかった。よかっだぁぁぁ』


 ココレット様はそう呟くと両手で顔を覆い、大きく息を吐いた。


 私はぐっとこぶしを握る。


 色々な感情が頭の中でぐるぐると回るけれど、アシェル殿下に手をぎゅっと握られて、ハッとした。


『エレノア。少し我慢して。何かしたいのは分かるけれど、ここで下手に動くと、エレノアが予言の乙女だと皆から決めつけられそうで怖い。いい?』


 アシェル殿下の心の声に、私は、静かに小さく頷くと、呼吸を繰り返す。


 ノア様がシャンデリアによって邪魔されたことで、レプラコーンを見失ってしまい、こちらへと帰ってくるのが見えた。


「申し訳ありません」

『っく……』


 ノア様の言葉に私は首を横に振る。


「無事でよかったです」


 そう。本当に無事でよかった。


 もしもあの時、ココレット様の心の声が聞こえなければ、あのままノア様はシャンデリアにぶつかっていたかもしれない。


 そう思うとどぞっとする。


 それと同時に、憤りを感じた。


 何故ならば、もしも、未来が見えていたとするならば、ココレット様はノア様が危なくなることが分かっていたはずだ。それなのに、何も言わなかった。


 それはつまり、私がここにいなければ、心の声が聞こえなければ、ノア様はシャンデリアにぶつかり怪我をしたかもしれないという事だ。


 それなのに、ココレット様は何も言わなかった。



手に取ってくださった皆様ありがとうございます!

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自分の書いた本が、読者の皆さんに届けられるという幸せ。

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