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雑木林戦記  作者: 山家
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第14話 薄日が差したとはいえど、夜明けは遠い

 こうしたことから、人員補充については目途が立ち、更に商船が船団を組むことで護衛の効果を上げられそうにはなったが、実際問題としては、まだまだこれからのことが多かった。

 何しろ、船団を組んで護衛すると言っても、潜水艦と護衛船団の対決等、世界史上にこれまで例が無かったのである。

 試行錯誤の繰り返しになるのはやむを得ない話にならざるを得なかった。


(それもあって、高畑誠一らが船団護衛戦術の採用に良い顔をしなかったともいえる。

 何しろ具体的な効果が挙がるだろう、という見込みの下で、新型治療薬を治験も無しに患者に投与するようなものである。

 しかも、個々の船主の利益が犠牲になる話でもあるのだ。

 全体としては良い話の可能性が高くとも、個々の商船の船主が良い顔をしないのは当然の話だった。)


 また、この頃になって、ようやく遣欧艦隊の駆逐艦の数が充実してきたことも大きかった。

 1916年末までに樺型16隻が、1917年春には桃型12隻がようやく日本から到着したのである。

 もっとも、それまでだけでも、全部で3隻が沈み、2隻が大破、それ以外に様々な要因から損傷した艦も4隻程出るという有様で、遣欧艦隊司令部は、修理等にも頭を抱え込む羽目になった。

(なお、結局は全て英の造船所で修理をすることになったが、修理部品調達に多大な苦労をしたという。)


 ちなみに余談だが、この駆逐艦の建造、修理費用の捻出等のために、結局は更なる戦艦「山城」の建造停止、伊勢型戦艦の建造見送りと言った大きな代償を日本海軍は支払うことになり、後のワシントン海軍軍縮条約においては、対米英4割海軍という苦渋の決断を日本海軍が受け入れる遠因にもなるのである。


 更に遣欧艦隊司令部には、朗報が届いた。

「ようやく英海軍から、日本海軍に対して駆逐艦に装備する水中聴音機を提供できるようになったという連絡がありました。まずは1隻に装備して、運用してはどうか、ということです」

「それでは、樺を送って試験運用してみよう」

 そんな会話が、八代六郎提督と竹下勇提督の間で交わされ、堀悌吉少佐を艦長とする「樺」が英国に赴いて、水中聴音機を装備することになった。

 そして。


「どうだ。水中聴音機は使えるか」

「実際問題として、かなり雑音が入ります。また、実際に英海軍の潜水艦を相手として、この一月余りの間に訓練に励みましたが、やはり潜水艦の探知を水中聴音機でやるのは、今のところは困難ですね」

「だが、水中にいる潜水艦を探知するには、水中聴音機に今のところは頼るしかない。これを改良して、更により良く使えるようにならねば」

「確かにその通りです」

 そのようなやり取りを、2月近く後に、木村昌福中尉と堀少佐は交わすことになっていた。

 それでも、他に手段がない以上は、水中聴音機の装備に日本海軍は奔らざるを得ない。


 ある程度の間隔を置いて、交代で英本国に水中聴音機装備の為に駆逐艦を派遣して、という手順を踏み、遣欧艦隊の駆逐艦全艦が最終的に水中聴音機の装備を完了するのは、1917年末の話になる。

 最も装備した後も、上記のような事情から中々役に立ったとは言い難い事情だったが、そこは英海軍と共同で少しでも改善しようと、日本海軍は涙ぐましい程の努力を重ねることになった。

 その結果。


「1918年になる頃には、潜水艦の攻撃によって、我々が潜水艦に気付くという事態は避けられるようになってきた。水中聴音機と目視による警戒を組み合わせることで、潜水艦が攻撃態勢を整える以前にこちらが制圧に掛かれる体制を整えられるようになってきたからだ」

 第一次世界大戦に関する公式の日本海軍の戦史叢書には書かれる状況になったのである。

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