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対話

 異様な注目を浴びながら、私は陛下と王妃様の後ろに着いて行きます。

 ……私が何をしたというのでしょうか。いや確かに殿下に生意気な口は聞きましたし、それで何故か気に入られましたけども。


「此処なら良いかしら」


 連れて来られたのは、とある一室。そんなに歩いては居ませんし奥まった場所ではないので、客室とか休憩室でしょうか。流石は城内といった感じの調度品が置いてあります。


 殿下にはあんな態度を取っていますが、流石に国のトップを前にしてかなり困惑してます。

 普段は小生意気な娘という客観的な評価を認識している私ですが、私だって萎縮する事くらいあります。殿下の場合は子供という事と、言うのも心苦しいですが殿下は私を気に入ってらっしゃるので基本寛容です。

 ですので、結構適当に扱っても怒りません、しょげたり拗ねたりはしますが。そこを理解して接する私は非常に性格が悪いと自覚してますよ。


 そんな私ですが、国王陛下ともなれば話は別です。取り敢えず機嫌を損ねたり礼儀を欠く事だけは避けなければなりません。父様母様にも迷惑がかかってしまいますから。


「ああ、そんなに緊張しなくても良いぞ」

「は、はい」


 いや国王陛下直々にそんな事言われて緊張しない人も中々に居ないでしょう。それも子供に言いますかね普通。

 畏まって出入り口の側で直立する私に、陛下は苦笑して手招きします。


「私は子供に必要以上の礼儀は求めんよ。そもそも堅苦しくされても困る、今回は国王としてではなく、ユーリスの父として話を聞きたいだけだからな」


 少し砕けた口調になった陛下に目を丸くして、それからもう一度頭を下げて促されたソファに腰掛けます。王妃と殿下は私と対面するソファに座り、柔らかい笑顔を向けてくれていました。

 ……何故こんな事になっているのか。二人とも笑顔なのに尋問される気分です。いや多分殿下との関わりを問われるのでしょうが。


「ユーリスは度々君の事を口にする。リズが、リズが、と」

「あの子のあんな顔は初めて見ましたよ」

「……殿下は私の事を何と仰ってましたか?」

「『私の大切な人間なのだ』と」


 はいアウトォォォ……いやいや、セウト? まだ将来の伴侶とか私の妻とかぶっ飛んだ発言をしていないだけマシでしょうね。言われてたら確実に詰んでた。

 本当に嫌になったら国外逃亡とかも視野に入れますが……アデルシャン家に迷惑かけるのもなあ。別に殿下が嫌いな訳ではないですし、ゆっくり殿下を好きにな……れる、かは分かりませんが、努力していけば良いでしょうし。

 でも王妃になるのは出来れば避けたい。殿下の子供の頃の戯れ言で済ませたい所です。


「殿下がそう仰っていたなんて……光栄です」


 その大切な、が友人としての事だと祈っておきましょう。そうですよね、殿下。


 にこやかな私に、国王陛下と王妃様は少し何かを思案しています。まあ下手したら本当に殿下の未来の嫁とかになりかねないんですけどね。そんなフラグ要らないしへし折りたい所存です。

 王妃とか成り上がりとしては最上位なんでしょうけど、私は自分の力で身を立てたいので。それにあまり窮屈なのは好きではないです。


「……君はユーリスの事をどう思っている?」

「許して頂けるなら、良き友人だと思います」

「質問を変えよう。不躾だが……君はユーリスをどうしたいのだ」

「どう……とは?」

「ユーリスは何故か君の言う事を簡単に受け入れてしまう。私達としては、ユーリスが君の傀儡にならないか心配している」


 少しだけ瞳を細める国王に、私はそっちの心配が強かったのか、と納得しました。

 国王陛下に直々に『忠告』されているんですね、つまり。子供にそんな傀儡とか難しい単語使っても理解するか危ういでしょうに。というか普通ちんぷんかんぷんです。陛下は私がそこらの子供より遥かに賢いと踏んでこんな事をしているのでしょう。


 国王陛下の判断は正しい。時期国王が言いなりになってしまうのは、とても危険な事。国が崩壊するかもしれない危険を秘めているのです。看過する訳にはいかないのでしょう。


「その点はご安心下さい……と、いっても信じて頂けませんよね。私としては、殿下と必要以上に関わりを持つつもりはありません」


 ですので、正直な事を話しておきましょう。


「殿下は一時的に惹かれているだけだと思います。私は殿下に友人として以上の感情は抱かないと思います」


 きっぱりと言い切っておきましょう。私は殿下に言われようと、婚約とかないですし友人以上を望みません。

 逆に殿下にはそういう事を言われそうですが、全力で拒否ります。波風立てたくはありませんが、死ぬ気で殿下を説得します。……妾にとか言われたらどうしましょうか。


 兎に角、私には殿下をどうこうする意思はないのです。それを陛下と王妃様に理解して頂かないと。


「殿下の事を御護りする立場には成り得るかもしれませんが、殿下と婚姻を結ぶ事は私も望みません」

「……」

「陛下からも、殿下にそう仰って頂ければと思います。殿下の相手が私など恐れ多いです」

「……っく、ふふ、ははは」

「……へ、陛下?」


 何故か知りませんが突然笑いだした陛下に、私はどうして良い分からずに上擦った声を上げます。見れば王妃様も口許に手を当ててお上品に笑っていました。……えええ。

 陛下は口の端を吊り上げては愉快そうに私を眺めて、「お前の言う通りだな」と王妃様の手をそっと取ります。その姿は絵になる程美しく、僅かの間ながら見惚れてしまいました。


「ね、心配要らないと言ったでしょう?」

「ふっ、そうだな。流石はヴェルフとセレンの娘といった所か」

「父達を御存知で?」

「ヴェルフとは私が王の座に就く前に魔導師として競い合った仲だ。今のヴェルフは私の親衛隊みたいな物だ、非常勤だが」


 衝撃的な関係を暴露されました。父様城お抱えというより国王お抱えの魔導師様だったとか……!

 唖然とする私に、国王は柔らかな笑みで「試してすまなかった」と謝罪を一つ。試されていたとか全然気付かなかった……よく考えれば、父様の事をよく知っていて信頼してるなら、私の事も知っていた訳で 。


「君がそういう考えをしない事は分かっていた。ヴェルフからも聞いていたしな」

「セレンとは久しく会いませんが、良き子を儲けましたね」


 聞けば、王妃様は魔導院に修行に来ていた他国の姫君だったそうで、母様とも仲良かったそうです。私の父様母様は何故こうも権力者と懇意にしているのでしょうか。狙っている訳ではないのに。


「将来、君のような子がユーリスを支えてくれると有り難い」

「魔導師としてなら」

「手厳しいな」

「ふふふ、ユーリスは苦労するでしょうね」


 殿下に懐刀的な感じで懇意にされるのは吝かではありませんが、伴侶として支えるのは勘弁願いたいです。陛下や王妃様は無理に婚約させる事はなさそうなので安心ですよ。


「これからもユーリスと仲良くしてやって欲しい」

「友人としてなら喜んで」


 取り敢えず、何事もなく終わったようで何よりです。得た物は、国王陛下と王妃の御墨付き。……何だかどんどん私の交友関係と評価が恐ろしい事になっている気がするのは気のせいでしょう。




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