海といろいろ(1)
続きです。
車の窓の外に見たことのない景色が流れる。
夏の真昼の突き刺さるような日差しに似つかわしい開放的な雰囲気のお店が立ち並んでいた。
それはカフェだったり、服屋だったり。ともかく、いつもの田舎道とは全く異なっていた。
薄らと潮の匂いが混じった風に髪が揺れる。
波の音はまだ聞こえないが、私たちは着実に海に近づいていた。
「きららちゃん、頭出しちゃダメよ」
「あっ、はーい」
みこちゃんのお母さんに注意されて、頭を引っ込める。
私たちは今、みこちゃん家の車で海を目指していた。
助手席にはみこちゃん、後部座席にはちょっと窮屈だけど私を含めたその他が乗っている。
「もう少しで着きますよ」
「......あはは」
どらこちゃんが頭を掻く。
その表情はいつになく真剣だった。
「きらら、飲み物とって」
やけに固まった姿勢をしたどらこちゃんを挟んで、さくらの手が伸びる。
「ゴロー......」
「はいはいニャ......」
ゴローが、私の足元のビニール袋を漁る。そしてさくらにやたらケミカルな色をした炭酸飲料を受け渡した。
「ご苦労」
「猫使いが荒いニャ......」
不満をたれるゴローの背後で炭酸ガスが抜ける音が鳴る。
その音と一緒に甘い香りが漂って、私も少し喉が渇いた......気がした。
「ねぇ、楽しみだね」
初めての海。
頭の中で、水の泡が弾ける音がした。
「楽しみですね」
「まぁ......ね」
車が信号に引っかかって止まる。
車内ではただ一人どらこちゃんだけが、難しい表情をしていた。
「......もう、大丈夫ですよ。そんな顔しないでも」
「ちょっと待って今復習中。今ここら辺まで出かかってるから......」
「え、忘れたんですか......?」
実はついさっき、どらこちゃんが泳げないということを知らされたのだ。
水泳の授業はどうしていたというのか......。
まだ様子を見るに不安は残るが、多分大丈夫だろう。ゆーて私も海は初めてだし。
さくらがペットボトルから口を離す。その中身は既に三分の一程減っていた。
「つか、海ってそんなガッツリ泳がないわよ」
「一応浮き輪も持って来ましたし」
「浮き輪って......情けなくねーか......」
「あっ、じゃあ私が使う」
「「えっ......」」
どらこちゃん以外の視線が私に集まる。
特に意地悪で言ったつもりはないのだが......。
「あ......じゃあ、やめとき、ます......」
発言とともに上げた手が、勢いを失ってゆるゆる垂れた。
「おっ......」
さくらが窓の外を見て、声を漏らす。
「結構混んでますね」
波の音が聞こえる。
ああ、これが本物なのか、と胸が高鳴った。
「わ、私も見たい!」
さくらの席の方に身を乗り出す。
「あーこらこら、車の中で暴れないニャ!」
車の動きに合わせて揺れる体を、どらこちゃんが補助してくれる。
若干不安定な姿勢で覗く海は、多くの人で賑わい、その水面に太陽を湛え輝いていた。
続きます。




