鏡の中の“私”(7)
続きです。
廊下の床がギシギシ音を立てる。
風呂上がりの火照った体温がゆっくりと落ち着いていくのを感じていた。
「やけに長風呂だと思ったら......今度は何してるニャ?」
電話の周りをウロウロ。
さくらに電話をかけようにも絡める話題がちょっと気まずいので、上手く行動に移せないでいた。
「誰かから電話がかかってくるのニャ......?」
「かかってくるっていうか、かけるの」
「じゃあなんで......」
私だって時間を無駄にしているのは分かっている。でも夏休みなんだ、少しくらい時間を無駄にしたって許して欲しい。
とは言え、いつまでもこうしているわけにもいかない。
五分くらいうろついていただろうか、やっと私は受話器に手を伸ばした。
さくらの電話番号は、電話を置いている台に直接鉛筆でメモしてある。
もともと落書きだらけだったのもあって、今更増えたところで何も言われないだろう。
「えっと......」
番号をチラチラ見ながら、ボタンを押し込む。ボタンを押す度に、低めの電子音が鳴った。
数秒、呼び出し音が続く。
2コール目の途中で電話は繋がった。
『もしもし?どうしたのよ?』
電話に出るのは、意識して作られた声じゃなくいつも通りの声だった。携帯電話というのは誰から電話がかかってくるのか分かるのだろうか。或いは私を含めた友人くらいからしかかかってこないのかもしれない。
『ちょっと......電話かけといて黙らないでよ。なんか失礼なこと考えてる?』
「......のわぁ、ごめんごめん」
いつも通りの声色に肩の力が抜ける。別になんてこともない。遊びに誘うだけなのだから。
『で?......何?』
さくらの問いに受話器を指でコツコツ叩きながら答える。
「あのさ......海行きたいなぁって......」
『海?二人で......?』
「いや、みんなで」
『......』
電話越しのさくらが黙ってしまう。
やっぱり悩んでいるのだろうか。
「やっぱり気にしてるよね......傷」
言ってから、失言だったと気づく。
取り繕おうと慌てて口を開いた。
「ご、ごめん!......今のは無神経だった......」
それにさくらはため息で答える。
『別にいいわよ。今更だし。ただまぁ......海、ね......』
行きたい気持ちはあるようで、そんなことが少し嬉しかった。
「あのね!長袖の水着もあるの!なんかいい感じのやつ......!」
その気持ちを後押しするように、先程得た知識を披露する。
『......ああ、アレね。一応知ってるけど、結局浮くし......』
知ってるんかい!
自信満々で紹介したっていうのに、これじゃ馬鹿みたいじゃないか。
「......知ってたの......。でも、なんなら私も同じの着るし、問題なくない?」
『......!』
さくらが息を吸う音が聞こえる。
言葉は発せられなかった。
「......?どしたの?」
『......いや、何でもない。それじゃ尚更浮くじゃないって思っただけよ』
「えー......それじゃあ......」
行かない、ということになってしまうのだろうか。
一人勝手に肩を落としていると、さくらが続けた。
『別に行かないとは言ってないじゃない』
「え!じゃあ!?」
『......行くわよ』
私の言葉に何故か不服そうに答えた。
『あ、でもあんたは普通の水着着てくんのよ!』
さくらが付け足す。
「分かった!」
それに私はウキウキで答えた。
海はすぐ目の前まで迫ってきているのだ。
続きます。




