ランチタイム(6)
続きです。
相手が体勢を立て直すまで、そう何秒もかからない。
しかしその数秒のうちに距離を詰められる自信はあった。
地面を強く蹴り、一度の跳躍で怪獣に迫る。
そしてその加速を乗せた拳を腹部に打ち込んだ。
硬質な外骨格はそれで凹むようなことはない。
しかし相手は軽量、それだけで激しく地面に叩きつけることが出来た。
この期を逃さない。
その細くやや歪な体躯に飛び乗り、あたしは自らの両手を変質させる。
小さな子どもの手は、一瞬のうちに頑強な鱗に覆われ、指先には鋭い爪を形作った。
手のひらを広げ、爪の一本一本にエネルギーを送る。
それはたちまち熱となって、白い爪を赤く染めた。
赤熱した爪で、怪獣の体を切りつける。
鋭い爪は、打撃と異なり硬質な外骨格にも有効に働く。
力のままに腕を振り抜けば、赤い爪痕が怪物の体に刻まれた。
しかし・・・・・・。
「おわっ・・・・・・と」
相手もやられてばかりではいてくれない。
脚を闇雲に蹴り上げ、あたしを押し剥がそうと試みた。
あたしの反応が間に合って、その脚が何かに命中することはない。
しかし飛び退かざるを得なかったわけで、結果的に相手の目標は達成されている。
体を起こした怪物が、口の筋肉を震わせて威嚇するように歯を鳴らす。
そして次の瞬間・・・・・・。
「は・・・・・・消えた?」
視界から怪物の姿が消える。
いくつかの可能性を考える。
これら怪物は、あたしが利用しているものと同じエネルギーを用い特殊な能力を発揮する。
とすると、透明化、瞬間移動・・・・・・いくつかの考えが浮かんでくる。
だが・・・・・・。
「違う・・・・・・」
感覚がそうでないと訴えている。
そしてあたしのそういった直感は、多くの場合間違っていない。
「どこだ・・・・・・どこにいる・・・・・・?」
店内に動くものは見えない。
そう遠くには離れていないはずだが、その姿は見つからない。
能力じゃないとすると、単純なフィジカルで姿を眩ませた。
殴ったときに相手の軽さは確認済みだ。
つまり高速移動というところが落とし所としては適切。
あとはどこに逃げたか、だ。
「ちょっと君・・・・・・その・・・・・・」
「え・・・・・・?」
突然投げかけられた言葉に少し驚く。
見ればみこ母の姿。
本当は逃げていてくれた方が都合が良いのだけど、今はそれ以上に気になるのが・・・・・・。
みこ母がその人差し指を真っ直ぐ天井に伸ばしていることだ。
その指の指すさきを、ゆっくりと見上げる。
すると丁度あたしの真上、見上げた鼻先に怪物の顔があった。
「おわっ・・・・・・!?」
思わずビビッてすっ転ぶ。
その瞬間に怪物はこちらに飛び込んできた。
尻餅をつきながら、突っ込んできた怪物を雑な蹴りで出迎える。
ダメ元ではあったが、容易く回避されてしまった。
怪物が遠心力のままに腕を振り回す。
その風を切る音が耳元に迫り、次の瞬間にはあたしの横面を叩いていた。
衝撃に視界が揺れる。
だがここで取り乱してはいけない。
続く二撃目を姿勢を低くして凌ぐ。
怪物の体は勢いのままもう一周。
次の攻撃も同じ軌道だ。
「・・・・・・なら!」
姿勢を低くしたまま、既に近接している相手に更に詰める。
そしてその懐に爪を突き出した。
怪物はそれを身を捻って回避する。
そのまま飛び退いて距離をとろうとする。
だがそこまではあたしも許さない。
曲げていた脚を伸ばし、身を翻した怪物に追いつく。
飛び去ろうとする足首を掴んで地面に引きずり下ろした。
お互いに着地というよりは落下し、まともに受け身をとることも出来ない。
冷たい床の上にぐちゃっと絡まるように叩きつけられた。
すぐさま立ちあがろうとする怪物の腕を掴み、引き倒す。
そしてその顔面を殴ろうと拳を突き出した。
だが、その突き出した腕を掴まれる。
お互いにお互いの腕を掴んで、床の上をもがくように転がった。
「くそ・・・・・・」
少し反応速度が予想以上だ。
攻撃に速度やら威力やらが乗る前につぶされてしまう。
これは、思ったより厄介かもしれなかった。
続きます。




